長く、苦しい、戦いだった。
巨大異形は高い攻撃力を持っていたが、しっかりと防御を固め、その隙を突いて攻撃を叩き込む地道な戦術で、確実にダメージを与えていった。
そしてついに、その巨体が断末魔を上げて倒れたのだ。
「ふっ、終わってみれば楽勝だったな」
「膝を震わせながら言っても説得力ないよ。まあ、死者がでなかったのは幸いだね。向こうも終わったみたいだ……うん?」
ルルナーデは何かに気づいて、異形へと視線を向けた。
「ねぇ、気づいた? アルバーノが異形から零れ落ちたナニカを拾って、隠すように懐へしまった」
「ふむ。おいおいアルフォンス、戦利品を独り占めか? 感心しないぜ、そういうのは」
気さくに声をかけるメメント・コルに、アルバーノはゆっくりと振り返った。
その息は荒く、視線は焦点が合っていない。
メメント・コルがさらに一歩近づくと、アルバーノは奇声を上げて剣の柄に手をかけた。
「言いがかりはやめろ! この庶民が! 何度も人の名前を間違えやがって! 殺されたいのか!」
「沸点低いな。カルシウムが足りてないんじゃないか?」
「そんな問題でもなさそうだよ。たぶん、奈落に呑まれかけている」
「……ふむ」
これ以上はマズいと感じたのか、メメント・コルは一歩下がった。
アルバーノも少し落ち着いたのか、背を向けてその場を離れた。
「良い判断じゃ」
背後からエルモンの声が聞こえた。
「隠匿は重大な規律違反じゃが、あやつの様子は明らかにおかしい。落ち着いた頃を見計らって、わしが声をかけるとしよう」
そう言って、エルモンはメメント・コルの腕をポンと叩いた。
「奈落では、心の弱い者から吞み込まれていく。あなたも気をつけ……あなたは大丈夫そうだね」
「俺は心が強いからな」
「……そうだね」
ルルナーデがくるりと宙を舞う。その白くしなやかな脚を眺めながら、メメント・コルは騎士団と合流した。
「すまない、こいつを背負ってくれないか?」
メメント・コルは頷き、負傷した騎士のひとりを引き受けた。
「ずいぶんと重傷だ。持つかな……いや」
数歩も進んだところで、命の輝きが消える気配がした。
「死んだみたいだ。ねえ、あの魔術を試してみてよ。この状態なら、ほかの騎士にも気づかれないよ」
「ああ」
メメント・コルは右手を騎士の腹部に当てて、魔術を発動した。
「……う、うわぁ! あ、あれ?」
「立てるか?」
「あ、ああ。私は……異形の攻撃を喰らって……あんたが助けてくれたのか?」
「薬草が利いたのさ」
「そ、そうか」
自分の足でしっかりと立った騎士は、不思議な表情を浮かべながら前に進んだ。
「驚いたな。本当に生き返った」
ルルナーデは珍しく心から驚いているようだ。
異形の先にあった扉を開くと、ひらけた場所に出た。
「見晴らしがよく、敵影もない。この場で休憩としよう。各自交代で見張りを立て、所持品の確認と負傷者の手当を行え」
ディランハルトが告げると、騎士団の中に柔らかな雰囲気が生まれた。
「ねぇ、あれ見て。ハーケンの祠だ」
ルルナーデの指先に目を向けると、先ほどと同じような残骸があった。
メメント・コルは慣れた仕草で、ハーケンの祠を修復した。
「やや! ハーケンが力を取り戻しておる! おかしいの、先ほど見た時はただの残骸じゃったのに……おぬしが直したのか?」
「ちょっとした魔術が使えるものでね」
「ほほぅ。やはりわしの見立ては間違っておらなんだの。おーい、団長殿! ハーケンじゃぞ!」
「これは……確かにここには壊れたハーケンがあった。だがなぜ直っているのだ?」
「こやつの魔術じゃ!」
エルモンは我が事のように笑みを浮かべて、メメント・コルの腕をバシバシと叩いた。
「それはすごい!」
「こやつを連れてきたわしの手腕を称えてよいぞ」
「さすがです。レディ・エルモン。伊達に長生きはされていませんね」
と、ディランハルトは素直にエルモンを褒め称えた。
「なんだか手柄を横取りされた気分だね」
「別にいいさ。かわいい子の笑顔が見れるならね」
「……前にも言ったけど、エルフの外見に騙されない方がいいよ」
ルルナーデは呆れたように肩をすくめた。
ディランハルトはハーケンを使って負傷者を帰し、補給部隊を要請するようだ。
「おい、おまえがこれを修復したのか? 本当に?」
懐疑的な言葉を投げかけてきたのはヴェルナンだった。
「信じるか信じないかはおまえ次第だ」
「なんだその返しは。だがエルモンが嘘を吐くとも思えんし……チッ、信じてやる。これからも仲良くしようぜ」
「現金なやつだな」
「そう言うなよ、親友」
ヴェルナンはメメント・コルの肩をポンポンと叩いた。
「ふんっ、肩ポンなんかにほだされないからね!」
「どこのお嬢さまだおまえは。やっぱり考え直すか……」
ブツブツと言いながら、ヴェルナンはその場を離れた。
「ねぇ、もうひとつ試したことがある。少し戻って」
ルルナーデに促され、メメント・コルは先ほど倒した異形のもとまで戻って生きた。
ルルナーデはそこにある木箱を指差している。
メメント・コルはため息をひとつ落として、木箱の中にある肉に魔術を発動させた。
しかし、反応はなかった。
「ふむ。なんでも生き返るわけではないようだね。足りていないのか、混ざりものがダメなのか。さっきの騎士は死んだばかりだった。状態が関係しているの?」
静かに考察を始めるルルナーデを横目に、メメント・コルは扉を開けてハーケンの間へと戻った。
「うん? おぬしどこに行っておったのじゃ?」
「ちゃんと異形が死んでいるか確認していた」
「カカッ、用心深い男じゃな」
エルモンはカラカラと笑った。その後、ふっと息を吐き、奈落の奥を見つめる。
「ブルグリット王女よ。わしは必ず王を連れて帰るぞ」
「王女さまとは親しいのか?」
「うむ。ブルグリット王女はわしの
「騎士だけど、騎士団ではないんだね。どうやら特別な事情がありそうだ」
考察から帰ってきたルルナーデが興味深そうにエルモンを眺めていた。
「そろそろ出立する!」
ディランハルトの大声が広間に響いた。
「メメント・コル。アルバーノのことはエルモンから聞いている。彼は騎士団に編成しよう。君はサポートの必要もなさそうだしな」
そう言って、ディランハルトは小さく笑みを浮かべた。
一行は地下3階へと足を踏み入れた。
ゲーム的にはレベルを上げたり装備厳選をしたりするところですが、ストーリー重視で進めていきます。