ちょっとだけ愉快な仮面の冒険者   作:乾燥海藻類

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第08話 「対決、サソリ女」

「地下3階ではヴェルナンと防御部隊が、地下4階ではエルモンと遊撃部隊が喪われた。こんな調子で王の救出なんてできるのかな?」

 

ルルナーデは一行を見下ろしながらぼそりと呟いた。

 

「あんなに一緒だったのに……」

「さすがのあなたも落ち込んでいるみたいだね。そういえば、うさぎが増えてきたのに気づいてる? 気をつけた方がいいよ。あいつらに隙を見せると、一瞬で殺られるからね」

「ふんっ、あの程度のうさぎ、すべて返り討ちにしてやるぺこ!」

「ぺこ? まあ調子が戻ってきたようでよかったよ」

 

一行は地下5階へと足を踏み入れた。

階段を下りた先では、複数の冒険者の遺体が転がっていた。

 

「同士討ちか。これだから下等な人間は」

 

吐き捨てるようにアルバーノが呟く。

 

「これはなんだろう?」

 

遺体の間に転がっている奇妙な形の石を拾い上げ、ディランハルトは疑問の声を漏らした。

 

「あれは奈落の遺物だね。あれをめぐって争ったというところかな。ここはもう、奈落の瘴気が強い。意識を強く持たないと、奈落に魅入られるよ」

「奈落の遺物とは?」

「奈落で生まれる石のことだよ。知らないの?」

「もちろん知っている。だがキミの美しい声で説明を聞きたいな」

 

ルルナーデはジト目でメメント・コルを見つめた。

 

「まあいいや。魔術の材料にもなるし、香りがしたり、幻を見せたり、単純に造形が面白いこともあって、好事家たちの間で高値で取引されてる」

「お宝を独り占めしたくて殺し合ったのか、醜いな」

「庶民は存在も知らないと思うけど、貴族や魔術師なら誰でも知ってるんじゃないかな」

「誰が庶民や!」

「あなた記憶がないんでしょ?」

「確かにそうだ。俺は貴族か王族だったのかもしれない。この短刀がその証だ」

「はいはい」

「君はこれが何か知っているのか?」

 

ディランハルトが問いかけてくる。メメント・コルは奈落の遺物について説明した。

 

「なるほどな。存在するだけで争いの種になる。これも奈落の呪いか。持ち帰り、教会に処分をお願いしよう」

 

ディランハルトは奈落の遺物を懐にしまい、前へ進み始めた。

 

「ん? ちょっとまて。アルバーノが異物をくすねていたよな。あれは金目当てってことか?」

「……どうだろうね」

 

ルルナーデは曖昧に答えた。

少し進んだ辺りで、通常の異形とは色の違う異形が現れた。異形はじっとこちらを見ている。

 

「色違い異形か。価値があるのかな?」

「異形に価値を求めないでよね」

「色違いか。これまでの異形より手強いかもしれん。警戒しろ!」

 

しかしその異形は、メメント・コルの一撃によって倒れた。

 

「むっ、他の異形よりも弱い? それとも君の技量か?」

「もちろん俺の……」

「本当のことを言った方がいいよ」

「技量だと言いたいが、手応えがなかったな」

「ふむ。新兵の訓練にちょうど良いかもしれないな」

「団長、異形が何かを落としたようです」

 

アルバーノが花のようなものを拾い上げ、ディランハルトに見せた。

 

「これも奈落の遺物……か?」

「とても良い匂いがする」

「匂い……?」

「これは……母が用意してくれた香り袋の匂いだ」

「アルバーノ……?」

 

ディランハルトは怪訝そうにアルバーノを見つめている。

 

「その、アルバーノ。体はなんともないのか?」

「いえ、ありますよ団長。元気が湧いてくるようです。こんな恵みが、奈落にもあるのですね」

「……そうか。ならばそれは、君が持っていてくれ」

 

取り上げるのはよくないと感じたのか、ディランハルトはそれをアルバーノに任せることにした。

 

「アルバーノの顔色がよくなってる。よくない傾向だ。気をつけて」

「よいのかよくないのか、どっちだ?」

「顔色がよいのがよくない傾向だって言ったでしょ」

「……なるほど。最高にハイってやつか」

 

メメント・コルは肩をゴキリと鳴らした。

探索を続ける。

進んだ先の広間に多数の遺体が散らばっていた。

 

「食い散らかされている。ここの主は行儀が悪いようだ」

「アソビマ……ショ……」

 

物陰から現れたのは、上半身が女性、下半身が大サソリの異形だった。

 

「上半身だけなら100点」

「言ってる場合? 来るよ」

「人語を解する魔物か。来るぞ!」

 

ディランハルトが剣を抜き、右に走る。メメント・コルは瞬時にディランハルトの思惑を察して、左に走った。

巨大なサソリの尾をかわし、ハサミに一撃を叩き込む。血とも体液ともわからぬ青い液体が噴き出した。

 

「キヤアアァァッ!!」

 

サソリ女が悲鳴を上げる。

 

「その剣、よく切れるみたいだね」

「そのようだ」

 

地下5階の宝箱から入手した「そよ風の剣」は、サソリ女に有効のようだ。

風が渦巻いている。サソリ女の生み出した風が吹き抜けた。

サソリの尾がピンと逆立ち、メメント・コルに狙いを定めている。

 

「力を溜めているみたいだ。攻撃の瞬間を見逃さないで」

「ああ」

 

爛々と輝く紫の瞳が、メメント・コルを見た。

 

「来るよ!」

 

高速の尾撃を、メメント・コルは身をかがめてかわした。そのまま床を滑るように距離を詰め、風の刃を叩き込む。

 

「グギャアッ!!」

「沈め!」

 

跳躍したディランハルトの一撃が、サソリ女の胴体に深々と突き刺さった。

 

「コンニ……チ……ワ……?」

 

巨体が力を失い、音を立てて倒れた。それでもなお、サソリ女は何事が呟いていた。

 

「人間をエサとする魔物は言葉を使うことがある。でもその言葉に意味なんてないよ。獲物を油断させるための生存戦略なのだろう」

「確かに、自分たちと同じ言葉を使う相手とは、戦いにくいかもな」

「狡猾な魔物だ。先に進むぞ」

 

ディランハルトは剣に付着した体液を振り払い、先へ続く扉へと視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉の先の階段を下りる。地下6階は、これまでとは変わった階層だった。

空は開けているが、地上が見えるわけではない。空には巨岩が浮いている。

 

「この空は一体……。果てが見えないが、どうなっているのだろうか。わかるのは、この場所が人の世と隔たれているということだけだな」

 

ディランハルトは目を細めて空を眺めている。

 

「私もこの景色は初めて見る。奈落は時折、姿を変える。奈落の王の気分だとも言われているよ。深部に行くほど、その影響は大きいのかもしれないね」

「つまり、最下層が近いということか」

「……むっ。確かに、君の言う通りかもしれないな。気を引き締めて行こう」

 

地下6階層の魔物は、それまでとは違っていた。不死族が多いのだ。

 

「不死族には魔力の核がある。お腹の辺りに見えるでしょ。そこを狙って。魔術師か僧侶がいれば、少しは楽なんだけどね」

「ないものねだりをしても仕方ないさ」

 

立ちはだかる不死族を退け、転移の仕掛け(ギミック)に翻弄され、謎かけ(リドル)を解き、一行はようやく地下6階を踏破した。

 

「やれやれ、ずいぶんと趣向を凝らした階層だったね」

 

ルルナーデは辟易したように呟いた。

 

「骸骨どもは厄介だったが、強敵と呼べるほどの魔物はいなかったな。進もう」

 

階段を下りる。

次は地下7階。

奈落は混沌とした世界へと変貌しつつあった。

 

 

 

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