雀の鉄砲   作:もがお*りが

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 エントランスのベンチ。

 

 僅かな休み時間を利用して、ショウヘイはどこからともなく将棋盤を取り出していた。

 将棋を指す相手はジェイクだ。

 暢気に遊んでいるからか、出撃予定の神機使いたちからの視線が痛い。

 ショウヘイは見事これをスルーしているがジェイクはあまり気が気でなかった。

 

 ショウヘイは初心者が楽しめるように適度に難易度を調整してくるようだ。

 ルール把握のためのプレイもあれば、じわじわと嬲り殺すような手を打つこともある。

 

 詰将棋も温まったところで、カリンがカウンターから数歩のベンチに座る二人に近寄る。

 

「おまたせ」

「先輩、何をしているんですか?」

「ん~?隊長に連絡」

 

 出撃ゲートをくぐり、三人はそれぞれ神機を掴む。

 

「そらもうできることからやっていくんだよ」

「聞いたぞ~復興作業員助けて、ガキンチョ行列に並ばせたんだって?」

「はい」

「無事GE引退したらさ~孤児院の案内とかどうよ」

「できたらいいですね」

 

 ジェイクは流した。

 流せてしまった。

 脳裏には素材回収という言葉が浮かんでいた。

 

 

 タツミと合流する前、復興作業員のススムと会話していたことを思い出す。

 ガクを列に並ばせた後だ。

 

『うちにもあれくらいの年の子がいるんだ』

『そうなんですか』

『女房に任せきりで、あんまりかまってやれないまま…』

『あの子は孤児院でどうなるんでしょうか』

『運が良ければフェンリルに就職できるところへだな。運が悪ければ、どこにも就職できず…』

 

 ジェイクは歯を食いしばることもせず見ている。

 悔しさを仕草に滲ませることもできないまま。

 

 

『引き取るのはね、うちにはもう家族がいる。これ以上は養えない』

『恨まれませんか?』

『うん。追い詰められると、助けない人じゃなくて助け方の不十分さに怒るもんだ』

 

『君はあの子を引き取るかい?』

『いいえ。まだ仕事を覚えているばかりで、いつ死ぬかも分からず…引き取ることは到底できません』

 

『君にも、俺にもあれ以上はできないさ。仕事を全うしてああいう子が増えないようにするか、孤児院が襲われにくい様にするかだ』

 

 

 

 僕の仕事には物資の回収も含まれている。

 討伐以外にもできることはある。

 

 

 

 

 

 

 

 ジェイク、カリン、ショウヘイの三人は屋上にいた。

 鉄塔の森へ向かうヘリに乗り込む。

 プロペラの音が大きく響く。

 

 深緑の機体が青い空で目立つ。

 

「お、珍しいな。ジェイクから偵察任務に向かうなんてさ~」

「回収任務も兼ねているゾ。みんなリュックは持ったか~?」

「わたしは完璧です」

 

 カリンは背中のリュックを親指で差す。

 

「そりゃあカリンは偵察上下きてるからな…」

「先輩はいつも準備万端ですよね」

 

 子どもっぽいカリンに少し呆れながら応対する二人。

 

 ジェイクもリュックを背負っている。

 回収素材を多めに持ち込むためだ。

 

「バカやろ~機材とかトラップとか入れてんだぜ?」

「みんなが軽装なの」

 

 カリンはべ~と舌をだした。

 

「今回はヘリから覗くことも任務になっている」

「任務でやることは三つ。極東から鉄塔の森までの観察、鉄塔の森偵察および素材回収だ」

「ほら復唱」

「極東から鉄塔の森までの観察、到着後は偵察と素材回収ですね」

「よし」

 

 ヘリが浮かび、建物が小さくなっていく。

 極東支部を囲むように建築された外部居住区のスラムすらも。

 外壁を越えた先の砂漠地帯がよく見える。

 

「小型との交戦は許可されているが、長引くとコンゴウや耳のいいアラガミがやってくるだろう」

「なので、やるなら手短にやれる個体だけ狙って即撤退だ」

 

 コンゴウは優れた聴覚によって交戦音を感知し、仲間を呼び寄せることが何よりも厄介だ。

 そうして乱戦に発展し、隙を補い合いながら潰しにかかる様を何度も経験することになる。

 ショウヘイも、カリンも散々苦渋を舐めさせられた。

 第一部隊の面子が苦戦するならば、苦戦しないはずがない。

 スタングレネードはそのためにある。

 

「ヤバイと思ったら信号弾使って合流するように。腕輪の使い方分かるよな?」

「はい」

 

「おし、試しに合流命令してみろ」

「こうですか?」

「そこは散開とかやっとくといいぞ」

「…反応し辛いジョークやめてください」

 

 

 包帯越しからの冷たい視線。

 

「回収任務ってことで帰投後はヘリ増やすよう申請しておいた」

「何台ですか」

「いつもより一台多め」

「了解です。ほいジェイク!」

「はい」

「ヘリ一台に積める重量行ってみろ」

 

 カリンは即座に話題を切り替えた。

 

 

 ヘリの中、三人はこちらを狙ってくるアラガミに警戒していた。

 プロペラの音で反応するアラガミもいるので気を抜くことはできない。

 

「いる」

「目がイイやつならさっさと討伐しないとな」

「距離は離れてます」

「本当だ」

 

 ショウヘイはスコープで覗き、カリンはショウヘイのカバーをすべく神機を低く構えている。

 ジェイクも同じだ。

 

 

「シユウ堕天種二匹とヴァジュラテイル三匹が極東に向かってます。どっちも雷を使います」

「どうだった?」

「報告はしたし、防衛班もいるってよ。加勢は無し」

 

 

 

 鉄塔の森。

 アラガミに食われたのかひしゃげた大きな煙突が並び立つ。

 

 元はエネルギー施設…発電所だったものだが、液体燃料や電力を狙ったアラガミの襲撃により壊滅。

 電力を喪った都市部の機能は麻痺し度重なる混乱に拍車をかけた。

 このエネルギーの消失により人口は更なる激減を見せた。

 フェンリルはこれに対し、特定のオラクル細胞から電力を発生させる技術を確立することで、滅亡の一歩手前に踏みとどまることに成功した。

 

 人類に未だ余裕はない。

 

 エネルギー施設の運用のためにも素材回収やアラガミの討伐および捕喰に力を入れている。

 余談だが、雷石など属性名の入ったオラクル石や晶は特定のオラクル細胞による発電技術に近しいものがある。

 

 さて、三人は鉄塔の森で回収作業を開始していた。

 時には茂みに潜み、高台を遮蔽物に隠れて進んでいく。

 発電所には配慮の元植えられていた樹木は、人の管理を失い、何でも食べるアラガミが存在するにもかかわらず、繁栄している。

 フェンリル研究者の中には鉄塔の森にのみ異常に繁殖した植物に注目する者もいる。

 その異常繁殖をした植物に身を潜めて素材を見つけ、回収する。

 一定のスポットが存在しており、所謂アラガミの餌場に当たる場所に回収素材は落ちている。

 全部を回収することは物量的には無理だが、もしも仮に力技で全て回収することになると、折角予測できている餌場を前提にした戦術が崩れ、大幅な変化が発生する。

 そういった観点からすべてを回収することは命じられていない。

 

「ドリルがありました」

「コンバートアイテムだな」

「確かだったっけな~」

「これいいな」

「隕鉄か…」

「ショウヘイさん」

「何ゾ、ジェイク」

 

 ジェイクは足が速いのか、ショウヘイの傍にいた。

 ショウヘイは回収した作業服をリュックに入れる。

 今回拾った作業服は高品質ゴムと綿各二個に変換されるアイテムだ。

 

「この石って、哲学の石ですか?賢者の石ですか」

「哲学の石だと思うが…カリン、これ哲学の方か?」

「はい。哲学の石ですね。これジェイクが見つけたのかよ。すげえな」

「いやあ…」

 

「これって岩…ですよね」

「変質した岩ってやつだな」

「このタイプだとエーテル二個出てくるね」

 

 ジェイクはカリンに変質した岩を見せる。

 カリンは含有鉱石の腐食具合から変質した岩Cと判断した。

 

「そういや、なんで回収作業に熱心になったわけ?換金アイテムなんか無いよ?」

 

 確かにそうだろう。ハンニバル捜索に関係する任務以外は。

 ジェイクはリュックに素材を入れて

 

「回収した素材を、復興作業に使えないかなと思いまして」

「哲学の石はオラクル石なんですよね。偏食因子が中にあるかもしれません。」

 

 哲学の石は金属を捕喰して別の金属に変換する特徴があるオラクル石だ。

 捕喰するならオラクル細胞だし、オラクル細胞の中には偏食の性質が存在する。

 であれば、偏食因子を取り出すことが出来るのではないかと考えた。

 アルダノーヴァの男神から獲ることが出来るし、ルドラ改やヘルサイズ改などの武器の強化にも使用できる。

 アラガミ由来の者である可能性があるなら、偏食因子の更新にだって役に立つかもしれない。

 

「いいじゃん」

「ヘリ大丈夫か…」

 

 カリンは同意したが、ショウヘイが懸念すること。

 作戦行動中、アイテムを回収する数には限りがある。

 それはもちろん、所持品確認の際に存在するアイテム事態を持ち帰るのが困難かどうかというものもあるが、ヘリが重量に耐えられるかどうかという条件も加味されている。

 神機使い三人と三つの神機、更に回収素材。

 

「その点は…ヘリを増やしていただくことになります」

「あっ、そっかあ…」

「まあ他の班やGEから顰蹙は買われるかもしれませんが…」

「技術部とか壁の中のやつらは感謝するでしょ。どこにでにもいい顔は出来ないし、さすがに気にしなくていいよ」

 

 カリンがひらひらと手を振る。

 三人は悠長にどこで話しているのか。

 茂みの中だ。

 素材の確認時にカリンが一瞬だけ顔を向けるものの各自警戒を解かずにいた。

 オウガテイルに頭部食われたらリンクエイドのしようがない。

 

「…喋り過ぎたな」

 

 カリンはI地点高台付近を見ていた。

 視線の先に、小型のアラガミが浮遊していた。

 

「ザイゴートだな」

 

 ザイゴートは目が良い。

 あの大きな目は伊達ではないのだ。

 おまけに敵発見と共に咆哮し仲間を呼び寄せることができる。

 コンゴウもヤクシャもそうだが、特にザイゴートは一匹いたら最低三匹いるものだと考えた方が良い。

 

 近接だとザイゴートの視界に入る。

 

「俺の番か」

 

 ショウヘイはスナイパーを構える。

 ずんぐりとした外見に似合わない深い青蝶のような神機。

 

 マノン・レスコー 

 

 ショウヘイは即座に思考を巡らせていた。

 直感の如きスピードで脳裏に将棋のような道を作り上げていく。

 

 他のアラガミの侵入路は獣道、合流地点はJ、I…

 一番”ザイゴートの死体”が見つかりにくくなる場所は…

 

 発射。

 

 吹雪レーザーがヒット。

 氷属性に威力が偏ったスナイパーで威力の高い氷のレーザー。

 ザイゴートは地に伏せた。

 

 わずかな静寂。

 発砲したにもかかわらず、どこかにいるであろう同種たちは気付くそぶりすらない。

 

「コアの摘出は?」

「しない。さっさと帰るゾ」

「静かにな」

 

 ジェイクの問いにショウヘイは答えながら身を低くしてA地点へと進んでいく。

 ザイゴートを狙撃したのはあくまでも乱戦を避けるためであり、アラガミがこちらを発見する時間を遅延させるためだ。

 

 三人は消音、空気など交戦回数を減らすような装備を付けている。

 だからこそここまでの動きでアラガミに発見されなかった。

 もちろん警戒は続けているが。

 

 M地点からQ地点へ移動するにあたって注意することがある。

 遮蔽物が極端に少ないということだ。

 

 泳ぐことは推奨されていない。

 神機は水中戦を想定してないため故障する可能性がある。

 また、グボロ・グボロなどのアラガミが潜伏している可能性も捨てきれない。

 汚水なのでやめた方が良いということもあるし、ジェイクのように水泳経験のない者が着衣で泳ぐのは推奨できない。

 ゆえに、カリンが聴覚視覚嗅覚からレーダー役をこなしてアラガミがこちらに顔を向けないタイミングで走る必要がある。

 この時代にはステルスフィールドはないので、細心の注意を払う必要があった。

 

 三人は神経を使いながら根気よくタイミングを計ってMからO、OからQ、QからAへと移動する。

 帰還ポイントへ到着するとヘリが複数着陸する。

 

 

 ※

 

 

 帰還すると三人はリュックから回収物資を提出し、保管していく。

 強化合成の申請の欄とはまた別で、フェンリルの窓口に回収物資の寄贈申請をする。

 寄贈先は復興作業事業部、アラガミ装甲作成に携わる所全般だ。

 

 ガクの顔と行列、ススムの表情がジェイクの脳裏に浮かんでいく。

 討伐任務と異なりあまり高額の任務とは言えない。

 換金素材も出ないとなると、かなり先輩二人に負担をかけたことになる。

 

「今日は…ありがとうございました」

 

 包帯から覗くアイスブルーの目。

 ショウヘイとカリンは顔を見合わせる。

 

「いいってことよ。仲間だぜ~」

「これからも俺たちを頼ってほしいゾ」

 

「これからもよろしくお願いします」

 

「おっ、ジェイクが笑った」

「少し筋肉が動くようになったんだなあ。良かったなあ」

 

「これで、少しは…」

 

 あの人たちの役に立てばいいなと、ジェイクは思った。

 

 

 

『第八ハイヴ襲撃事件から×か月、復興作業は進んでいるようです』

『なかでも、GEの寄贈があり…』

 

 食堂のテレビ放送を聞く三人。

 ジェイクはこの場にいない。

 既に先に帰っている。

 カリンとショウヘイの他にもう一人いた。

 

 黒い髪をオールバックにした威圧感のある男。

 黒い制服に鋭い赤目。

 長く高い鼻と彫りの深い顔立ちが、カリンやショウヘイと異なる。

 

 

「そうか、お前達が寄贈したのか」

「はぎははふいふぉふぉふぇふぉ(何か不味い事でも?)」

 

 カリンはコーンを頬張る。

 グレンが表情一つ変えずにカリンの脛を蹴りつつフォークを動かす。

 口にモノを入れながら話すとぶっ飛ばすぞ。

 

「いいや。陰謀論好きは難癖をつけるだろうが、結果的にGEを見る眼はマシになるだろう」

「ま~第一部隊のティーンが炊き出ししてますからねえ。イメージアップですよ」

 

 いたたた…とカリンは膝を摩りながら答える。 

 ショウヘイは我関せずといった様子で、丁寧に食べている。

 

「オオバ先生元気にしてるかな~」

「寂しそうだし、差し入れでもするゾ」

「いいねえ先輩」

 

 

 

 

 夢を見る。

 大きな青い月の下。

 叫び声、暴走する大きな何か。

 オレンジ色の容器が並ぶ場所。

 

 血の臭いと絶叫。

 目の前には。

 

「あ、あ…」

 

 覚醒。

 背中は汗ばんでシャツが張り付いている。

 ジェイクはベッドから抜け出して制服を羽織り、ラボラトリ区画へ向かう。

 

 包帯を替えてもらうべく、オオバ先生のところへ向かう。

 オオバ先生の担当室には夕顔の押し花が飾られている。

 

「こんばんは、すみません。寝汗が酷くて顔が…」

「それは、大変だったな。まずお茶でも飲むかい?」

「お言葉に甘えて」

 

 コーヒーのような嗜好品は高級品に該当し、新兵などではとても買えない。

 そしてあまり味の方は期待してはいけない。

 コップに入ったお茶はジェイクの冷えた背中を内側から温めた。

 

「落ち着いたかい」

「はい。少し」

 

 オオバ博士はいかんせん、話すのが苦手と言った様子ではある。

 しかし、なぜだかジェイクにとっては話しやすい相手ではあった。

 任務の話、出撃前にショウヘイと将棋を指したことなどを伝えた。

 

「きっと、作業員の人やフェンリルの人たちも喜ぶよ」

 

 真剣な目で聞いてくれる。

 少しだけ安心できる。

 というのも、ジェイクが昏睡から目覚めて最初に見た人物だからでもあるだろう。

 記憶の無いジェイク自身の悩み事を聞いたりなど、きっと親がいたら…親…

 

 ジェイクは脳のどこかが痛い気がした。

 

「じゃあ、暗示をかけるよ。眼を閉じて」

 

 オオバはジェイクの精神的なショックを考慮して入眠と包帯の取り換えを担当している主治医だ。

 力を入れて抜くを繰り返す。

 そうしてオオバの声の通りに連想を続けていく。

 

 ぼくのい し き が

 

 

「ごめんね」

 

 

 

 どこか暗い部屋。

 偵察班の副隊長と隊長がいた。

 

 

「順調?」

 

 青い目の女の声。

 

「ええ。あいつは仲間を信じています。外部居住区の連中にも負い目を持っています」

「それが戦う動機にもなっているようです」

「いいわね。オオバもそろそろ限界そうね」

「消しますか」

「やだあやめてよね。内ゲバ要因増やしてどうするのよ。アーク計画やシュウからも学んでるでしょ?」

 

「エイジスの費用は痛いですね」

「そうよおだから私も最近は討伐メインで嫌になるわ」

「今後もぜひお願いしますね」

「人使い荒いわねえ」

「隊長に言われたくは無いですね」

「エイジスでテロ起こそうとした奴は西の方から来ているそうです」

「へー。葦原那智の手先よねえ。エイジスの素材ちょろまかした分際で総統ですってね?」

「はい。ネモス・ディアナについては鋭意調査中です。やつには子供がいますが…」

「うまく接触できればいいわね。本部の連中にもつながるでしょうし」

 

「エイジス二回侵入されるとかあーやだやだ」

「三回では?」

「やあねえ、弟さんが支部長だったからいいのよ」

「あの連中から受けた分、骨の髄まで使うつもりですか」

「そうよ」

 

 

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