転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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狂気眼鏡

 フロディが【闇派閥】の隠れ家に誘拐され、その中でペイル(巧斗)のもつ秘密を探ろうとしているのと並行して、ギルドではある男が作業していた。

 

(ない……!?あの資料はどこに……!?)

 

 ギルドの幹部であるグレイスであった。

 ギルド内にいる【闇派閥】の内通者で、アルディと協力して金儲けをしていた男でもある。

 

 彼が連日ギルドに残っているのは、自分を含めた幹部およびその候補たちが閲覧できる帳簿を持ち出されてしまったからだ。

 

 本来であれば、帳簿を見られた程度で全容が分かるようにはならないのだが、幹部候補だったホルスト、そのホルストの友人であるブランズが嗅ぎ回っていたことで話は変わってくる。

 彼らが真実に辿り着くことは時間の問題であることを理解していたグレイスは、さっさとことを済ませようとするが、思い通りに全く進んでいない。

 

「こんな夜更けまで、何をしているのですか?グレイス殿……」

 

 そんなグレイスの後ろから、エルフの男が低めの声音で話しかけてきた。グレイスが恐れていたブランズであった。

 

「ぶ、ブランズか……。別になんでもない、ぞ………」

 

 グレイスは何でもないかのように振る舞うが、ブランズの様子がおかしいことに気付く。

 

 エルフということもあってか、ブランズは身嗜みに気を遣っており、今のようにラフな格好をしているのは今まで見たことがない。険しい表情も相まって、グレイスは身をすくませながらも虚勢を張ることしかできなかった。

 

「あなたに聞きたいことがあります。まずは、こちらの資料ですが…………」

 

 有無を言わさぬ低い声で話を進めていくブランズの手に持っていたのは、今さっきまでグレイスが探していたものであった。

 驚愕に目を見開いたグレイスに構わず、ブランズは口を開く。

 

「アルベイム王国の鉱務大臣……、確かドゥウェイン・アルディでしたっけ?その方と共に【闇派閥】の隠れ蓑、スレイン商会に対して多額の資金援助をしていましたが………」

「何の話だ!?第一、もしそうだとしても私も騙された被害者だぞ!」

「ネメシス様?今の発言は……?」

 

 グレイスは必死に否定をしていくが、ブランズの発言に肝を冷やす。

 

 そして、神威を一切感じさせないよう、息をひそめていた女神が、ブランズの後ろから現れた。

 ネメシスである。

 

「今の発言は嘘ですね、ブランズ。そして、あなたから聞き出したいことがありますよ、グレイス………」

 

 冷徹とも感じ取ることのできる表情をしながらやってきたネメシスは、神威を発生させながらグレイスを問い詰めていく。

 彼女の圧にグレイスは口を閉ざす。超越存在(デウスデア)に対して下界に住む人間(こども)たちは一切の嘘が通じない。話術次第では、嘘を見抜ける彼らに対して出し抜くことはできるのかもしれないが、そんな技術をグレイスには持ち合わせていない。

 

 脂汗をかいて何か言葉を紡ごうとするグレイスであるが、【闇派閥】に入れ込んでいる彼に勝ち目はなかった。

 

「それでは、洗いざらい話してもらいますよ、グレイス殿………。私にも忍耐の限界というものがあるのでね」

「き、君はギルドの者だろう……!いくら王族とはいえ、一派閥にそんな肩入れをするなど―――」

 

 立場だけはブランズよりも上なのか、それをいいことにブランズに高圧的に接するグレイスであるが、言葉を紡ぐ途中で体ごと飛ばされる。

 

ボゴっ!

 

 ブランズが殴り飛ばしたのだ。内通者と発覚していても、一応はまだ上司のグレイスに対して、だ。

 

「な、なにを………!?」

「グレイス殿……?洗いざらい、話してもらいますよ………」

 

 ブランズが拳を握り締めながら迫ってくる上、ブランズの後ろにはネメシスが控えていることに、グレイスは何もかも諦めるかのように俯くしかなかった。

 

 

*     *     *

 

 

 一方、フロディが監禁されている【闇派閥】の隠れ家にて、周囲を警戒しながら足を進めているフロディは、怪しいところはないか観察していた。

 

(ここの隠れ家はあくまでも支部かもしれないな………。敵が弱すぎる…………)

 

 自分よりもレベルが上である【ロキ・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】と張り合える実力者を前もって知っているフロディは、この隠れ家は本命のものではないことは理解した。

 まだ、自分を圧倒しうる人物と出くわしていないだけという考えもあり得るが、それは脱出したときに考えることにして、歩みを止めないフロディはある扉を視界に入れる。

 

「この扉は…………?」

 

 その扉は異質を放っており、そう簡単に人を招き入れるような雰囲気を醸し出していた。

 

 直感でしかないが、ここに何かがあると察したフロディは扉を開けて中に入る。

 

 

「なっ…………、これは、一体…………」

 

 フロディは中に入ったのと同時に目に入った光景に驚愕する。

 

 次に、不快感や怒り、悲しみといった負の感情がフロディの頭の中に渦巻いていく。

 

 そして、視界に入った光景に注視していくと、脳が理解を拒むものがあった。

 

「えっ…………?」

 

 そんな声を漏らすしかないフロディは、膝をつく。

 

「どうして…………?」

 

「あ~あ、清剛ちゃんに見つかっちゃったか~」

 

 動揺するフロディ(清剛)の背後から、いつもと変わらない様子でやってきたのは、ペイルこと巧斗であった。

 

「僕の話をそう簡単に信じることはないと思っていたけど、まさかすぐにここにたどり着くとは思いもしなかったよ…………」

 

 やれやれ、とでも言いたげにするペイルに対して、フロディは振り返って激高する。

 

「これは一体何なんだ!!なんで、こんな…………!?」

 

 フロディが見た光景、それは―――

 

 

 

「あぁ、その子供たち?覚えてるよね、清剛ちゃん?施設に一緒に住んでいた子たちだよ。わざわざ僕が説明するまでもないさ」

 

 ペイルの言う通り、フロディの前世において一緒に暮らしていた子供たちであった。

 

 そんな子供たちの遺体がその部屋に広がっていた。

 

 単純に「遺体」といっても、それらは全くと言っていいほど原型を留めていない。

 

 生首を晒したまま目や口から血を流しているものもあれば、胴体部分がえぐり取られているもの、ペイルが何かの作業をしていた途中なのか、ロープで吊るされたままの死体もある。

 先ほどペイルが話したように、施設にいた子供たちはもちろん、この世界における住人が数多く、それこそフロディの視界を埋め尽くさんばかりに広がっており、例外なく彼の手によって無残な姿へと変貌してしまった。死者に対する尊厳を踏みにじるかのように。 

 

 ペイルは、自分たちの家族ともいえる子供たちを実験台にしていたことを察したフロディは、ペイルに問い詰めていく。

 

「どうしてなんだ!巧斗!どうしてこんなことを………!!」

「まあまあ、落ち着いてって」

 

 いつもと何一つ変わらない様子でフロディを落ち着かせているペイルは、部屋に備え付けてあったのか、お菓子を取り出しながら口に運んでいく。

 

「清剛ちゃんも食べる?これおいしいやつだよ……、ってそんな気分じゃないか」

 

 平然とした様子で話すペイルに対し、フロディは頭が混乱していく。

 

 この世界で初めて会ったときは、「ペイル=巧斗」という図式が頭の中で成り立っていたが、今ではそれが崩壊しつつある。

 本当に目の前にいるのは板東巧斗なのか、いや、そもそも同じ人間なのかという飛躍した考えに結び付きかねない状態に、フロディ自身、思考が定まっていない。

 

「順を追って説明するよ」

 

 膝をついているフロディに構うことなく、ペイルは口を開く。

 

「まず、君に言ったと思うけど、僕はケツァルコアトルについて調べ回り、ようやく彼の遺したであろう遺跡を突き止めた。それで、遺跡に残された方法でこの世界にやってきた。ここまでは大丈夫だよね?」

 

 フロディに確認するかのように聞くペイルは、返事を待つことなく話を進める。

 

「それで、その方法を実現するのが厄介でね。かいつまんで説明すると、膨大なエネルギーを使って扉を開かせるらしくてね。そのエネルギーがどんなものなのか、神の力(アルカナム)なのか、別のものなのかって悩んでいたら、一つ案が浮かび上がったんだ。」

 

 人差し指を立てながらペイルは微笑んだ。

 

「ケツァルコアトルの登場するアステカ神話には、生贄が頻繁に行われてきたんだ。それで生贄に捧げられた連中をエネルギー源にして、という風に僕もやったわけさ…………。彼らを犠牲にしてね…………。」

 

 施設で一緒に暮らしていた子供たちに目を向けながらそう言ったペイルは、その後興味を無くしたかのように話を続けていく。

 

「ケツァルコアトル自身は生贄を嫌ってるけど、他の神に関してはそんな記述はなかったからさ、そうして生贄を捧げたらエネルギー問題は解決!風の吹き荒れる扉が出て、僕は今ここにやってきたというわけさ」

 

 反省するどころか、どこか自慢をするかのような声色で説明するペイルに、フロディは言葉を失う。しかし、これとはまた別の疑問が脳内にあるので、それをペイルにぶつけていく。

 

「この世界にやってきたことは納得したよ、許せないけどね…………。だけど!それがどうしてこんな多くの人間を死なせているんだ!!それも、こんな尊厳を踏みにじるような…………、どうして、【闇派閥】に手を貸してるんだよ!!巧斗っ!!」

 

「あぁ、それは―――」

「おや?ちょっと取り込み中だったかな?」

 

 突然、別の人間の声が聞こえた。

 

 声のした方向に顔を向けると、そこには紫色の髪をした男がいた。

 

「あぁ、君が清剛くん………いや、フロディくんだったかな?たっくんはもちろん、スキュールンが世話になったね」

「お前は………?」

「彼は『死』を司る神、タナトスだよ。聞いたことくらいあるんじゃない?」

 

 その名を聞いたフロディは、【闇派閥】の中で有力な派閥の主神であることを理解し、警戒を露にする。

 

「たっくんを【闇派閥(うち)】に勧誘したのは俺さ。その子供の亡骸と一緒に彼が異世界転移した場所に、偶然俺が出くわしてねぇ。あの光景は今までの()生で最も印象深かったなあ」

 

 懐かしむように当時を思い出すタナトスは、愉快と言わんばかりに話す。

 

「彼が俺と会って、それでこの世界について説明していくとさ。俺もたっくんも目的、というか手段が一致したんだよ。」

「そうそう、この世界の破滅、だったかな?」

 

 ペイルが補足するかのようにそう言うと、フロディの脳は理解を拒んだ。

 

「破滅だと?」

「他の神の場合はちょっとそれとはズレているんだけどね。それでも、俺とたっくんの取ろうとしている手段の一致で、こうして仲良くやっているんだ」

 

 目的に関しては違くとも、利害関係の一致により仲良くしてることを説明したタナトスは、ペイルに改めて感謝するかのように肩を組む。

 

「いやぁ、たっくんがいてくれて俺も助かってるよ。なんせこの部屋にいる子供たちはもちろん、今までも、数多くの『死』が彼の手で引き起こされたからね」

「『今まで』………?まさか、ここにいる人たちは、氷山の一角でしかないのか!?」

「うん、そうだよ」

 

 ペイルが無邪気にそう答える。

 

「アルディと戦った君も分かると思うけど、人間とモンスターの融合、人為的に上級冒険者と戦える『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』を生み出したのはこの僕さ」

 

 右手で眼鏡をかけ直しながら、そのまま小指で眉毛をかくペイルは、さらっと事実を告げていく。

 

「いくらレアアビリティの『神秘』をもってしても、神ならざる僕が一朝一夕で強者を揃えることはできない。勉強と似たようなものかな?質はもちろん、量も多くこなさなければ目標にたどり着くことは難しい。だから、僕がこの世界にやってきた6年前から、膨大な量をこなしてきたんだ。たしか………、具体的にどれだけの量だったっけ?」

「下手すれば3桁はいってそうじゃないかな?」

 

 ペイルとタナトスの会話にフロディは戦慄を覚えた。

 

「そんなに………!?そんなに多くの命を…………!!」

「だって仕方ないじゃん。オラリオをつぶして、抑えようのないダンジョンのモンスターを地上に蔓延らせて世界を破滅に導かなければいけないからさ。一応、黒竜に力を与えるということも考えたけど、僕が死ぬ確率が圧倒的に高いから、こっちの手段を選んだってわけさ」

 

 そう言いきったペイルは、フロディに向き合って近づいていく。

 

「清剛ちゃんさ、一緒になろうよ。」

「…………はぁ?」

 

 戸惑うフロディに構うことなく、ペイルはフロディを地面に押し倒していく。

 

 仰向けに倒れたフロディの顔の横に手をついて顔を近づけていき、ねっとりとした声で迫る。

 

「君のその力と僕の頭脳、この二つを組み合わせれば、どんな困難にも立ち向かうことができる。それこそ、君をここに導いたトリウィアやケツァルコアトルを引きずり出して仕留めることもね。だからさ清剛ちゃん…………、僕だけのものになってくれない?拒否しても、無理やり連れていくけどね」

 

 トリウィアと同じ不快感と恐怖を抱かせたペイル(巧斗)に、フロディ(清剛)は顔を険しくさせる。なぜ自分に執着しているのかは分からないが、それは一度置いといて、彼の脳内である種の覚悟を決めた。

 

 こいつはもう、俺の知る兄弟分(巧斗)ではない、と。

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