英雄に憧れるのは間違っているだろうか?   作:カステラ

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二話目です、よろしくお願いします


プロローグ2

 

カーテンの隙間から光が差し込む。

小鳥の囀りも聞こえてくる。

その部屋の主が寝返りをうち、寝ぼけた声を発する。

 

「ううん、朝かー」

 

部屋の主、アルスが半身を起こし、瞼を擦る。

 

「ふわ〜あ、まあ朝といってもまだ日本でいう四時ごろだろうけどな」

 

この世界では聞くことは無くなった“日本”という言葉を発しながら、ベットから起き上がり支度を整えるためにクローゼットの方へ歩いていく

 

(この世界に転生してから約5年、もうかなり馴染んできたよな)

 

支度をしながら考える

彼がこの世界ーーダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかーーという作品の世界に転生したのは約5年前、この世界で生まれた時である。

 

(最初は戸惑ったし、前世の両親への罪悪感とかもあってーーーいや今もあるけど、だいぶ情緒不安定だったんだよなー)

 

誰だって未知のことには戸惑うし、それが転生という規格外のことなら尚更である。

誰も責めたりはしない

 

だが

 

 

 

彼はそれを良しとはしなかった。

 

(“未知を既知に変える”それが冒険者だからな)

 

(冒険者を目指すものとして、これくらいができないでどうするっていうんだ)

 

もちろん全ての冒険者がそうはできないことを彼もわかっている、だが彼はそうありたいと思い努力することを決めているということである。

 

(さて、今日も修行の開始だ)

 

そう思うと着替え終わった彼は立てかけてあった木剣を手に取り、部屋から出て行った。

 

ーーーーーーーーーーー

 

朝の鍛錬は朝飯を食べる前にやっておく、これが正しい方法なのかはわからないが彼はいつもそうしている。

 

「ふっ!はっ」

 

テンポよく木剣を振りぬく音と彼の息遣いと掛け声だけが、林に響く。

ここに他人がいれば、素人目から見ても綺麗な剣筋だと思っただろう、それほどまでに彼の木剣の振り方は5歳にしては綺麗すぎる。

では彼に才能があるかと言われればーーー

 

(ーーない)

 

(俺には才能がない、この歳でこれほど上達しているなら十分だと思われるだろうが、それは違う。)

 

そう、それは

 

(これは“前世”に由来するものだから)

 

(今世から剣技を始めたわけではないのだから、他の同年代に比べれば上達しているのは当然だ。)

 

一つ間違いを訂正するとしたら彼が特別才能がないのではなく平均値なだけであるのだが、訂正するものはこの場にはいない。

本当に才能がないものたちからしたら彼の言い分はブチギレものだろうが、彼が気付くのはもう少し先の話。

 

(それにしても、だんだんと木剣を振るのも簡単になってきたな。体が出来上がってきたということなのだろうが、もう少し鍛錬の量を増やすか?)

 

「まあそれは後でいい、さて」

 

「準備運動は終わりだ」

 

ーーーーーーーーーーー

 

「がっっぐぅあああああああああああああ!!!」

 

林に少年の絶叫が響き渡る。

人がいれば何事かと思って駆けつけてくるほど事件性のある悲鳴だった。

その声を発している少年が何をしているのかといえば。

 

「がっっっあああ!、くっ!」

 

“丸太を山ほどくくりつけて走る”である

他の人が見れば馬鹿じゃねぇのと言いそうなことをやっているのである

もちろんただの丸太ではなく太いものを厳選した丸太たちであるため、負荷はとんでもないのだが。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

まあ、側から見れば馬鹿の所業である。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

それを1時間ほど続け、そろそろ5時半くらいになる頃。

彼は息絶え絶えになりながらも、次の修行を始めようとしていた。

 

「はあ、はあ、うっぷ…はぁ、ふっ!はっ!」

 

そう、素振りの再開である。

そもそも体力の限界まで走っているのにもう一度素振りをするなど、自殺行為とは言わずともかなりの負荷がかかるものだ。

それに加えて、

 

「はあ、はあ、…まだまだ5セット、全然だな」

 

この気の狂った鍛錬を素振りと走り込みを1セットとするなら、5回も繰り返しているのだ。

ちなみに先ほど絶叫をあげながら走っていたのはちょうど3セット目である。

 

「まだだ、もっと強く、もっともっと強く!」

 

それでもなお、それをやめない

 

「憧れにたどり着くために!!!」

 

そして彼は、この鍛錬を繰り返す。

朝食が終われば、また再開する。

何度でも。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おかえりーって汗でびしょびしょじゃない!また修行?もう…」

 

帰ってきたアルスを出迎えたのは、母の驚愕した声だった。

それと同時に呆れた声にもなったが。

 

「ただいま母さん、まあそんなところ」

 

もちろん母はアルスがしている修行に内容を知らない。

アルスが徹底して隠しているのもあり、まだあの気が狂った鍛錬はバレていないのだ。もちろん父にも。

 

「また修行か?本当に熱心だなー」

 

なんて呑気に言う始末。

早くこいつ止めろ、死ぬぞ。

 

「まあね、夢のためだから」

 

「前から言ってるけど、冒険者になるのは少なくとも14からよ」

 

「いや〜、そこをなんとか」

 

「ダメよ」

 

やはりこれは強敵だなと、改めて思うアルス。

 

(早くこの人たちを納得させて、オラリオに行かないとな)

 

オラリオ。

世界の中心、英雄の都とも呼ばれる街。巨大な市壁に囲まれており、天をつく塔、“バベル”が立っている。

そしてこの街の一番の特徴は、“ダンジョン”と呼ばれる地下迷宮があることである。下の階層に行けば行くほど敵が強く地形が複雑になってくると言われている。

そして天から“降りてきた神”がおそらく一番集まっているところでもある。

 

だが、

 

(今のオラリオ、暗黒期っぽいんだよなー)

 

暗黒期。

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか、通称ダンまちのゲームアプリ、ダンメモのアストレアレコードにおいて描かれた、文字通りの暗黒期である。

闇派閥(イヴィルス)が蔓延り、死の七日間と言われる惨劇が起こった時期のことである。

 

(今オラリオに行って、運良く恩恵(ファルナ)がもらえたとしても死ぬ確率のほうが高い)

 

そう、今のオラリオは地獄と化す前なのである。

世間でもオラリオは今危険地帯として言われているため、そんな場所に子供を行かせるのは親としては絶対に避けたいことなのである。

というか親しい人でも止めると思われる。

 

(でも……)

 

しかし彼は

 

(俺の憧れたやつなら、きっと苦しんでいるからという理由で助けに行く)

 

憧れのためなら、筋金入りの偽善者になる。

 

そういう男である。

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございました。
早くオラリオに行きたいですね。
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