転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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派閥始動

「これでひとまずの区切りがつきましたか……」

 

 【ネメシス・ファミリア】の本拠地(ホーム)を兼ねているアルベイム王国の大使館で、会議室を借りて事務仕事を処理しているのは、元ギルド職員であるブランズ・ドニールだ。

 感情の窺えない無表情で書類に目を通していくブランズは、【ネメシス・ファミリア】の団員とアルベイム王国の外交官という2つの肩書をもっている。

 

 ブランズが転職してから1か月ほどの時が過ぎている今となっては、ギルドにいた頃と大差ない労力で仕事をしているが、最初は慣れない仕事ばかりで結構迷惑をかけてしまったが、それはもう過去の話だ。

 

「【ヘファイストス・ファミリア】と【ゴブニュ・ファミリア】からはこの鉱石が欲してるからこの量のものでいいとしても、【ミアハ・ファミリア】と【ディアンケト・ファミリア】への聖樹の枝の提供は難しい、か……。今度、フロディ殿下に問い合わせてみますか……」

 

 ブランズがやっている仕事は、単純に言うとファミリア単位の貿易だ。

 以前は、ギルドとアルベイム王国の2つの国の間で行われていたが、ギルド職員――しかも幹部格の人間に【闇派閥(イヴィルス)】の内通者がいたことが問題視された。さらに詳しく調べてみると、内通者であった幹部のグレイスは、援助された金はもちろん、貿易を通じてもたらされた希少金属を始めとした素材までもが横流しされたことが発覚した。

 この事実を知ったアルベイム王国の首脳陣は当然の如く激怒した。【闇派閥(イヴィルス)】鎮圧の名目の元、金も素材も提供したというのにこれでは話が違う、と。

 ギルドからしてみても、その怒りは十分に理解できるもので、再犯防止を謳って継続を求めようとしても王国側の印象は悪かった。しっかりとした利益も受けることがあるが、危険思想を持つテロリスト集団に利用されることは我慢ならなかったのだ。

 

 アルベイム王国の代表としてオラリオにいるフロディは、そうした王国の不満が出ることも分かっていた。オラリオと、少なくともギルドとは取引が継続することは難しい、と。

 

 そこで、代案として、ギルドではなく、オラリオにいるファミリアに直接取引をすることを思いついたのだ。

 以前までは、ギルドで行われていたことを、商業系のファミリアと似たようなやり方で【ネメシス・ファミリア】から売買していく方針に変えたのだ。もちろん、ギルドには何一つ利益が入らないことになるので難色は示されたが、王国との関係が拗れたままにするよりはマシになるためやむなく黙認することとなった。

 結果、「アルベイム王国→ギルド→各ファミリア」というルートから、「アルベイム王国→各ファミリア」というルートで素材が流通することになったので、ブランズはこうして事務作業を行っている。

 

 取引するファミリアに関しても、ギルドはもちろん【ガネーシャ・ファミリア】から見ても安全と判断できる派閥に限定し、アルベイム王国の算出する素材を提供している。

 

 そういった金の計算や物の管理など、ギルドに在籍していたころから一日の長があるブランズが担っている。戦闘能力がないが故に、裏方に徹するのが彼の役割だ。

 

「さてと……、この書類は………」

 

 そう言って次々と書類を取り出すブランズに、ネメシスが入室してきた。

 

「ブランズ、少し休憩を取りましょうか。まだ期限は先でしょうに……」

「ネメシス。早めに終わらせた方が後が楽になるので、休憩は不要です。」

 

 ネメシスが持ってきた昼食を一瞥し、気にする素振りを見せることなく仕事に取り掛かっているブランズに、ネメシスは息を吐く。

 

「ワーカーホリックと揶揄されても仕方がないですね」

「神々から『社畜』などと言われたのですが、私は好きでやっていることなのでそう言われるのは心外ですよ」

 

 ギルドにいた頃も、今も、同じように揶揄されたことに眉をひそめるブランズは、おもむろにネメシスに尋ねる。

 

「そういえば、私に刻んでくれたステイタスですが……」

「ああ、これですか?」

 

 ネメシスはそう言って、ブランズのステイタスが記されている羊皮紙を見せる。

 

 

 

ブランズ・ドニール

Lv.1

 

力 :I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

《魔法》

【ドラッカル】

 ・帆船召喚魔法

 ・Lvおよび『魔力』アビリティの数値に応じて大きさと耐久に補正

 ・詠唱者の意思で自在に移動可能

 ・魔法の効果持続中、帆船に乗る者の『魔力』アビリティに補正

 ・詠唱式【我が意思のもと顕現せよ。其は帆船、多くを運びし魔法の船。風と共に前に進め。】

 

【】

 

【】

 

《スキル》

妖精静唱(フェアリー・カルム)

 ・魔法効果の増幅

 ・冷静であるほど、『魔力』アビリティの強化

 

 

「これをどうにかして戦闘でも役に立てたいのですが、どのようにすれば………」

「私ができることと言えば、組手を通じた近接戦闘の向上でしかないのですが、魔法を使えるという意味ではフロディに頼むしか………」

 

 刻まれたステイタスを見ると、ダンジョン探索に向いているような魔法が発現したが、【闇派閥(イヴィルス)】ひいてはモンスターとの戦いという観点で見ると、どう使いこなすのに工夫が必要になってくるものでもあった。魔法を詠唱して帆船を召喚させても、場所によっては邪魔になり得るからだ。

 

「魔法に詳しい者……、【ロキ・ファミリア】のリヴェリア殿が思い当たりますが……」

「さすがに王族な上、他のファミリアの幹部のお手を煩わせることは致しませんよ。その上、友好的とはいえ派閥が違います。異なるファミリアの間で、ステイタスを明かすことはご法度ですよ」

 

 これは、オラリオにいるファミリアの間に存在する暗黙のルールだ。

 

「う~ん、私の方で魔法を調べておきます。それ次第で、私の方から直接手ほどきができるのかもしれません」

「承知いたしました。しばらくは、引き続き後方支援の方をやっておきます」

 

 そういったブランズは、鍛冶系ファミリアである【ヘファイストス・ファミリア】に対する希少金属の割り振りについて検討していく。

 

「フロディとギルスは……?」

「二人とも【ガネーシャ・ファミリア】の方に向かっています。【闇派閥(イヴィルス)】に関することで、他の派閥を交えて対策会議を行うと仰っていました」

 

 フロディがあちこちを駆け回り、仕事に奔走している現状に、まだ7歳という年齢であるにも関わらず大忙しであることに、ブランズは内心同情にも等しい感情を抱いていた。

 

 

*     *     *

 

 

「そういうわけで、資金援助に関してはこちらとしても慎重にならざるを得ないという事情があります」

「それはギルドの内通者がやったことでは………」

「仰りたいことは重々承知しておりますが、王国からしてみれば、オラリオに内通者がいたという認識でして……、ギルドとかそれぞれのファミリアとか、そういった内部については考慮しづらいと………」

 

 複数の派閥を交えた会議を【ガネーシャ・ファミリア】の本拠地『アイアム・ガネーシャ』で行っているが、国の事情を考慮しているフロディの主張に、【闇派閥(イヴィルス)】の対策として前線に出ている派閥から異議を唱える者がいる。

 【闇派閥(イヴィルス)】に対応しているとはいえ、それを行っているのは冒険者。基本的に荒くれ者と分類されても仕方がない性質をしているので、金を始めとした見返りがなければ対処に手を貸しくれないというのが現状だ。

 

 そんな彼らに対して、報酬ともいえる金はギルドから支給されるが、その少なくない割合はアルベイム王国の方が援助した金でもあるのだ。

 

 件の事件が起きたがために、報酬として出している資金をストップしますというと、反発が起きてしまうのは目に見えて分かっていたことだ。

 

「申し訳ございませんが、資金援助に関しては一度打ち切らせていただきます。内通者がいるということが分かった以上、間接的に【闇派閥(イヴィルス)】を手助けしてしまう可能性があるので、そういうことは二度も行いたくないのです。」

「ぬう……!」

「資金援助は打ち切ることになりますが、金属類を始めとした武器の素材に関しては今まで通り継続いたします。もちろん、商業系ファミリアの皆様方と同様、対価を払ってもらいますが、例年よりも安い価格で取引させていただきます。聖樹の枝もまた、同様です」

 

 フロディがそう言うと、資金援助を打ち切りにされたことに不満がある人間が、嬉しい報せに対して複雑な感情を抱く。

 

 オラリオにいる冒険者は、ダンジョンに潜ってモンスターを屠り、そのモンスターから齎されるドロップアイテムや魔石をギルドに取引して生計を立てている。そのモンスターを屠るのに、優れた素材を使用した強力な武器が必要になってくるが、その素材を手に入れるのに苦労する者が存在する。

 アルベイム王国から齎される素材は、優れたものが複数存在することは周知の事実だ。それを格安で手に入ることができるのは、僅かでも強い武器を使いたがる傾向にある冒険者にとっては、喜ぶべきことだ。

 

 【闇派閥(イヴィルス)】への対処については、今後継続して協力してくれるかまだ怪しい所があるが、今回の資金援助の打ち切りに対する代替案としては十分なはずだ。

 

「アルベイム王国の今後の方針については、これからの【闇派閥(イヴィルス)】への対処次第で変化するだろう。さて、次の議題に移ろうか………」

 

 議長にも等しい立ち位置で進行しているのは、【ロキ・ファミリア】の団長であるフィン・ディムナだ。都市最強派閥を率いていることもあり、【闇派閥(イヴィルス)】に対する急先鋒にも等しい立場でもある彼のもとで、議題は進行していく。

 アルベイム王国代表兼【ネメシス・ファミリア】団長として参加しているフロディは、今回の会議で最初の議題の中心になって以降は、壁のようになりきって意見は出せなかった。王国がバックにいるから一目置かれているとはいえ、【ネメシス・ファミリア】はオラリオで実績を持っている訳でも、他派閥から見て脅威的に見られている訳でもないために、発言権はあまりないからだ。

 

「では、これで今日の会議は終わりにしよう………」

 

 フィンの言葉を皮切りに、各派閥の代表としてきた冒険者たちは、次々と退出していく。

 今回の会議では、夕方まで続いていったが、【闇派閥(イヴィルス)】の尻尾を掴むことができていない中では、どうしても対策が限られてくる上、オラリオの冒険者の間では競争が激しく、足並みそろえて戦うには難しい。結果、『それぞれ警戒して、何かあったら情報を交換』というありきたりなものへと落ち着いた。

 

「それにしても、【闇派閥(イヴィルス)】ってのは、一体どこに隠れているんですかねぇ」

「う~ん。どこと聞かれても、オラリオの中にいるのは間違いないけどなぁ……」

 

 フロディの補佐兼護衛として会議に出席していたギルスの疑問に対して、フロディも考えていく。

 

「ダイダロス通りは調べてみた?あそこなら、隠れ蓑にするにはうってつけだと思うけど……」

「ダイダロス通りですか……。あそこは正直、調べるのは難しいものですよ。もう一つの迷宮だなんていわれてるんで……」

 

 元【ガネーシャ・ファミリア】であるギルスの説明に、フロディは聞き入れていく。

 ダイダロス通りとは、オラリオの東と南東のメインストリートに挟まれた区画のことで、貧民層が住んでいる。ギルスが言っていた『地上の迷宮』というのは、ダイダロスが区画整理を多く行ったことで複雑な構造へと変貌してしまい、一度入ると方向感覚が狂わされて迷い込んでしまうことからつけられた。これのせいで、ダイダロス通りの調査は難しい上、住んでいる貧民層の人間が必ずしも協力的とは言えないこともある。

 

「なるほどね……、そういう理由があるのか……」

 

 ギルスの説明に納得したフロディは、どこか釈然としない表情をした。

 

「にしても、オラリオって、内政に関しては割と雑だね。貧民層を野放しにするって……」

「ギルドの方針的に、多くの力がダンジョン攻略と三大冒険者依頼(クエスト)に集中してることもあって、そういうのは後回しにしてる節があるんですよね……」

「そこに、ゼウスとヘラが壊滅が加わって、治安が悪化してしまったと………」

 

 ギルドのことをどのように評価すればいいのか分からなくなったフロディは、頭を振って思考を切り替えていく。

 そこにタイミングよく、【ロキ・ファミリア】代表として会議に参加してきたフィンとリヴェリアがやってくる。

 

「やあ、フロディ。王国の決断には感謝してるよ」

「フィン団長。我々としても、資金援助を継続したかったのですが……」

「いや、それについては納得している。王国からしてみれば、今までより安く素材を提供することの方が驚いた」

「といっても、今すぐというわけではなく、早くても2か月後になるのかもしれません」

「それでも、王国が協力してくれることは心強い。ニヨルド陛下にも、礼を言わなければ……」

 

 ブランズが今まとめているであろう取引については、従来の価格で行われているのだろうが、今回の会議で出た素材の価格引き下げは、ここ1か月の間で王国と話し合った結果だ。無論、会議が紛糾したのは言うまでもない。

 

「それはともかく、そちらのヒューマンは……」

「はい!先月より【ネメシス・ファミリア】に入団いたしました、ギルス・グリットです!よろしくお願いいたします!」

 

 そう言って真面目に敬礼をして自己紹介するギルスに、フィンとリヴェリアは微笑んだ。

 

「ギルス・グリットか……。確か【ガネーシャ・ファミリア】から改宗(コンバージョン)してきたと……。私はリヴェリア・リヨス・アールヴ、フロディの親戚みたいなものだ。よろしく」

「そういえば聞いたことがある。ここ1か月の間に、Lv.2にランクアップしたそうじゃないか」

 

 自己紹介したリヴェリアと、うわさを聞き付けたらしいフィンにギルスもまた笑みを浮かべた。

 

「えぇ、おかげさまで私も上級冒険者の一人になりました」

「頼りになる前衛です。ダンジョンで出会ったら、彼の実力を自慢してみたいですよ」

 

 フロディの称賛にギルスは照れくさそうにする。

 

 その後、軽い雑談をしてそれぞれの本拠地(ホーム)に戻っていき、もう月が空に浮かび上がっているときにようやくたどり着く。

 

「おかえりなさい、フロディ、ギルス」

 

 ネメシスの出迎えに軽い返事をした二人は、会議の結果を報告する。

 

「やはりそうなりましたか。せめて【フレイヤ・ファミリア】も参加してくれれば……」

「ブランズ、あそこは主神(フレイヤ)第一主義ってのは理解してるでしょ?」

「言ってみただけですよ、ギルス。ギルドにいた頃から、あそこは……」

 

 何かを思い出したのか、顔色を悪くさせて息を吐くブランズに、労わるようにみんなで励ましていく。

 

 今回の会議に不参加だった【フレイヤ・ファミリア】は、現状の最強であるLv.6の冒険者を抱えていることもあり、【ロキ・ファミリア】と並んで都市最強派閥となっているが、主神のフレイヤの気分次第で問題も起こすこともある厄介なファミリアでもある。

 おそらくは、フレイヤの号令がかからない限り、【闇派閥(イヴィルス)】の殲滅には積極的に手を貸すことはないだろうというのが、共通の認識だ。

 

「しばらくは、警戒するしかないのが歯がゆいのですが、こうなっては仕方がありませんね……」

「俺とギルスは、ダンジョンに潜って力をつけることにするよ。ブランズも参加するか?」

「私はもう少し後にさせてください。護身の術が、もう少しで合格をもらえますので」

「ブランズの魔法もそうだけど、俺も鍛練しないとな。ランクアップすると、心身のずれが生じるっていいますし……」

 

 こうやって食卓を囲んでいる状態にまで打ち解けている【ネメシス・ファミリア】は、それぞれの間にどこか気安い関係になっていることを窺わせている。

 

「フロディもギルスも、ダンジョンに潜った後はステイタスを更新しますか?」

「「もちろん」」

 

 フロディとギルスの言葉が同時に出た。二人の気合は結構あるようだ。

 

 

ギルス・グリット

Lv.2

 

力 :I49

耐久:I68

器用:I37

敏捷:I20

魔力:I0

耐異常:I

 

《魔法》

【】

 

 

《スキル》

守護剛健(ガーディアン・ヴィリリティ)

 ・戦闘時、『耐久』アビリティに高補正

 ・精神汚染および毒に対する高抵抗(レジスト)

 

正義闘士(ライト・ファイター)

 ・近接戦闘時、スキルの効果の小増幅

 ・攻撃を受けるたび、『力』『魔力』アビリティに補正

 

 

 ステイタスを見る限り、スキル一個でも耐久に優れているギルスであるが、これにLv.2になってから発現した発展アビリティも加わって、ダンジョン探索においては心強い盾役へと強くなった。

 

「とにかく、それぞれでやれることをやりましょう」

 

 ネメシスがそう締めくくり、フロディたちは納得したのと同時に食器を片付け始めていく。

 

 派閥としての活動はまだ始まったばかりだ。

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