ちょっとだけ愉快な仮面の冒険者   作:乾燥海藻類

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第05話 「小休止」

長く、苦しい、戦いだった。

巨大異形は高い攻撃力を持っていたが、しっかりと防御を固め、その隙を突いて攻撃を叩き込む地道な戦術で、確実にダメージを与えていった。

そしてついに、その巨体が断末魔を上げて倒れたのだ。

 

「ふっ、終わってみれば楽勝だったな」

「膝を震わせながら言っても説得力ないよ。まあ、死者がでなかったのは幸いだね。向こうも終わったみたいだ……うん?」

 

ルルナーデは何かに気づいて、異形へと視線を向けた。

 

「ねぇ、気づいた? アルバーノが異形から零れ落ちたナニカを拾って、隠すように懐へしまった」

「ふむ。おいおいアルフォンス、戦利品を独り占めか? 感心しないぜ、そういうのは」

 

気さくに声をかけるメメント・コルに、アルバーノはゆっくりと振り返った。

その息は荒く、視線は焦点が合っていない。

メメント・コルがさらに一歩近づくと、アルバーノは奇声を上げて剣の柄に手をかけた。

 

「言いがかりはやめろ! この庶民が! 何度も人の名前を間違えやがって! 殺されたいのか!」

「沸点低いな。カルシウムが足りてないんじゃないか?」

「そんな問題でもなさそうだよ。たぶん、奈落に呑まれかけている」

「……ふむ」

 

これ以上はマズいと感じたのか、メメント・コルは一歩下がった。

アルバーノも少し落ち着いたのか、背を向けてその場を離れた。

 

「良い判断じゃ」

 

背後からエルモンの声が聞こえた。

 

「隠匿は重大な規律違反じゃが、あやつの様子は明らかにおかしい。落ち着いた頃を見計らって、わしが声をかけるとしよう」

 

そう言って、エルモンはメメント・コルの腕をポンと叩いた。

 

「奈落では、心の弱い者から吞み込まれていく。あなたも気をつけ……あなたは大丈夫そうだね」

「俺は心が強いからな」

「……そうだね」

 

ルルナーデがくるりと宙を舞う。その白くしなやかな脚を眺めながら、メメント・コルは騎士団と合流した。

 

「すまない、こいつを背負ってくれないか?」

 

メメント・コルは頷き、負傷した騎士のひとりを引き受けた。

 

「ずいぶんと重傷だ。持つかな……いや」

 

数歩も進んだところで、命の輝きが消える気配がした。

 

「死んだみたいだ。ねえ、あの魔術を試してみてよ。この状態なら、ほかの騎士にも気づかれないよ」

「ああ」

 

メメント・コルは右手を騎士の腹部に当てて、魔術を発動した。

 

「……う、うわぁ! あ、あれ?」

「立てるか?」

「あ、ああ。私は……異形の攻撃を喰らって……あんたが助けてくれたのか?」

「薬草が利いたのさ」

「そ、そうか」

 

自分の足でしっかりと立った騎士は、不思議な表情を浮かべながら前に進んだ。

 

「驚いたな。本当に生き返った」

 

ルルナーデは珍しく心から驚いているようだ。

異形の先にあった扉を開くと、ひらけた場所に出た。

 

「見晴らしがよく、敵影もない。この場で休憩としよう。各自交代で見張りを立て、所持品の確認と負傷者の手当を行え」

 

ディランハルトが告げると、騎士団の中に柔らかな雰囲気が生まれた。

 

「ねぇ、あれ見て。ハーケンの祠だ」

 

ルルナーデの指先に目を向けると、先ほどと同じような残骸があった。

メメント・コルは慣れた仕草で、ハーケンの祠を修復した。

 

「やや! ハーケンが力を取り戻しておる! おかしいの、先ほど見た時はただの残骸じゃったのに……おぬしが直したのか?」

「ちょっとした魔術が使えるものでね」

「ほほぅ。やはりわしの見立ては間違っておらなんだの。おーい、団長殿! ハーケンじゃぞ!」

「これは……確かにここには壊れたハーケンがあった。だがなぜ直っているのだ?」

「こやつの魔術じゃ!」

 

エルモンは我が事のように笑みを浮かべて、メメント・コルの腕をバシバシと叩いた。

 

「それはすごい!」

「こやつを連れてきたわしの手腕を称えてよいぞ」

「さすがです。レディ・エルモン。伊達に長生きはされていませんね」

 

と、ディランハルトは素直にエルモンを褒め称えた。

 

「なんだか手柄を横取りされた気分だね」

「別にいいさ。かわいい子の笑顔が見れるならね」

「……前にも言ったけど、エルフの外見に騙されない方がいいよ」

 

ルルナーデは呆れたように肩をすくめた。

ディランハルトはハーケンを使って負傷者を帰し、補給部隊を要請するようだ。

 

「おい、おまえがこれを修復したのか? 本当に?」

 

懐疑的な言葉を投げかけてきたのはヴェルナンだった。

 

「信じるか信じないかはおまえ次第だ」

「なんだその返しは。だがエルモンが嘘を吐くとも思えんし……チッ、信じてやる。これからも仲良くしようぜ」

「現金なやつだな」

「そう言うなよ、親友」

 

ヴェルナンはメメント・コルの肩をポンポンと叩いた。

 

「ふんっ、肩ポンなんかにほだされないからね!」

「どこのお嬢さまだおまえは。やっぱり考え直すか……」

 

ブツブツと言いながら、ヴェルナンはその場を離れた。

 

「ねぇ、もうひとつ試したことがある。少し戻って」

 

ルルナーデに促され、メメント・コルは先ほど倒した異形のもとまで戻って生きた。

ルルナーデはそこにある木箱を指差している。

メメント・コルはため息をひとつ落として、木箱の中にある肉に魔術を発動させた。

しかし、反応はなかった。

 

「ふむ。なんでも生き返るわけではないようだね。足りていないのか、混ざりものがダメなのか。さっきの騎士は死んだばかりだった。状態が関係しているの?」

 

静かに考察を始めるルルナーデを横目に、メメント・コルは扉を開けてハーケンの間へと戻った。

 

「うん? おぬしどこに行っておったのじゃ?」

「ちゃんと異形が死んでいるか確認していた」

「カカッ、用心深い男じゃな」

 

エルモンはカラカラと笑った。その後、ふっと息を吐き、奈落の奥を見つめる。

 

「ブルグリット王女よ。わしは必ず王を連れて帰るぞ」

「王女さまとは親しいのか?」

「うむ。ブルグリット王女はわしの(あるじ)、この国でわしに命令できるのはブルグリット王女だけじゃ」

「騎士だけど、騎士団ではないんだね。どうやら特別な事情がありそうだ」

 

考察から帰ってきたルルナーデが興味深そうにエルモンを眺めていた。

 

「そろそろ出立する!」

 

ディランハルトの大声が広間に響いた。

 

「メメント・コル。アルバーノのことはエルモンから聞いている。彼は騎士団に編成しよう。君はサポートの必要もなさそうだしな」

 

そう言って、ディランハルトは小さく笑みを浮かべた。

一行は地下3階へと足を踏み入れた。

 

 

 





ゲーム的にはレベルを上げたり装備厳選をしたりするところですが、ストーリー重視で進めていきます。
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