ちょっとだけ愉快な仮面の冒険者   作:乾燥海藻類

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第03話 「奈落、再び」

翌朝、宿屋で目を覚ましたメメント・コルは身支度を整えてギルドへと向かった。

ギルド酒場は多くの冒険者で込み合っていた。

 

「ちぃ、こいつらみんな朝イチ狙いか。暇人どもめ!」

「むしろ冒険者としては勤勉なんじゃない? 考えることはみんな同じってことだね」

「あっ、おはよう、メメント・コル。ギルド証は用意できてるよ」

 

こちらを見つけたアルナが笑顔で駆け寄ってくる。

メメント・コルはアルナからギルド証を受け取った。

 

「ありがとう、何か良い依頼はあるかい?」

「依頼は……王女のお触れで、今これしか出せないんだよね」

 

そう言って、アルナは掲示板を指差した。

そこには一枚の大きな依頼書が張り出されていた。

 

「国王救出か。昨日騎士団長が言っていた随行する冒険者の募集だね。好都合だ。私の体も、あなたの記憶も、奈落で失った。手がかりは奈落にしかない。この依頼、受けよう」

「ふむ。ああ、それがあの時の答えか。キミは体を失ったんだな」

「……よく覚えてたね。まあいいけど」

 

メメント・コルはアルナに依頼を受ける(むね)を告げた。その瞬間、アルナは花が咲いたような笑顔を見せた。先ほど言った通り、この依頼が片付かない限り、他の依頼は出せないようだ。

 

「わがままな王女様だな。まあ最優先にしたい気持ちはわかるけどね」

 

ルルナーデは依頼書の隅々にまで目を通しながら、ぼそりと呟いた。

 

「依頼を受けた現場、しかと見たぞ」

「なにやつっ!?」

 

メメント・コルは周囲を見回した。

しかし、声はすれども姿は見えず。

 

「下だよ、下」

 

ルルナーデの声に従って、メメント・コルは視線を下げた。

そこには騎士姿の少女がいた。金の髪をポニーテールにした小柄なエルフだった。

メメント・コルは膝をつき、少女と視線を合わせる。

 

「どうしたお嬢ちゃん、お父さんと(はぐ)れたのかな?」

「ムッキー! バカにするでない! わしは騎士エルモン。お主を案内しにきてやったのじゃ!」

「騎士!? その身長で?」

「背丈は関係なかろう! ほれ、行くぞ!」

 

エルモンはメメント・コルの手を掴み、力強く歩き出した。

 

「ああ、おぬし名はなんというのじゃ?」

「メメント・コルだ」

「うむ。良い名じゃの」

 

愛らしい笑みを浮かべ、エルモンは満足そうに頷いた。

 

「エルフの見た目はあてにならないからね。私の見立てだと、500年は生きてると思うよ」

「いやぁ、それはないだろ」

「なにがないのじゃ?」

「む……いや、なんでもない」

 

メメント・コルは口をつぐんだ。エルモンの進んだ場所には、騎士たちが集まってた。

 

「ヴェルナン! 優秀な冒険者を連れてきたぞ!」

「ああ? なんだそいつ」

 

ヴェルナンは無遠慮にメメント・コルを眺めまわし、鼻をスンと鳴らした。

 

「おかしな仮面に、すえた臭い。尋常じゃねぇ」

「そうかい? 体はちゃんと拭いたんだがな。あっ、石鹸は使ってなかったな」

「あなたの臭いは染み付いたものだから、石鹸を使っても一時的にしか取れないと思うけどね。それに石鹸って結構高級品だよ。いや、この時代なら庶民にも普及してるのかな?」

 

いつものようにルルナーデがツッコミを入れる。

ヴェルナンは眉根を寄せてエルモンを睨みつけた。

 

「冒険者だったら誰でもいいってわけじゃないぞ。いくら集まりが悪いからって、こいつはない。チェンジだ。別のやつを連れてこい」

「おいおいご挨拶だな、ヴェルスコーニ」

「オレの名前はヴェルナンだ!」

 

肩を叩こうとしたメメント・コルの手を、ヴェルナンはぴしゃりと叩き落とした。

 

「そうはいかん。冒険者の(しつ)はギルドが保証しておる。ヴェルナン、おぬし冒険者ギルドに難癖をつけるつもりかの?」

「試験も何もなかったけどね」

「アルナの目は確かだってことさ。古いけどギルド証も持ってたしな」

「よく盗品だと疑われなかったものだ」

 

ヴェルナンがキッとメメント・コルを睨みつける。

 

「何をブツブツと言ってやがる。オレは得体のしれんやつを仲間とは認めない」

「同行者として認めてくれればいいよ」

「そういう意味じゃねぇよ! 大体、その仮面が気に入らねぇ」

「え、オシャレだろ?」

「どこがだ!」

 

ヴェルナンは不貞腐れたように部屋の隅へと移動した。

 

「……その変な仮面。私は見慣れてきたからね。あいつもすぐに見慣れるよ、たぶん」

「気遣いが身に染みるぜ」

「メンバーが集まったようだな」

 

室内に威厳のある声が響いた。騎士たちが一斉に姿勢を正す。

 

「団長殿、勇敢なる冒険者を連れてきたぞ! 仮面の冒険者、メメント・コルじゃ! わしの手柄じゃぞ、褒めるがよい」

「ありがとうエルモン。よく来てくれた、メメント・コル」

「よろしく頼む、団長殿」

「珍しくまじめだ」

 

ルルナーデが小さく茶々を入れた。

 

「ああ、よろしく頼む。私の名は、ディランハルト・アウエンレオーネ。王国騎士団長を務めている」

「長いからディオって呼んでいいかい?」

「そこはディランじゃない? やっぱりよくわからない感性をしてるな」

「おまえ! 団長に向かって……」

「よせ、アルバーノ。面白い男だ。しかし私にも立場というものがあるのでね。悪いが遠慮してもらいたい」

「そうか、残念だ。改めてよろしく頼む、団長殿」

「大して残念とも思ってないくせに」

「うむ」

 

メメント・コルとディランハルトは固く握手を交わした。

 

「ヴェルナンやエルモンとは話したか? 彼らは誉ある騎士たちだが、少々奔放でね。君に失礼がなかったのなら、いいのだが」

「気のいいやつらですよ」

「そう言ってくれると助かるよ」

「それよりも、仕事の話をしよう」

「うむ。では、少し長くなるが聞いてくれ」

 

ディランハルトは辺りを見回し、声をひそめた。

 

「……これから話す内容は極秘情報だ。他言無用である」

 

そう前置きして、ディランハルトは語り始めた。

王が奈落に住まう大異形にさらわれたこと。

大異形ヘルムートは狡猾で残忍、罠を作る器用さをも持つ。

大異形ヘルムートから王を取り戻すことが、騎士団の真の任務であること。

 

「厳しい戦いになる。覚悟を決めろ」

 

ディランハルトは金貨袋を取り出し、メメント・コルに手渡した。

 

「支度金だ。必要なものを買い揃えてくれ。奈落の入り口で待っている」

 

騎士団はギルド酒場を出て移動を始めた。メメント・コルは彼らと別れ、道具屋に向かう。

 

「はいよ、いらっしゃい!」

 

立派な髭をたくわえた店主がメメント・コルを出迎えた。しかしメメント・コルを見た直後に表情が曇った。

 

「なんだ、冒険者か。騎士様かと思って愛想良くしちまった」

「実は騎士かもしれないぞ」

「そんな妙ちきりんな仮面着けた騎士なんていねぇよ。そもそも騎士団の鎧じゃねえ!」

「尤もな意見だね」

 

ルルナーデはクスクスと笑った。

 

「おすすめは薬草だ。冒険者の必需品だろう?」

「それと毒消し、気つけ薬も買っておいた方がいいね」

「毒消しと気つけ薬も頼む」

「なら、この冒険者セットがいいぞ。必要なものが大体入っている」

「じゃあそれを貰おう」

「毎度」

 

冒険者セットを購入したメメント・コルは、奈落の入口へと向かった。

 

「アレク、アレクなの!?」

 

その途中で、身なりの良い女性がメメント・コルに話しかけてきた。

 

「アレク……じゃない……。ごめんなさい。あなたの仮面が、息子の物と似ていたものだから」

「……その仮面、昨日の賊から奪ったんだよね?」

「ふむ」

 

身なりの良い女性は、消沈した様子で言葉を続ける。

 

「もし、あなたと似た仮面の青年を見かけたら、家族が探していたと伝えていただけませんか? お祖父(じい)様はあなたを許したから、と。よろしくお願いします」

 

優雅な仕草で一礼すると、女性は立ち去った。

 

「察するに、貴族のお坊ちゃんが何か不祥事をしでかして勘当され、堕ちるところまで堕ちて賊になったってところかな。まあ気にしないでいいよ。絡んできたのは向こうなんだから、正当防衛だ」

「……嫌な事件だったね」

「自業自得だよ。あんなことを繰り返していたら、いずれは殺されていた。まあ、彼女の勘違いという可能性もあるけどね。似たような仮面なんていくらでもあるし」

「せやな」

 

メメント・コルは心のしこりを振り切るように、奈落の入り口に向かって歩き出した。

 

「準備ができたようだな」

 

奈落の入り口でメメント・コルを待っていたディランハルトは、満足そうに頷いた。

 

「君に騎士団からのサポートを付けよう」

「見張り役の間違いじゃないかな」

「信用されてないんだな」

「そういうわけではないさ。彼を付ける」

「アルバーノ・エローと申します。代々、王国南方の守護を務めております」

 

ディランハルトの隣りにいた騎士が前に進み出て名乗りを上げた。

 

「彼、あなたが騎士団長に愛称を付けようとした時に声を荒げたやつだね」

「ふむ。どっちが本性なのかね」

「……なんだと?」

 

アルバーノの視線が厳しくなる。

 

「あなたはもう少し声を抑えた方が良いね。もしくは、私の言葉にいちいち反応しなくても構わないよ」

「キミとの会話を楽しめないなら、死んだ方がマシさ」

「キザなことを言う。というか、あなた半分死んでいるようなものでしょ」

「こいつは一本取られたぜ!」

「……なんだこいつ」

 

アルバーノの視線が珍妙なものを見るようなものに変わった。

 

「アルバーノ、後は任せた」

「……はい。お任せください」

 

ディランハルトがその場を離れると、アルバーノはメメント・コルを睨みつけた。

 

「気狂いが。騎士団長は公爵家の嫡男。本来、おまえ如きが口をきいていい方ではない」

「へぇー」

「鼻をほじるな! まじめに聞け!」

「仮面の上から鼻をほじるのは器用だとは思うけど、汚いからやめたほうがいいよ」

「はい」

「わかればいいんだ。私は騎士団長ほど甘くはない。和を乱す行動は許さんからな」

「ああ、よろしく頼むぜ」

「鼻をほじった手で握手しようとするな! 拭いてないだろうが!」

 

アルバーノは舌打ちしながら一歩退いた。

 

「青き獅子の旗下に集いし勇者たちよ! 我が声を聞け!」

 

威厳のある声が空気を震わせた。

騎士団長、ディランハルトの声だ。

 

「我が剣は王の剣。我が盾は王の盾である!」

 

騎士たちは踵を揃え、ディランハルトの言葉を復唱した。

 

「これより、王の奪還作戦を開始する!」

 

ディランハルトを先頭に、騎士団が奈落へと入っていく。

メメント・コルもそれに続いた。

ついに、奈落攻略が始まったのだ。

 

 

 

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