雀の鉄砲   作:もがお*りが

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思い出した


6

 ジェイクは自分の顔が火傷していないことを指で悟った。

 緩んだ包帯を締める。

 何が申し分ない狼(ジェイク・ロペス)だ。

 

 ジェイクは、アーサソールの隊員としての記憶を【ある程度】取り戻していた。

 しかし、以前のレナルドと同じ心情になり切れるかと言えば違う。

 

 このはるか東の大地で、生きてしまったから。

 単なる属国の人間だとか自分達に隷属する相手だとも思えなくなっていた。

 旧型に対する侮りは薄れていった。

 どこかで、自分は見下しているのだろうが。

 

 故郷に戻ることで処罰を受ける?出来ないだろう。

 罪を罪として明かされること無く口封じで殺されるか、人体実験に再び使用されるだけの日々を送る。 

 研究成果が何か人類を守ることになったとしても、嫌だった。

 

 それは償いではないと思っていた。

 ガクという被害者を生み出した以上、あの理想も計画も無理のあるものだった。

 両親の『考えろ』という教えは、他人に考えを委ねるなとは、こういう事態を引き起こすという事だったのだ。

 

 より強い偏食場があればアラガミとの感応は切れるのだと。

 少しでも考えたら分かることを、ガーランド博士に指摘しなかったのだ。

 我々の誰一人として。

 僕もだ。

 

 ガーランド博士はきっと、見たくない現実を見ないようにしていた。

 片目が無くなったときから。

 

 僕は忠実なんじゃなかった。

 ガーランド博士の傍にいる新型の自分たちに酔っていただけだ。

 

 だから確かめなければいけない。

 ガーランド博士と仲間の最後を。

 

 僕はすべてを思い出すことで、弔うつもりだからだ。

 

 

 シュウはジェイクの様子を見ていた。

 表情には現れずとも沈んでいることが分かった。纏う雰囲気から。

 

 ジェイクにカンナが渡したディスクはミノル達の侵入を妨害するシステムだった。

 出撃遅延系のものだ。

 

 ジェイクはあの事件の記憶を一部喪失したままだ。

 エイジスに一度たりとも向かわされていないのは、自分が新兵だという役割だからだけではないだろう。

 おそらく、オオバ博士がかけた暗示の解除キーにあたるのだ。

 そうジェイクは睨んでいる。

 

 ジェイクは潜入に向けて準備をしていた。

 万屋からアイテムを購入し、装備をチェックする。

 副隊長のグレンやカリンから教わったことだ。

 

 場合に全マップの排除者を把握するために超視界薬に頼る必要もあるだろう。

 三十秒間だけ筋力や体躯を強化する薬もある。

 デトックス錠やアンチジャミング剤も入れた。機械を使って妨害される可能性は十分にある。

 

 ジェイクの様子を見て、シュウが話しかける。

 シュウのスパイラルフェイトを話してくれる。

 

「俺はハイヴの防衛に出撃し、防衛班に背中を押される形でエイジスに向かった」

「合流が遅れたけど、ソーマを捕喰したと聞いてびっくりした」

「え」

「神機使いを神機で捕喰なんて聞いたことも無かった。けど危険だというのは分かるよ」

「生きてますよね」

 

 シュウは頷く。

 

「ソーマが生きてたと分かって、コウタたちと喜んだよ」

「それで、俺はアーサソールの人たちがどうなったか聞いた。エイジスの床下へ落ちていったと」

「泳いで探したよ。けど見つからなかった」

 

 ジェイクは釈然としなかった。

 なぜ?

 自分達は終始態度が悪く、支部長になろうとしたガーランドさえも極東を守る人間に嫌味を放っていた。

 そんな人間をどうして?

 

「あなたも、泳いで…どうして?」

「俺は、アーサソールの人たちもガーランド博士も生きて欲しかったから。カンナもそうじゃないかな」

「君が生きてて良かった」

 

 この人、気付いている。

 だとすると他の面々も……

 

「榊博士や第一部隊の多くは気付いてる。でも本部に何も言うつもりは無い。君たちが攻撃したルミコ先生もな」

「なぜ…」

「俺は誰を脅かす生き方をしたくない。そんなことをしても、喪ったものは返ってこないからだ」

 

 吐き気を催すほどの真摯な言葉だった。

 これに、吐き気を催してしまうのは、自分が、やったことに責任をとれていないからだ。

 罪悪感がそう思わせているからだ。 

 ジェイク自身がどこか、罪悪感をすり替えようとしているからだ。

 ここにきて自分は罪を自覚することに迷いがあるのかと悟った。

 

 シュウはジェイクの目を見て

 

「生きて帰って来いよ。あとこれ」

「またディスクですか」

「俺も君たちと関わると決めたときから、覚悟は持ってる」

 

 シュウが渡したディスクは本部直轄区域のデータを改ざんする偽装情報が入っている。

 本部やアナグラにジェイク=レナルドが侵入したと知覚させないためだ。

 

「これもどうぞ」

「これは」

「偵察班と君は敵対するかもしれない。だからその対策だ」

 

 ジェイクはアリサたちがかつて使用していた偏食因子のキットと、月が青くなるまでの映像記録を手に入れた。

 エイジスのカメラの映像記録を抜いたものだ。

 具体的には、偵察班との交戦映像が載っているものだ。

 

「こんなもの、渡していいんですか」

「本部に流すか?」

「しませんよ。僕の立場がさらに悪くなるだけだ」

 

「本当は、君を止めに来た。けど君は、他の面々が受け入れたとしても、知りたいんだな」

「ええ。僕は自力で暗示を解きたい。記憶を取り戻したい。そう思っています」

「だから渡した。…五時間後、君が目的を達成しない場合は俺も突入する」

 

 偵察班以外も君を受け入れる。

 第一部隊に転属することだって出来るだろう。シュウはその道を示しに来た。

 だが、それをするつもりは無い。

 負い目以外を見つけて戦う理由を増やすことだって出来ただろう。

 もちろん、これからそうするつもりだ。

 …偵察班や第一部隊の二人と共に戦う内に、図太さを手に入れている気がする。

 

「…励ましてくれてありがとうございます。あなたの気持ちが、暖かい」

 

 さあ行かなければ。

 人工島エイジスへ。

 

 

 

 

 

 

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