転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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相互確信

 突然に起きた【闇派閥(イヴィルス)】との抗争はまだ続いていた。

 

 相手の犬人(シアンスロープ)は、得物の槍を的確に使ってフロディを追い詰めていく。レベルに差があることもあってフロディは防戦一方となっていた。

 

 魔法を詠唱しようにも、長文詠唱ゆえに時間がかかる上、スピードに優れた相手に槍でハチの巣にされる未来しか想像できないのだ。下手にやれば確実に死ぬことは火を見るより明らかであった。

 

 故に、フロディはひとつ賭けに出ることにした。

 

「そんな防御ばかりじゃいつ終わるか、分かったもんじゃないなぁ!?」

「っ!!」

 

 槍を突き刺すようにして近づいてきた相手を見据えて剣を構えるフロディは、一歩前に踏み出す。

 

 繰り出される槍を見事に防ぐことに成功したフロディは、槍を持っている犬人(シアンスロープ)の腕をつかみ取りながら足を踏みつけていく。

 大人と子供という体格差もあり踏みつける力は微々たるものであるが、そこで相手の槍を使うことにした。

 

 踏みつけている自身の足と相手の足を、腕ごと掴み取っている槍で串刺しにして地面に固定させる。

 

「チっ!?何の真似だぁ?」

 

 長槍の半分くらいまで突き刺していくその行いを、自傷行為と捉えている相手の犬人(シアンスロープ)は困惑といった感情を露にするが、次のフロディの行為で納得する。

 

「【静かなる冬の息吹よ、白き大地を覆う精錬の輝きよ】―――」

「あぁ、そういうことか……。って、俺が大人しくしてると思ってんのかぁっ!!!」

 

 脚を串刺しにされて固定されても、相手の男はフロディの顔面を殴りつけて魔法の詠唱を止めにかかる。

 

 フロディの賭けは、相手の特徴でもある高い機動力を封じながらの魔法の詠唱であるが、当然、このように相手も大人しくしていられるほど馬鹿ではない。

 故に、フロディは、自分が傷つくことを厭わない方法で無理やり詠唱することにしたのだ。

 固定するのに相手の槍を使ったこともあってか、相手は殴ることしか手段はなく、そこさえ耐えれば死ぬことはないのだ。

 

 一方的に殴って詠唱を止めようとする思惑とは別に、相手は突き刺さった槍を外そうとしている。

 レベルが上であることも手伝って、容易に槍を抜け出そうしているが、それとほぼ同時にフロディは動いた。

 

「【―――我が名はアールヴ】!【ディア・ゲルズ】!!」

 

 殴られてきたこともあり、顔を腫れさせ、所々血を出していながらも詠唱を完成させたフロディは、剣と四肢に氷を纏わせていく。

 

「あんなに長い詠唱で付与魔法(エンチャント)だと?」

 

 どこか拍子抜けしたような声を漏らしているが、そんな思いはすぐに打ち消される。

 

「うぉりゃぁ!!」

 

 フロディが氷を纏わせた剣を振るって猛攻を仕掛けていくと、相手は少しずつ押されていく。

 

 さっきまで相手の犬人(シアンスロープ)がフロディを殴りつけてきたこともあってか、傷だらけになっているが、これによりフロディの【冥霊祝福(スキル)】が発動され攻撃の威力が強化されることとなったのだ。その上、【妖精王詠(フェアリー・カントゥス)】の効果で魔法も強化されていることも手伝って、フロディの攻撃に関しては格上の相手にも通用することができるのだ。

 

(どうなってやがる……!?付与魔法(エンチャント)が出していい威力じゃねぇぞ……!!)

 

 そんなことを知らない相手の男は、攻撃を仕掛けて追い詰めていくフロディに苛立ちを覚えたが、冷静に防御していく。

 

「調子に乗んな!ガキがぁ!!」

 

 槍を突き刺してくる相手は、格上のレベルであることもあって素早い一撃を繰り出してくる。だが、フロディはそれに冷静に対応する。

 

「【吹雪よ(ブリザード)】!!」

 

 地面についている脚から氷を生成させていき、フロディと相手の間に氷の壁を生成して攻撃を防ぐ。

 

「何だとっ!?」

 

 追加の効果があることに驚く相手であったが、その隙をフロディは見逃さない。

 

 フロディは氷の壁を突き破りながら相手に突進して近づいていく。そして相手の懐に入って、氷を纏わせた剣を振るって斬りつけていく。

 

「ぐっ!!」

 

 胸から腹の周辺を切り裂かれた相手の犬人(シアンスロープ)は、付与魔法の効果もあってか出来上がった凍傷に顔を歪ませながら距離を取り、フロディを睨む。

 

 フロディも、殴りつけられた顔が痛いのか、長い耳を垂れさせているが、それでも闘志はまだ消えていない。

 両者ともに相手から目を背けずに向かい合う。

 

「エルフの癖に猪みてぇなガキだなぁ、おい……」

 

 槍を構えなおした犬人は、自分からも攻撃を仕掛けようとするが、二人の戦いは始まりと同様に突然終わることとなる。

 

「ん?こんなときに一体なんだよ……」

 

 相手の犬人(シアンスロープ)がズボンのポケットから鏡を取り出していく。その鏡はフロディも見覚えがあった。スキュールンが身だしなみを整えるのに使ったものと瓜二つであるからだ。

 

「はい、こちらグリン。うん?【ロキ・ファミリア】がやってくる?指揮官が【九魔姫(ナイン・ヘル)】?分かりました、すぐに退却します」

 

 さっきまでの粗暴な言動とは違って真面目な口調になっているが、終わるとすぐにフロディに向き合う。

 

「どうやら、ここで打ち切りになったようだなぁ、坊主」

「いや、さっきの電話みたいな鏡はなんだよ!?」

「デンワ?っていうのは知らねぇが、ウチの『先生』が作ったもんでなぁ。【闇派閥(イヴィルス)】の構成員は全員持ってる。そういやぁ、『先生』もデンワとか言ってたなぁ………」

 

 ツッコミを入れるフロディに対して、断片的に説明を入れる相手の犬人は、懐から変な球を取り出す。

 

「そういやぁ、まだ自己紹介はしてなかったなぁ。俺はグリン。二つ名は『破槍の狂犬(ラエラプス)』って言うんだぁ」

 

 取り出した球を地面に叩きつけて煙幕を発生させる。

 フロディは、目をくらまされるが、煙幕が晴れると同時にグリンを探す。

 

 だが、最初からいなかったかのように、グリンは消えていた。

 

「逃がしてしまったか……」

 

 悔しさもあり地団駄を踏みそうな勢いもあるが、努めて冷静になろうとする。すると、

 

「フロディ!!無事でしょうか!?」

 

 ネメシスが憲兵を引き連れてやってきた。

 象を模した仮面を被っていることから、【ガネーシャ・ファミリア】であることを理解したフロディは、緊張感から解放されたのか、丁度いい高さにある瓦礫に座り込む。

 

「本当に無茶を……、いや、一人で向かわせた私にも責任はありますが……」

「いや、今回は俺が悪いよ。一人でできると思って行っちゃった……。今は子供なのに……」

 

 そう、フロディは前世の分を含めると大人に分類される年月を過ごしているので、ついつい自分が子供であることを忘れることがある。今回、一人で向かったのも、そんなうっかり忘れることもある自分の立場を度外視した結果ともいえるのかもしれない。

 

「さて、今から治療院に行きますよ。その顔を治してもらわないと……」

 

 そういってフロディの手を取るネメシスであるが、フロディはネメシスの目を見据える。

 

「ネメシス、一つ聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと?」

「うん」

 

 ネメシスに報告も兼ねた質問をしようとしたフロディであるが、それはまた後回しにされる。

 

「ここにおられましたぁ!」

 

 甲高い声を響かせるのは、剣を携えているエルフの女性であった。その後ろには、杖だの槍だのといったそれぞれの得物をもっているエルフが大勢やってきていた。

 

「フロディ、大丈夫か!?」

 

 その中心人物ともいえる立ち位置にいたのは、フロディと同様、翡翠色の長髪をしたハイエルフであった。

 

「あなたは……、リヴェリア様ですか?」

「あぁ、そうだ。だが、その前に、その顔の怪我は何だ!?」

 

 そういったリヴェリアは、フロディの顔に触れて傷の状態を確かめていく。

 

 所々腫れてたり、血を流したりしているその顔の状態に、リヴェリアは驚愕する。そしてその顔を見た他のエルフの反応はというと―――

 

「フロディ様がお怪我を……!!」

「何ということをっ!!すぐに治療を!!」

「下手人を今すぐ始末せねば………!!」

 

 すぐに大騒ぎになり、現場は混乱してしまった。

 

 里によっては神以上に崇めることもあるハイエルフが重傷を負っているのだ。そんな風に狼狽えたり、怒りの炎を燃やしたりするのは当然だと思われる。

 

 だが、フロディからしてみれば、鬱陶しいことこの上ない騒ぎなので思わず表情を無にする。おそらく、前世の記憶がなかったとしても同様の反応をするだろうと思っていた。

 

 ため息をつきながら、混乱する現場を落ち着かせようと動いていく。傷を見ていたリヴェリアも一緒に対応してくれたので、少しずつ収まっていった。

 

 

*     *     *

 

 

 時間が少し進んだところで、【闇派閥】が拠点にしている地下空間にて、撤退したグリンが治療を受けながら愚痴を零していた。

 

「あぁ~、クソっ!あのガキ、絶対ぶっ殺してやらぁ……」

 

 今回の戦いは、【ロキ・ファミリア】および【ガネーシャ・ファミリア】が騒ぎを聞きつけてやってきたことも手伝って途中で切り上げることとなったが、氷属性の付与魔法で攻撃された影響か、凍傷がまだ残っていた。

 

 今のグリンは、ペイルが開発したベッドを模した魔道具(マジックアイテム)で傷を癒しており、その経過観察にやってきたペイルに頭を下げる。

 

「調子はどうだい?例のハイエルフの少年にやられたってきいたけど?」

「おかげさまで、順調に回復しておりますぜ、『先生』」

「そうか。それで、【ロキ・ファミリア】がやってきたことは聞いたけど、そもそも何で君たちはあんなことをしたの?」

 

 あんなこととは、フロディがやってくるきっかけになった襲撃のことだ。

 

「特段、理由ってのはありませんよ。強いて言うなら、壊したいから壊す。それだけです」

「はぁ……。ヴァレッタもそうだけど、どうして君たちはそんな………、いや、これ以上は言っても無駄か…………」

 

 眼鏡を右手でかけ直しながらそのまま小指で眉毛をかくペイルに、グリンは唐突に質問した。

 

「そういえば『先生』。デンワ?って一体何です?」

「あぁ、それは気にしなくてもいいことだよ。不適切な僕の説明なだけさ」

「いや、それがですね。その戦ったハイエルフのガキが、『遠話鏡』を見て、デンワみたいって言ってたんですよ」

「…………何っ!?」

 

 ペイルはその顔を驚愕で埋め尽くした。

 

 普段から冷静沈着であることが多い彼の驚愕は、それなりの付き合いがあるグリンにとっては初めて見る光景だ。

 

「他に、そのハイエルフの特徴は?」

「えっと、一人でできると思ってるところですかねぇ。あの襲撃に助けを呼ばずに一人で来たんですよ、王族の癖に。それに、ハイエルフどころか、普通のエルフらしくない戦い方もしていましたねぇ」

 

 それを聞いたペイルは、グリンに礼を告げて退出しようとする。

 

「それと、他の構成員に伝えておいて」

「何をです?」

「『フロディ・リヨス・アールヴを生け捕りにすること』。僕からの命令ってことにしておいて」

「わ、分かりました…………」

 

 困惑を隠せていないグリンに目を向けることなくペイルは歩みを進める。

 

(僕以外にも、異世界からやってきた人間がいるのか…………)

 

 以前、アルベイム王国でフロディとスキュールンが戦っていたのを見た時、フロディから妙な気配を感じ取ったペイルは、その時のことを振り返りながら思考に耽っていた。

 

(さて、そのフロディ君に根掘り葉掘り聞いていこうか………。僕の目的のためにも、ね…………)

 

 心の中でそう呟いたペイルは、眼鏡を右手で直しながら、主神であるタナトスのところに向かうのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 同時刻、オラリオの地上部にある、医療系ファミリアである【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院にて、フロディは顔を包帯で包まれながら安静にして寝転がっていた。

 

「いくら何でも過保護じゃないの?ここ、特別室だよね!?」

「フロディ、私も時折忘れてしまいますが、あなたと私はオラリオと取引関係にある国の外交大使でもあるのですよ。ギルドからは丁重にするようにと、通達がされています。その上あなたは、今世では王族でもありますから………」

 

 そう言ったネメシスは、フロディのためなのかリンゴの皮を果物ナイフで切り取っていく。

 今回の襲撃に対応したフロディは、【ガネーシャ・ファミリア】からの事情聴取を受けようともしていたが、周囲のエルフから、『怪我をされたフロディ様に何てことを!!』と言わんばかりの殺気を放っていたので、治療を受けてからに色々後処理をすることにしたのだ。

 

 また、今回の襲撃をどこかから聞きつけたのか、ギルドから使者がやってきて、本件の徹底的な調査と再犯防止について説明してきた。まぁ、恩恵(ファルナ)を受けていないギルドの人間にできることは、どうしても限られてくるが…………

 

「まさか【九魔姫(ナイン・ヘル)】もやってくるとは思いもしませんでした。」

「そうだね。まぁ、幼い時に一度会ったには会ったから、それで来てくれたんじゃない?けど、エルフって同族意識がすごいからなぁ……」

 

 フロディと同じハイエルフの一人であるリヴェリアは、フロディと【闇派閥】が抗争をしていることを聞いて焦りに駆られていたことを、治療されているときに聞いていた。

 おそらく、アルベイムの王妃が亡くなったこともあって、忘れ形見でもある息子のフロディを守ろうとしたのだろうというのが、二人の見解であった。

 

「それにしてもフロディ、先ほどの話ですが…………」

「うん。【闇派閥】の『先生』とやらが、転生者であるのかもしれない」

 

 グリンの言っていた、『先生』も電話について知っているという趣旨の発言から、フロディは口では推測といった形でいうも、半ば確信めいた気持でもいた。なぜならこの世界において、遠隔通信のできるものはない。それ以前に、電気も通っていないので、そもそも電話という単語そのものに出くわす機会はないのだ。遠隔に連絡を取ることのできる手段は、どうしてもアナログなものでしか存在しないのだ。

 

「だから、俺以外に転生者がいるのだとしたら、そいつから何かしらの情報を得ることができる。前世の記憶持ちであることはほぼほぼ確定しているといってもいいのかもしれない」

「あなたと同じように、トリウィアが理由で死んだのか。そうでなくても、そもそも違う世界同士を行き来すること自体、私たち超越存在(デウスデア)でさえできない行為ですから…………」

 

 皮をむき終わって、バラ切りにしたリンゴを皿に盛りつけたネメシスはフロディに差しだす。

 

「いずれにせよ、私たちの目下の目標は―――」

「オラリオとの外交問題の解決、【闇派閥】への対処とそのための強化、そして、例の『先生』へたどり着くこと、の3つかな?」

「それに、あなたが転生することとなったトリウィアに関することも、調査するべきでしょう。ここはオラリオ、神々が多く集まっているので、彼女に関する情報があってもおかしくはありません」

 

 リンゴを食べ始めていくフロディとネメシスは、今後の課題について話し合っていくと、疲れていることもあって眠ることにした。

 

 こうして、オラリオにやってきてからの最初の一日は幕を閉じた。

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