転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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転職・改宗

 【ロキ・ファミリア】の本拠地、『黄昏の館』に匿われることになってから、フロディと主神ネメシスの存在は団員の中で共有された。

 

 首脳陣が滞在を許可していることもあり、フロディとネメシスの居心地は悪かったというのはなかった。むしろ、フロディがハイエルフということもあってか、本流のリヴェリアと同様にエルフの団員から仰々しい態度で接せられた。

 掃除を始めとした雑用はもちろん、書物などの探し物で率先して手伝ってくれている。もっとも、彼らの献身には呆れてしまう部分があるので、フロディはどこか窮屈さを感じていた。

 

 そんな【ロキ・ファミリア】内での生活の中で、フロディは今、一人の生徒として勉学に励んでいた。

 

「魔法の並行詠唱には、高度な集中力が求められるのは知っての通りだな?」

「はい。修得できるかどうかは置いといて、詠唱が中断されることを防ぐのを主目的にしているんだっけ?」

「あぁ。詠唱が中断されれば、大きな隙が生じるのはもちろん、魔力暴発(イグニス・ファトゥス)が起きる可能性がある。並行詠唱から発展した知識としては………」

 

 リヴェリアの自室で行われている授業を受けているフロディは、要点を整理しながら並行詠唱について学んでいく。

 

 オラリオ最強の魔導士であるリヴェリアの教導は、彼女のことを神聖視しているエルフから見ても厳しいものであるが、そんな中でも学びの姿勢を崩さないフロディを見てリヴェリアも関心するかのように見つめる。

 そんなリヴェリアも、真面目に取り組むフロディにあてられたのか指導に熱が入っていき、魔法における基礎から並行詠唱に関することを1日かけて叩き込んでいった。

 

「………よし。ここで終わりにしようか、フロディ」

「はい。時間を割いていただき、ありがとうございます」

「いや、別に大丈夫だ。私も、お前の熱意に応えねばと、熱くなったな………」

 

 すっかり暗くなった外に目を向けながら【ロキ・ファミリア】の団員があつまっているであろう食堂へと歩を進める二人のことを、陰から見守っている者たちがいた。

【ロキ・ファミリア】の団員であるエルフたちである。

 

「申し訳ないけど、王族なのに、なんだか捕虜みたいな扱いを受けてるみたいだよ」

「居心地の悪さについては同意だが、捕虜というのはいささか言いすぎなのでは………?」

「鳥かごの中にいるのと似たようなものかな?よく耐えきれますね」

「私も、たびたび王族として扱うなと言うが、聞く耳持たずでな………。」

 

 どこか呆れるかのような声音でいうリヴェリアに、フロディは同情の眼差しを向ける。

 だが、『アールヴ』というエルフの王族を示す名を自称する限り、王族として扱われることは避けて通れないことだ。フロディの立場を考えると、王族として扱われること自体は別に構わないが、今のように四六時中見られることは流石に勘弁してほしいのが本音だ。

 

「そういえば、例の件ですが………」

「あぁ。お前を連れ去ったペイルという男についてか?今でもあちこちを捜索しているが、尻尾を掴むことすらできないのが現状だ。【闇派閥(イヴィルス)】への対処は、どうしても骨が折れる………」

 

 ペイルの存在が公になったことで、ギルドおよび【ガネーシャ・ファミリア】では、フロディの齎した情報を元に危険人物として狙っている。同時に、今までは単に改造人間と称していた『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』についても情報が共有されていった。

 

「ペイルの足取りをつかめないことに、同胞は苛立ちを覚えつつある。ニヨルドも、どこか似たような反応をしている」

「父上が?」

 

 つい昨日までオラリオに滞在していた父・ニヨルドが、ペイルに怒りの炎を燃やしていたのはフロディの目から見ても明らかだった。溺愛している一人息子のために国を飛び出していることから、彼のフロディに対する愛情は察することはできたが、知らない所でそんな感情を露にしていたことは初めて知った。

 

「ニヨルドの怒りは理解できるが、お前がオラリオに残るということを認めたことは解せんな。一体どんな言葉で説得できたんだ?」

「それは………、ちょっと言えないですね………」

 

 先ほどの授業では見せることのなかった、疲労感の溢れる表情をするフロディに、リヴェリアは何かしら揉めたのだと察した。

 

 実際、フロディを王国に連れて帰ろうとするニヨルドに対して、フロディとネメシスは明確な理由をもって説得をした。

 理由としては、まだ、外交関係が改善されておらず、貿易を始めとした問題の解決ができていないことが挙げられる。双方にとって利益は得られるので、中途半端に投げ出していいものではないのだ。

 もう一つが、まだペイルを含んだ【闇派閥(イヴィルス)】への対処が挙げられる。これについては、オラリオの冒険者に丸投げしてもいいのではと、ニヨルドに言われたが、そうはいかない理由がある。それはアルディの存在だ。【闇派閥(イヴィルス)】に便宜を図っていた彼は、大臣という肩書を利用して利益を貪りつくしたのだ。王子として、そのような暴挙を許すことなどできないというのが、フロディの思いだ。

 

 救出されてからニヨルドと再会し、安全を理由に帰還するように言い聞かせる父を説き伏せることは至難の業であったが、半日もかけてようやく達成できた。

 

「とにかく、ペイルはしばらく表に出ることはしないでしょう。といっても、その間に何か企んでいる可能性はありますが……」

「そうか……」

 

 ペイルの性格について、前世から詳しく知っているフロディは、そう簡単に見つかることはないことは深く考えるまでもなく理解していた。

 あの時、リヴェリアたちが突撃してきても、冷静さを失っていなかったペイルは、自分の存在がバレることは想定内だっただろう。主神のタナトスと一緒にあっさりとあの場から逃げ出せたことからもそれが窺える。

 

「近くに敵がいるのに、肝心の敵は雲隠れ、か……。何とも言い難い思いに駆られるな………」

「そうですね。しばらく俺は、公務を処理することにしますよ」

 

 フロディとリヴェリアが話し込んでいる間に、『黄昏の館』内にある食堂に着いた。

 

 団員たちはそれぞれのタイミングで食事を始めており、フロディもまた、料理を受け取ると食事を始めていった。

 

 その間、エルフたちがひっきりなしにやってくるので、心の中でため息を吐くことになった。

 

 

*     *     *

 

 

 翌日、フロディとネメシスはアルベイム王国の大使館へと足を運んでいた。

 ニヨルドが手配してくれた【ゴブニュ・ファミリア】による大使館の修繕が終わったことにより、大使としての仕事を片付けていこうと思ったためだ。

 

 だが、そこで微塵も想像していなかったことが起きた。

 

「【ネメシス・ファミリア】に入団させてほしい?」

「えぇ。ギルドの方はすでに退職いたしました。これからは、【闇派閥(イヴィルス)】の脅威に立ち向かうために、あなたと共にいることを決めました」

 

 ギルドの職員を証明する制服を着ていないことから、会った時から何かあったのだろうと予想していたが、退職したとは思いもしなかった。

 

「ちなみに、辞めた理由は?」

「ギルドについていけなくなったというのが、一つ。もう一つが、【闇派閥(イヴィルス)】との因縁ですね」

 

 何かを思い出したのか、どこか呆れたような表情をして息を吐くブランズに、フロディとネメシスは深堀していく。

 

「【闇派閥(イヴィルス)】への因縁というのは、ホルストさんのことだと思われますが、ギルドについていけなくなったというのは、一体?」

「今回の件、ギルドの幹部格の者であるグレイスがやったことでしたが、ギルドの、しかも幹部に内通者がいるということを証明してしまった事態になりましてね。一部の人間が隠蔽しようと画策したのです」

「えっ、けど、結局はグレイスの仕業だって広まったんじゃ……」

「それはあなたという王族が関わっているからです。それに、ギルド長はハイエルフたるニヨルド陛下に詰められていたので、泣く泣く公表したというのが真相でしょう。隠蔽しようとしたと広まれば、多くの同胞から顰蹙を買ってしまいますからね」

 

 まだ1か月程度しか交流がないが、ブランズ・ドニールという男は実直なエルフであることをよく理解しているフロディは、どこか後ろ暗い部分が見え隠れしているギルドとは相性が悪いことを理解した。

 だが、フロディとネメシスの中で浮かんだ疑問を、ブランズにぶつけた。

 

「それで、どうして【ネメシス・ファミリア(うち)】にしたんだ?ギルドから別のところに行くとしても、【ロキ・ファミリア】とか【ガネーシャ・ファミリア】とかあるのに………」

 

 ブランズの退職した理由に、【闇派閥(イヴィルス)】との因縁というのがあったのだが、最前線で対処しているのがその2派閥だ。【ネメシス・ファミリア】がやってることはせいぜい支援物資の提供と情報整理ぐらいだ。

 

「一応は考えたのですが、戦闘経験のない私にできることが存分に発揮できるのはここしかないことと、ギルスさんの提案というのもあります」

「ギルスの?」

 

 意外な人物の名前が出たのとほぼ同時に、大使館に来客を告げるチャイムが鳴った。

 

「私が対応しますので、フロディとブランズ殿は―――」

「いえ、おそらくギルスさんが来たのでしょう。私も行きますよ」

 

 ブランズはそう告げると、ネメシスと共に訪問者を迎えようとする。

 

 そして現れたのは、ブランズの言う通り、【ガネーシャ・ファミリア】で仕事をしているはずの男、ギルスであった。

 

「数日ぶりですね、殿下。お怪我はよろしいので?」

「ギルス!?どうしてここに……」

「実は、折り入ってお願いごとがありまして……」

 

 そういうと、ギルスは綺麗に直角なお辞儀をフロディとネメシスに披露した。

 

「私を【ネメシス・ファミリア】に改宗(コンバージョン)してほしいのです。もちろん、ガネーシャ様からは許可を頂いております。」

「お前もかよ」

 

 ブランズからは、ギルスの提案によって【ネメシス・ファミリア】に入ることを決めたそうだが、その理由については、フロディは見当がつかなかった。

 

「どうして急に……?」

「理由としては、今回の襲撃は、【ガネーシャ・ファミリア】にも責任があると考えております。その上、主神のガネーシャ様からは、トリウィアの調査についても命をくださりました。」

「トリウィアか……」

 

 フロディの脳裏には、鎌を携えた忌々しい女性の姿が映し出されたが、すぐに頭を振り払って、話を続けていく。

 

「つまり、今は【闇派閥(イヴィルス)】への対処ではなく、精霊トリウィアへの調査を優先せよ、とガネーシャは言っているのですか?」

 

 ネメシスが会話に参加し、ギルスに確認していく。

 

「はい。私としても、襲撃を受けた王子をそのままにするというのは、あまり気分のいいものではありません。加えて、【ネメシス・ファミリア】とは友好的な関係を築いていきたいことや、今回は共同任務のために、こうして改宗(コンバージョン)を求めているのです。」

 

 決意の籠ったギルスの目を見て、ネメシスは黙り込んで、考えていく。

 

 神々が下界に降臨してから、いくつかのルールが定められていったが、その中に、所属するファミリアとは異なるファミリアへ移転する再契約の儀式を、改宗(コンバージョン)という。この儀式を行った場合、ギルスは【ネメシス・ファミリア】に最低でも1年間は居続けなきゃいけないことは彼自身が理解している。

 友好的な関係と言えど、いきなり別の派閥に所属することで起きる不都合を承知の上で、ネメシスとフロディに申し出てきたことは、超越存在(デウスデア)であるが故に嘘を見抜くことのできるネメシスはよく理解した。

 

「分かりました。ギルス、あなたの入団を認めましょう。それからブランズ、ギルドにいたために理解していると思いますが、この後彼と一緒に―――」

恩恵(ファルナ)を刻んでくれるんですね?先にギルスさんの方から始めてください。私はこれから、ギルドに提出する書類を作成しなければならないので………」

「その間、俺の方で部屋の割り振りとか決めておくよ。何か希望とかはある?」

 

 そう言って、それぞれのやることをやっていき、ギルスとブランズの二人は、ネメシスの持つ神血(イコル)の齎した恩恵を刻まれ、【ネメシス・ファミリア】の一員であることが認められた。

 

 

*     *     *

 

 

「まさかギルスとブランズが入団してくるとは………」

 

 あの後、二人に恩恵(ファルナ)を刻んで、ステイタスが記された羊皮紙をじっと見つめたネメシスは、改めてギルスとブランズ、そして、改宗(コンバージョン)を許したガネーシャに感謝した。

 

 知っての通り、【ガネーシャ・ファミリア】は都市の憲兵を担っており、【闇派閥(イヴィルス)】が跋扈している今のオラリオでトップクラスに忙しいと言っても過言ではない。

 

 精霊トリウィアの調査という特命があるとはいえ、期限の定まっていない他派閥への移籍にはネメシスとしてもとてもありがたいことであった。

 

「問題は、トリウィアのことですが……」

 

 ギルドに提出する書類を作成しているギルスとブランズは会議室に、外交大使としての仕事をしていくフロディは執務室に籠っている間、ネメシスは修繕の時に【ゴブニュ・ファミリア】が新しく作ってくれた神室にて、【ロキ・ファミリア】に保護されていた時のことを思い出した。

 

『う~ん。ネメシス、フロディたんのあのスキル、トリウィアのものではないのかもしれん』

 

 いつになく真剣な表情をするロキに、ネメシスは身構えたが、彼女の口から出た言葉に目を見開いた。

 

『スキルって……、フロディの【冥霊祝福(スピリット・ブレッシング)】のことですか?しかし、状況からトリウィアのものであると推測しましたが………』

 

 アルベイム王国の大使館が襲撃されたことについて、当事者であるフロディは、その時の様子を詳しくネメシスに報告した。

 現場に残された状況から察することができたネメシスは、「餅は餅屋」と言わんばかりに、天界でトリックスターとして名を馳せていたロキに相談した。変に嗅ぎまわされるより、先に言った方が良いと信じたのだ。

 

 普段はひょうきんというか、どこかふざけた雰囲気を醸し出すことの多いロキであるが、下界に降りてからは随分と丸くなっており、こうして腹を割って話すことは妙な気分となった。

 

 ロキに対しては、フロディ(清剛)とトリウィアの間にあったことは簡単なことしか言っていない。敵対したことは言えるが、フロディの前世について軽々しく話すと、娯楽を目的に降臨した神々が多くいるこのオラリオで、どんな面倒な騒ぎになるのかは火を見るよりも明らかだ。

 

『そもそも、トリウィアって女はそんなホイホイ祝福を与えるやつなんか?いや、百歩譲ったとしてもせいぜい加護やろ?』

『確かに。それに今も尚、フロディのことを狙っているのに、祝福なんて大層なものを施すとは思えませんね』

『せやろ?トリウィアが戦闘狂ならまだ分からんでもないが、魂を集める奴やったら祝福なんて渡さん方がいいのが普通や。自分に牙を向いているのが分かっているのなら猶更や』

 

 ロキの考えを理解したネメシスは、決して口外しないことを念入りに言った。もしも情報が洩れたら、じっくりとお話(拷問)をしていこうと約束まで取り付けて。

 どこか怯えを多分に滲ませた表情をしていたが、ネメシスにとってはどうでもいいことであった。

 

『このスキルがトリウィアのものではないとしたら、一体………?』

 

 ネメシスの頭の中には疑問が浮かび上がったが、長く思考しても、答えは出てくることはなかった。

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