Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ   作:まつだあきら

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序盤に意識しておいた方が良い追加護とルルナーデがひとこと多い話。


7.仮面の冒険者メメント・コル2:放浪者

 仮面の冒険者メメント・コルの職業は現在、放浪者だ。

 放浪者はほぼ戦士の下位互換というようなスキル構成と能力値。

 戦士と共通するスキルを取り終わってしまった後はレベルを上げるだけになる。けれど各職業の修練場では特例的に放浪者でも試練を受けることができる。

 導きの灯りを手に入れて心器の淵で盗賊や戦士に転職できるのだろうけれど、現時点では放浪者のまま。

 放浪者のままの理由があるのだろうけれど、とりあえずそれは後にして。

 少なくとも初期に転職できる職業で使いまわしができ、なおかつそれなりに戦えるというと軽戦士スタイルだろう。

 軽戦士スタイルは防具はほぼほぼ僧侶・盗賊と共通、軽兜もしくは帽子・軽鎧・軽盾・軽足鎧もしくは靴の組み合わせ、武器に至っては盗賊でも流用できる。

 つまりさっきマリアンヌのために選んだ防具がそのまま流用できるということだ。

 私はできるかぎり回避が高くなる組み合わせを集めてそれをメメント・コルに渡した。

 メメント・コルは早速、身に付けていた重鎧や重足鎧から軽鎧や軽足鎧といった軽戦士防具に交換する。 

 サイズが微妙に合っていないけれど、それも後で直せばいい。

 武器はそよ風の剣を持っていたけれど、もう一振り、退魔の剣で一番良いものを選んだ。

「ずいぶんと身軽になるモノだな」

「ええ。そういう追加護が施されたものを選んでますから」

 メメント・コルは身に付けた防具の具合を確かめるように身体を動かす。

「これでもマリアンヌさんには先手を取られるでしょうけど、さっきみたいに一方的にやられることはないでしょう。攻撃を受けるより避けることを意識してみてください」

「わかった」

 メメント・コルは頷いた。

 実際、回避ビルドでマリアンヌと同等の回避と防御力は確保したものの、行動速度はマリアンヌよりほんの少し遅くなるようにした。

 もちろん、これには訳がある。

「じゃあマリアンヌ、準備はいいか」

「はい、もちろんです!」

 そう言って二人はまた、少し広い場所に移動して武器を構えて向き合った。

「始め!」

 私がそう告げると二人は打ち合いを始めた。

 今度はいい勝負だ。

 手数はメメント・コルの方が多く、今度はきちんと当てている。

 篭手と兜に命中の追加護が付いてるのを選んだからね。

 マリアンヌは手数では負けているものの確実に攻撃を当てて相手の体力を削っている。

 けれどさっきほどダメージを与えている様子はない。

 いい勝負だ。

「そこまで!」

 私がそう告げると、二人はその場に崩れ落ちた。

 ほんの数分の打ち合いで二人とも息を切らしている。

「すごい。こんなに動きが変わるモノなんですね!」

「驚いた。案外避けられるものなんだな」

 息を整えたマリアンヌがメメント・コルに回復の呪文をかけて、自分にもかけた。

「お二人とも今身に付けてもらった装備は回避の追加護が強いモノです。これの意味が分かりますか?」

 メメント・コルは首をかしげている。

「攻撃を避ければ、そもそも回復しなくて済みますね」

 マリアンヌは言った。

 メメント・コルも、ああそうかと合点がいったようだ。

「その通りです。攻撃をすべて避けられるとは限りませんけれど、避ければ避けるほど回復にマナを使わなくて済みますし、死ぬことも少なくなります」

「それは、その板のお告げか」

 メメント・コルは言った。

「それもあります。お告げだけでなく、お二人の話を聞いていて探索中に仲間が良く死んでしまうということでしたので。それでお二人の装備をタブレットで確認したら、回避の追加護が足りないようだったので、それを補う装備を選びました」

 お告げと言うか、二人の装備と能力値の情報だけどね。

「そうか」

 メメント・コルは押し黙った。

「そうだったんですね! ありがとうございます」

 マリアンヌは能天気に言った。

 仮面の冒険者メメント・コルとしては、少し面白くない話かもしれない。

 自分が良かれと思って装備していたモノが否定されたのだ。

「ユーコは、どこでそんな知識を?」

 立ち合いをずっと眺めていたルルナーデが言った。

「それはオレも知りたい。どうしてそんなことがわかるんだ」

 メメント・コルが続ける。

 うーん。

 ゲームでの経験と言ってもわからないだろうし、ここはそれをこの世界の現実っぽく置き換えて話せばいいかな。

「私が冒険者になってすぐのころ、お世話になったとても強い先輩冒険者の方たちから、生き残るならまず敵の攻撃を受けるな、出来る限り避けろ、十分避けられるようになったところで、敵の攻撃を受け止めても生き延びることできるようになることを考えろ、そう教わりました。」

 嘘は言っていない。

「実際、私も最初はその意味がよくわからず怪我をしてばかり、仲間も死なせて自分も死んで寺院のお世話になりました。でも、その先輩方とパーティを組んで、一緒に戦ってみて分ったんです。先輩たちが苦も無く攻撃をかわしてほとんど無傷、私が回復呪文を使う必要も少なくて、長く探索を続けられたので。それで私も身軽に動ける装備を身に付けるようになったら、探索がずいぶん楽になりました。そういう経験に基づいてます」

「でもユーコは死んだ。死んで、蘇ったからここにいる」

 ルルナーデが冷ややかに言った。

 メメント・コルはルルナーデに向かって「おい」と言った。

 まったく、一言多いなあ。

 マリアンヌがきょとんとしている。

「それはそうです。死ぬときは死にますから。ルルナーデさんだって、死んだから幽霊になってそこにいるんでしょう。冒険は楽しいものですが、この世界の冒険者は死ぬときはあっけないほどすぐ死にます。すぐ死ぬから、死ぬ確率を少しでも下げる、そういう話をしただけです」

「ごめん、ユーコ。言い過ぎた。謝るよ」

 ルルナーデはうっと言ってから素直に謝った。

「ルルナーデもユーコも、仲良くしてくれ」

 メメント・コルは呆れた声で言った。

「私も、ルルナーデさんと仲良くしたいんですけれど」

「仲が良いことは良いことです!」

 話に加われないマリアンヌが空気を読んだのか、明るい声で言った。

「ああ、仲良くしてくれ。ユーコ」

 ルルナーデは言った。

「もちろん。ルルナーデさんの身体がどこにあるのかは私も知りませんが、探すお手伝いはよろこんでしますよ」

「それは、助かる」

 どういうやり取りがなされたのか察したマリアンヌは「ルルナーデさんの身体、私も一緒に探します。お金をくれたら!」と言って、場を和ませてくれた。

「ところで、私が使えそうな武器や防具も選んでいいですか? ついでじゃないですが、仲間の皆さんが使えそうなものも残しておきたいですし」

「それはもちろん!」とマリアンヌ。

「かまない。俺は少し休んでる」と仮面の冒険者。

 

 私の装備と他の仲間が使えそうな装備をピックアップしていて、それをルルナーデがのぞき込み、これはどういう基準で選んだのかと尋ねてくるのに答えたり、マリアンヌはそのやり取りを不思議そうに見ながら手伝ってくれた。

 モノがだいたい揃ってきたころ、私は言い忘れていたことを思い出した。

「メメント・コルさんとマリアンヌさん、ちょっといいですか?」

 壁にもたれかかって座ったまま動かなかった仮面の冒険者は、私の声に反応してこちらを向いた。

「さっきちらっと話しましたけど、今身に付けている装備だとマリアンヌさんのほうがほんの少し速く行動できると思います」

「そういえば、たしかに戦闘ではいつもコルさんのほうが早く動いてたのに、さっきは私の方が先手を取りましたね」

 私は頷く。

「それが何か」

 仮面の冒険者はピンとこないようだった。

「すごく細かいことなんですけど、この行動順って戦闘の時にカルディアやマカルディアみたいな支援呪文を使うときに結構重要だったりします」

「どういう、ことでしょうか?」

 マリアンヌは首をかしげている

「メメント・コルさん、戦闘の最初の一撃で敵を確実に倒せない時ってありますよね」

「ああ、けっこうあるな」

「でも、その最初の攻撃がより敵に当たりやすく会心の一撃が出やすくなったらどうですか?」

「それは助かる」

 それを聞いたマリアンヌが、あ!と何かにひらめいたように言った。

「カルディア! そういうことですね!」

「そういうことです」

 マリアンヌは合点がいったようだったが、仮面の冒険者はまだピンとこないようだった。

「コルさん、カルディアって視界を広げてモノを良く見えるようにする呪文です。攻撃を当てやすくなって会心の一撃も出しやすくなるんですよ。つまり、コルさんたちアタッカーが攻撃する前にカルディアを掛けられるようになるってことです!」

 メメント・コルはマリアンヌの方を見てから私の方を向いた。

 私は微笑み返す。

「そういうことです」

 仮面の冒険者には私の笑顔がドヤ顔に見えたかもしれない。

「連携、っていうやつだね」

 そこにルルナーデが追い打ちをかけた。

「連携か」

 メメント・コルはぼそりとつぶやいた。

「分っていたつもりだが」

「分かっていなかったね」

 だからルルナーデ、追い打ちかけないで!

 仮面の冒険者がうつむいちゃったじゃない!

「でもユーコさん、私、マカルディアなんて使えませんよ。カルディアは使えますけど、そもそも覚えられるんですか?」

 マリアンヌの指摘はもっともだ。僧侶呪文でありながらマカルディアは通常のレベルアップで覚える呪文ではない。

「たしかに、だいたいの呪文は接頭詞が付くことで範囲が広がったり効果が反転したりするのでマカルディアは存在するんでしょうけれど、少なくとも私は詠唱やマナの流し方がわからないので使えません」

「それならたぶん」

「ダニエルだな」

 ダニエルさんがと言おうとしたら、メメント・コルが被り気味に言った。

「ええ。多分ダニエルさんは使えるはずです」

 

 

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