英雄に憧れるのは間違っているだろうか? 作:カステラ
家を飛び出したアルスは、避難し遅れた人がいないかを探して走り回っていた。
見つけた場合、保護して避難している場所に送り届ようとしているのだ。
見て回った感じでは、逃げ遅れた人は居ないようである。
(良かった、これなら俺も避難できる)
───ほんとにそれでいいの?
「ッ!」
声が聞こえた。様な気がした。
気の所為?今のは?
───ほんとにそれで、憧れに届くの?
───英雄に届くの?
「───────」
今度は、はっきり聞こえた。
その声が、はっきりと。
なんだ?誰だ?
「俺は……────」
「アルス!!」
「!」
声が聞こえた。
先程の声とは、奥底に語りかけてくるような声とは違う。
人の声だ。
「何やってんだよ!お前!」
話しかけてきたのは、いつも自分に喧嘩を売ってくる子供だった。
「ルイ……」
「そうだぞ、やっとまともに名前を呼んだな!!」
ルイ──それは少し前に聞いたその名前をそういえばまともに呼んだこともなかったなと、場違いにもそう思った。
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「それで、なんで俺を探してたんだ?」
「なんでって、お前が家を飛び出したのをみてしんぱいでついてきたんだぞ」
「そっ、そうか、ごめん」
自分が原因で追いかけてきたのだと知って、アルスは少し罪悪感に苛まれた。
「それとさ、元気がないやつがいるから、お前に見てもらいたいんだよ」
「えっ?」
どういうことだと、アルスは思う。
自分は医者ではないし、病気なら手の施しようがないのだが。
そもそも、この子がこんなことを言うなんて珍しいと言うのもある。
いつもいじめる側で、他人の心配をするとこなど見たことがない。
「なんだよ、そのかおはー?」
「いや……珍しいなってさ」
誰かの心配をすることがとは言わない。
絶対に怒るからだ。
「?」
…わかってないならいいや。
いい一面があったと思っておこう。
「それで見てほしい子ってどんな子なの?」
少し気になったため、アルスは何気なしに聞いてみた。
村の女性陣の誰かだろうか?
「えっと、たしか──────マリヤって言ってたぞ」
「お前はけっこうものしりだしな!」と。
急に聞き覚えのある名前がでてきた。
彼女の体調が悪い?
どうかしたのだろうか?まさかあの悩み事に関係する?
心配だな……少し急ごう。
「ちょっとごめん」
「えっ、ちょちょ、おい!?」
勢いよく、背中と膝の裏に手を回し、抱える。
いわゆるお姫様抱っこである。
「おい、お前なにやってだよ!?」
「ちょっと急ぎたいからな、これが手っ取り早い」
「だっだからってこの体勢は?!」
「悪い、ちょっと我慢してくれ、すぐに付く」
「すぐにって!ここから避難した場所、かなり遠いぞ!?」
かなり遠いのに、アルスについてきたのか。
そう思わなくもないが、心配してくれたのはうれしかったので言わないようにする。
「行くぞ」
「えっちょっ?!」
そうアルスは言うと、ものすごい勢いで駆け出した。
その速度は神の恩恵を持つものにも劣らないものだった。
(はっや〜〜!?なんだコイツッ!こんな早かったのか?)
そう思い、ルイは驚愕する。
確かにこの速度なら、避難している地点まですぐに到達するだろう。どういうことだろう、いくら鍛えているとはいえ、この速度はおかしい。
(どうなってんだ!?こんなのまるで────)
冒険者。
「着いたぞ」
「えっ」
思わず間抜けな声を出してしまった。
それほどまでに早かったのだ。
「それで、マリヤはどこにいるんだ?」
周りをみてみると、急に現れたアルスに驚いているものばかりだった。その中で一人、アルス自身をみて驚いているものがいた。
「アルスさん!?」
そこにいたのは、マリヤだった。
その隣にはアルスの両親もいる。
「マリヤ、大丈夫か?元気がないって聞いてたけど…」
その言葉を聞いたとき、マリヤは。
「助けて!!」
泣いていた。
(えっ、エエええええええ!?)
(なっなんで!?なんか悪いことした!?)
アルスはものすごい勢いで狼狽する。
悪いことはしてないはずだが、なぜだか悪い気分になってくる。
「だっ、大丈夫か??」
「ぐすっ、ひっぐ、ご、ごめんなさい。わっわたし、ローたちに、犠牲になれって言っちゃった、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
────わっ、わからん。なにがあったのかが
「ちょっと落ち着いてくれ、助けようにもそれじゃ無理だ」
努めて落ち着くように言う。
いまのから推測するに、ローという人を助けて欲しいのはわかるんだが。
「わ、わたし、この村を守りたくて。だから、ローたちに命令したの…あの竜にこの村の人を傷つけさせないでって、でもそれはローたちに犠牲になれって言っているのも同じだった…でもそれは私たちの、ニーベルンゲン商会の使命だから」
ニーベルンゲン商会、命令。
この言葉から推測するに、マリヤはかなり上の立場なのだろう。護衛に命令できるほどなのだから。
「でも、なんでわたし、アルスにこんなこと…あの竜に勝つにはLv2以上は必要なのに」
確かにそうだ、俺がその竜に敵うという保証はない。
それに後ろで不安そうに見ている両親も許可などしないだろう。
そうだ、勝てないのなら村人を連れて逃げればいい。
そうすれば────
───本当にそれでいいの?
「あっ─────」
突然さっきの言葉を思い出した。
奥底に語りかけてくるような声。
その声に触発された心が、叫ぶ。
この程度で憧れに届くのか?────否
こと程度でなれるのか?────否!
今までの修行は逃げるためにあるのか?────否!!
絶対に違う、この力は───────
ベル・クラネルに、並ぶためにある!!!!
やがて決心したのか彼は口を開く。
「マリヤ、場所を教えて」
「!!!」
後ろで両親が驚愕するのが見える。
ごめん、でもここで引けば、俺は二度とベル・クラネルに並び立つなど言えなくなる。
あいつなら、怖がりながらも行くだろうから。
そして安心させるように言う。
「大丈夫、待っていて、必ず助けて。戻ってくる」
両親とマリヤ、そしてルイにむかって。彼は言う。
「村の門の方向!!その離れにいる!!!」
「わかった、行ってくる」
そう言うと、彼は止める間もなく走り出す。
両親が手を伸ばしているのをわかっていて、彼はそれを振り切る。
「ごめん」と謝りながら。
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走る、走る、走る。
恩恵をもらっていないものとは思えない速度で走る。
まだ見えないが、焦げ臭いにおいが強くなってきた。
おそらくこの先で戦闘をしているのだろう。
急ごう。
少し走れば見えてきた。だが、
それはいままさに、リーダーの様な人に竜が近づいていくところであった。
まずいッ!
あのままだと潰される。
というより、竜が地上にいる個体にしては強すぎる。
魔石を食らった強化種か?
モンスターは古代に大穴から進出したものが地上で繁殖したものである。その大穴、迷宮は、今はダンジョンと呼ばれている。そして、ダンジョンのモンスターと地上のモンスターは強さが異なり、地上の方が弱い。それが鉄則である
そして強化種とは同胞のモンスターの魔石を喰らい、ポテンシャルが強化された個体である。
つまりあの竜は……
(魔石を喰らい、原種のスペック以上のポテンシャルを持っている個体!)
そういうことだろう。
(どうする?助けようにも力の差で押しつぶすされる、どうすればいい!どうすれば──)
『できないかなー、魔力の直接操作』
「───────」
思い出した。そうだ、その手があった。
(武器は───倒れている護衛の人から拝借しよう)
そう思うと、彼は血を流し倒れている───おそらく絶命している護衛から直剣を手に取る。
(ごめんなさい、あとで必ず弔います。だから今は、許してください)
そして竜に目をやると、今丁度、爪を振り下ろすところだった。
それをみたアルスは、
今までとも比べものにならない速度で地を蹴り、駆け出した。
いかがでしたか?次からようやく主人公の戦闘シーンだと思います。お待たせしてすみません。