転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか 作:野生の鹿
ギルド職員のホルストが自殺したと処理されてから、フロディは、ブランズのためにも自分にできる範囲で調べていこうと思っていたが、そんなフロディの元に、ネメシスから無視できない情報がもたらされる。
「神ケツァルコアトルが、トリウィアの仲間………?」
「あくまでヘルメスの推測ですが、異世界を行き来できる神として可能性のある男神です。ケツァルコアトルという神がどのような目的をもって行動しているのか、調べていく必要がありますが…………」
「肝心のその神がどこにいるのか分からない。その上、トリウィアがこっちの世界に戻っているのかさえ知らない、という状況になっているということか…………」
フロディとネメシスは、晩御飯として口にしているステーキを切りながらため息をついた。
ヘルメスの情報網により、ケツァルコアトルという存在を知ることができたのは一歩前進したと前向きに考えられるが、その男神について知っていることは異世界を行き来できるくらいしかなく、ここで手詰まりというネガティブな考えが起こる。
「とにかく、私の方でもケツァルコアトルについて調べておきます。神々に対する調査では、私が担当しておきますから、フロディの方は、例の『先生』について調べた方が良いかと…………」
「そのことだけど、別の方面から調べた方がいいかと…………」
「別の方面?」
フロディの言葉に、呆けたような声を漏らすネメシスであるが、その後に行われたフロディの説明に、納得する。
「アルベイム王国、ギルド、そして【
「うん。アルディの生前のやったことが、巡り巡ってこんな事態になったんだ。ホルストさんが、この事実を知ってしまったがために殺されたってことを考えると、彼のために真実を明かさなくてはならないと思ったんだ」
「えぇ。【
鋭さの増した眼光を放つネメシスに、同意を示すように首を縦に振るフロディは、そのままステーキにかぶりつく。構成員の発言からして『先生』は幹部クラスの人間であることから、肝心の内通者から何かしらの情報を得ることができるのかもしれない。
「フロディ、一応忠告しておきますが、無茶はしないでくださいね」
「それはさすがの俺も分かっているよ。この前の探索でもそうだったし」
「でも、あなたの装備が心許ないものであるのは、万が一に備えて自分が前に出ればという者でしょう、【
「うっ」
見抜かれていた。
フロディが薄着と形容できる防具で探索に出たのには、自分やギルスよりも強い敵が出た時に、自分が盾になって傷つかせて、スキルを発動させるという算段もあった。
「あなたの、その自己犠牲と形容できる戦い方は確かに立派ですが、それで死んだ場合どうなるか、真に理解できているのですか?」
「できているけど、その…………、そうした方が勝算があるかな、て…………」
弱気になりながら言い訳をするフロディに、ネメシスは一蹴する。
「それは単なる自己満足と言い換えられないものでは?確かに立派なものですよ、自己犠牲は。けど、それは必ずしも正しいものではありません。ましてや、今のあなたは王族でもありますから…………」
「はい…………。以後、気を付けます…………」
ネメシスの指摘に対して、フロディはどこか情けなさを感じさせる返事をした。
* * *
『アルベイム王国の王子の専属になったんだって?それは良かったじゃないか、ブランズ!』
フロディとネメシスがオラリオにやってきたその日に、ブランズはホルストにそう言われたことを覚えている。
ブランズにとってホルストは、ギルドに入った当初からの付き合いだ。エルフとヒューマンという種族の違いはあれど、互いに良好な関係を築いてきたと認識している。
幹部候補に至るまでに努力を重ねてきたホルストのことを、ブランズは人知れず尊敬していたが、今回の死の知らせを聞いたときは膝から崩れ落ちかねなかった。
『ブランズ、これを渡しておくよ』
彼の遺体が発見された日の数日前、そう言って、多くの資料を手渡してきたホルストに、ブランズは戸惑っていた。
『これは一体……?』
『まだ話すことができないが、万が一のことを考えてだな。俺に何かあったら、中を見てもいいよ』
ホルストからはどこか曖昧な返事をするが、今思えば、ホルストはどこか自身の死を悟っていたのだろう。
「まったく…、ふざけたことをしてくれましたね…………」
ホルストが自殺したという報告書が出てきてから、ようやく彼の直面した状況を理解したブランズは、怒りを露にする。
「あなたの死は無駄にはしない、ホルスト……」
口封じとして消されたことを理解したブランズは、職務だの、ギルド職員としての立場だの、そう言ったものは切り捨てていくことにする。
彼の背中からは、迷いのない義憤を感じ取れることができ、友のために突き進む決意の表れでもあった。
* * *
その後、1週間ほどの時が経過したその日―――
「これで、少しは解き明かすことはできたのかな………?」
「えぇ。こちらでも、不自然な部分は多く見受けられましたよ」
「過去の帳簿を精査したところ、やはり幹部の者が怪しいと見受けられます」
アルベイム王国の大使館にある応接室にて、フロディ、ギルス、ブランズの3人が顔を合わせていた。事前にフロディが用意していた紅茶を飲みながら、話を進めていく。
「アルディとスレイン商会のやっていた取引は、大体はギルドが間に入っていた。少なくとも、ゼウスとヘラが健在だった頃からの付き合いだ。それで、記録やら何やら、色々な名前を漁っていくうちに、ギルドのとある人物が怪しい」
「この、グレイスって男だ。」
「グレイス?」
ギルスの聞いたことのない名前が出てきたことから、ブランズに説明を促していく。
「グレイスという人は、ギルドの幹部の一人であるハーフエルフです。オラリオの運営においては、外交関係を取り仕切っています。彼がギルドから―――もっというとオラリオから出た時と、それぞれの記録を照らし合わせると、彼の外出日時と商談に扮した【闇派閥】への資金提供が見事に一致しているのです。」
「それに、今回だけでなく、いくつかの記録では、ギルド全体に金が戻ってきていないが、ホルストさんが遺してくれた資料を見ると、グレイス個人には報酬としていくらか貰っている。その金額は―――」
「アルディの管理していた記録と一致している、ということですか…………」
それぞれの調べた記録を照らし合わせて、きれいに一致していることに逆に関心するフロディであるが、まさかギルドの幹部が、数年前から【闇派閥】を支援していたことにため息をついた。
隣にいるブランズは、同じギルド職員としてなのか、どこか怒りともいえる感情を表情に滲みださせている。
「神々に嘘は通じないから、ネメシスかガネーシャさんあたりと一緒にグレイスを締め上げにいくか…………」
「う~ん、しかし殿下。ここ1週間で、【闇派閥】が何の行動を起こしていないことが気にかかっているんですよ」
「そういえば、襲撃があったなんて耳にしていないな………」
「えぇ。向こうも、私たちがホルストをきっかけにして調べているということは、察しているでしょう。慎重に行動をしていきましょう」
「そうだね…………」
ようやく方針を決めて、応接室を出た3人は、一度解散しようとしたところで、大使館の出入り口の開閉音が響いたことに気づいた。
「あれ?今日って、誰か来られるのですか?」
「いや?そんなことはないと思うけど…………」
「ネメシス様は
ネメシスからは、
「ネメシス?随分と早くかえ―――」
ブウゥンッ!!
フロディが大使館の正面玄関に行こうとしたその瞬間、目の前に鎌が勢いよく振り回される。
「あっっっぶなっっ!!!」
「殿下っ!?」
「一体何が…………?」
身体をしゃがませながら後方に跳んで迫ってきた鎌を避けたフロディに、ギルスが急いで駆け寄ってくる。後ろにいたブランズは、何が起きたのか状況を確認しようと、フロディがいたところに目を向けるが―――
バキッ!!
「邪魔よっ!!」
「グフッ………!!!」
黒ずくめのローブに包まれた人間から顔面に対して拳を繰り出されたブランズは、恩恵を授かっていないこともあり、吹き飛ばされて壁に激突する。
それにより、ブランズは気を失って倒れてしまう。
「ブランズさん!?」
「お前は………!?」
ギルスがまだ状況を把握できていない中、その声に聞き覚えのあるフロディは、目の前にいる敵に怒りを燃やしていく。
「久しぶりね、せ…………、いや今はフロディだったかしら?」
「トリウィア…………!!」
黒いローブに身を包んでいるが、その声と反応から、トリウィアであることを理解したフロディは、戦闘態勢に入る。
「すまない、ギルス!時間稼ぎを―――」
「分かりました!守ります!!」
ダンジョンに潜る予定もなかったせいで、護身用のものしかないが、剣を構えてフロディを庇うように前に立ったギルスは、目の前にいるトリウィアと戦う。
「魔法の詠唱かしら?随分成長したわねぇ」
自身に向かっているギルスのことなど気にも留めず、フロディから感じ取れる魔力から彼の行動を察したトリウィアは、得物である鎌を使うことなく片手であしらっていく。
(強い……!一体どこのファミリアに……?)
苦戦するギルスは、目の前の敵に動揺している。トリウィアが強者故の余裕ともいえるのか、フロディの詠唱を止めようともしないその様子に、弱い自分自身への怒りが止まらない。
「【我が名はアールヴ】!【ディア・ゲルズ】!」
詠唱を完成させて、四肢に氷属性の付与魔法を発動させたフロディはそのままトリウィアに立ち向かっていく。
「うぉりゃぁ!!」
そのまま彼女の顔に右手で殴りかかっていくフロディに対して、トリウィアはそのまま受け止める。
だが、スキルと魔法が発動している状態だということもあってか、そのまま吹っ飛ばされるトリウィアであるが、そんな彼女にフロディは追撃を仕掛けていく。
「【
右足を地面に踏みつけると同時に氷が生成されていき、やがてトリウィアを凍結させるかのように飲み込もうとするが、トリウィアは何一つ動じることなく笑っていた。
「はあぁっ!!」
鎌をぶん回すことで、自身に迫ってきた氷を粉砕させていくトリウィアは、そのままフロディに迫っていく。
「強くなったのね♡」
どこか媚びてるような、恍惚な声音で話しかけるトリウィアに、フロディは内心恐怖と嫌悪感が入り混じった感情を吐露する。
だが、迫ってくるトリウィアに、フロディは拳で抵抗する。
「うぉりゃ!!」
迫ってきたトリウィアの鎌に対して、フロディは氷の纏った左手で弾き飛ばして、そのまま回し蹴りを放つ。付与魔法を発動させたままの回し蹴りにもトリウィアは痛がる素振りも見せることなく対応していく。
先ほどから優勢に迫ってくるトリウィアに内心鬱陶しく感じるフロディであるが、ふとギルスの様子が気になり、彼の方に目を向けるがその瞬間―――
ドオォォォンッ!!!
爆発したかのような轟音と共に、大使館の一部が破壊された。
「なっ!?お前の仲間かっ、トリウィア!!」
「ん?知らないわよ、そんなの」
さっきとは打って変わって冷淡な反応を示すトリウィアに、フロディが新手の敵だと考えると、不意にくぐもった声が聞こえた。
「君が、アルベイム王国第一王子の、フロディ・リヨス・アールヴで間違いないかな?」
声の方向に目を向けると、仮面を被った人物が佇んでいた。片手には何か武器を持っており、フロディの【
そして、彼の足元には、ギルスが倒れていた。仮面の人間にやられたのか、虫の息ともいえる惨状だ。
「お前は?」
「あぁ、僕の自己紹介はまた後でね。その前に、邪魔者には黙ってもらおうか」
仮面の人物が片手に持っていた物は、よく見ると銃であった。正確には、銃の形をした
バアァァンッ!!バアァァンッ!!
二回ほど
「なっ!?なぜ、吸い込まれて………!?」
「言ったでしょ?黙ってもらうって」
魔道具を通して仮面の男の射出したものは、壁に着弾すると同時にブラックホールに似たものを発生させてトリウィアを吸い込むように壁に固定させる。放たれた二発は、トリウィア本人と彼女の得物の鎌を壁に固定させることで無力化させる。
仮面の男はすかさず次の弾を込めてトリウィアに向けて発射する。
「あああぁぁっ……!!」
「しばらく寝ててね」
男が放ったのは電気ショックを誘発させるもので、トリウィアの首元に着弾して彼女を気絶させる。1発だけでも十分な効力を発揮しているのだが、それでも、仮面の男は、弾倉の中の銃弾が尽きるまで引き金を引き続けていた。
自分が敵わなかったトリウィアが呆気なくやられたことに唖然とするフロディであるが、気を取り直して、目の前にいる敵に集中する。
「一体何者だ!?それに、その銃は………!?」
「へぇ、予想通り、君も異世界からやってきたのかな?」
「!!」
男の発言に、フロディは目を見開いて驚愕する。
「その反応……、やっぱり正解みたいだね…………。ヴァレッタたちに頭を下げた甲斐があった」
フロディは目の前の男が何者なのか、【
「まあ、とりあえず、さっさと終わらせようかな」
先ほどの引力を誘発させるものとも、電気ショックのものとも違う弾を込めていく『先生』に、フロディは身構えていく。
「安心して。死なせることはしないから」
引き金を引いた瞬間から、銃弾がこっちに向かってくることを察したフロディはこれを防いでいく。
「【
地面につけている右足から氷を生成させると同時に、フロディの眼前に氷壁を作ったことで銃弾を防いだが、『先生』は冷静に対応する。
「悪いね、そういう活用方法は見たことあるんだ」
「なにっ!?」
氷の壁に隠れていたフロディの背後から、暗殺者の如く近づいてきた『先生』に動揺していると、フロディは再び魔法を放とうとするが、もう遅かった。
プシュッ!
小さい破裂音と共に、フロディの脇腹から血が出る。さっきまで持っていた
そうして倒れたフロディは意識が朦朧とするような感覚に陥る。アルディの時みたいに大量の血を流していないにもかかわらず、だ。
実際には、フロディが防ぎ、最後に数発食らった銃弾は催眠弾で、脇腹に食らったものは麻痺毒弾であることから、二つの銃弾の相乗効果によって、フロディの意識が失いつつあったのだ。
だが、そんな中でも、はっきりと覚えているものが目に入る。
「さて、ヴァレッタたちが騒ぎを起こして注意を反らしているから、とっとと退散するか」
そう言ってフロディに近づく仮面の男であるが、被っている仮面のずれを直そうと、右手で仮面を直しそのまま小指で眉毛をかこうとしたが、仮面を被っていることから叶わなかった。
だが、クセともいえる一連の動作を見て、フロディは思わず口に出した。
「巧斗…………なのか…………?」
そう言うと同時に気を失ったフロディに対して、一切聞き逃さなかった『先生』ことペイルは、思わず硬直してしまう。
「まさか………、清剛ちゃん?」
自身の本名を言い当てられたことにより、確信に近いものを感じ取ったペイルは驚きのあまり茫然としていた。
その後、フロディが目覚めたのは薄暗い【闇派閥】の隠れ家で、手錠をかけられた状態になっていた。