転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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上層探索

 フロディとギルスがダンジョン探索について話し合っていた時まで遡る。

 

 この話し合いと並行するように、ネメシスとガネーシャは、別の会議室で話し合っていた。

 

「それにしても、よく了承してくれましたね。【ガネーシャ・ファミリア】は、【闇派閥】への対応で忙しくしているとよく耳にするので………」

「あぁ、だがお前たちは【闇派閥】と因縁がある上、先日の襲撃で奴らに狙われる可能性が大いにあると判断した。そして、俺がお前らに協力を決定したガネーシャだ!」

 

 相変わらずの言動を見せているガネーシャに内心呆れているネメシスは、ガネーシャに対してあることを話していく。

 

「ガネーシャ、ウラノスから話は聞いていますか?」

「あぁ、例のトリウィアのことだろう?ウラノスから大まかなことは聞いたが、まさかフロディ・リヨス・アールヴに目を付けているとは驚いたぞ……」

「えぇ。そのことについてですが、ガネーシャの方で何かトリウィアに関して知っていることはありませんか?」

 

 机を挟んだ先にいるガネーシャに、ネメシスは質問していくが、ガネーシャはどこか無力感を彷彿するように唸る。

 

「トリウィアのことだが、俺もウラノスと同じように、下界に降りてからの奴の動向には全く分かっていない。それに、あいつが別の世界に行き来できることについても初耳だ。分身元のヘカテーにも、そんなことはできないだろう?」

「えぇ、ですので、彼女は別の神の協力を得ている可能性があります。その神が誰なのかまでは分かりませんが…………。ガネーシャ、あなたの知っている人物で、そういう事物を司る神はいますか?」

「うむ、異世界を行き来できる神、か………。俺は全く知らないが、もしかするとヘルメスはしってるのかもしれん。一度、あいつに相談してみるのも一つの手だぞ、ネメシス」

 

 そう言われたネメシスは、やはりこういう展開になるのかと内心ため息をつく。

 

 ヘルメスは、ネメシスと同郷ということもあってか、多少なりとも彼について知っている。大神であるゼウスの使いっ走りで、食えない性格をした男神だ。

 

 天界にいた頃、ネメシスは自身の司る事物である『義憤』に基づいて、悪行を働いた者たちを罰していく日々が続いていく中で、ヘルメスに散々に利用され続けてきたり、その過程で罰すべき人物を逃がされたりといたことが多くあり、彼のことを詐欺の神と見なしている。

 トリックスターともいえるヘルメスに対して、ネメシスは信用することが難しい上、一度でも借りを作ると、それを利用して何かしら要求してくることを危惧しているのである。

 

「…………分かりました。私の方から、ヘルメスに対して話しましょう」

「うむ。トリウィアの件については、ひとまずそれでいいだろう」

 

 ガネーシャにそう言われ、ネメシスは次の話に移っていく。

 

「ガネーシャ、【闇派閥】についてですが、アルベイム王国に現れたアルディについて何か知っていますか?」

「もしや、改造人間のことか?彼らについては、俺たちも依然として調査中だ」

 

 ガネーシャの言葉に、ネメシスは怪訝な顔をする。

 

「彼″ら”?つまり、改造人間というのは、他にもいるという認識でいいですよね?」

「そうだ。改造人間とは、俺たち『秩序』側にいる者たちでそう呼んでいるだけで、【闇派閥】の間では別の呼び方があるのかもしれない。とにかく、生死を問わずモンスターの部位を人間に埋め込んで傀儡にしている。元冒険者が含まれていることもあってか、上級冒険者に引けを取らない強さを持っている厄介な兵士だ」

 

 ガネーシャの説明に、死んだアルディがかなりの強さを持っていたことに少し疑問が解消するが、まだ分からないことがあるのだ。

 

「【闇派閥】には、それら改造人間を生み出せる人材がいるということですか?」

「あぁ、【闇派閥】の構成員から『先生』と呼ばれてる人間がそうだと睨んでいる。だが、それが一体どんな見た目をしているのか、どういう性格をしているのかまでは把握できていないんだ」

 

 『先生』という単語に、ネメシスは僅かながらに目を見開く。

 

 フロディと同じように、異世界転生した疑惑のある人物である『先生』のことを、フロディとネメシスは探そうとしている。転生もしくは死亡した理由によっては、トリウィアにたどり着くことのできる数少ない証拠になり得るのだ。

 

「とにかく、その『先生』によって厄介なものが生み出されているのは間違いない。【闇派閥】は、いつどこに現れてもおかしくはない。無論、ダンジョンであってもだ。」

「だから、フロディに傷つかせないように、盾役であるギルスに護衛させるのですね」

 

 ネメシスは、これからも【闇派閥】による襲撃は絶えることはないことに怒りを示すも、ダンジョンに潜ることのできない超越存在(デウスデア)であることに、無力さを感じるしかなかった。

 

 

*     *     *

 

 

 時は戻って、ダンジョンに入ったフロディとギルスは、上層を探索していた。

 

「うぉりゃぁ!!」

「せやぁ!!」

 

 ダンジョンの上層に位置する7階層にいる二人は、モンスターの襲撃に遭うが、Lv.2のフロディは難なく対応し、Lv.1のギルスは手こずりながらも、自慢の耐久力を駆使して対応する。

 戦っている相手の中には、『新米殺し』と言われるウォーシャドウがいるが、モンスターの攻撃を見切りつつ反撃をしていく二人は、次々にモンスターを倒していき、やがて全滅に追い込ませた。

 

「これで終わったかな?ギルス!そっちはどう?」

「こっちも終わりましたよ、王子」

 

 モンスターからの攻撃を防ぐのに使った大盾の損耗を確認しながらフロディに返事したギルスは、周囲を確認しながら魔石を拾い上げようとする。

 

「この調子だと、上層どころか中層にも行けると思いますよ」

「うん。だけど、探索初日にいきなり中層に行くのは、さすがに危険だと思うよ。中層に行くのはもう少し先になるのかな」

 

 外交官としての仕事をこなしながらのダンジョン探索を計画するには、年単位で考えていかなければならないと思っているフロディは、どうするべきかを考えながら魔石を集めていく。まあ、ダンジョン探索に人生をささげている冒険者も中にはいるので、そんな舐めていると捉えかねない考えは決して口外しないが。

 

「それにしても、ギルス。本当にLv.1なの?なんか、上層のモンスターなんか敵でもないように倒していくけど………」

「Lv.1といっても、私の場合はランクアップできるステイタスなので、ここの階層に出現するモンスターに後れを取ることはないですよ。それに、【ガネーシャ・ファミリア】は都市の治安維持だけでなく、ダンジョン探索にいくこともあるので、ダンジョンにおける立ち回りは、徹底的に叩き込まれているんですよ」

 

 ギルスの説明に納得したフロディは、そういえばスキルによって上級冒険者に引けを取らない戦闘力があると言っていたな、と思い出した。

 王族のフロディに配慮しているのか、率先して前に立つギルスはサポーターの役割も兼任していた。さすがに申し訳ないので自分がやるとフロディも言ったが、お互いに譲り合うことはなかったので、結局フロディが折れたのだ。

 

「それはそうと、フロディ王子。本当にエルフ何ですか、あなた?」

「急にどうしたの?」

 

 見たらわかる通りの質問をしてくるギルスに、フロディは思わず怪訝な顔をする。

 

「いや、さっきの戦いもそうですけど、エルフにしてはどこか荒々しいというか、所々、モンスターの顔面を殴ってたじゃないですか。普通、武器があるのに、モンスターを殴りに行くというのは、エルフとしては考えないのではないのかな、て…………」

 

 恐る恐る、といった感じで質問の意図を説明していくギルスに、フロディは理解する。

 

「正真正銘、俺はエルフだよ、ギルス。それに、見境なく殴ることはないよ。戦いの手段の一つだから、殴っているだけだ。ギルスも必要に迫れば、殴ることだってあるでしょう?」

「それは、そうですね…………」

 

 渋々、といった感じでそう返すギルスは、これ以上考えても無駄であると悟ったのか、表情を切り替えていく。

 

「さて、魔石も拾い終わったことですし、次のところに行きましょう」

「次は確か、8階層だったかな?」

 

 そういって確認するフロディは、先日に受けたブランズによるダンジョン座学を振り返ってみる。

 今の階層にも出現したウォーシャドウ以外にも、『新米殺し』といわれるモンスターが出現することもある階層で、ルームが広くなっていくことがあると記憶している。『怪物の宴(モンスター・パーティ)』と呼ばれる現象が起きるのは10階層からだが、それに近づくことになるので、異常事態(イレギュラー)が起きることも想定して慎重にならなければならないと厳しく言われている。

 

「ここからは慎重に行きましょうか、王子。他の冒険者から『怪物進呈(パス・パレード)』をしてくるなんてこともありますから」

 

 ギルスの言葉に深くうなずいたフロディは、改めて気を引き締めていく。何かしら起きてもいいように、退路を確保していこうと考えていくフロディは、ギルスと共に8階層へと降りていった。

 

 

*     *     *

 

 

 8階層へと降りていったフロディとギルスは、案の定というべきか厄介事に巻き込まれていた。

 

 はっきり言って、事前に【ガネーシャ・ファミリア】や【ロキ・ファミリア】から情報を仕入れておけばよかったと後悔しているフロディは、そんな思考から切り離して目の前の敵に攻撃を仕掛けていく。

 

「ぐぉぉっ!」

「がはっ!」

 

 盾役のギルスのおかげで、唯一の魔法である【ディア・ゲルズ】を発動して四肢と剣に氷を付与させたフロディは、敵を攻撃していく。

 

 そうして次の標的に目を向けたフロディは、白の衣服に包まれている集団を見て、内心ため息をつく。

 

「ペイル様の指示だ!ハイエルフの王子を生け捕りにするぞ!!」

 

 そう、フロディとギルスが相手にしているのは、【闇派閥(イヴィルス)】であったのだ。

 

 ダンジョンの中でも活動していることに、内心どこから入ってきたのかという疑問が浮かび上がったが、どうやら相手は自分を生け捕りにすることが目的だと察したフロディは、容赦なく攻撃を仕掛けていく。

 

「ふんっ!!」

 

 一緒にいたギルスも、大盾を突き立てて突進していき、【闇派閥】の構成員を吹き飛ばしていく。フロディとは違い、やはりLv.1ということもあってか、身体には傷がつけられていた。これは、長文詠唱が完成するまでの間、フロディのことを攻撃から身を挺して守ってくれたことも理由の一つにある。

 

「ギルス!!そこをどいてくれ!!」

「っ!分かりました!!」

 

 そう言ってギルスは、壁側に移動し盾を構える。

 

 丁度、【闇派閥】の構成員が集まっているところに、フロディは猛攻を仕掛ける。

 

「【吹雪よ(ブリザード)】!!!」

 

 そう言って剣を突き刺すようにかざすと、剣から冷気が発生していく。

 

「っ!まずい!すぐにてった、い、を…………」

 

 退却の指示を出そうとしたリーダーらしき人物は、構成員に命令が届くことなく、フロディの魔法で発生した冷気に飲み込まれて凍らされていく。

 他の構成員も同じように、フロディの発生させた冷気により氷漬けにされていき、やがて大多数が動くことができなくなった。

 

 そうして大多数の人間を飲み込ませた冷気は、やがて一つの大きな氷塊となっていた。

 

「強いじゃないですか、王子…………」

 

 その強さに恐れと尊敬が半々といった感じの感想を漏らすギルスは、フロディの魔法の餌食にならなかった構成員に対して、剣で斬りつけたり、大盾で殴って気絶させたりして再起不能にしていく。

 

 一方のフロディは、魔法の使いすぎによって精神疲弊(マインドダウン)が起きそうになっていた。《冥霊祝福(スキル)》の発動条件を満たしていないためか、マインドが回復する気配がないので、付与魔法をいったん解除させて、討ち漏らしともいえる残りの構成員を殴っていく。

 

「さて、これで終わりかな…………」

「えぇ、まさか【闇派閥】がここにも出てくるとは…………」

 

 ようやく対処を終わらせたフロディとギルスは、ダンジョンの齎す異常事態(イレギュラー)ではなく、【闇派閥】という人災が起きるとは微塵も思わなかった。

 

「【ガネーシャ・ファミリア】の方でも、こういうことは出くわしたことはないのか?」

「いや、ダンジョンでの巡回を担当している者たちから聞いてはいるのですが、その頻度は少し………どころか全くといっていいほどないんですよ。【闇派閥】の方も、その辺りのことについて考えて行動しているのかもしれません」

「つまり、何かしらの目的があってダンジョンに潜っているということか…………」

 

 今回はフロディの生け捕りであるが、それ以外にどのような目的があるのかということにも興味が沸いてしまう。

 

「そういえばさ、ダンジョンの出入りってギルドが管理しているんだよね?なのに思いっきり犯罪者集団の【闇派閥】がここにいることって、不自然じゃない?」

「はい。それについては、我々の方でも疑問に思いました。どうして彼らがダンジョンに出入りすることが容易なのか、と…………。バベル以外に、ダンジョンを出入りすることができるのではないかという推察もあるのですが、今のところ確証はないので、なんとも…………」

 

 悔しさを滲ませながら言ってくるギルスに、フロディはどのように言葉をかければいいのか分からなくなった。

 

 まだ出会って数日であるが、フロディはギルスのことを好感の持てる人物だと評価している。治安維持を務める【ガネーシャ・ファミリア】の所属ということもあってか、正義感のある彼がこのように悩んでいるところをみると、彼の力になりたいと思うが、フロディはその方法がどうしても思いつけなかった。

 

「とりあえず、これら構成員は、私たち【ガネーシャ・ファミリア】で引き取りますので…………」

「うん。俺も手伝うよ」

 

 そう言ってフロディは、自身の魔法で凍結させた構成員が多くいる氷塊を押し出して、移動させていく。氷漬けにされているが、あくまでも戦う力を奪うことに終始した使い方だ。スキュールンの一件もあってか、フロディは無意識のうちにこのような制御ができるようになったのだ。彼らに取り調べを受けさせるために運ぶことにしたのだ。

 ギルスと二人がかりでも、動かすのに結構な労力と時間を費やすことになった。

 

 途中、ダンジョンの巡回をしていた【ガネーシャ・ファミリア】の団員と偶然出会ったので、一緒に運んでいき、ダンジョンから出てバベルの外に出た時には、すでに夕日が沈もうとしていた。

 

 こうして、フロディの初めてのダンジョン探索は幕を閉じた。

 

 

*     *     *

 

 フロディとギルスが、ダンジョンで起きた出来事を処理させていき、外は既に暗くなっていた。

 

 しかし、ギルド本部では静かに歯車が狂い始めようとしていた。

 

 すでに夜になっているが、それとは関係なしに、とあるデスクの明かりが点けられていた。

 

「こんな時間でも残業ですか、ドニールさん?」

 

 そのデスクに近づいていくのは、赤髪の狼人の女性で、名をローズという。まだギルド職員になったばかりのド新人だ。

 そんな彼女に話しかけられたのは、ブランズ・ドニール。フロディの専属アドバイザーでもあるギルド職員だ。

 

「ローズさんですか。そういう君もどうしてここにいるんですか」

「ついさっきまで残業だったんですよ。それは置いといて、優秀なドニールさんがこの時間まで残業って、珍しいことじゃないんじゃないですか?」

「あぁ。私はまだまだ調べることがあるので、退勤しても大丈夫ですよ。ギルド本部の戸締りは、私の方でやっておきますので」

 

 ブランズの言葉に素直に従ったローズは、荷物を手にギルドを去っていく。

 

 一方、書類に向き合っているブランズは、真剣な表情で文字を目で追っていく。

 

(この記録もおかしい…………。どうして、アルベイム王国からの金が、ギルドの帳簿と一致していないんだ?)

 

 ブランズが手にしている資料は、元々は同僚が所持していたものだ。

 

 だが、その同僚はもう、この世にいない。

 フロディがダンジョンの探索に出向いているのと同じ時間帯に、その同僚が自殺したのだ。

 

(あいつが自殺する理由が思いつかない…………。それにこの資料も、どうして俺に渡したんだ…………?)

 

 ブランズが読んでいる資料は、彼が自殺するよりも前に渡してきたものだ。その後、身の回りには気を付けろ、なんて言っていたのだ。

 

(もう少しだけ追ってみるか…………。最悪、殿下にも確認していこう…………。)

 

 同僚が自殺した理由は分からないが、よっぽどの理由があると睨んだブランズは、彼から渡された資料を読み漁り、少しずつであるが真相を解き明かそうとしていた。

 

 そんな彼が数か月後に、フロディと肩を並べて戦うことになるのは、この時は誰も思いもしなかった。

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