転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか 作:野生の鹿
オラリオに来てすぐに勃発した【
【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院に搬送されてからも、特に傷つけられた顔を包帯で巻かれてミイラみたいな状態となったフロディであるが、すっかり傷も癒えて完治した。担当した治癒師からは、回復の速さにドン引きしていたが。
これといった後遺症もなく、無事に退院したことにより、改めてアルベイム王国の大使館へと向かうフロディとネメシスであるが、その道中において、大勢のエルフに取り囲まれることもあったのだ。
「フロディ様!!ご無事でっ!!」
「あぁ……、なんという幸運……!!」
フロディからしてみれば誰一人会ったことのない者たちがやってくるのだが、こういう対応をされるのはアルベイム王国にいた頃から度々あったので、適当にあしらうことにする。内心、鬱陶しく思いながら…………。
一方のネメシスは、一部のエルフからやっかみに近しい敵意を向けられていた。
理由は、幼いフロディをどのように籠絡したのかというものだが、それはとばっちりもいい所だ。しっかりとした合意の元で彼女の眷属となっていることをフロディの口から説明していくが、説明されたエルフは釈然としない顔をしていた。
まあ、フロディの前世について何も知らない彼らからしてみれば、そのような反応を示すのも無理はない。
「相変わらず、エルフというのは面倒な種族ですね」
「王国にいた頃からそういうものだと割り切ってたけど、ここでも同じ思いをするのはなぁ……」
無事に大使館へと着いたフロディとネメシスは、建物内の設備について確認を取りながら愚痴を零す。前任の外交官たちが残してくれた資料をもとに経費について考えていくが、本国から送ってくれる活動費もあってか深刻な問題とはなっていない。
オラリオとの外交についてはフロディとネメシスが担当し、必要に応じて人材を送ってくれるらしいことは事前に決められていたが、昨日に起きた襲撃もあって極力派遣されるのは避けたいというのがフロディの心情だ。
こうして、大使館で雑務を処理していき、一段落着いたところで出かけようとする二人に、客人がやってくる。
「ここがアルベイム王国の大使館か~、邪魔すんでぇ~」
「邪魔すんなら帰って~」
「はいよ~。って帰るわけあるかぁ!」
彼女の後ろには、翡翠色の髪をしたハイエルフがおり、女神に対して呆れた目を向けていた。
* * *
「いやぁ~、随分とノリえぇなぁ~」
アルベイム王国の大使館にやってきたのは、都市最大派閥【ロキ・ファミリア】の主神であるロキと、副団長でフロディと同じハイエルフのリヴェリア・リヨス・アールヴであった。
二日前の襲撃に駆けつけてきたリヴェリアとは、その場で少し話したくらいで、こうして向き合って話し合うのは初めてだ。
「先ほどのはおふざけが過ぎましたが、改めまして、フロディ・リヨス・アールヴと申します、リヴェリア様」
「いや、私にそんな仰々しい言葉遣いなど不要だ、フロディ。そもそも、私と同じ
「しかし、リヴェリア様は『アルヴの王森』の、いわば直系の王族で―――」
「直系であろうと関係ない上、我々は対等な関係だと目されている。それに、私は王族と扱われることを好んでいない。だから、そんな態度をとることはないぞ」
リヴェリアからの言葉を聞いたフロディは、怪訝な表情をしながら肩の力を抜いていく。
「それはそれとして、フロディ……、よく無事でいてくれたな。襲撃にあったと聞いたときは肝を冷やしたぞ」
「まぁ、今はこのように治ってるので心配しなくて大丈夫ですよ……。このような言葉遣いで大丈夫ですか?」
リヴェリアの望み通り、畏まった態度をすることなく、どこか砕けた雰囲気を出しながら接するフロディに対し、リヴェリアは安心したかのように息を吐く。
この二人の間にこれといった面識はない。
正確に言うと、まだフロディが赤ん坊の時に会ったことがあるくらいだが、リヴェリアから見ればあんなに小さかった子がこんなにも成長したのかという感慨を感じていた。
一方のフロディは、その時のことをしっかりと記憶しており、赤ん坊のみに行われる可愛がりに内心恥ずかしい思いでいっぱいだった。
そんなことは間違っても口には出さないようにして、話題を変える。
「それで、本日はどのようなご用件でここに………?」
「あぁ、先の襲撃の件と、お前たちの保護のためだ」
リヴェリアから【ロキ・ファミリア】の保護下に入るように言われたフロディとネメシスであるが、首を傾げる。
「なぜあなたたちが私たちの保護を?それに、二日前の襲撃の件は、突発的なものなのではないでしょうか?」
「おう、ネメシス。あの襲撃は確かに末端の連中が勝手にやったことや。うちらも把握しとる。せやけど、それをきっかけにそこの王子がオラリオにやってきたことを知ったっちゅうことが問題なんや」
「………つまり、報復をされかねないと………?」
「ご名答」
互いの主神が話し合っていく。
アルベイム王国での会議においても指摘した通り、【
「そんな連中から守るために、【
「そういうことだ、フロディ………。君までもが死んでしまうと、私は国王夫妻に会わせる顔がない………」
リヴェリアが悲しげな顔をして、心底心配するような声音で言ってくる。
だが、フロディは彼女の目を見据えていく。
「心遣い、感謝します。しかし、俺たちとしては、今後のオラリオとの外交をしていく中で、ギルドの傘下ともいえる【ロキ・ファミリア】の保護下に入ることは、客観的に見ると癒着を疑われてる可能性があります」
「癒着だと?」
「はい。俺とネメシスは、アルベイム王国の外交大使として、オラリオにやってきています。そのため、オラリオ内の特定派閥の保護下に入ると、何も知らない者からしてみればそう疑われても仕方ありません。俺たちとしては、中立性を保たなければならないのです。それに、【ロキ・ファミリア】の保護下に入ることは、アルベイム王国の面子が立たない。」
「なるほど、そちらの言い分は分かった。だが、お前1人でどうにかできるほど、【闇派閥】は甘くない。一人でできると思っているのかもしれないが、もう少し、自分の立場というものを弁えないといけないのではないのか?」
「それについても、重々承知しています。正直に言うと、さっきの外交上の懸念というのは建前で、個人的な感情としては、いくら同じ王族とはいえ、他派閥と貸し借りはあまりしたくない。それに………」
どこか言いずらそうに顔をしかめているフロディに、リヴェリアおよびロキは次の言葉を待つが、そこからさきはネメシスが引き継いだ。
「外交上の問題は他にもありますが、フロディは彼らにやられてそのまま幕引きになるのは、彼の性分に反することなのだと思います」
「んあ?ってことはお前さん、【闇派閥】に復讐するつもりなんか?」
「復讐?女神ロキ、それは母上のことを言ってるのですか?」
「えっ、違うんか?」
「復讐は既に、犯人の討伐で済んでいます。同じ派閥だからと、連中に対して恨みはないです」
フロディの言い分に、リヴェリアとロキはどこか驚いたかのような表情をしていた。
前世の記憶持ちとはいえ、外見は子供そのものと言ってもいいフロディの考えが、このように割り切りができていることに面食らったのだろう。
「なるほど………、フロディ、お前の言い分は分かった。だが、同族としてお前を放っておくことはできない」
「そういうと思いましたよ、リヴェリアさん。これは我儘であるということも、ね」
「あぁ。だが、今回はお前の意思を優先することにしよう。二度はないぞ………」
どこか諦めたかのようにいうリヴェリアに、フロディは頭を下げて感謝した。
こうして、互いの主神を交えた二人の王族の会合は幕を閉じた。
* * *
「して、ロキ、フロディについて何か感じたか?」
「う~ん、なんちゅうか、妙な気配は感じ取ったけど、より詳しいことは何も分からんって感じやなぁ」
「そうか………。あのように話してみると、同胞ではなくヒューマンと話している感覚に陥ったな…………」
リヴェリアの言葉に、ロキも同意を示すように首を縦に振った。
今回対面して感じ取ったのは、まず、本当に7歳のエルフなのかという疑問だ。
7歳にしてはしっかりしすぎており、大人っぽいなどというものではない雰囲気があったのだ。その上エルフにしては、どこか柔軟な思考をしていたのだ。全員がそうだとは言えないが、エルフは神々を軽視している者もいる。そんな中、リヴェリアから見て威厳があるとは言えないロキに対して、どこか物腰柔らかく応対していたので、リヴェリアは内心驚きっぱなしであった。
「それでロキ、フロディたちの話についてはどう思う?」
「おう、要するに公平性と面子のための保護の拒絶ってことやろ?一応筋としては通っちゃおるやろ。あの王子の思いは置いといて、【
「では、今の私たちにできることは…………」
「リヴェリアには悪いんやけど、ひとまずは静観ってことやな。さすがに二日前の襲撃であの王子も懲りてると思うから、しばらくは大人しくしてると思うで~」
その言葉に、リヴェリアはどこかやるせない思いに駆られていた。
閉鎖的な環境に耐えきれなかったことから『アルヴの王森』を出奔してきたリヴェリアが言えることではないが、まだ7歳のフロディを政治的な都合で守ることができないことに苛立ちを覚える。
「まあ、陰ながら見守ることを続けるしかないやろな」
「…………そうだな……。」
ロキとリヴェリアは、本拠地である『黄昏の館』に戻ることとなった。今も尚、【
* * *
一方、ロキとリヴェリアが帰った後の、アルベイム王国大使館では、フロディとネメシスが昼食をとっていた。
「まさか、急に王族がやってくるとはね………」
「それはしょうがないことでは?何も知らないリヴェリア王女からしてみれば、あなたは7歳の王子なのですよ、清剛。一応、向こうは納得はしてくれましたが………」
「う~ん、まあ、これから面倒なことにはなってくるけどね。しばらくは、大人しくするよ」
焼き魚を箸で食べながら宣うフロディに、ネメシスはウラノスとの会談について報告していく。
その内容を聞いたフロディの感想としては、「やっぱり悪名高いんだなあいつ」というものであった。
「ヘカテー様の精霊であることは分かるけど、ヘカテー様って冥府の女神だから、世界を行き来できる権能はないんでしょ?」
「えぇ、彼女にそんな力があれば、とっくにトリウィアを捕縛できています。そもそも、私たちが事態を把握できたのが、あなたという存在を知った時ですから………」
そういって目を伏せるネメシスに、フロディは頭を悩ませることとなった。
何も分からない状態であるのは依然として変わらないが、ウラノスと同じような提案をフロディもしてみる。
「そのヘルメスって
「………………………………そう、ですね」
めちゃくちゃ渋い顔をしながら答えたネメシスに、見たことのない顔をする彼女にフロディはドン引きしていた。
(何があったんだよ)
二柱の間にあった過去について気になってきたフロディであるが、それは個人に関わってくるものなので黙る。
そうして、昼食を食べ終えて、外交大使としての仕事を再開するフロディの元に、ある男性がやってきた。
「失礼いたします。フロディ・リヨス・アールヴ王子殿下、でお間違いないでしょうか?」
大使館にやってきたのは、ギルドの制服に身を包んだ、いかにも生真面目といった雰囲気を醸し出しているエルフの男性であった。
「そうですが、あなたは?」
「申し遅れました、フロディ王子」
そういって臣下のように振る舞うエルフの男は、自己紹介を始める。
「