Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ 作:まつだあきら
「そーなんですか!」
「ああ。たまに使うな。マリアンヌとはあまり組まないから知らなかったかもしれない」
「じゃあ、宿に戻ったら」とマリアンヌ。
「聞いてみるといい」とメメント・コル。
「私もご一緒していいですか。ダニエルさんにもごあいさつしたいですし」
「もちろんもちろん。一緒に聞いてみましょう!」
マリアンヌは上機嫌で言った。
私たちは手元に残す装備品と道具屋に売る装備品を分けて、倉庫として使っている廃屋の部屋に収めてから宿屋に戻ることにした。
戻ると言っても、私は初めていくのだけれど。
道具屋に売りに行くのは明日、運ぶ仲間と一緒にという段取りになった。
宿に着いてダニエルがいる部屋に行く。
彼は部屋着で休んでいた。
幾分やつれた感じは見て取れる。
事前にタブレットで確認していたけれど、メンタルの数値がオレンジ色になっていたので実際はしんどいのだろう。
「どうかされましたかな。マリアンヌ殿とお連れの方」
「ダニエルさん、お加減はいかがですか? こちらは霊廟で授けていただいた遺骸から蘇生した、ユーコさんです」
「はじめまして。ユーコと申します。ダニエルさんに鍛冶の神のご加護がありますよう」
自分の口から自然に両手を前で組んで相手を祝福する言葉が出たことに内心驚いた。
「ユーコ殿にも我が神のご加護がありますよう。まだアニマの弱りはありますが、だいぶ良くなりました」
挨拶もそこそこにマリアンヌは本題を切り出す。
「それはよかった。ところで、ダニエルさんってマカルディアが使えるってコルさんから聞いたんですけど、本当ですか」
ダニエルは目を細めて髭をさすり、嬉しそうな顔をした。
「ええ。マカルディアはわしの故郷の師に当たる神父から授けていただいた呪文です。相当に古い呪文のようで、聖堂教会で標準として伝える呪文体系からは失われてしまったようですが」
「ほんとだったんですね!」
マリアンヌは私の顔を見た。
「そこでご相談なんですが、そのう、私にマカルディアを教えてもらえませんか」
「ふむ」
ダニエルは顎鬚をさすり、少し間を置いてから言った。
「師からは正しき行いをする者と正しきものを助ける者にのみ伝えよ、と厳命されております。マリアンヌさんの日ごろの働きと志は、わしの目に正しき行いをする者として見えております。その資格はあるでしょう」
「よかったあ!」
マリアンヌは飛び跳ねて喜んでいる。
その喜びように私も素直に嬉しい気持ちになって、自然とマリアンヌの手を取って一緒に喜んだ。
「ダニエルさん、もし私にもその資格があれば、教えてもらうことはできますか」
念のため聞いてみた。
マカルディアは継承でしか覚えられない。
ダフネのゲーム内の設定どおりなら、単体対象の支援呪文であるカルディアと同様の効果でありながら横一列を対象に効果を発揮し、消費MPは半分以下という壊れ性能だ。
消費MPが半分以下という時点で、単体対象のカルディアより少しぐらいバフ量が減ったとしてもおつりがくる、どう考えても設定ミスってる呪文なのだ。
「ユーコ殿。あなたがその資格を示してくだされば、わしは喜んでお教えしましょう」
「ありがとうございます。その資格を示せるよう努力します」
「ユーコさんならすぐに認めてもらえますよ」
満面の笑みを浮かべたマリアンヌは言った。
「ユーコさんてすごいんですよ。武器や防具の目利きができるし、戦闘での連携についても教えてくれましたし」
「それは興味深い。連携とはいったいどのような」
ダニエルは目を細めて言った。
「そんなに難しい連携ではないです。カルディアやマカルディアのような視野を広げる呪文は、前衛のアタッカーに掛ける呪文ではありますが、アタッカーが攻撃した後にかけるより、攻撃する前にかけた方が効果的だ、という話です」
「なるほど。ですが重装備で足の遅い騎士はともかく、戦士や盗賊は我先にとわしら僧侶が支援呪文を施す前に殴りかかってしまいます。それはいかがなさるのかな」
「それは私が答えます。ユーコさんにガラクタから戻した武器と防具で良さそうなモノ見繕ってもらったんですが、びっくりするぐらい身軽に動けるんですよ。さっきコルさんとこの装備で手合わせしたんですけど、コルさんより私の方が先手を取れたんですよ。すごくないですか」
「ふうむ。追加護で僧侶が先手を取れるようにしたと。ではユーコ殿に問いましょう。戦士や盗賊よりわしら僧侶が早く動けたとして、カルディアの加護を受けた戦士でも一撃で倒すことが叶わず、逆にわしらが一撃で屠られるような膂力のある敵と対峙した場合にも、そのような連携を取ればよろしいのかな?」
それ、この後マリアンヌにこっそり教えようと思ってたのに。
「その場合はカルディアではなくマソロツかマカルツですね。敵が力任せに殴ってくるだけであれば確実に避けるためのマソロツを、確実に当ててくるような技巧者であれば被弾を覚悟の上マカルツでこちらの消耗を減らしたほうが良いでしょうか。僧侶ができるのはそれぐらいですが、敵方が呪文を使うようであれば味方の魔術師がモンティノかコルツを、そうでなければ状況に応じて攻撃呪文や妨害呪文で支援してらうのも良いのではないかと思います。その場合も、魔術師と僧侶は敵より速く動けたほうがよいでしょう」
「なるほどなるほど。よくご存じのようだ。わしの師匠も集団戦闘での連携について、同じような教えをしてくださったのを思い出す」
マリアンヌはそのやりとりをぽかんと見ている。
彼女は今まで連携について考えたことがなかったところで、初歩的な連携について知ったばかりなのだ。無理もない。
「ユーコ殿はお若いが、どこでそのようなことを学ばれたのですかな」
「先輩の冒険者から、色々と教わりました」
「それはそれは、よい先達に出会われたのですな」
「はい。感謝しかありません」
「ところで、武器や防具の目利きをされるということですが、わしにも見繕っていただけますかな」
「ええ。今日、ガラクタから戻したものでいくつかダニエルさんに合いそうなものもありましたので、良ければ明日でも廃屋の倉庫で見ていただいて」
「それはすばらしい。わしもそろそろ身体を動かした方が良いと思っておりました。散歩がてらにうかがうとしましょう」
「ほんと、ユーコさんはすごいんですよ! 目利きだけじゃなく、神様からお告げをいただける板を授かっていて、コルさんの仲間のこともぜーんぶ知ってたんですよ。ダニエルさんがマカルディアを使えることも。ねえ、ユーコさん」
マリアンヌはタブレットのことを嬉々と話してしまった。
そのうち皆に知れることだろうから、ダニエルには今、話してしまおう。
「ええ。この動く絵と私にしか読めない字が浮かび上がるお告げのタブレットを授かっております。このタブレットを使って、大異形に立ち向かう仮面の冒険者とその仲間を手助けしろと」
そう言って私はタブレットを見せた。画面にはダニエルが表示されている。
ダニエルは顎鬚をさすりながら言った。
「わしが知らないだけで、ユーコ殿は神から使命を授かる高名な冒険者でありましたか」
「いえ、私はただのナナシノユーコです」
とっさにフルネームで答えてしまった。
「名無しの、二つ名を持つような知られた冒険者ではないと言いたいのですな」
「え、ええ」
七篠は「名無しの」と同じ音だよなあとずっと思っていたけれど、どうもこの世界でもそういう意味になるらしい。もしかしたたら、私はナナシノと発音しているつもりでも、この世界の言葉に置き換えられて相手にはそういう意味で聞こえているのかもしれない。
「ということは将来、通り名や二つ名で呼ばれるような優れた冒険者になるのかもしれないですな」
ダニエルはそう言って、はっはっはっと笑った。
「ユーコさんならなれますよ。きっと。私なんか貪欲な僧侶とか呼ばれてるんですよ! ちょっと失礼じゃないですかぁ」
「いやいや、マリアンヌ殿。あなたは二つ名通り、立派な貪欲な僧侶です。わしもその貪欲さには見習うべきところがあるのを認めます。貪欲は、決して悪い意味ばかりではございませぬぞ」
「そうですかぁ? それならいいんですけど」
マリアンヌは少し不服そうだった。
「いやいや、わしのように図体がでかいことがそのまま二つ名になるより、よほどマリアンヌ殿の本質をとらえている」
はっはっはとまたダニエルは笑った。
いい笑顔だ。
「ユーコ殿が将来どのような二つ名で呼ばれるようになるか、楽しみですな」
「ええほんと。ユーコさんならすてきな二つ名で呼ばれる立派な冒険者になると思います!」
「そう、なれるよう努力します」
うーん。
なんか期待されてる?
まだ私、レベル1のぺーぺーなんですけど。
「では明日、廃屋に行かれる前に声をかけてください。準備しておきます。マカルディアの件も」
「はい、分かりました。ではまた明日。ダニエルさんに神のご加護がありますように」
「マリアンヌ殿とユーコ殿にも、神のご加護がありますよう」
「皆にご加護がありますよう」
そう三人でお祈りしあって、ダニエルの部屋を出た。