雀の鉄砲   作:もがお*りが

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『本部の極秘ファイルを調べたら興味深いことがわかったよ』

『アラガミはあらゆる物質を捕食するオラクル細胞の集合体ってことは知ってるね?』

『彼らは”偏食場”で食事の傾向を決めている』

『なんじゃそら』―――藤木コウタ

『オラクル細胞内の偏食因子が発する特別な信号のことだよ。アラガミは常に偏食場を発しているんだが……』

『人でありながらその偏食場に強い交感能力を持つ者がいる』

―――GODEATER -the spiral fate-2巻より、ペイラー・榊―――

 

 

 

 

 

 目が覚めると、僕の顔は包帯で覆われていた。

 オオバ先生に巻き直してもらったからだ。

 入眠用の暗示も聞いていたのか、頭がすっきりしていた。

 

 楢島シュウとの任務。

 討伐班から防衛班へ移籍した旧型のバスター使い。

 

 握手を拒む。

 

「すみません。握手が苦手で」

「気にするな。…頭が痛いのか?医務室は?」

 

 シュウはジェイクに対して、シュウ自身が肌を見せるのを嫌であるように『何らかの事情で』握手ができない人なのだと思った。

 感応現象の可能性は薄い。

 自分は旧型であり、新型同士の現象である感応現象は起こらないからだ。

 感応現象のメカニズムとしては『微量ながらオラクル細胞は新型の脳に入り込み一部の神経細胞と結合して共存していることが確認された。つまり彼らにも偏食場がある』『偏食場が干渉し合い互いの脳波が繋がってしまう…それが新型の持つ感応能力の正体だったんだ』榊博士は解説していた。

 

 カンナとアリサの報告から感情の伝播、過去の映像記憶などがそれにあたるのではないかとシュウは推測していた。

 

 であれば、何か精神的な事情で握れないという方が妥当であるというのがシュウが一瞬で出した結論だ。

 

 あの時。コウタ、アリサ、ソーマと装甲車に乗ったあの時。

 ジェイクのアイスブルーの瞳はあいつらと酷似している。

 

 ジェイクは痛みで片目を半分閉じたまま

 

「すぐ治まります。握手をしようとするとこうなるんです」

「そうか…リンクエイドの時も気を付けるよ」

「ありがとうございます」

 

 ジェイクにとって、少し意外な気がした。

 バスター使いの多くは(新型をのぞく)口数が少なく、気難しかったりする印象が強く打ち解けにくい雰囲気を醸し出していた。

 シュウはわりと喋る方で、露骨に気をまわそうとする。

 といっても今まで接触したことのあるバスター使いは蘇芳とソーマとブレンダンだけだ。

 あの三人も他人に気を配るが職人気質が多い。

 さりげない気づかいをするのが彼らなら、心配性が表立つのがシュウなのだろう。

 ソーマに至っては贖罪の街で受けた強い睨みが印象的だった。

 あの深い青の目は見たことがある。あの目つきも。

 そんな気がするのだ。

 

 かくして二人は任務へ向かうことになった。

 

 

 シュウはアーク計画を阻止してから、偵察班のメンバーと関わるようにしていた。

 それは、別の班や部隊として彼らに関わる者が少しでもいれば、極端な行動を抑制できるのではないか。

 マサノブのような使い捨て人員が生じることを防げるのではないかと考えているからだ。

 

 グレンには鬱陶しがられはしたものの、カリンたちとも任務に向かうようになった。

 

 

 ジェイクはどうも、彼らのもう一つの面を知らないように見える。

 諜報訓練も受けていないようだ。

 言うべきかどうか、分からないでいた。

 どういう教育方針なのかが分からない。第一部隊の面々に聞いた上で、グレンに聞いておこう。

 

 

 

 シュウたちは愚者の空母に来ていた。

 今回は討伐任務で、グボロ・グボロ堕天種(青)とシユウの堕天種が相手だ。

 火属性の装備を携行すべきである。

 

 C地点には討伐対象が二体。

 ジェイクは遠くから眺めつつシュウの方へ向いた。

 黒い髪、赤みのある肌、赤い目。

 

「シュウさん、グボロ・グボロの方任せてもいいですか」

「了解だ。攻撃ごとに離脱。ガード優先、無理にステップで避けなくていい!」

「了解しました」

 

 グボロ・グボロ堕天種の砲塔は破砕に弱いはずだ。だからバスター使いのシュウに任せた方が早い。

 自分はあいにくショートとアサルトなので、小回りが利く方を相手取ればよい。

 

 シユウの堕天種は同じ雷なので相性が悪いが…どちらにせよ自分は両方のアラガミを討伐するのに時間がかかる。

 であれば、シュウにとっても討伐効率の良いグボロ・グボロ堕天種を任せた方がはやい。

 

 シユウ堕天種はかかってこいとばかりにジェイクに向かって手を招く。

 

 ジェイクはシユウ堕天種に接近し、頭部目がけて飛び上がる。

 シユウ堕天種はバックステップと同時に両手から衝撃波を生じさせる。

 しかし、既にジャンプしているジェイクには届かない。

 シユウ堕天種の両手は空を切った。

 同時に、ジェイクの虎爪の切っ先がシユウ堕天種の顔面に突き刺さる。

 クリティカルヒットを打ち出すが、所詮は属性被り。

 大した威力は出ない。

 

 シユウ堕天種が右腕をぐったりと垂らす。

 ジェイクは予兆を感じてステップで下がると、シユウ堕天種は両翼を回転させた。

 同時に背後めがけて氷塊を3発連続発射させようとする。

 

 陽動のつもりだったのだろう。

 

 ジェイクは予めシールドを展開してガードをしようとする。

 だが、シールドに伝わるであろう衝撃は来なかった。

 

「お前の相手は、俺だ」

 

 グボロ・グボロ堕天種の砲塔が破壊された。

 シュウが発射間際に砲塔をチャージクラッシュしたからだ。

 砕いたのと同時に、グボロ・グボロ堕天種は怯みで発射を中止した。

 

 グボロ・グボロ堕天種が大口を開けて吼える。

 活性化した。

 ヒレ攻撃からの氷塊ばら撒きが発生する。 

 

 シュウはガードしつつ、CからB地点へ下がっていく。

 分断誘導をしかけているのだ。

 ジェイクへのヘイトを下げるため。

 いち早く目の前の敵を倒し、ジェイクと合流するために。

 スタングレネードを投げるべきなのだろう。

 しかし、グボロ・グボロ堕天種はいつもよりヒレ攻撃が速かった。

 

 異常個体なのかもしれない。

 

 

 

 一方、ジェイクはシュウの援護を一瞥後、即座にシユウ堕天種を相手取る。

 効果のない下半身や翼を狙うよりも、頭部や掌を狙った方が、ダメージが通りやすい。

 そうなっていくと位置取りが重要になり、攻撃がやや単調になってしまう。

 しかし、ジェイクは身軽な動きでシユウ堕天種を翻弄していく。

 シユウ堕天種を疲弊させるためだ。

 

 ジェイクはショートブレードを巧みに操り、両翼合わせのタイミングで片腕を切り払いながら前方へ進む。

 両翼を合わせる力に合わせて虎爪を振るうから威力が増す。

 さながらバターの様に刀身のオラクル細胞が齧り取る。

 

 だが

 

 既存の兵器武器の攻撃を受け付けないシユウ堕天種は

 『格闘』を模すことで進化したシユウ堕天種は

 そんなことなんぞで倒せる甘い相手ではないのだ。

 

 そんなことで倒せるなら連合軍は2065年に瓦解していないのだ。

 連合軍は軍人の集まり。

 つまり格闘、ナイフ、銃、その他兵器の扱い、連携共に適合試験を受ける前の人間なんぞより優れている。

 子どもの頃から格闘に打ち込んだものだっているのだ。

 純粋に練度が違う。

 

 ジェイクは調子に乗って剣でアラガミの攻撃を受け流そうとするのではなく、ガードするかステップで避けるべきだった。

 

 何が起きたのか。

 

 ジェイクは片手の衝撃波ではなく、ただぶつかる時の衝撃波で体勢を崩した。 

 ジェイクは火属性か物理特化の神機パーツを選ぶべきだった。

 翻弄するならばガードやステップを落とし込んだ動きをするべきだった。

 

 シユウ堕天種はホールド耐性が高くジェイクのホールド付与タイプの神機とは悉く相性が悪い。

 

 シユウ種自体がある種の登竜門であるのは遠近の攻撃が得意というだけでなく、攻撃の妙を理解した動きをするからだ。

 当然、シユウ堕天種は体制を崩した相手へ踏み込み、片手で薙ぎ払おうとする。

 もし当たれば、受け身を取ると同時に四連続の爆雷玉を叩きこむつもりだろう。

 

 だが、シユウ堕天種は念頭に入れるべきことを意識していなかった。

 

「せいあっ!」

 

 ステップからのバスターで、己の手を崩壊させる相手がいることを。

 シユウ堕天種が力を溜める動作をしたまま、呻く。

 

 シュウの存在を忘れてはならなかった。

 

 シュウはグボロ・グボロ堕天種を下していた。

 ジェイクが粘る意味はあったのだ。

 

『シユウ種は一定の攻撃の後、両手を地面につけて広範囲にわたる衝撃波を発する』

 

 ジェイクはそれを狙っていた。

 アサルトで撃つわけにもいかない。それは衝撃波攻撃で硬直した際にとっておく。

 それを実現する要因がたどり着くまで、スタン耐性用の強化パーツを付けていないジェイクでは一撃たりとも喰らうわけにはいかない。

 

 そしてタイミングよく、シユウ種は両腕を地面にたたきつけた。

 シュウはガード。

 ジェイクは下がったまま、神機を銃形態に変形させて火属性の弾を撃つ。

 

 シユウ堕天種の下半身に着弾し、爆発を起こす。

 モルターを真っすぐ進むようにエディットしたものだ。

 

 ジェイクは先ほどのお返しだと言わんばかりに編集済みのモルターを撃ち続ける。

 シュウはコンボ捕食からのチャージクラッシュを掌目がけて放つ。

 ジェイクは消費したOPを確認すると即座に剣形態へ切り替えてコンボ捕食からの変形。

 シュウにアラガミバレットを受け渡す。

 シュウは神機連結解放Lv2に上がるとそのままチャージクラッシュの体勢に移行する。

 

 チャージクラッシュ二発目を叩きこむことは易々と出来ない。

 しかしシュウは独りでは無かった。

 

 ジェイクがいる。

 

 ジェイクは起き上がる瞬間を狙ってスタングレネードを投げる。

 シユウ堕天種の視界は白い闇に包まれた。

 

 シユウ堕天種は、自分の最後を認識することなく、掌と脳天を同時に叩き割られた。

 

 

 

 シュウは赤いアメノムラクモで息絶えたアラガミのコアを抜き取った。

 捕喰形態は餓狼ごとき唸り声を鳴らし、刀身へ引っ込んでいく。

 この包帯を巻いた青年の読みは当たっていた。

 彼は、やけに指示出しに慣れている気がする。

 

「お疲れ。アイテムとか信号弾、指示も速いな」

「恐れ入ります」

「手際もいいし、道をよく知ってる。ここは一度来たか?」

「いえ。マップを見ていました。一本道ですし、副隊長からも段差に気を付けろと」

「グレンは面倒見がいいんだなあ」

 

 その口ぶりは、友人とは違う近さを感じた。

 

「あの…もしかして副隊長と」

「うん、グレンは俺の弟だ。事情があって、今年再会したばかりなんだ」

 

 やたら事情を話すなこの人……。

 

「いつから会えなくなったんですか?」

「あいつが二歳、俺が四歳だな」

 

 彼にとっては副隊長はまだ幼く感じるのだろうか。

 目の前の男より老け込んだ顔だというのに。

 

 

「あの島は……」

「エイジス島だ。もう少しすれば、ジェイクも行くかもしれないな」

 

 エイジス島。

 アーク計画、オオグルマによるアラガミテロ、夏のテロ、新世界統一計画。

 あの島はそれらに深く関わっていた。

 シュウ自身他者へ拳を振るう行為をしてしまった。

 マサノブは全く痛がらなかった。グレンはただ嬉しそうだった。

 だとしても、二人の感じた痛みはあるだろう。

 殴るよりも殴られる方が痛いはずだ。

 

 ジェイクはシュウの目を見て、あまりいい場所ではないのかもしれないと薄々感じ取っていた。

 シュウの目はあまりにも辛そうだった。

 

「…そうですか。まだ、あの場所の案内を受けていなくて」

「そうか…。あそこは特殊で、あの中央だけにアラガミが襲撃をかけるんだ」

「接触禁忌種が良く向かうから、もう少し強くなったら向かうかもしれないな」

 

 ジェイクがシュウの目から何かを感じたように、説明を聞きながらエイジスを見たジェイクからシュウは感じ取るものがあった。

 

 ジェイクの顔が強張っていたからだ。

 

「ジェイク、俺はあそこで辛い思いをしてきた。きっと相手にもさせてきた」

「誰かに話して晴れないとしても、少しでも良くなるように行動を積み重ねていくことが、俺たちの出来ることだと信じてる」

 

 その言葉に、ジェイクは一瞬アイスブルーの目を小さくした。

 

「奇遇ですね。僕も今は、そうしています」

 

 図書館で得た知識。フェンリル職員から聞いて得た知識。

 戦うことが自分のできることだとして、少しでもあの少年が安心して暮らせるように。

 戦うことは暴力だけに限らないことも分かっていた。

 

 副隊長との食事に参加しなかったあの時、ガクが物乞いをしていることを突き止めた。

 

 少しだけ気が和らいだ。

 相手が得体の知れない人じゃなくなったから。

 

 僕はきっと誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

「本部は統一意識の命令といいロクなものを作らないわねえ」

 

 ミノルは砕けたヘッドギアを眺める。

 もう本部へ通信することすらできないものだ。

 

「おれたちも大して変わりませんよ」

 

 極東狼谷学園が検査薬と偽って秘密裏に開発したワイルドカード。

 ドイツ支部に根を張った企業グランデュールからリベレイターシステムの盗用。

 それらから作成されたウェンカムイシステム。

 そのシステムにより、大きな代償を払うことになった蘇芳マサノブ。

 

 改良型の計画も進みつつある。

 

 

 

 

「そうだったの」

 

 エレベーターの中、カンナはシュウと話していた。

 内容は勿論、任務の事だ。

 

「にしたって変よ」

「負傷したと、ジェイクは言ってたけど極東でジェイクってやつが怪我をしたとは聞いていないな」

「それにオオバ先生とやらも怪しいわよ。ミノルは何企んでるのかしら」

 

「このことは第一部隊でも話すわ」

「防衛班の人たちから聞いたが、ジェイクを同行させた日にアラガミが妙な動きをしたことも気になる」

「ジェイクが知らないだけで何かに関与させられているのかも」

「シュウ。一人で調べようとしないで。あたしたちと行きましょう」

「もちろんだ」

「それから、できればジェイクの事は気にかけておきたいの」

「当たり前だろ仲間なんだから」

「出来れば…相談相手を増やしておきたいの」

「そういうことか。分かった」

「じゃあ、あたしはルミコ先生見舞いね」

 

 カンナはシュウと話した後ラボラトリ区画へ降りた。

 ジェイクとすれ違う。

 

「ねえ」

 

 カンナは正面から声をかけた。

 

「あんたがジェイク?」

「ええ。あなたは確か第一部隊の」

「柊カンナよ。よろしく。握手はダメなのよね?」

「痛み入ります」

「気にしないで。…シュウと友達になってくれてありがとう」

「いえ。感謝されることじゃないです」

「素直でよろしい。じゃあこれ渡しておくわ。ミノルに届けておいて」

「了解。その花は、お見舞いですか?」

「ええ。ルミコ先生のね。アーサソールの連中にやられたの」

「アーサソールの…」

「本人は復帰したいって言ってたわ。あの人は怪我するべき人じゃ、無かったのにね」

「いけない、長話ごめん。じゃ、また明日」

 

 ジェイクはカンナの手を見ていた。

 花束を握りしめそうになって、やめた動き。

 悔しい。

 そんな気持ちが籠っていた。

 

 ジェイクに記憶は無い。

 だけど、意識を取り戻してからの生活は驚きの連続だった。

 学ぶことも多かった。

 誰かの悔しさを感じ取るには十分なほどに。

 

 夢、新型部隊。

 

 ジェイクはこれをオオバ先生にも隊長にも相談するか迷っていた。

 

 

 

 

 




時系列解説

鉄塔の森から帰投→エントランス→回収素材寄贈申請→物乞いの噂訊く→飯ダッシュ→孤児院張り込み&孤児を追跡

前話の幕間①はシュウとの任務の日の朝飯あたりです。
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