ガクは孤児院にいた。
毎日が我慢の連続で、2歳になるであろう彼にはあまりにも辛く…両親が恋しかった。
外部居住区ではオーソドックスな、廃材で作られた家が恋しかった。
雑魚寝をするとしても目がさめたら母がいて父がいて…。
それが当たり前の日々だった。
「うっ…」
今はそんなものは無かった。
冷たい空気が肺を何度も切りつけて、痛覚の鈍くなった足先が立ち上がるのに時間を要する。
床で眠る孤児たちの中。
風呂もあまり入れず体は痒くて仕方がなかった。
お母さんの手を引かれて湯船に入って、お父さんがタオルをくるんでクラゲをつくるのが面白かったことを何度も思い出す。
早く起きる。
ここの子どもの目に生気は宿っていない。
アラガミに家族を奪われ、学校に行くことも出来ず、冷たい床をひび割れた足で歩く。
孤児院は二歳のガクにも労働を強いる。
洗濯かごを運び、薄汚い服を纏って物乞いをしろと命じられ。
フェンリルの職員や資源回収業者、神機使いに冷たい目で見られる。
配給を受けとる外部居住区の人にさえも。
とても惨めで辛かった。
恥ずかしかった。
自分達は何も悪い事なんてしていないのに、どうしてそんな目で見られないといけないのだろう。
どうしてこんなことをしないといけないんだろう。
物乞いで一つも手に入れなかった子どもはぶたれていた。
馬鹿なのだろう。
孤児院の職員が。
この時代に物乞いなんて、成功するわけがない。
物資に余裕のない時代、誰も他人に配れるほどの物資も金も持ち合わせていない。
よっぽどの箱入り娘か頭の足りない馬鹿以外は。
ガクは時折、赤い帽子の少女や紺色のフードの男がいる炊き出しで食べ物を受け取って飢えを凌いだ。
そうしないと死んでしまうから。
お母さんたちはどうして死んだの。
理由は分かっていても、叫びたくなる気持ちを抑えた。
赤い腕輪の人に言いたくなっても。
同年代と遊んだ記憶なんて殆どなく。
どこへとも馴染むこともできず。
ただただ。
寂しかった。
ツナギを着た男の言い分は嘘だった。
両親はとっくに死んでいて、きっと瓦礫の下で自分を守ってくれた時から死んでいたのだろう。
それか、担架で運ばれた時に。
包帯を巻いた男はいたたまれない様子だった。
寂しさも辛さもいつの間にか腹や肺、脊髄をめぐる怒りに変わりつつある。
壁を壊したアラガミ。
手を引いた包帯の男。
自分達を苦しめる職員。
己も飢えているにもかかわらず、蔑む人達。
どうしてこんなところに、連れてきたの。
どうして。
字数が不足していたので大幅に加筆しました。