淫夢要素はありません。
時系列は雀の鉄砲3から4の間。
ジェイクが任務を終えて、食堂に寄った帰り。
カリンが廊下を歩いていた。
黒髪黒目。
ボルドーの偵察上衣下衣。
人懐っこい中性的な顔と筋肉質な身体だが、女だ。
カリンは手をゆらゆらと上げて、声をかける。
動物のように黒目が大きく、眼球はジェイクの包帯男顔を反射している。
「ようジェイク!」
「先輩、何かいいことでもあったんですか?」
「映画見てた。サイコはいいねえ」
先輩は空き時間に映画を見るか歓楽区画に繰り出す日々を送っている。
GEは出ずっぱりもいいところなので招集はすぐにかかるし、即向かわなければならない。
遅刻したら副隊長に殺されると言いながら外をうろつくのを止めない。
「ああ、合間合間に見ていた…」
ジェイクは、時間は作るものだから(至言)などとカリンが嘯きながら、副隊長にスタンディング・アームロックからのスープレックスを極められていたことを思い出す。
「そう。今度貸してやるよ」
「映画一本ぶっ通しで視聴できる時間がとれたらいいんですけどね…」
新人であるジェイクはいち早く仕事を覚えるために比較的難易度の低い任務に駆り出される。
運が悪いと接触禁忌種に遭遇することもあるが、戦力が向上したため、殉職率が格段に下がったらしい。
「ま、遊ぶ時間を増やすためにもバリバリやろうぜ!」
「そういうのでもいいんですか?」
「何言ってんだよお前、戦う理由なんて人それぞれだし、働くのだってそうだろ?」
「それはそうですが…」
カリンはジェイクの瞳を見つめ、肩を組む。
黒目は好奇心に輝いていた。
「あれか?ジェイクは高いモチベーションのもと何かしてるのか?お前時事ネタも返せるし、身体絞ってるもんなあ」
「ニュースは見るようにしています。関連の論文もできるだけ。訓練は欠かさずしていますよ」
「えらいねえ~。論文ってことは図書館にもよく行く?」
「はい」
「あそこの本棚って高いよなあ。安全管理とは一体」
「博士も脚立によく座っていますね」
「博士も年なんだからあぶねえのになあ…」
カリンは一瞬だけ肩をすくめて、眉をハの字に下げて顔を萎める。
身振り手振りが多く、表情が豊かだ。
「最近は論文以外にも何か読んでんの?」
「ええ、金融と法律を少々…」
「もしかしてお前子どもを行列に入れたこと後悔してんの?」
なぜか、知っていた。
だけど、この時ジェイクは気にしなかった。
悩んでいる時にうっすら話していた気がしたから。
「…ないことは無いと思います。ただ少しでも関わった以上、何かしておきたいなと」
カリンの瞳がジェイクの瞳孔を追いかける。
思い悩むが故に視線を外した後輩の瞳孔を。
カリンがにやりと笑う。
「へえ、勉強熱心な後輩に恵まれて助かるわ。この調子で仕事覚えて後輩たちに指導してくれよなー頼むよー」
※
ジェイクはショウヘイの部屋の前に立っていた。
ノックする。
「どうぞ」
間延びした男の声がする。
ショウヘイだ。
ドアが開く。
「失礼します。隊長がお呼びです」
「ん?ああ了解」
「…その写真は?」
「妹だな。かわいいゾ~。小学生なんだ。この写真より伸びてるかもなあ」
「そうなんですか。可愛らしい子ですね」
写真の中には今より少しだけ髪の短いショウヘイと小さな女の子が映っていた。
年の離れた兄妹。確か育ちが良いらしい。
とはいっても、2050年の暮らしより辛いものが多くちょうど混乱期に産まれたこともあって幼稚園に通う暇も無かったようだ。
いつの間にかカリンが部屋に入っていた。
「おっロリコンか?」
「あなたと違って(違います)」
「逆だ逆」
彼の戦う理由に、妹も入っているのだろうか。
「さ、待たせたようだしさっさと行くゾ」
ジェイクはソファから立ち上がって、二人はそれに追従する形でエントランスへ向かった。
「遅い」
「ショウヘイ、お前は減給だ」
笑顔のグレンが座っていた。
ジェイクは、自分の顔を見ていないがきっと青くなっていると考えていた。