転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか 作:野生の鹿
アルベイム王国の大使館にやってきたギルド職員であるブランズ・ドニールは、ギルドから派遣された【ネメシス・ファミリア】専属のアドバイザーに就いたということで、改めてフロディと対峙する。
「本日は急な訪問にも関わらず、対応していただき感謝申し上げます」
事務的ともいえる言葉遣いをして頭を下げた目の前のエルフは、フロディとネメシスの目を見据えて持参してきた資料を出していく。
「今日、ここに訪れたのは、フロディ王子ひいては【ネメシス・ファミリア】のダンジョン探索についての話し合いです。ギルドの上層部からは、ダンジョンの出入りについて聞いていますか?」
「えぇ。修練の場として、ダンジョンに出入りすることは許可されていると聞いていますが、他にも何かあるのですか?」
客人用にと出した紅茶を嗜みながら、ブランズの言葉に耳を傾けるフロディは、何か変更があったのかという疑問が浮かび上がるが、それは杞憂に終わる。
「いえ、【ネメシス・ファミリア】のダンジョン探索については、つい先日に行われたもので大丈夫です。しかし、フロディ王子には、諸注意がいろいろとあります」
「諸注意?」
疑問に感じたフロディとネメシスに、ブランズは淡々とした口調で説明していく。
「はい。まずダンジョン探索に関してですが、ソロでの探索は原則として禁止とさせていただきます。オラリオ内の特殊なファミリアとされていますが、アルベイム王国の要人でもある貴方様に死ぬことは我々としても無視できないことですので、ご了承ください。」
「それに関しては、俺が死んだら後継争いが起きるから気を付けろと言われてる。死ぬことはないように十分な対策を考えているつもりだよ」
「ソロ探索に関しては、私の方からも注意しておきます。一緒に探索するパーティに関しては、私の伝手から募ってみることにします。」
ブランズの説明に対して、二人は最初から分かっているかのように応えていく。
ダンジョン探索は、複数人で行われることが常識だ。ソロで挑むことができるのは、それに見合うだけの強さを持っている冒険者のみで、大抵の人間がそんなことをすれば無謀なことでしかない。
また、フロディはオラリオの友好国の王子だ。アルベイム王国としてはもちろんのこと、ギルドとしても死んでしまったら国際問題に発展しかねないのだ。そんなことになれば、国際問題で起きるであろう混乱に乗じて【
国のためにも死ぬわけにはいかないフロディは続きを促す。
「分かりました。次に探索の内容ですが、まずフロディ殿下には、ダンジョンに関する講習を受けさせてもらいます。申し訳ございませんが、これは
「「
ブランズの言葉に、二人は首を傾げるが、理由について説明していく。
「この講習はギルドからの命令ではなく、私個人の考えに基づいて、必要であると判断した次第です。ダンジョンの各階層には、ギルドから適正とされるものは設けられていますが、それはあくまでも基準です。たとえ基準を満たしている階層にいたとしても、強化種をはじめとした
ブランズの説明に納得した二人は、二つ返事で了承した。
「私の方から言うことは以上になりますが、何かご質問はありますか?」
「こちらからの質問は、具体的な日時ですが…………」
そう言うとフロディとブランズは、ダンジョンに関する座学を行う日時を互いに擦り合わせをしながら決めていく。
ネメシスの方では、天界にいた頃からの伝手を使って、フロディがダンジョン探索をするためのパーティを募っていこうとする。
それぞれがやるべきことを決めていき、翌日にギルドからアルベイム王国の大使館へとやってきたブランズは、早速座学に取り掛かることになった。
「それでは始めていきます、殿下。よろしくお願いします」
「お願いします」
そういって持参してきたカバンから複数の資料を取り出して広げていく。
「まずはモンスターに関する座学です。上層に出現するモンスターについて、じーーっくりと、頭の中に叩きこんでもらいます」
そう言い切ったブランズは、フロディに対して指導を行っていく。
こうして、フロディとブランズの間には、ある種の師弟関係のようなものが出来上がっていくこととなる。だが、フロディはそうした座学を受ける日々の中で、他のエルフにはない違和感に等しいものを覚えていくこととなる。
例えば―――
「それではここで復習としましょうか。上層におけるモンスターの中で、『新米殺し』という異名を持つモンスターとその特徴について答えてください」
「えぇっと、キラーアントとウォーシャドウで、特徴は…………」
そういって羊皮紙にそれぞれの名前と特徴を記していくフロディは書き終えるとブランズに手渡すが、ブランズはそれを見て採点する。
「大体は当たっておりますが、特徴のところに不備が見受けられます。やり直しです。」
淡々とした口調でそう言うと、該当する資料を引っ張り出して、フロディに学び直すように促してきた。この日は太陽が沈むまで続けられた。
また、ある時には―――
「次に、冒険者の死亡率の高い層域は上層ですが、それ以外で最も多いのはどの階層でしょうか?」
「えっと、13階層ですよね………」
「正解です、その理由は?」
「えっと………」
答えに詰まったフロディは、すぐに資料を見返そうとするが、チョップするかのように手を差し出してブランズは止めた。
「まだ、頭に定着できていないようですね。ちょっと前に学んだばかりでしょうに………」
有無を言わさない雰囲気を出して、淡々とした口調でまくしたてるブランズに、フロディは自分の学習不足、定着不足に苛立ちを覚えながら向き合っていく。
このように、曲がりなりにもハイエルフであるフロディに対して、ブランズは、淡々とした口調で丁寧な言葉遣いながらも、割と厳しい態度を向けてきた。一般的なエルフであればこのような態度をとることは難しいのである。
探せばいるのかもしれないが、いちギルド職員にそんな度胸があるのかといわれると首を傾げてしまうのが、今まで煩わしいエルフを相手にしてきたフロディの感想である。
* * *
「では、本日の講義はここまでです。何かご質問はございますか?」
「あの、質問というか、聞きたいことがあるんだけど………」
ブランズの講義を受けてからしばらくの日々が経過し、もうそろそろ終わりが見えてきた段階に移ったタイミングであるが、フロディは早速聞き出すことにした。
「ブランズさんって、他のエルフと違ってスパルタですよね……。何か理由があるんですか……?」
「―――」
フロディの聞きたいことに、ブランズは少し硬直したがすぐに我に返る。
「今までの態度は、決して無礼な態度ではないと認識しておりますが、何かご不満が?」
「いやそういうことじゃなくてですね……、他のエルフと違って、変に持ち上げることはないから、どうしてなのかなって気になっちゃって…………」
フロディの言葉に、ブランズは少し考えるかのように腕を組む。そうして、資料を片付けながらであるが、説明を開始していく。
「そうですね………、正直なことを言いますと、私はハイエルフをあまり崇拝していないのですよ」
「えっ、そうなんですか!?」
ブランズの言葉にフロディは驚きの声を上げる。
ハイエルフに生まれかわった
そんな一般的なエルフとは異なり、目の前のギルド職員でもあるエルフは、ハイエルフに対して崇拝していないという初めて出会う人物だった。
「無論、表向きは同胞と同じ対応をしていますが、私から見れば、なぜそこまで崇めることができるのか、疑問でしかないのです。私から見て、彼らの行っている崇拝は、盲信もしくは狂信と見なしているのです。敬意を表することはあっても、自己の判断を手放して行う崇拝は、王族以前に、一人の人間でもある彼らへの態度としては、不適切なものであると判断しております。ですので、あなたが指摘した同胞を見ると、『またか……。』って思ってしまうんです」
ハイエルフを崇拝していない理由を説明したブランズは、次の説明に移る。
「そして、私が貴方様への態度が厳しめだったのは、これが貴方様のためにもなると判断したからです」
「まぁ、実際にこれは俺も感じてるよ。知識不足で死なせないようにって」
「はい。はっきり申し上げますと、殿下にはダンジョンに潜ってほしくないのです。命を落とす結果になるのでね。しかし、ここまで厳しめに接しても、ついていこうとするその気概に負けました。」
そう言い切ったブランズは、改めてフロディに向き合うと、何か誓いを立てるかのような口調で言う。
「私は一人のエルフでありますが、同時にギルドの職員、フロディ様の専属アドバイザーです。殿下の命が最優先である以上、私は私なりのやり方で、最善を尽くして参りたいと思っております。殿下の望みに逆らうことになろうとも、です…………。それに、二度も過ちを繰り返すわけにはいきませんから…………。」
ブランズのその瞳からは、決意あるいは使命感がこもっていることを察したフロディは、彼に感謝と敬意を示すようになった。
同時に、ブランズが自分のアドバイザーになってくれたことに、幸運に恵まれているとも思っていた。
* * *
ブランズの胸中を聞いた1週間ほどの間、フロディは座学を終わらせていこうとしていた。
あれからも、ブランズの座学は厳しめであるが、それについていこうと努力しているフロディによって、順調に進んでいった。
正解するとほんの一瞬だけ頷いたり、間違えても厳しめだが以前よりも短めな叱責で済むようになった。それほど、フロディという男を理解したということだろう。
そうして、ダンジョン探索を始めてもいいという段階になったところで、ネメシスがフロディに報告してきた。
「フロディ、探索パーティのことですが、少しよろしいでしょうか?」
「大丈夫だよ。もしかして、見つけられた?」
座学が終わり、そろそろ夕食を食べようか思っていた時のことだ。
ネメシスがまだ天界にいた頃からの伝手を使って、フロディのダンジョン探索に手を貸してくれる人物を探してくれて、その結果を聞くことになったのだ。
「【ガネーシャ・ファミリア】からですが、
「【ガネーシャ・ファミリア】から?」
オラリオにやってきたときも検問をしていた【ガネーシャ・ファミリア】であるが、彼らは都市の憲兵を担っていることもあってか、【闇派閥】への対処をしている。そんなファミリアからサポーターを雇い入れることができたのかとフロディは疑問に思った。
「【ガネーシャ・ファミリア】は治安維持のために毎日忙しいはずだよね?そんなところからよく雇うことができたね」
「えぇ、私もダメもとでしたが、主神のガネーシャが聞き入れてくれて、Lv.2のフロディに適していると判断している人を選出したそうです。そもそも、私たちの目的に【
フロディ―――もっというと【ネメシス・ファミリア】は、少し前にあったリヴェリアの属する【ロキ・ファミリア】からの保護を、外交上の公平性と王国の面子のためと断っている。今回の【ガネーシャ・ファミリア】と手を組むことは、保護を断ったときの理由と矛盾しているのではないか、とフロディは脳内によぎったが、それはネメシスによって否定される。
「この【ガネーシャ・ファミリア】との協定は、あくまでも対等な立場での協定です。それに、【ガネーシャ・ファミリア】との関係が今後続いてくことになろうとも、外交上の公平性に影響することはありません。」
「けど、向こうから素材をくれって言われたら?」
「そう言われたら、ギルドを通して申請してくださいと返しましょう。オラリオとアルベイム王国の貿易は、ギルドが担当することになっていますし、彼らから要求されてもお門違いでしょう」
「なるほどねぇ。それに、何か言われても【闇派閥】との戦いにおける連携の強化を主目的にすれば、納得させられるということかい?」
フロディの言葉に、ネメシスは頷き、夕食をささっと準備していく。
「とりあえず、明日そのサポーターの方と会うことになります」
* * *
こうして、翌日の午前中に、【ネメシス・ファミリア】が本拠としているアルベイム王国大使館に、彼らはやってきた。
「俺がっ!ガネーシャだ~!」
顔の上半分に象のような仮面を被っている半裸の男神が、開口一番、そういって自己紹介してきた。彼こそが、【ガネーシャ・ファミリア】の主神であるガネーシャである。
「えっと、私は、フロディ・リヨス・アールヴ、です……」
「無理に合わせなくて大丈夫です、王子」
ガネーシャに合わせて自己紹介したフロディであるが、青色のショートカットの女性が止めに入る。
「改めまして、お初にお目にかかります、フロディ王子。私は団長のシャクティ・ヴァルマと申します」
「シャクティ団長が直々にやってきたのですか?」
今、自分が見上げている女性が【
「この後に協定を結ぶことになりますが、【ネメシス・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】は、【
「なるほど。分かりました。」
「それでは、早速本題に入りましょうか」
シャクティの言葉に納得したフロディとネメシスは、早速本題に入っていく。
主神と団長と共にやってきた人物は、ヒューマンの男であった。外見から察するに、十代前半であることが分かる。金髪のショートカットで、護身用なのか背中に剣と盾があった。
「初めまして、フロディ王子。私はギルス・グリットといいます」
どこか爽やかな笑みを浮かべる少年――ギルスは、執事のように胸に手を当てて礼をする。
「こちらのギルスが、君と一緒にダンジョンを探索することになります。彼の武器を見るとお分かりになると思いますが、前衛としてあなたをお守りします」
「ちなみに、彼が選出された理由は一体何でしょうか?」
シャクティが紹介を引き継ぎ、選出された理由について説明する。
「まず、フロディ王子が死ぬ事態を防ぐためにも、前衛の盾役もしくは
「それに、今の【
ガネーシャが補足するように割って入る。
そう言われると、ダンジョン探索どころではないことに申し訳なさを感じたが、シャクティは説明を続けていった。
「そこで、前衛の盾役であるギルスに白羽の矢が立った。彼はまだLv.1ではありますが、スキルによって上級冒険者に引けを取らない戦闘力を持っています。ステイタスの方でも、偉業次第で
シャクティの説明に、フロディとネメシスは納得する。
【闇派閥】に対抗するためには強くなる必要はあるが、それは【ガネーシャ・ファミリア】の方でも同じで、互いに強くなるために、一緒にパーティを組ませてダンジョンを探索させるというのは理にかなっているのかもしれない。
盾役ということもあって、フロディの身の安全を守ることができるのは、心強い。
「分かりました。では、早速ダンジョン探索について話し合っていきたいんですけど、大丈夫でしょうか?」
「えぇ、構いませんよ」
「それと、できればでいいのですが、その、別に敬語を使わなくても大丈夫ですよ。冒険者としては新人ですし………」
「いえ、あなたは王子でありオラリオ友好国の外交官でもあります。敬語を使わないのはさすがに…………」
敬語を使うか否かでシャクティとフロディの間でごたごたが起きるが、ギルスが間に入って止めようとする。
「まあまあ、それよりも探索について話し合いましょう。ね?」
結構、強引に打ち切ってフロディに促すと、フロディは大使館内にある会議室に案内する。シャクティは別件によりここで退出することになった。
ネメシスとガネーシャは、何か秘密の相談事があるということで、フロディが案内したのとは別の会議室に向かう。
こうして、それぞれが話し合いをしていき、フロディとギルスの
* * *
探索することになったのは二日後のことであった。
この日はダンジョンに慣れてもらうため上層を中心に探索することになった。
ダンジョンに潜り込もうと、ダンジョンの入り口であるバベルに向かっていると、これからダンジョンに探索しようと冒険者が多く集まっていた。
結構な人だかりを見せていたので、ギルスを見つけるのに時間がかかると思っていたが、そんな懸念はあっさり崩された。
「どうも、フロディ王子。時間ちょうどですね」
初めて会ったときと変わらず、爽やかな笑顔を見せる彼にフロディは顔を見上げなら頷く。
「結構な重装備ですね、ギルスさん」
「まあ、戦う時はいつもこの装備ですよ。自分に結構あっているというか」
ギルスはフロディが指摘した通り、どこか明るめの色をした鎧を身に纏っており、どこか暑苦しさを感じさせていた。背中には、護身用のものとは別の、ギルスの身体とほぼ同じ大きさの大盾が背負われていた。
一方のフロディは、動きやすさを重視した
「それではフロディ王子。探索に行きますか!」
元気溌剌なギルスの声にフロディは返事して、気を引き締めていく。
こうして、ギルスの先導の元、フロディの初めてのダンジョン探索が始まっていった。