転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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疑惑浮上

 初めてのダンジョン探索をしてから1週間ほどが経過したその日、フロディは大使館で仕事をしていた。

 

 ダンジョン探索は、あくまでも自分が強くなるための手段であり、今は外交大使としての仕事をこなしている。

 オラリオと協力してやるべきことは、【闇派閥(イヴィルス)】の対処だけでなく、オラリオとアルベイム王国の双方に利益のある関係性を構築することもある。現在、微妙なものとなっている貿易がその典型だろう。

 

 執務室にある机に向き合っていると、ノック音と共にネメシスが入室してきた。

 

「フロディ、あなたに客人が来ました。」

「俺に客人?」

 

 訝し気な表情を見せるフロディに、ネメシスの背後からエルフの男が現れる。

 

 専属アドバイザーであるブランズだ。

 

「しばらくぶりですね、殿下。調子はいかがでしょうか?」

「ブランズ?座学があるわけでもないのに、何かあったの?」

 

 ここ1週間の間でも、ブランズによるダンジョン講習は行われていた。そんな中で、フロディはブランズの性格について少しずつ理解してきた。真面目であるのはもちろんだが、彼は無駄になることを避けているのも分かっているので、フロディは、ブランズが何か重要な用があってここに来たことを理解した。

 

 こうして、部屋の中に案内されたブランズは、部屋の中にあるソファに座り口を開いていく。

 

「つい1週間ほど前になりますが、殿下、ギルド職員が一人自殺しました」

「それは俺も知ってるよ。理由が分からずに死んだってギルスが言ってた」

 

 それはフロディも把握していた。

 フロディとギルスがダンジョン探索に出ているのと同じ時間帯に発覚したことで、遺体を発見した【ガネーシャ・ファミリア】の仲間から聞いたギルスが驚いていたのは記憶に新しい。

 

「えぇ、その職員の名前はホルストといい、私の同僚でもあります。ここからが本題になりますが、私は彼が自殺ではなく、【闇派閥】に殺されたと思っています」

「【闇派閥】に…………?」

「それはどういうことですか?」

 

 フロディとネメシスが疑問に思っていると、ブランズは持参してきたカバンの中から資料を取り出して、二人に見せていく。

 

「こちらは、ホルストが生前、渡してきた資料ですが、アルベイム王国にも関わってくるので、今日お伺いした次第です」

アルベイム王国(うち)にも?」

 

 ギルド職員の自殺に、祖国が関わってくることになるとはフロディはもちろん、ネメシスも驚きを見せていた。

 

「こちらは、ギルドの取引履歴を示した資料です。このように、ギルドにおける取引に関連する金の流れが記されていますが…………、所々に、記録上の金額が違っております。そして、より詳しく内容を見ていくと、無視できない金額はもちろん、取引の相手についても………」

 

 ブランズが指先で資料を示していく。

 

 その示されたところには、見覚えのある名が記されていた。

 

「スレイン商会………!?」

 

 フロディの隣で、ネメシスが驚愕の声を漏らす。

 

 またしても、過去の敵に関する因縁が再燃することになった二人は、言葉を失うしかなかった。

 

 

*     *     *

 

 

「ギルドを通じた迂回融資、と解釈できますね、それは…………」

 

 【ガネーシャ・ファミリア】の本拠地、『アイアム・ガネーシャ』に訪れたフロディは、大盾の修繕をしていたギルスと話していた。ここ1週間で打ち解けることができたのか、こうして気軽に話すほど距離は近くなった。

 

「ドゥウェイン・アルディは、何年も前からギルドの協力の元、スレイン商会を支援していたってことになりますね」

「うん。少なくとも、俺たちが調査を始めたきっかけになったあの取引は、あくまでも氷山の一角で、何年も前からギルドを通じて【闇派閥(イヴィルス)】を援助していただろう」

 

 それは、ギルドの内部に【闇派閥(イヴィルス)】の内通者がいることを意味している。

 

 ギルドとスレイン商会の間には、新規事業のための補助金という名目で金が流れており、ブランズがホルストから受け取ったというあの資料や帳簿は、幹部クラスもしくは幹部候補の人間にしか閲覧できないものであることが分かった。

 自殺したとされるホルストは、幹部候補であることから例の資料にたどり着くことができたのだが、内通者と思われる人間がギルドの幹部格だということに、ブランズと一緒には頭を抱えていた。

 

「何かしらの見返りがあったのか分からないけど、ギルドの内通者もアルディも嬉々として協力したのは間違いない。」

「そうですね。ホルストさんはそれに気づいたからこそ消された、ということを考えるのが自然ですね。彼に自殺する理由はないですし…………」

 

 今回の事件を知ったギルスは、すでに所属の【ガネーシャ・ファミリア】はもちろん、ギルドにも赴いて情報収集していた。

 

 やはり、ホルストが自殺したことには疑問を持つ者が少なからずいたが、それでも、多くの人間にとっては、単なる自殺として片付けられていた。交流のあるブランズやギルスだからこそ、疑問を持つことができたのは、僥倖なのかもしれない。

 

「俺の方でも、王国の方で探っておくよ。アルディが遺したものも、どっかに埋もれているのかもしれない」

「私は今回の事件について調べておきます。そういえば、この話をしてきたブランズさんは、今どうしてますか?」

「彼はギルドの方でも探りを入れてる。けど、こっちが嗅ぎまわってることは、内通者もお見通しだと思う。だから目立つことはしないか、大人しくするか。そうでないとすぐに消されかねない」

 

 中立であることを示すためか、ギルドに所属する人間は恩恵を刻まれていない。ブランズも例外なく恩恵がないので、彼が【闇派閥】に狙われることは、死に繋がる。

 

「とにかく、連中が好き勝手やってる現状は、俺たちにとって看過できない。平和のためにも、さっさと片付けた方がいいだろう」

 

 ギルスと別れたフロディは、そのまま大使館に戻っていく。

 

 まだ外が明るい中、フロディの首筋を冷たい風が容赦なく撫でていった。

 

 

*     *     *

 

 

 フロディとギルスが話している頃、オラリオの某所にて―――

 

「ヘルメス、久しぶりですね………」

 

 少し高い所から、男神ヘルメスを見下ろしているのは、ネメシスであった。

 ネメシスと顔を合わせているヘルメスは、相変わらず胡散臭い笑みを浮かべているが、その顔は少々引き攣っていた。

 

「や、やあ、ネメシス……。久しぶりだね……。天界以来だね、ハハ…………」

「あなたに聞きたいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか?」

「あ、あぁ。だがその前に、彼らを【ガネーシャ・ファミリア】に引き渡してからだね、うん………」

 

 『彼ら』というのは、ネメシスが立っている場所――場所というより人であるが、彼女の足元には、多くの白装束の人間が倒れ伏していた。誰がそんなことをしたのかは、所々血のにじんでいるネメシスの拳を見れば分かるだろう。

 

「私を捕らえようとした不届き者のことですか?それもそうですね。さっさと片付けましょう」

 

 ヘルメスの言葉に素直に従ったネメシスは、後始末をしてから用事を済ませることにした。

 

「それで、ネメシス。今日はどんな用があって俺のところに来たんだい?」

 

 ヘルメスが主神を務めている【ヘルメス・ファミリア】の本拠『旅人の宿』に入った二柱の神々は、応接室のソファに座って向かい合う。

 

「今回は、トリウィアに関することです。」

「へぇ、彼女について、か………」

 

 件の名前を聞いたヘルメスは、先ほどまでしていた胡散臭い笑顔をすぐに消し、真剣そのものといった表情をする。

 

「トリウィアは、天界にいた頃から好き放題していました。それが巡り巡って、フロディの元に…………」

「へぇ、つまりあなたの眷属(子供)であるフロディ・リヨス・アールヴは、トリウィアに狙われるほどの珍しい魂を持っている、という認識で良いかな?」

「はい。その上、フロディは、こことは違う世界の出身で、トリウィアに狙われたことをきっかけに死んで転生し―――」

「ちょっと待った、ネメシス。違う世界だって?」

 

 無視できない言葉が出たことにヘルメスは一度止める。

 

「まず、フロディ君が転生したことについてはいいとして…………、彼の前世は異世界の住人ということかい?それに、トリウィアは冥府の精霊だろ?それがどうして、異なる世界に出現したんだい?」

「それは私たちも、疑問に思っているのです。だから、裏で手引きしている存在がいると推測しています。あなたなら、天界にいた頃も、下界にいる今も、見知っている神の中に、異なる世界を行き来できる神はいるのではないかと、聞きに行ったのです。」

「異世界を移動できる神、か…………」

 

 ネメシスの発言に、ヘルメスは考え込むように腕を組んで、頭の中にある記憶を頼りに該当する神を探していく。

 

 ヘルメスは天界にいた頃はゼウスの使い走りとして、下界に降りた今では中立派閥の長として独自のコネクションを有している。そのため、どの神が関わっている可能性があるのか、一番知っている可能性があるので、こうしてネメシスはヘルメスに尋ねたのだ。

 

「う~ん、異世界までは分からないが、その可能性がありそうな神なら知っている…………」

「その神とは、一体…………?」

「ケツァルコアトルだ」

 

 ヘルメスの口から明かされたその神の名は、ネメシスの会ったことのない神であった。それを察したのか、ヘルメスはケツァルコアトルについて説明する。

 

「ケツァルコアトルは知識とか風とかを司っている男神で、厄介なことこの上ない神だ。あいつが天界にいた頃は、冥府だの何だの、色んなところにスッと入っては出ていくを繰り返すような男だ。正直、どんな目的があるのかは分からないが、俺の知る限り、一番可能性が高いのがそのケツァルコアトルだ」

「なるほど………。教えていただきありがとうございます。」

 

 ネメシスは頭を下げながら感謝を告げるとともに、用は済んだと言わんばかりに退出しようとする。

 こうして、話を済ませたネメシスは、すでに夕暮れになっている空の元、本拠へと戻っていく。

 

 そんなネメシスの後ろ姿を、鎌を携えた全身を黒ローブに包まれた存在が注視していた。

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