転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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各所動向

 ギルスとブランズが【ネメシス・ファミリア】に加入してから2か月ほどの時が過ぎたある日、ダンジョンに潜ろうとしていた冒険者たちがギルドの中で噂話をしていた。

 

「おい、知ってるか?『血濡れの船』ってやつ」

「『血濡れの船』?そんな物騒なものがあるのかよ」

「なんでも、ダンジョン上層を中心に彷徨っている帆船なんだが、モンスターを轢き殺して回っているそうなんだ」

 

 真顔で噂話を展開していく冒険者に、話し相手の冒険者は信じられないとでも言いたげに笑った。

 

「そんなことが現実にあんのか?そもそも、帆船って海に浮かべるようなもんだろ?なんで上層に………」

「それが、陸地であろうとお構いなく進んでいたんだよ、その船。そんでモンスターを轢き殺して進むんだ、血に塗れてもお構いなくな……」

 

 冒険者が齎す『血濡れの船』の情報に、話し相手となっている冒険者が鼻で笑っていく。

 

「ま、そんな船があんのかは知らねえけどよ、聞いたか?【ネメシス・ファミリア】について」

「あぁ、確かハイエルフのガキが団長の……」

「そんで、ガネーシャのところの盾野郎とギルドのエルフが入って、少しずつ力を蓄えているって噂だ」

 

 話題は移り、最近力をつけている【ネメシス・ファミリア】のことについて話していく。

 

「今日も確か、ダンジョンに潜っているんだよな?ご苦労なこった」

「まあ、『妖氷の王子(フィヨルド)』がいるから、わざわざ潜んなくても金があんのにな……」

 

 妬みを滲ませた物言いをする二人の冒険者は、【ネメシス・ファミリア】についてあれこれ言っていく。このような光景は、オラリオの至るところで見られるものだ。

 

 

*     *     *

 

 

「くしゅん…!」

「フロディ?風邪か?」

「いや、そういう体調的なものじゃないよ……」

「おそらく、誰かが噂話をしているのでしょう。私たちは精力的に活動しているのですから、そういう噂が出回るのも仕方のないことだと思いますよ」

 

 ダンジョンの上層で活動している【ネメシス・ファミリア】の3人―――フロディ、ギルス、ブランズ―――は、フロディのくしゃみに反応を示しつつも、1か月前に行われた派閥間の会議から定期的に行われているダンジョン探索を続けていた。

 

「ブランズ、今はどんだけ集まっているかい?」

「魔石が3袋、ドロップアイテムが1袋ほどですね……。上層である以上、質についてはお答えしかねますが、量は多く手に入れてます。」

 

 操舵手さながらに帆船を操っていくギルスの質問に、船の後方に積まれてある袋を確認するブランズは、『精神力回復薬(マインド・ポーション)』を口に流し込んでいく。

 

「頼んでしまっている俺たちがいうのもおかしいけど、これで経験値(エクセリア)は入ってるの?」

「先日もステイタスの更新をしてもらいましたが、しっかりと『魔力』アビリティが上がっていましたよ。といっても、お二人とは違って雀の涙ほどでしたが」

 

 上層を探索している彼らは、談笑しているときでも発動状態になっているブランズの魔法で移動している。

 

 恩恵(ファルナ)を刻まれたのと同時に発現したブランズの魔法『グラッカル』は、帆船召喚魔法の説明の通り、その場に帆船を出現させた。それも、海だけでなく、陸であろうと進むことのできるものだ。

 ダンジョン探索における移動にお誂え向きだと思われるその魔法に、一同は楽に探索できると思ったが、ブランズは運用次第で戦いに活かせることができるという考えの元、自らの魔法に向き合ってきた。

 

 その結果、ブランズは召喚した帆船を使った運用について、冒険者の間で広まっている噂の通りになった。

 『グラッカル』で召喚した帆船を操作し、ダンジョン内に生まれてきたモンスターを轢き逃げしていく運用だ。狙われたモンスターは、魔石とドロップアイテムを残して死んでいく。

 もちろん、全部が全部、確実に殺すことはできない。大体は、小型のモンスターばかりで、大人と似た大きさのモンスターは吹き飛ばす程度にしかできない。

 

 だが、このような容易に倒すことのできない相手にはフロディの魔法で迎撃している。ブランズの魔法の副次効果により、『魔力』アビリティに補正がかかっているので、船に乗っていない時よりも魔法が強く感じたので、ブランズにずっと帆船を召喚してほしいと思ったのは内緒だ。

 

 といっても、無視できないデメリットがある。魔力や精神力(マインド)の消費がとてつもなく激しいのだ。試しに、本拠地内で使ってもらったことがあるが、フロディの持つ付与魔法が自動で解除されるよりも早く精神疲弊(マインドダウン)が起きてしまったほどのものだ。

 ブランズが口にしていた『精神力回復薬(マインド・ポーション)』は、【ディアンケト・ファミリア】製の中でも高位のものだ。もちろん、値段も高く設定されている。

 

 こうして探索しているのは、ブランズがほぼ絶え間なく『精神力回復薬(マインド・ポーション)』を口に流し込んでいることもある。帆船は一度に一個しか出すことができず、その操作についてもブランズが精神疲弊(マインドダウン)することなく意識をしっかりと保っていることが前提であるため、フロディとギルスのように戦いに参加するのは難しいのだ。

 

「ギルドの連中から何か突っ込まれるのかな~」

「あまり気にしなくてもよろしいのでは?ゴクッ、ゴクッ………。これが広まると他の派閥がこぞってやってくるので、しばらくはあまり自分たちから言わない方がよろしいかと」

 

 一度、大量の魔石とドロップアイテムを持ち帰ってきたことにより、ギルドの職員や他の冒険者から疑問に思われたが、そのときは適当に言って躱したのは記憶に新しい。

 しばらくの間は、また言われることを内心覚悟する。ブランズの魔法目当てで抗争を仕掛けてくる可能性は無きにしも非ずだからだ。

 

「そういえば、【闇派閥(イヴィルス)】の動向についてはどうなっていますか?」

「今でも目立った動きはなし。【ガネーシャ・ファミリア(俺の古巣)】にも、色々と情報交換してるけど………、フロディが拉致されたことにエルフたちが怒り心頭になってることが影響してるのかもしれないって、シャクティ団長が……」

 

 ブランズの質問に、【闇派閥(イヴィルス)】に関することを一手に引き受けているギルスが答える。

 

 【ガネーシャ・ファミリア】として活動してきたギルスは、今でも古巣と深い交流がある。在籍していた頃からある人脈もあってか、オラリオの中でもそれなりに情報通といえる。

 

「【ガネーシャ・ファミリア】には本当に頭が上がらないな……」

「そうですね……。だからこそ、私たちも精進しなければ……!」

 

 申し訳なさそうに呟くフロディに、ブランズは前向きにそう返した。

 

 今現在のオラリオでは、【ガネーシャ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】が中心になって【闇派閥(イヴィルス)】の対処を行っており、フロディたち【ネメシス・ファミリア】は後方支援を主に担当している。

 こうして、ダンジョンの探索をしているのは、少しでも力をつけるためである。ダンジョン内で【闇派閥(イヴィルス)】に襲撃される懸念があったが、ブランズの魔法とLv.2に上がったことで前衛盾役(タンク)としての能力が向上したギルスの存在により解消はされた。

 依然として、実力が不足しているのは否めないのも事実であるが、これを少しでも解消するためにダンジョンに潜っているのだ。

 

「もうすぐ中層につきそうです。準備はよろしいでしょうか?」

 

 帆船を操作していたブランズが、確認するかのようにフロディとギルスに言う。

 

「13階層か……。俺は遠征以来に行きますが、フロディは初めてだったんだっけ?」

「そうだね。そこからはっきりと、難易度が上がるんだっけ?」

 

 中層についてよく理解しているギルスの言葉に、フロディは質問する。

 

 ギルスが入ってから今までの間では、すっかりと打ち解けるようになった。情報通であるが故の人との打ち解けやすさもあってか、今ではこうしてタメ口で言いあうことのできる間柄になっているのは、主神のネメシスや身内を除けば、基本的に敬語で対応されるフロディにとってはとても嬉しいことであった。

 

「13階層からは中層になるので、上層にいた頃とは打って変わって攻略難易度が上がります。ダンジョン内における冒険者の死亡の事例は上層が集中していますが、その上層を除いたとき、この13階層が最も死亡例が多発していますね」

 

 元ギルド職員ということもあって、スラスラと説明していくブランズに感心しながら、フロディは得物の剣を手入れしていく。

 

「それじゃ、注意して進みましょうか」

 

 盾を構えて、中層へと続いている道を進んでいくギルスに、フロディとブランズが続いて歩く。

 ブランズの召喚した帆船は、別の階層を進むときには通ることができないので、その都度魔法を解除してもらってる。

 

「ここから正規ルートに入っていくことになる。道中、モンスターが多くやってくるから気を付けるように」

 

 盾を構えながらそう忠告するギルスの背中は、この中で長く冒険者として過ごしてきたが故の頼もしさを感じさせた。

 

「中層から出てくるモンスターには、徒党を組んで襲い掛かってくる事例もあるので、心してかかりましょう」

「ヘルハウンドとか、アルミラージとかがやってくるんだっけ?」

「おう、特にヘルハウンドは口から炎を吐き出してくるから、集団でやられたらたまったものじゃない。見かけたらすぐに倒すか逃げるかの二択になるな」

 

 緊張感のある雰囲気を出しても尚歩みを止めない3人は、これから待ち受けているであろう数々の試練に向き合っていく。

 

 中層に出てからも、ブランズの持つ魔法によって多くの利益を得ることができ、この時からブランズは、【ネメシス・ファミリア】における縁の下の力持ちといっても過言ではなかった。

 

 

*     *     *

 

 

「それで、トリウィアの行方は?」

「それは俺も分からない。トリウィアの持つ武器の傷跡はあったし、ケツァルコアトルが裏で関わっていることもほぼ確実と言ってもいいだろう。だが、あいつが裏で繋がっているとしたら、厄介なことになりかねない」

 

 フロディ、ギルス、ブランズの3人がダンジョンの中層に出向いている中、【ネメシス・ファミリア】の本拠地であるアルベイム王国の大使館の会議室では、二柱の超越存在(デウスデア)が向き合っていた。

 大使館の主と言ってもいい女神ネメシスと、オラリオにおいて中立を標榜している男神ヘルメスだ。

 

「そもそも、ケツァルコアトルの目的は一体何なのですか?トリウィアを支援していることから、ロクでもない性格をしているのは間違いないのですが……」

「ケツァルコアトルの目的、か……。あいつは掴みどころがなかったから、正直付き合いきれないやつだったよ。交流のあった俺でさえ、大体のことを把握しきれていない」

 

 ネメシスから見てどこかブーメラン発言に等しいことを口にしながら、ヘルメスは考え込んでいく。

 

 その様子を見たネメシスは、ヘルメスでさえ把握できていないケツァルコアトルの全容に内心驚きながら、次の疑問をヘルメスに投げかけた。

 

「では、トリウィア以外にも、冥界に由来していて、自由に動きまわることのできる精霊について知ってることはありますか?」

「トリウィア以外の?それはどうして?」

 

 予想もしていなかったのか、怪訝な表情をするヘルメスに、ネメシスは説明を続ける。

 

 フロディに恩恵を刻み、その結果発現することとなったスキルのことについて説明する。

 

 オラリオに入ったその日に面会して情報を共有したウラノスから事前に話を聞いているのか、フロディが転生者であること、トリウィアに目を付けられていることの二つの情報について知っているヘルメスは、まさか祝福が施されていることについては初めて聞いたような反応を示した。

 

「ハイエルフの王子に精霊の祝福、か……。他のエルフたちが耳にしたら大騒ぎになること間違いないね」

「精霊を神々以上に神聖視していますからね。それで、先ほどの私の質問についてですが――」

「―――心当たりは、ある」

 

 ネメシスの言葉を遮るように断言したヘルメスは、鋭い眼差しを向ける。

 

「といっても、可能性は限りなく低い。何と言ったって神時代が始まる前の古代の話だからな」

「古代の?」

「あぁ。そいつはトリウィアよりも無害な奴で、精霊としての格は下の方だったはずだ。気づいたときには姿を消していたが、何も悪いことは起きないだろうと俺はもちろん、親元の神だってそう判断したんだ」

 

 ヘルメスから齎されたその情報にネメシスは考え込んでいく。だが、そんなネメシスに対してヘルメスは口を開く。

 

「いま一度、フロディ君のルーツについて詳しく聞いた方が良くないかい?彼の前世を含めて、本人の知らない所で、古代の精霊が関わっていることも、あるにはあるだろう?」

「……助言していただき、ありがとうございます」

 

 ネメシスの発言を聞き取ったヘルメスは、用は済んだことを悟り、とっとと退出していく。

 

 その後ろ姿を見送ったネメシスは、深く考え込んでいく。

 

「古代の精霊、か……」

 

 

*     *     *

 

 

「やっぱり、綺麗な色をしているわね……」

 

 どこか恍惚とした声色をしてそう言った、露出度の高い服を着こんだ女神は、【フレイヤ・ファミリア】の主神、フレイヤであった。

 ここは、バベルの最上階にあるフレイヤの私室だ。彼女の視線の先には、ダンジョン探索を終えたであろう、ギルスとブランズと共に本拠地に戻っているフロディであった。

 

「あの子について詳しく知らないけど、私の伴侶(オーズ)に相応しいのかしら……?」

 

 フレイヤとしては、フロディの持つ輝かしい魂は、他の何者にも持つことのできないことは確信しているので、今すぐにでも自分のものにしたいのが本音だ。

 

 だが、あれだけ輝かしい魂は他に見たことがなく、それ故、自分と同じように人の魂を見ることのできる冥界の精霊(トリウィア)が狙っていることに憤りを感じていた。

 

「オッタル、あのハイエルフの子を襲った人間(子供)たちについて、詳しく調べ上げることはできないかしら?」

 

 フロディから視線を外したフレイヤは、傍らに護衛として佇んでいる【フレイヤ・ファミリア】の副団長、『猛者(おうじゃ)』オッタルであった。

 

「申し訳ございません。『妖氷の王子(フィヨルド)』についてですが、以前に【闇派閥(イヴィルス)】に拉致されたことが原因となり、彼らに関する情報が制限されております。無論、例の事件についても同様です」

 

 主に、彼がまたさらわれることを懸念したエルフたちが多くそうしてきたが、ギルドも同じようにして情報を秘匿している。下手をすれば国際問題に発展しかねないからだ。

 

「そう、なら別の方法で調べてみるのはどうかしら?」

「かのハイエルフを、ゆくゆくは我がファミリアに迎え入れるおつもりで?」

 

 そう疑問を投げかけたオッタルに対して、フレイヤは微笑んだ。

 

「それは想像に任せるわ。調べ上げる方法についても、あなたに任せるわ」

 

 そう言われたオッタルは、脳裏に白黒のエルフを思い浮かべながら退出する。

 

「彼の魂……、不自然なほど完成されているわね……」

 

 そう呟いたフレイヤはそのことを謎に思うが、その謎もまたフロディの魅力の一つだと頭を切り替えていく。

 

 自分の隣に並び立つ伴侶(オーズ)に相応しいか否か、それが彼女にとって最も重要なことだ。

 

「あの子が、欲しい………」

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