表に看板が出ている。焼津興信所。
「ご紹介のない方のご依頼は受付け出来ません。通常のご依頼は、近隣の興信所に御相談ください。」
======== この物語はあくまでもフィクションです =========
ここは、『相の国』。
俺の名は、「異次元の殺し屋・万華鏡」。次元を渡り歩く殺し屋だが、殺すのは、人間とは限らない。
俺には聞こえる。殺してくれ、と。
どこの次元でも聞こえている。
跳んで来たのは・・・ここは、興信所。
表に看板が出ている。焼津興信所。
「ご紹介のない方のご依頼は受付け出来ません。通常のご依頼は、近隣の興信所に御相談ください。」
ご丁寧に地図まで書いている、余程、「営業セールス」に困っているのだろう。
逆効果だとは思うが。
ずっと眺めていると、中から人が出てきた。
「あのー。そこに書いてある通りですので。道案内でしたら、この道をまっすぐ100メートル行けば、交番がありますよ。」
俺は、率直に尋ねてみた。「逆効果じゃないですか?」
「セキュリティがあるなら、『空き家』を装えば、無闇に訪ねてくる人もいないと思いますが。依頼人は紹介者だけなんでしょ?」
「どうするんです?」「この郵便受け。通常の郵便、この郵便配達しないのなら、チラシとか古新聞突っ込んでおいて塞げばいい。」
「面白い。逆転の発想か。」
中から所長らしき人物が出てきた。
「実は、昔友人の個人事務所手伝ってたことがあるんです。芸能関係の。」
「ふうん。入りません?どうせ暇だし。」
夫妻はよくしゃべった。
実は、与党共生党の顧問弁護士の下請けをしていたが、今度の集議院選挙で新政権になると、状況が変わるかも知れない。すると、顧問弁護士は解雇、下請けも出来なくなるから、と愚痴をこぼし始めた。
「疑似SPってのもあるらしいですよ。興信所の調査員なら『張り込み』や尾行くらいするんでしょ?」
「詳しいですね。それで?」
「今度、要人になる人は判らないけど、SPのダミーというかアバターというか。」
「あ。人数あわせですね。SPも高給取りだからなあ。頭数揃えるなら、そういう『水増し』もあるんだ。金持ちほどケチだからね。これは、良いこと聞いたなあ。」
それで、知らん顔して、この国の情勢を聞いた。
この世界では、層理大臣や外務大臣が好き勝手やりだしたので、クーデターが勃発、野党全部が協力して、解散総選挙に持ち込んだ。相内閣不信任決議案がすんなり通ったと言う。
そうか。この世界は、少なくとも野党は隣国の餌食にはなっていないのか。
今までの、殆ど次元では、政府要人は隣国の言いなりになり、民衆から嫌われていた。
そして、政権の方針は変えたくなかった。
この次元の野党は、政治思想や理想は違っても、民衆の味方になる方が有利だと判断したのだ。
例え、順列が変わっても、与党を退けることが出来れば、「代表交代」ではなく、「政権交代」が出来る。
きっと、野党に働きかけた人物がいる筈だ。俺は2人から、その名前を聞き出した。
その人物、橋田純一は笑った。
俺は、敢えて正体をばらした。
橋田は2度笑った。
「私には、ばらさない方が良かったね。小石川君。」
俺は、腕時計を弄った。
俺は、話の途中から気づいていた。
政界を弄ぶ、本当の黒幕を目の前にしていた。
彼は、集議院解散総選挙をする前にインサイダー取引をしていた。
無駄になるかも知れない太陽光発電事業を後押ししていたのは、彼だった。
彼はハニトラにもマネトラにも填まらなかった。
だが、マネーゲームは好きだった。
総選挙が終ると、多額の金が彼の懐に飛び込んでくる予定だった。
半月後、野党の圧勝で、連立政権は、今まで登場しなかった政党で成り立っていた。
焼津興信所は、連立与党に雇われた。
だが、橋田は刑務所送りになった。彼はやり過ぎたのだ。
悪事のタレコミは週刊誌やマスコミが騒いだ。
俺の名は、「異次元の殺し屋・万華鏡」。次元を渡り歩く殺し屋だが、殺すのは、人間とは限らない。
策士、策に溺れる。もう浮かんでこないだろう。
―完―