雀の鉄砲   作:もがお*りが

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捏造あり
スパイラルフェイトのネタバレ付き


5

『西地区の復興作業後、壁の改修は順調に進んでおり——』

 

 エントランスの液晶から、女性アナウンサーの声が流れる。

 

 

 人懐っこい黒い瞳と黒く短い髪が揺れる。

 矢村カリンはエントランスにいた。

 討伐任務でレア素材をあてたし、換金素材を拾った上に報酬にも乗った。

 

 自慢しちゃお。

 

 カリンは白い制服の男を見つける。

 ジェイクだ。

 

「おー勉強は捗ってるか?」

「はい。おかげさまで」

 

 ジェイクの話を聞いたカリンは嬉しそうに笑って

 

「そうかそうか」

 

 このところ増加していた浮浪児の数が減った。

 孤児院に寄付がされ、窓から覗いた孤児院の経営者は少し青い顔をしていた。

 

 あの日、僕は初めてオオバ先生に夢の事について相談しなかった。

 バイザーとヘッドギア、まったく同じ制服を纏った部隊は統率の取れた動きをしていた。

 

 まるでそこには一つの意思しか無いように。

 

 代わりに、僕は追いかけられる夢を見たと話した。

 そして今日あったことを脚色して話した。詳しすぎると怪しまれる。

 分からないが、隊長に苦手意識を持っていることと、夢とオオバ先生のあの言葉は関係があるのではないかと思っている。

 

 崩しに行くにはオオバ先生からか。

 ジェイクは脳裏に夢の内容の続きを思い出していた。

 あまりにも鮮明で、しかしどこかがぼやけていた。

 

 

 父は教師だった。

 母は壁の外から来た。

 アラガミが出現する数年前に、母の母国は滅んだらしく、放浪していたのだという。

 

 二人は僕に優しく、そして厳しかった。 

 

『人生は競争だ。常に適合していくことで、ようやく【レール】に乗れる……!』

『だが、今の時代その【レール】は断たれている。運がいいことに、■■■■。お前は教師の子になれた』

『考えろ。自分で考え、決断しろ。考えを委ねるな……僕にも、母さんにも、お前が将来勤める先の上司にも委ねるな……!』

 

『辛くなったら帰ってきてもいいのよ。……と言いたいところだけど、内部が壊滅しないなんてことないわ。だってそうして私の住んでいた国は滅んだのだから。一人でも生きていけるように、多くの事を学んで利用しなさい』

『考えるためにも、知識は無いとね。本は読んだ方が良いわ。人と話すこともね。知識と経験がお前に生きる術を与えるのよ』

 

 眠る前に母が僕に教えてくれた。

 料理の仕方は母から見て覚えた。

 きちんと口頭、図で教えてくれることもあったが僕はまず物事に関心を持つように心掛けていて、見て、試して、やり方を変えていった。

 

 父はよく僕に本をくれた。子どもが好んで読む物語、漫画、小説、図鑑。

 年齢に合わせた難易度から学術書まで。

 

 父の知り合いが博士同士の付き合いで入手した本の中に一冊。

 興味を惹かれたものがあった。

 

『わあ…!』

 

 アラガミ進化論。

 強制進化。

 夢中になって読んだ。

 表紙の持ち手が擦り切れるまで。

 

 アラガミの発生、地域分布。

 これが分かれば避難時に使えるのではないかと。

 母にその事を話すと穏やかに頷いた。

 

『お前が学者になるか、そういう人を支援する人になればできるわね』

 

 だったらきっと僕はそこへ行きたいんだ。

 

『父さんは仕事の都合でフィンランドに行くことになった』

『僕もついて行きたい』

『そうか…お前に一つ言っておきたいことがある。■■■■は適合候補者になっている』

 

 うまくいけば、そこで試験を受けられるかもしれない。

 

『君が■■■■・■ー■■■か』

 

 適合試験後、あの著者と会うことができるとは。

 

『■■■■■博士ですね。お会いできて光栄です』

 

 

 

 

 アラガミ進化論という本を手に入れなければならない。

 僕の正体を知るためにも。

 少なくとも、あれが、僕の正体に関係するんだ。

 アナグラの図書館は50年以上前の資料で見る図書館で言えば、大学図書館のようなものだ。

 成人男性の何倍も高く広い本棚。

 暗い道筋に一段とばしで本棚に照明を付けている。

 棚同士の距離も開けている。 

 

 僕は、装飾が施された大きな窓の近くで榊博士と出会った。

 灰色の髪にインバネスコート、その下からカラフルな暖色カラーの着物と袴をきた大正明治じみた壮年。

 首には二種類ほどの眼鏡がかけられている。用途によって使い分けているのだろう。

 手には大量の本が乗っていた。

 

「以前はカンナくんが手伝ってくれてね。ようやく返しきることがと思ったんだ」

「第一部隊の隊長が?」

 

 人使いが荒いのだな。この人。

 

「そうだ。君も手伝ってくれると」

「いえ、僕はやることがあるので」

 

 糸目なのにどこか狐目のような印象が見受けられた。

 

「君はエイジスの偵察に向かったことはあるかい?」

「いえ」

 

 ふと、榊博士が僕に本を一冊渡した。

 エイジスについて。表紙からするに真新しい。

 

 昨日の場所。

 愚者の空母でシュウさんと見ていた。

 エイジス計画がとん挫したとは聞いている。

 

「君は好奇心旺盛な方かな?」

 

 胡散臭い笑顔。

 僕は何かに巻き込まれていると確信した。

 

 

 榊博士から貰った本を抱えながら、ジェイクは本を探す。

 確か本はもう少し窓より遠いところにあったはずだ。

 

 アラガミ進化論を見つけた。

 記憶と異なり、日本語訳だ。土反田ショータローという訳者名が記載されている。

 その横には大きく文字が刻まれていた。

 

 

 ガーランド・シックザール

 

 

「何をしている」

 

 瞬時に、ジェイクが振り返る。

 本棚の横にグレンが立っていた。

 ため息を一つ。

 

「驚きました」

「そうか。で、何をしている」

 

 暗がりでも分かる赤い目だけが浮かんでいる。

 ジェイクはなるべく動揺しないようにしていた。

 副隊長に勘付かれないように。

 

「偵察班として、アラガミの生態を調べようと思いまして」

「熱心だな」

 

 釈然としないようにグレンは答えていた。

 余計なことは探るなと言わんばかりに。

 ジェイクの心臓は早鐘を打ちそうだったのに、あまりにも落ち着いていた。

 

 

 今日はカンナとの共闘だ。

 贖罪の街、医務室付近などニアミスしてきた。

 

 オペレーターの近くのベンチに座っていると、足音が聞こえる。

 カンナだ。

 腰が定まっている。

 鳩尾から動かすように意識し、定着した足運び。

 疲れない足の動かし方を理解している。

 

 この人、拳法家だ。

 昔なら道場に通っているのだろうが、こんな時代になぜだろう。  

 

「改めまして、柊カンナよ。よろしく」

「ジェイク・ロペスです。昨日はどうも」

「ま、そんなに堅くならなくていいわよ」

 

 カンナは堅くなるな…堅苦しい話し方はいいと言ったものの、ジェイクの立ち居振る舞いを見ていた。

 こいつ、何が原因で「病院に行っていた」とミノルに言われているんだ?

 

 病院生活をすれば必然的に体力と筋力が衰える。

 ロシアに来るまでに日本語を習得するほどに直向きなアリサでさえ、復帰後はぎこちなかったのだ。

 動作に不備があった。自責の念に駆られていたことも踏まえて、攻撃を全くできなかったことだってあった。自身の無さが背筋に現われていた。

 

 ジェイクは、病院生活由来の『ぎこちない』動きが無い。

 聞けば、マサノブとの任務でボルグ・カムランに躊躇なく奇襲をしかけている。

 マグマの滾る高台から。

 

 アリサはジェイクに劣ってはいない。少し前だってヴァジュラを一人で倒してきた。

 骨が出るほど戦ってきた。

 

 ただ、病院生活自体嘘の情報だと、カンナは睨んでいる。

 こいつもおそらく、それを思い込まされている。

 暗示ができるのはオオグルマ先生だけじゃないだろう。

 あの暗示自体、カウンセリングで落ち着きを取り戻すためや、瞑想にも使える。

 また、悪用するやつが現れたということ。

 

 候補としては、偵察班のミノル、衛生兵としての知識を持つショウヘイ、そして医療従事者であるオオバ先生だ。ジェイクの担当医なのは聞いたら分かることだ。

 

 偵察班は何を隠している?

 オオバ先生はこいつに何をした?

 

 また、あいつらは潜ろうとしているのか?

 本部直轄になった、あのエイジス近辺に。

 

 

 

 出撃地点に二人はいる。

 鎮魂の廃寺。

 ここは、植生の失われつつある極東でも珍しく花などが咲いている珍しい場所だ。

 

「ブリーフィングを始めるわ。目的はゼウスを倒すこと。他の小型がいるってことだから、一匹だけに集中できない。そこで、最初にスタングレネードを投げたらすぐに散開。ここ、A地点まで走る。あたしが多く引き付けるから、ジェイクはまず小型を片付けてもらうわ」

 

 

「この前の贖罪の街に群れがいたでしょ。その招集されなかったやつってとこね」

「グレン達があいつを追いかけて、GEで追いかけてなんとか誘導したとこよ」

「接触禁忌種との戦闘は初めてだって聞いてるわ。だけど安心して、あんたの背中はあたしが守るわ」

 

「必ず生きて、帰りましょ」

「はい」

 

 雪降る鎮魂の廃寺とは対照的な朱色の神機を持った彼女。

 真っ赤なリボンと制服に身を包んだ彼女は、降下前にジェイクに顔を向けた。

 烈火のように気の強い茶色の瞳。

 

 口を真一文字に〆ていたカンナは、ここで口角を上げた。

 カンナはジェイクの目を見ていた。

 包帯でごまかせないほどに、見覚えがあるからだ。

 

「あとで、話を聞くわ」

 

 ジェイクとカンナはA地点へ降り立つ。

 

 カンナとジェイクは息をひそめて進んでいた。

 C地点側の階段を昇る前、石垣の陰へ隠れて覗く。

 小型が一匹。

 

 ザイゴート堕天種だ。

 紫色の大きな目。雷属性。

 

 ザイゴート堕天種は卵のような肉体で階段に合わせて浮遊しながら移動していく。

 

 一歩

 

 吹雪が音を吸収している。

 カリンなら吹雪の当たる音も聞き分けていただろう。

 だが、今ここにカリンがいない以上無茶をするわけにもいかない。

 

 二歩

 

 ザイゴートの影が石垣から真横に見える形で映る。

 足元は雪でべちゃべちゃと濡れていく。

 撥水性のあるブーツを履いているおかげで、濡れることもない。

 白い制服がカモフラージュに役立っている。

 

 三歩

 

 時折止まりながら進んでいくザイゴート。

 二人はいらだつことも先走ることもなく待ち構えている。

 B地点からの挟撃に警戒しながら、ジェイクはアサルトを、カンナはショートを持っていた。

 

 

 あと少しでザイゴートがこちらに近づく。

 やるわよと言わんばかりに、カンナは神機を握った。

 ジェイクはアサルトの火属性の弾丸でザイゴートを撃つ。

 カンナはそれに続いて尾の部分を上段下段の順で斬り、コンボ捕喰でバースト。

 

 ジェイクは神機を剣形態に変えて、チャージ捕喰でアラガミバレットを回収する。

 カンナはチャージ捕喰のタイミングでショートをブラストに変形させ、ジェイクがバーストLv1になったことを確認してリンクバーストさせる。

 

 ジェイクはアラガミバレットを一発受け渡す。

 チャージ捕喰をしたのはこまめにバースト時間を維持させるためだ。

 カンナはショートに戻して二段ジャンプからの刺突。

 

 ザイゴート堕天種は倒れた。

 

 

 二人は一言も会話をせず進んでいった。

 これから接触禁忌種を奇襲するのだ。

 アリサとの初任務の際も、リンドウさんとこうして足音に気を付けて歩いたし、蒼穹の月のダブルブッキング前の隠密行動もそうだったと、カンナは覚えている。

 

 この時代は通信技術もアラガミ捕捉技術も発達していない。

 だから自分や同行者が接敵したアラガミ以外はマップに映らないのだ。

 

 だからこそ発見には慎重になる。

 

 白い吹雪の中、赤い制服を見失うことは無かった。

 これはワザとなのだろう。

 

 吹雪が止んだ。

 

 本尊を囲む石垣を伝う。

 黝い景色に溶け込めない紫と黒を帯びた影が、横切る。

 

 いた。

 ゼウスだ。

 

 ジェイクはもう一発、受け渡し弾を発射する。

 カンナのリンクバーストLv3。

 カンナは即座にゼウスに接近し、ブラストからバレットを発射する。

 

 放射が前方の斜め上から連続三回、振り下ろされる。

 ロングブレードの墓石を参照したバレット。

 これを開発した人物の技術には脱帽するしかない。

 

 神属性の光を帯びた放射が、ゼウスのスカートを砕く。

 ゼウスは叫びながら身を捩り、鱗粉と光球をばら撒くと、遠方のジェイクを狙ってレーザーが発射されていく。

 ジェイクは飛び上がってレーザーを避け、ゼウスのスカートに乗ってジャンプ、頭部を横薙ぎする。

 カンナはブラストからショートに戻してジャンプでスカートの右端を切る。

 

 ゼウスは両腕を上げて回転しながら伸びる動作をする。

 地面から光の柱を発生させる。

 

 カンナとジェイクはガードでこれを受ける。

 ゼウスは体を一旦後ろに引いて左右へ蛇行させて突進する。

 

 カンナはちょこまかと動くことで、銃を使わせないように動いたゼウスにうっとおしさを感じる。

 もし、この状態でブラストを撃てば誤射しジェイクが吹っ飛ぶ。

 ゼウス迷わずジェイクを喰いに向かうだろう。

 

 カンナは横移動でゼウスの突撃範囲から脱出。

 ジェイクはまたしてもガード。

 

 ゼウスが一瞬立ち止まると同時にジェイクは石垣までバックステップ。

 カンナは接近してスカートを切り刻む。

 ジェイクは頭部に向けて神属性で射程の長い弾丸を放つ。

 ゼウスはわずかに動くだけでカンナに小さなダメージを与える。

 

 ゼウスはカンナやジェイク目がけて鱗粉と光球の設置レーザーを使っている。

 避けたりガードすることに時間を使わせようという魂胆だ。

 攻撃回数を制限させられることの鬱陶しいこと。

 しかし、アラガミとの戦いは焦りを行動に移した者が負ける。

 

 スカートをできるだけ狙わないように撃っている。

 誤射防止に、装飾弾丸が敵に着弾すると中から弾丸があたるようにしていた。

 

 ゼウスは頭部の魔眼から上空めがけて光線を放つ。

 光線は上空からジェイクに降り注ぐ。

 

「ぐっ!」

 

 ガードが間に合わず、直撃。

 移動するべきだったと内心後悔しつつ減っている体力を確認する。

 

 

 ゼウスは己の中に蓄積していく異常に気付いた。

 毒鱗粉が出せない。

 

 呪縛:ノーマルを編集したもの——つまり、封神効果の弾丸を改良したものだ。

 

 

『交戦して分かったことがあるの』

『ゼウスは封神にすると毒鱗粉を出せなくなるの』

 

 おそらく、尾状器官に異常が発生するのだろう。

 

 カンナは一旦下がってスタングレネードを投げる。

 カンナはジェイクの集中力が落ちていることに気付いたからだ。

 

「散開!」

 

 ジェイクはA地点へと走る。

 建て直せということだ。

 

 

 

 

 

 ジェイクは回復錠を飲む。

 体力が回復した。

 

 カンナはジェイクの体力が回復したのを確認すると、隠れてゼウスを追跡する。

 こうやって追跡することで今交戦していないジェイクもゼウスを捕捉しながら、回復し移動ができるというわけだ。

 

 

 カンナはジェイクにこっちへこい、と手を動かす。

 ジェイクはC地点を壁沿いに移動する。

 E地点の餌場、鐘のある建物の下でゼウスは回復していた。

 

 カンナとジェイクはチャージ捕食で奇襲し、即座に銃形態で互いをリンクバーストLv3まで上げる。

 ゼウスは魔眼から光線を放ち、二人に向けて巨大な光の束を落とそうとする。

 地面が光る。攻撃範囲だ。

 

 二人はバックして地面の光を避ける。

 

 カンナは二段ジャンプからのスプレッドシャイン。

 ジェイクはホーミングシャインを放った。

 

 Lv3はかなりの威力を放つ。

 ゼウスの頭部が結合崩壊し、絶命した。

 

 ※

 

 二人はE地点からD地点を歩いていた。

 D地点の餌場からもエイジスが見える。

 

 その上を青い月が照らしていた。

 ジェイクは久しぶりに夜空の月を見た気がする。

 黄色くなかったか?

 

「まぶしいですね」

「ええ。なんだか安心するわ」

 

 カンナは穏やかな顔をしていた。

 ジェイクは釈然としない顔で

 

「そうですか?前はこんな色じゃなかったような…」

「?あんた記憶喪失って聞いたわよ」

「!そうですね。なんでだ…」

 

 今の様に。

 ジェイクはエイジスの本を貰った時も胸騒ぎがしていた。

 頭を片手で抑える。

 一瞬だけ何かが見えた気がする。

 確かめなければならない。

 たとえ、ミノルとグレンからの圧力を受けても。

 

「…僕は、近いうちにエイジスに向かうかもしれません」

「エイジスは接触禁忌種が頻繁に出没するわ」

「知りたいことがあるので。戦闘区域のデータをまだ戴いていないので教えてもらってもいいですか」

「あたしも着いて行くわ」

「変ですよ。隊長やグレンさん、カリンさんたちが着いて行かないのか聞かないんですか」

「ジェイクにも事情があるんでしょ。心配させたくない以外の事情が」

 

 そう。

 心配させたくない気持ちよりも、知りたい気持ちが強い。

 自分について、何も知らないことへの恐怖。

 日増しに増えていく夢の鮮明さ。

 

「…エイジスの戦闘区域はこれよ」

 

 カンナは一枚の紙を渡した。

 戦闘区域と進入路の地図だ。

 多分、カンナが描いたのだとジェイクは考える。

 

「アラガミを誘引するフェロモンが出てるから、気を付けるのよ。いざとなったら逃げること」

 

 カンナはディスクを渡した。

 

「ディスクはこれ。ミノルに渡して。閲覧したらあんたのじゃデータ飛ぶわよ」

「了解」

 

 カンナとミノルは浅からぬ因縁があるのだと感じた。

 巻き込まれている。

 

 

 

 

 カンナはアリサと榊博士の研究室へ向かった。

 博士からの呼び出しだ。

 一体何を無茶ぶりされるんだろうか。

 

 メディカルチェックのデータを閲覧する。

 

「ジェイクくんのデータに不審なところがあるんだ」

「記憶喪失の新しい新型の人ですよね」

 

「改ざんされていたんだよ。データを改ざんされる前に復元すると、臓器の一部を摘出しているね。あと頭部の手術記録が出たんだ。誰が何を細工したんだろうねえ」

 

 新型の脳に何かしたのか。

 この人なんとなく察しているな。

 

「脳を…!?」

 

 アリサは驚いた。

 

「博士、誰がこんなことを?」

 

「オオバ博士だね。最近は医療班に転属しているけど…偵察班のあの手術を担当していたことが分かったよ」

 

 支部長代理としての権限で閲覧したのだろう。

 研究者として興味深くはあるが、今はエゴだけを優先するわけにはいかない。 

 

 偵察班の蘇芳マサノブがあのような姿になるように設計した男。

 あの男の身体と腕輪に細工をした博士。

 

「そんなことって…」

「彼はアーク計画後、医療班に転属したのはそういった事情からだろうね」

「私からは以上だよ」

 

 カンナは口を開く。

 

「ジェイクは青い月を見て、妙な反応をしていました。これも関係ありますか?あと、黄色かったようなとは言ってました」

「記憶喪失…というより暗示で記憶を消されているのかな。カンナくんも心当たりあるんじゃないかな?」

「アーサソール…」

 

 カンナもアリサも知っている。

 

 本部からの新型部隊。

 ガーランドの私兵。

 新世界統一計画の要。

 

 新型である二人は引き抜かれそうになっていた。

 新世界統一計画のアラガミテロを阻止しようとエイジスにコウタとソーマの四人で向かったのだから。

 

「そう。彼は恐らく、アーサソールの一員だ。本部はアーサソールの面々を引き渡すように言ってたけど出来なかったよね」

「遺体が見つからなかったから…ですよね」

 

 アリサが答える。

 

「そう。遺体は見つからなかった。捕喰された面々がいたし、フェンリルも暴れていたからね」

「ガーランド博士の作った…エイジス全域の場所って偵察班が知っていますよね。回収本当にできなかったんでしょうか」

「できなかったことになっているみたいだね」

 

「博士。エイジスの侵入をどうにかごまかしてください。ジェイクやあたしが指名手配されないように」

「君、なかなか人使いが荒いね?」

「多分、ミノルはジェイクをエイジスに誘きよせています。もし、侵入が公に出たら、極東はジェイクを指名手配するし、本部にも情報が洩れるでしょう。そこをどうにか誤魔化してください」

「本部はここぞとばかりに監督不足と言いがかりをつけて極東に入った新型を本部に回して、またあの計画の二番煎じでも実行するでしょう。そうさせないためです」

 

 

 

 

 

「ルミコ先生、具合はどうですか」

「君か。元気じゃなさそうだね」

 

 ルミコ先生は女性だ。

 明るい髪の猫っ毛、患者であるためゴーグルは外していた。

 黒いビキニに白衣だった姿は寝巻になっている。

 人懐っこい印象がある。

 

「怪我してる人が、諜報員の真似させられてそうなったって聞けば、元気な顔もできなくなりますよ」

「あなたは、医者なんですよ。スパイなんて危険な真似、しなくてよかったのに…」

「榊博士は人使い荒いでしょ。だからだね」

 

 見舞いの花を見る。鎮魂の廃寺で拾ったものだ。

 水やりなどの調整をしている人がいるのだろう。

 まだしおれていない。

 

「ミノルさんのこと、全部が全部信用できないからね。博士も」

「…だからあの時、『エースの君が記憶障害だとみんなに知れたら現場が混乱するはず。回復するまでこのことは黙っておこう』って言ったんですね」

 

「えっ、どういうこと?」

「優秀な医者が記憶喪失になったとして、現場が混乱するから回復するまで黙っておこうなんていいますか?

命に係わる仕事でそんなことしたら医療事故が起きる。戦場も、戦うことを忘れた人間が戦えるような場所じゃない」

「あなたは医者だ。看病したり治療したのにも関わらず、死んでいくゴッドイーターたちの遺体で学んだはずだ。それを言ったということは…うっかりではなく、わざとだということ」

 

「あなたは榊博士の信用する情報提供者でもあったけど、ミノルの【内通者】でもあった。だから、記憶の無いあたしに、安心できる人間として暗示をかけた」

「あなたは第一部隊であるあたしが抱え込む性格だと分かっていた。だとしてもあの事件後は相談することを覚えたから、油断できなかった。ミノルは自分から接触することが榊博士たちによって妨害されつつあるから、内通者を使ってあたしの性格を利用した。なぜか」

「暗躍中のミノルの行動を悟られないように。そして、データチップの内容を理解するほど記憶が戻るタイミングを計らせるために」

 

「君、探偵になったら?」

「引退したらいいかもしれないわね。でも先生、命懸けで機密を抜いて殺されそうになって。もし、殺そうとした人が一人でも生きていたらあなたはどうするつもりだったの」

「助けたよ。医者だし。…マサノブ君はリハビリ続けてるかな」

「シュウから続けてるって聞いたわ。ジェイクの指導もしているみたいよ」

「良かった…」

 

 毅然と答えた。

 そして担当患者であるマサノブに気を使っていた。

 

「榊博士に渡すデータに何もしない代わりに、協力しろって持ち掛けられたのよね」

「うん。それに、マサノブ君の上司だからね。マサノブ君にも危険が及びそうだった」

「辛いことを言わせてごめんなさい。先生が生きていてよかったわ」

 

 ルミコ先生がこんなところまで話すことができるということは、もうミノルの企みは芽吹いているということだ。

 

 

 

 

 昨日の夢の続きだった。

 ジェイクは故郷の家族の夢を見た。

 そこでいかにしてガーランドと出会い、感化され、人体実験に参加することになったのか。

 その続きだ。

 

『君は、アラガミに怯えない世界を作ることが出来る』

『新型の感応能力ですか』

『そうだ。アラガミの出す偏食場に干渉できるようになる』

 

 

『レナルドです』

『以上がアーサソールの被験者だ。君たちは意識を統一し戦うことになる』

『このヘッドギアに感応することによって、より優れた知識、経験を共有することが出来る。連携もスムーズになる』

『優れた部隊とは指令を忠実に守る部隊の事だ』

 

 強い一体感。

 排除された孤独感。

 スムーズな連携。着実に見について行く力。

 

 

 目覚める。

 いつものように静かな部屋。借りた本が置かれている。

 

 ジェイクは鏡を見る。

 いつもの包帯面と、青い目。

 

 包帯に触れる。

 ほんの少しだけほどいてみる。

 

 そこには火傷ひとつもない白い肌があった。

 包帯の隙間から見えていた。

 

 

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