転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか 作:野生の鹿
戦闘は続いていく。
フロディの宣言通り、第2ラウンドに移行したともいえるその状況はフロディの優勢ではあるが、戦線に復帰してきたアルディと体勢を立て直したスキュールンの反撃により拮抗してきた。
フロディは、氷属性の付与魔法【ディア・ゲルズ】と傷を受けるたびに攻撃が強くなれる【冥霊祝福】により、レベル差の実力を埋めている。2対1という不利な状況でも、フロディは相手二人に食らいついている。
特に、アルディという一度やられた相手には、魔法を積極的に使っていく。具体的には、冷気を発生させて凍えさせたり、氷で足場を作って翻弄したりなどといったものだ。冷気を直接浴びせることに関しては、一度や二度で済まされない程の回数を重ねている。
一進一退の攻防が続いている戦いは、どちらが勝つのか分からない手に汗握るものであるが、この男に関しては別の見方をしていた。
「へぇ……、随分と興味深いね、あのハイエルフ……」
アルディの最終調整を自らやってきていた【
フロディが砦の中に入ってから今の今まで観察していたペイルは、フロディの強さに驚嘆していた。ペイルの考えでは、スキルが密接に関わっていることを推測していた。魔法の使い方も、あの年齢にしては技巧的ともいえることも評価していた。
スキュールンとアルディの二人に互角に食らいついていることもあってか、ペイルはフロディを被験体にしたらとんでもない改造人間が出来上がると思っている。だが、ペイルの頭の中には、そんなことは思い浮かぶことはなかった。
フロディを一目見た時から、なぜかそんな考えではなく、どこか懐かしさを感じていたためである。そして、彼が血まみれになっているところを見ると、心配が勝ってしまうこともペイルは感じていた。自分がそう感じることに疑問を持ちながらも、その答えに思い当たる節はなかった。
(一度、彼について調べてみるか……)
そんなことを思いながら、ペイルは戦いの行く末を見届けようとする。
* * *
「【
フロディが追加の詠唱式を発動すると、地面についていた左足から徐々に氷が生成され、やがて自分の身長を覆う氷壁となった。
ブウゥンッ!!
アルディがハンマーを繰り出してきたが、フロディが先ほど生成した氷壁に阻まれ、『ガキィィン!』という音が響き渡る。
そしてすぐさまフロディは、アルディを仕留めにかかることを決意する。
「【
今度は右手をかざして冷気を発生させて、アルディを凍り付かせる。
「グオ…………オ…………」
抵抗する間もなく、アルディは凍結させられていき、その隙にアルディの持っていたハンマーを奪い取ったフロディは、そこに氷を付与させる。
「そこだっ!!」
そう言うと同時に繰り出されたフロディの一撃により、凍結された状態のアルディが大ダメージを受ける。硬かった身体が音を立てて壊されていくその様は、砂でできた城が崩れていくようなものに似ている。アルディの身体に穴が出来上がったのだ。
「なっ……!?あいつの身体は頑強なもののはずだ……!それがどうして……?」
距離を取っていたスキュールンが、アルディの身体が壊されているのを見て動揺しているが、フロディは、アルディの身体にあるであろう金属を特定していたために、この戦法ができた。
「対策されてなくて安心したよ………!」
アルディの身体に使われていた金属は、アルベイム王国産の金属であるが、その金属の弱点に低温に弱いことが挙げられる。
凍結されないよう加工されているものはともかく、フロディが特定した金属には低い温度にさらされるともろくなる性質がある。いわゆる低温脆性というものだ。アルディには、積極的に魔法を使って冷気を浴びせていることは、この時のために行ったものだ。
冷気を発生させて少しずつ金属を冷やしていき、金属の持っている粘り強さ、ざっくり言えば打たれ強さを徐々に無くし続けることで金属を脆くさせることに成功したフロディにとって、アルディは倒せる敵になっていた。
そのまま畳みかけようとするフロディであるが、それを黙って見過ごすことはスキュールンにはできなかった。
「この野郎…………っ!!」
弓を引いて炎の矢を生成して発射していくスキュールンに、フロディは重いハンマーを投げ捨てて避けることを余儀なくされた。もっとも、この時点で感覚が研ぎ澄まされているフロディは、どこに矢が向かっているのかはわかっていたため、すぐに次の行動に移る。
「うぉりゃぁ!!」
剣で防御しながらフロア全体に行った凍結により滑りやすくなったため、フロディはスライディングをしながらスキュールンに近づいていくと、すぐさま彼に飛びついて三角絞めを決める。
「ぐっ………!?」
スキュールンは地面に組み伏せられて抵抗しようとするが、持っていた弓をフロディに弾き飛ばされる。
「【
左足からスキュールンに向かって冷気が発生し、地面に固定するかのように凍結されたスキュールンは身動きを取ることができなくなっていた。
そんな彼の顔面に向かって、フロディは猛攻を仕掛けていく。
「覚悟しろ!スキュールン!!」
ドゴッ!!! バキッ!!! ボゴッ!!!
長い詠唱を終えてからも四肢に纏わりついている氷の付与魔法により強化されたそのパンチは、並大抵の威力ではなかった。母親を奪われたことによる怒りを薪にして、フロディは拳をスキュールンに向かって叩きつけていく。
殴られているスキュールンは、口や鼻からはもちろん、フロディの纏った氷が原因で切り傷やら凍傷やらが出来上がって数多くの血が流れていた。もう意識が朦朧としている状態にもかかわらず、フロディはスキュールンに攻撃を続けていく。一切容赦をすることなく殴り続けるフロディの姿は、瀕死ともいえる状態も相まって修羅と形容できるかもしれない。
だが、そんなフロディを背後から襲ってくる者がいた。アルディだ。スキュールンを助けようと、左手の爪でフロディを攻撃しようとするが、それはすぐにフロディが察知した。
「っ!あっぶねぇ……!」
スキュールンの上に乗っかていた状態だったが、近づいてくる音に気付き、横に飛び込んでアルディの攻撃を避ける。
攻撃を空振りにされたアルディは、すぐさまフロディに向き合うも、フロディはアルディの顔面に向かってドロップキックを繰り出した。
「おりゃぁ!!!」
もろに受けたそのドロップキックにより、アルディは倒れ伏してその上にフロディが乗っかると、すぐさまアルディの胴体を観察し、やがてある部分を注視した。
「そこだな………!」
次の瞬間、フロディはアルディの身体に穴をあけながら手を突っ込んでいった。
「掴めたぞ………!!変な魔力の発生源………!!」
そう言うと、フロディはアルディの身体から機械を抜き取った。
その機械は、抜き取った今も尚動いて魔力を発生し続けているが、発生した魔力は行き場を失い空気中に散っていく。抜き取ったことが契機であるかのように、死人と形容してもいい顔の中にも少々ではあるがまだ光が宿っていたアルディの目が暗くなり、機能停止したかのようにピクリとも動けなくなっていた。
実は、ペイルの制作した改造人間の動力源として、彼が独自に開発していた魔道具の一種である『魔力エンジン』が搭載されていたのだ。改造人間の被験体は、大体が死んだ人ばかりなので、生きている人間にとっての心臓の役割を担う代替品として『魔力エンジン』が採用されている。これがなくなると動けなくなるという弱点もあってか、アルディのような頑強な身体をもつドワーフが改造人間に選ばれやすくなっている。
アルディの身体に穴が開くような大ダメージを負わせた辺りから、妙な魔力が流れていることを察知したフロディは、その源がより多くの魔力が密集していることに気付いてこのような行動に移ったのだ。
アルディがもう動くことはないことを確認したフロディは、スキュールンに向き合う。
虫の息となったスキュールンは、自分よりも強いアルディが倒されたこともあってかもう抵抗する気力はなかった。死を悟ったかのような表情をするスキュールンに、フロディは言葉を投げかける。
「裁きを下すとするか、スキュールン………。来世では、真っ当に生きることを願うぞ…………」
「………えぇ。私もようやく、死ねることに満足しています、フロディ様…………」
最後に紡いだその言葉は、かつての主従関係にあった頃を彷彿とさせるものであった。
その言葉を最後に、フロディはスキュールンの首に向かって剣を振り下ろした…………。
* * *
「あ~あ、結局失敗しちゃったか…………」
その様子を見ていたペイルは、落胆するかのような声を漏らした。
「他国への示威という目的はおじゃんになったし、これからアルベイム王国は警戒態勢を敷くだろうし、色々と面倒なことになりそうだ…………。ヴァレッタが何ていうのか、想像もしたくもないな~」
これから起こるであろう面倒ごとに、眉間にしわを寄せながら考えるペイルの目には、スキュールンに対する情はあまり見受けられるものはなかった。
だが、彼の右手にはペンダントが握られており、それを見たペイルはめんどくさそうに呟いた。
「これで君も…………、フロディ・リヨス・アールヴの言葉通りになればいいけどね…………」
そのペンダントは、とてもペイルが身に付けることのない種類の代物で、実際にペイルのものではないが、ペンダントの飾り部分であるリングには、こう刻まれていた。
『スキュールンより、愛を込めて』
これが何を意味するのかは、ペイルにとってどうでもいいものであるが、少なくとも、スキュールンが死ぬことに躊躇ない状態であったことの理由を察することができた。主神であるタナトスに狂信しているような振る舞いが目立っていたことも一因である。
せめてもの供養にと考えていたところで、フロディに目を向けたペイルは、興味深そうに微笑んだ。
「いずれどこかで会うことになる…………。そんな予感がするよ、フロディ・リヨス・アールヴ。それまでは、精々足掻くことだね…………」
そう言って背を向けて歩き出したペイルは、上級冒険者としての身体能力を活かして帰路を辿る。彼らがこの先の未来で会うことになるが、それは双方にとって予想外のことであるのは、まだ誰も知らないことであった。
* * *
戦いが終わり、その場で座り込むフロディに、ネメシスは近づいてきた。
「どうやら、勝つことができたようですね……」
「外の敵は………?」
「すでに片づけましたよ?ほら」
そういってネメシスが窓辺に立って指した方向をフロディも立ち上がって見ると、そこには【
「最初からあんた一人でよかったのでは?」
「それはあなたがケジメをつけると言ったからでしょう?」
ネメシスはふらふらになっているフロディをお姫様抱っこのように抱えて歩き出す。
「それはともかく……、よく頑張りましたね、フロディ」
「それはどうも…………」
適当に返すフロディの顔は、浮かない表情をしていた。
「何か不満なことでも?」
「復讐って、なんでこんな虚しいものだろうね…………。スキュールンに引導を渡したとき…………、悲しさも感じてしまったよ…………」
フロディは、今までの記憶を辿っても、人を殺したことは一切なかった。殴ったり切りつけたりしたことは何度かあったが、それでも相手を死なせることはないし、相手が人類と敵対するモンスターであったこともあるが、明確に人を死なせるのは初めての経験だ。
「前々から感づいていたことだけど…………、人を殺すって…………、こんなにも怖いことなんだな…………」
そういって身を震わせているフロディに、ネメシスは彼の身体を包み込む。
「それが理解できているだけでも、大丈夫ですよ」
ネメシスは温かい声音で語り掛ける。
「その思いを忘れることなく心に刻み、二度とその思いを抱くようなことはしないようにしましょう。せめてあなただけでも、命の重みというものを忘れずに前に進みましょう…………。これが私があなたに精一杯送ることのできる言葉です…………」
「…………はい……」
ネメシスのその言葉に感謝したフロディは、戦いの疲れもあってか、ネメシスの腕の中で泥のように眠った。
* * *
翌日、フロディの身体がまだ完治していないこともあってか、未だにベッドに寝たきりになっている状態であるが、そんな彼は上半身を裸にしてうつ伏せで寝ていた。
ステータスの更新のためだ。
やがて更新が終わると、フロディが服を着ている中で、ネメシスは、ステータスが記された羊皮紙を手渡してくる。
「おめでとうございます、フロディ。おそらく、最速かつ最年少だと思われます」
そういって微笑んだネメシスに、フロディは自身のステータスを見て驚嘆した。
フロディ・リヨス・アールヴ
Lv.1 → Lv.2
力 :S951 → I0
耐久:A861 → I0
器用:B768 → I0
敏捷:S933 → I0
魔力:C665 → I0
《魔法》
【ディア・ゲルズ】
・付与魔法
・氷属性
・任意発動で冷気を発生。放出させる。
・発動式【
・詠唱式【静かなる冬の息吹よ、白き大地を覆う精錬の輝きよ。我が胸に宿りし想いを汲み取り、荘厳なる霜の羽衣となりて舞い降りよ。この思いは恐怖の炎ではなく、希望の銀雪となって澄み渡る。迫りくる影が、愛する者を奪うとするなら、二度と奪われぬよう立ち向かおう。わが身を氷壁と化し、吹き荒れる闇さえ凍てつかせよう。親の愛を無駄にはせず、この身で愛を繋げよう。応えよ雪の精よ。わが祈りを顕現せよ。反逆の誓いと共に輝け。我が名はアールヴ】
【】
【】
《スキル》
【
・逆境時、全てのアビリティに低補正
・Lvが上の敵と交戦時、『力』、『敏捷』、『耐久』のアビリティに高補正
【
・魔法効果増幅
・魔法使用時、しばらくの間『魔力』アビリティの高補正
・付与魔法使用時、持続時間の延長および威力の増大
【
・冥界の精霊の祝福の証
・獲得経験値の高補正
・肉体的、精神的に傷を負うたび、攻撃の強化
・瀕死状態のとき、
アルディとスキュールンという、格上のコンビ相手に勝利を収めたことが偉業として認められ、今ここに、フロディはLv.2へと器を昇華させた。
恩恵を刻まれてから1年弱という短い期間でランクアップを果たしたフロディは、わずか7歳で果たしたということもあり、後にこの報せは世界中をも驚かせ、その名を轟かせることなった。
そして、新たな戦いの幕開けでもあった…………。