Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ 作:まつだあきら
酒場での顔合わせ兼酒盛りがある程度落ち着いたころ、マリアンヌが、さて、そろそろコルさんと戻らないと、言った。
どこか行くんですか?と聞くと、メメント・コルとマリアンヌは廃屋に戻るらしい。
なんでも、まだ用事があるとか。
いやまあ、カースド・ホイールが解放されていない現段階で、廃屋でできることは二つしかない。
逆転の右手を使った蘇生、そしてガラクタの逆転だ。
私も手伝えることがあればついて行ってもいいかと聞くと、助かります、とマリアンヌ。
私はそそくさと目の前に並べられていた料理でお腹を満たす。
おそらくこの後ガラクタの逆転をするはずだし、このまま酒場にいるより、マリアンヌとメメント・コルと一緒に居た方が色々と必要な情報収集できると思った。
なにより、酒場にいたらいろいろ面倒くさそうだったし。
私たちは酒場に仲間たちを残して来た道を戻った。
来る時はルルナーデと話していたせいで道順をよく覚えていないので、地理と道を覚えるつもりでついていく。
そのルルナーデといえば、メメント・コルから少し離れたところをあっちへふわふわこっちへふわふわと街の人々の話し声に耳を傾けたり、売り物を品定めしていたり。
メメント・コルと私にしか姿が見えない事をいいことに、けっこう大胆な態勢で興味を引いたもの覗き込んでいる。
私も良く知らないものだらけの世界を、あれは何だろうか、これは何だろうか、と思いながら歩いた。
私が気付いていなかっただけで、廃屋には探索で手に入れたガラクタを入れた袋がいくつも置かれていた。
メメント・コルとマリアンヌは地面に敷いた布の上にガラクタを無造作に広げる。
私も同じようにガラクタを袋から出して布の上に広げた。
ガラクタは錆びたり折れたり割れたり破れたりした武器や防具、もしくはその欠片や破片だ。
布の上に広げたガラクタに、メメント・コルが右手をかざす。
ガラクタが白く鈍い光を放ってわさわさと動き出し、ある破片と破片はくっついて、足りない部分がある欠片はその足りない部分が生えている。
鈍い光を放たなくなるころには錆も汚れもない、新品の剣や鎧、盾といった装備品になった。
その様子を見ていて私は、もしかしてと思ってタブレットを見た。
タブレットには廃屋でメメント・コルが右手をガラクタにかざしている様子が表示されている。
道具一覧を開いてみると、メメント・コルが右手をかざすたびに「倉庫」のアイテム総数が増えている。
装備品の種別ごとの一覧に移ると、たしかに青銅や鉄の剣や短剣、鎧や盾、軽足鎧などが少しずつ増えている。
増えている装備品にはご丁寧に、ゲームと同様の品質を表す☆と色がついている。
ほとんどが白の☆1ばかりだったけれど、中には☆3の青、グレード3のものや☆は少なくても紫のグレード4のものもあった。
徐々に増えていく元ガラクタの装備品の中に☆3で神力が付いた片手杖やメイス、回避の付いた防具もけっこうあった。
そういえばと思い、私自身が今何を装備しているのかを確認していなかった。
編成から私を選んで装備を見てみる。
案の定、使い古した一式だった。
気になって、同じ編成にいるメメント・コルとマリアンヌの装備も見てみる。
うーむ、品質の低いランク3の装備品もあるけれど、全体的なコンセプトと言うか、ビルドの方向性が見えない。
とりあえず使えそうな追加護がついてるモノを装備してます、という感じがしないでもない。
それにはじまりの奈落一周目クリア時点って退魔武器が入手できてるはずだけれど、メメント・コルもマリアンヌも装備していない。道具一覧にもほとんどない。
「このガラクタから逆転した武器や防具はどうするんですか?」
「欲しい人がいれば使ってもらいますけど、だいたいは売ります。探索で手に入るお金は大したことないですし、ギルド依頼の報酬だけだとやっていけないので」
「何にお金がかかるんですか?」
「そりゃもう、薬とかの消耗品や蘇生代ですよ。宿はみんなエコノミーで済ませてますし、みなさんへの報酬は仕方がないとしても寺院に払う蘇生代がもう、バカにならなくて!」
さすがに馬小屋には泊まってないようだけれど。
これはもしかして、装備を整えないまま先に進むから死んでる?
死ぬから蘇生代がかかる。
蘇生代を捻出するために逆転した装備品を売る。
新しく手に入った装備品は売ってしまうから装備の更新ができない。
そういう悪循環に陥ってる?
そんな仮説が頭をよぎった。
「マリアンヌさんは武器をどういう基準で選んでます?」
唐突に尋ねてみた。
「あ、今使ってるのはこのメイスですけど、神力の通りが良くて気に入ってます。メイスは使い慣れてますし」
私はタブレットに表示されているマリアンヌの装備を確認する。たしかに装備しているランク2の青銅のメイスには神力の追加護が付いている。
けれど今ガラクタから逆転している武器の中には、ランク3の鉄のメイスに神力が付いたものもある。
「マリアンヌさんって、前衛ですか?」
「前衛も後衛もどっちもですね。いつも前衛のメンバーが足りるとは限りませんし、僧侶2人の時はどっちかが前に出ることも多いですから」
どっちもやるのか。
だったらなおさら、青銅のメイスのままでは良くない。
マリアンヌの装備を更新させないと。
私は画面に表示されている神力付きの鉄のメイスが、目の前にある元ガラクタの武器のどれかがわからない。
とりあえず、私は画面に表示されている鉄のメイスを選択してみた。
選択した状態で元ガラクタの山を見ると、ぼんやり明るく光るメイスがあった。
ということはと思い、選択を解除してみると、メイスの光が見えなくなる。
私はもう一度、鉄のメイスを選択して、元ガラクタの山を見る。
なるほど、こういうことか。
私はぼんやり光るメイスを持ち上げた。
うん、悪くない。
「マリアンヌさん、ちょっとこのメイスを持ってみてください」
「なんですか、急に」
「たぶん、このメイスのほうがマリアンヌさんが今使ってるメイスよりずっといいモノだと思います」
「ほんとですか」
マリアンヌは不思議そうな顔をしていたけれど、私からメイスを受け取って軽く振り回して、あれ?っと言った。
「神力の通りも同じぐらいだと思います」
マリアンヌはメイスをぶんぶん振り回してから目の前に掲げて、何か念じるようなそぶりを見せた。
「すごい。神力の通りが同じぐらいなのにこのメイスの方が扱いやすいし、当てたら痛そう」
やっぱり。
「ユーコさんはなんでそんなことがわかるんですか。やっぱりその板で?」
「それもあるんですけれど、私、鍛冶屋の娘なので武器や防具のことはある程度分かるんです」
私は、私の中のもう一人の来歴のおかげで武器や防具のことが人より詳しいらしい。
子どものころの鍛冶屋の父やドワーフたちに囲まれて蒸し暑い工房で雑用の手伝いをしていた記憶がフラッシュバックする。
七篠優子にそんな記憶はないはずなのに。
「良かったら、今メメント・コルさんが新品に戻してるガラクタからマリアンヌさんの装備を見繕ってみましょうか?」
「いいんですか!」
マリアンヌの顔がぱあっと明るくなった。