転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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あと2~3話で、第2章終わります。


死体人形

 先を走っているルビウスの後を追って、フロディたち【ネメシス・ファミリア】は息を切らしているが、やがてルビウスは叫ぶ。

 

「いたぞぉっ!あの眼鏡ヤロウがぁ!」

 

 猪突猛進を体現したかのようにそのまま突撃していくルビウスだったが、そんな彼をフロディは制止していく。

 

「ルビウス、待てっ!」

 

 そう言ってルビウスを止めると、フロディは視界に納めている相手を警戒していく。後ろから遅れてやってきたギルスもブランズも同様だ。

 

ルビウスは今も尚、息を全く切らすことなく相手を睨みつけており、今にも飛び出しそうな殺気を醸し出している。

 

「久しぶりじゃないか、フロディ……。ちょっと見ないうちにまた強くなったのかい?」

「ペイル……!」

 

 お互いに自身の得物を手に取りながら睨みあうフロディとペイルだが、フロディを守るかのように大盾を構えたギルスが前に出ていく。

 

「ペイルさん、か……。あの時は『お世話』になったなぁ……」

 

 一度手酷くやられた苦い経験もあり、どこか殺気にも似た敵愾心を剝き出しにしながら言ったギルスは、目の前に広がっている光景に嫌悪感を示す。後ろからやってきたブランズも、エルフであるが故の潔癖さも相まってか、不快感を隠そうともしなかった。

 

「【ネメシス・ファミリア】のお出ましかぁ……。ちょっとは面白くなりそうだね、フロディ…」

「わざわざ聞くわけではないのですが、この惨状は、あなたの所業ですね……?」

 

 弓矢を構えるブランズの言葉に、ペイルは嬉々として答えた。

 

 

 

「そうだね。これも実験の一環さ」

 

 

 

 フロディたちの目の前に広がっている光景―――ルビウスがここにやってくる前に断片的に明かした奴隷たちへの仕打ちでもある―――ペイルによる非人道的な実験だ。

 

 ルビウスと同じようにオラリオへとやってきた奴隷たちの半分近くが異形の姿へと変貌していた。片腕がモンスターから抉り取ったであろう鋭利な爪であったり、下半身が敏捷や跳躍に適したモンスターへと変えている者もいる。彼らはすでにこの世を去ったのか、目は虚ろそのもので、中には眼球そのものがない者もいる。

 

 また、異形のものへと変貌しているのは半分近い数の奴隷だけでなく、闇派閥(イヴィルス)が捕獲してきたであろうモンスターも同じだった。中には、ペイルの作った魔道具が埋め込まれているモンスターもおり、見ただけでも上級冒険者に匹敵しうるのはフロディたちにも理解できた。

 

 変貌されていない奴隷たちはというと、意識がある者がほとんどであるが、その顔には恐怖と絶望の表情が刻み込まれていた。ペイルの実験によって、精神が擦り減らされたことが分かる。

 

 こうして、改造された者たち―――『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』は、人と言い難い姿で猛威を振るっていた。

 

「こんなにも、酷いことを……!」

 

 正義の派閥とも言える【ガネーシャ・ファミリア】にいたギルスは、こんなにも惨い光景を目の当たりにしたことで怒りを露にする。それは傍にいるフロディも同様だ。

 

「こんなことをして何になるんだ!尊厳を踏みにじるようなことを……!」

「あぁ、ダメダメ、ダメだよ、フロディ。目的のためなら、手段は選ばない。このクソみたいな世界なら猶更じゃないか」

 

 開き直って宣うペイルに、フロディはもちろんルビウスでさえも怒りを示していた。

 

「眼鏡ヤロウっ!てめぇをぶっ殺してやらぁっ!!」

 

 そう言って突撃していくルビウスであるが、ペイルは慌てることなく、右手でフィンガースナップをする。

 

()()は黙っててくれないかな?」

 

 パチンっ!

 

 そんな音が鳴ったのと同時に、ルビウスは電撃が走ったかのように体を震わせて倒れこむ。

 

「はぁ、簡単に死ぬとは思ってなかったけど、フロディたちを誘い出す餌として機能してくれて良かったよ。それについては褒めてやってもいい」

 

 見下した物言いをするペイルに、フロディたちは話の理解が及んでいなかった。

 

「ペイル!これは一体どういうことだ!?」

「う~ん、説明が長いから要約して言うよ」

 

 ドワーフと思われる『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』を来させて四つん這いにさせ、その背中に椅子のように座りこむペイルは、こう言い切った。

 

「そこのルビウスっていう猪人(ボアズ)は、すでに死んだんだよ。けど、こうして動いてるじゃん」

 

 にべもなくそう言い放ったペイルに、フロディたちは絶句した。理解が追い付いていない頭を回転させながら、フロディは、推測する。

 

「まさか……、ルビウスは彼らと同じ、『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』に改造したのか……!?」

「ご名答!まっ、僕の性格を知ってる君なら簡単だったかな」

 

 フロディと通じ合えることに嬉しさを感じたのか、どこか子供っぽい声色をするペイルに、ギルスとブランズは不気味さを感じた。

 フロディとペイルの関係やフロディ自身の事情については、ネメシスやガネーシャを交えて共有している二人であるが、いざこうして目の当たりにすると恐怖が滲み出てしまいそうだった。

 

「元は奴隷だった猪人(ボアズ)くんをこのオラリオに連れてきてからは、他の連中と同じように改造したんだよ。けど、なぜかそいつは肉体的に死んでるはずなのに意識ははっきりしててさ。正直扱いに困っていたんだよ」

 

 心底迷惑そうに発言するペイルに、フロディは冷静さを欠こうとしていた。

 

「けど、フロディたちを誘き出す餌としてはうってつけだったし、もう用済みだからこうしたってわけ。さてと……」

 

 ドワーフの『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』に座っていたペイルは、懐から銃型の魔道具(マジックアイテム)を取り出すと、その銃口をフロディたちに向けた。

 

「しばらく僕の実験に付き合ってよ。前に会った時より強くなってるのは予想できてるから」

 

 そう言い切ったのと同時に発砲したペイルに対して、ギルスが間に立って大盾で防いでいく。

 

 その銃声を皮切りに、『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』が一斉にフロディたち【ネメシス・ファミリア】に襲い掛かってきた。

 

「最悪な状況だな……!!」

 

 愚痴交じりに吐き捨てるギルスの言葉に内心同意するフロディは、剣を振り回して牽制しながら周囲の状況を把握する。

 

 目の前には『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』という多くの敵、少し離れた所にはルビウスと同じ境遇である奴隷たち、そして自分たちは3人のみ。

 

 ひっきりなしにやってくる『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』は、爪だの怪力だの、多様な手段で攻撃してくる。

 前衛であるフロディとギルスは、それを防ぎながら、相手を斬りつけていく。

 Lv.2とはいえ、スキルの影響で強くなっているフロディと、『耐久』のアビリティ限定であるが、互角以上に渡り合えるギルスでは、いくら上級冒険者相当と言える『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』といえど、切り崩すことは難しい。

 

 だが、多勢に無勢と言っても仕方のない今の状況では、敵方を全滅に追い込むことは不可能であることは十全に理解していた。

 

 この状況を打開するには、どうすればいいのかとフロディが思考を張り巡らせていくと、弓矢で抵抗していたブランズが口を出した。

 

「フロディ殿……!しばらく、私を守っていただけないでしょうか……!」

「ブランズ……?」

「『グラッカル』を使って撤退に致しましょう……!ペイルを倒すのは、まだ先のことです。今はあの奴隷たちを救うことが最優先です……!!」

 

 誇り高いと言われるエルフの男らしく、そう提案したブランズに、フロディとギルスは頷いて同意を示す。

 

「分かった!詠唱を頼む、ブランズ!」

 

 言われたブランズは、冷静になりながら『グラッカル』を発動しようと詠唱する。

 

 ブランズから漏れ出ている魔力に反応しているのか、先ほどよりも激しさを増して猛攻を続ける『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』であるが、ブランズを守るようにギルスが大盾で攻撃を防ぎ、フロディが剣で斬り捨てていく。

 

「【我が意思のもと顕現せよ。其は帆船、多くを運びし魔法の船。風と共に前に進め。】」

 

 冷静に唱えたブランズは、スキルの影響で強化された帆船を召喚する。

 

「【グラッカル】……!」

 

 召喚された帆船『グラッカル』は、普段、フロディたち【ネメシス・ファミリア】がダンジョンの探索に使われているものよりも大きいものへと変わっていた。

 

「あぁ……。あれが冒険者の間で噂されてたものかぁ……」

 

 どこかに忍ばせていたであろう【闇派閥(イヴィルス)】の間者(スパイ)から情報収集していたペイルは、噂のものが目の前に現れたのかどこか興味深そうに観察した。

 

 その間、フロディとギルスと共に『グラッカル』に乗り込んだブランズは、そのまま奴隷たちの所へ移動させていく。敵のことなどお構いなしに轢きながら丁度奴隷たちと『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』の間に割り込むような位置で止まった。

 

「皆さん!一刻も早くこの船に乗り込んでください!」

 

 帆船の中から弓矢を使って応戦するブランズの横を飛び降りながら、ギルスは奴隷たちに向かって叫ぶように呼び掛ける。

 

 呼びかけられた奴隷たちは、ギルスの大声で我に返ったのか、急いで船に乗り込んでいく。

 

「全員が乗り込むまで耐えられるか?」

「もちろん!あんたの長文詠唱も耐えられるぞ、フロディ!」

「微力ながら、私も助力します」

 

 盾と槍を駆使して敵を倒していくギルス、【冥霊祝福】を少しでも発動するためにわざと攻撃を受けながら剣で攻撃していくフロディ、帆船の中から弓矢で敵を射止めていくブランズ。

 

 【ネメシス・ファミリア】の男たちによる、奴隷救出戦が勃発した。

 

 特に、フロディは、尊厳を踏みにじるようなペイルの行いに、怒り心頭になっており、魔力が漏れ出ていたり、かなり荒々しい戦い方をしていた。

 

 

*     *     *

 

 

 

「我らのハイエルフを…!解放せよぉ……!」

 

 フロディたちが中層で戦っている間、オラリオの市街地でも、事件は起きていた。

 

「ふんっ!」

 

 

 バキィっ! ボコォッ!

 

 

 殴られた人間からそんな効果音が聞こえてきてもおかしくはない強さで殴りつけているのは、フロディたちの主神、ネメシスである。

 ネメシスのその拳によって被害を受けた襲撃者たちは、たちまち戦闘不能になっていく。

 

「ハイエルフを……、解、放……」

 

 先ほどまでと同じような言葉を口にしながら気を失っていく彼らだが、神殺しの大罪を知らないのか、知った上で行動に移しているのか、その手には武器が握られており、本気で殺そうとしていたことを窺わせる。

 

「彼らは一体……?」

 

 対処したネメシスは、彼らが何者なのか、皆目見当もつかなかった。

 

 ハイエルフを解放するように言ってきたのがエルフであるならば、よくいる狂信的な者たちと割り切ることはできたのだが、武器を持ってまで襲い掛かってくるのはさすがにしない。

 ましてや、襲ってきたのはエルフだけでなく、ヒューマンやドワーフ、獣人といった多種多様な種族の者たちだ。

 

 フロディのいたアルベイム王国の国民であるならば、フロディとネメシスの間にある種の主従関係のようなものが存在することは知っており、互いに強い信頼関係が存在することも知っているはずだ。

 

 にもかかわらず、襲ってきた彼らの正体が何なのか、ネメシスは思考するが、偶然近くにいたのか、それとも襲撃者からハイエルフの名が出てきたからなのか、リヴェリアと彼女の主神のロキがやってきた。

 

「神ネメシス…!怪我は……?」

「わざわざ確認せんでも、ネメシスは無事や、リヴェリア」

 

 突然二人がやってきたことに、ネメシスが目を見開いて驚くも、すぐさま気を取り直して状況を説明していく。

 

「この通り無傷です。しかし、彼らに何一つ身に覚えがないのです……」

「同胞なら、このような手段をとることはないだろう。不満はあれど多くの者は、神ネメシスがフロディの主神であることを認めているはずだ」

 

 エルフの間にある思いや意見を代弁するかのように言うリヴェリアは、彼らの正体が何なのか分かっていなかった。

 彼女もハイエルフという同じ境遇であるが、フロディとは違って王族として扱われることにうんざりしており、度々そんな扱いをしないように言うこともあるが、こうして神殺し覚悟の蛮行を目の当たりにするのは初めてだ。

 

「一体、彼らは……?」

 

 

「考えているところ失礼するよ、ネメシス、ロキ」

 

 

 その言葉を発した声から、どこか油断ならない気配を感じ取ったネメシス、ロキ、リヴェリアの2柱と1人は、その声の発した方向に目を向ける。

 

「そんな殺気のある雰囲気を出さないでくれ。ちょっとした挨拶みたいなものじゃないか」

 

 そこには、胡散臭い笑顔を浮かべている、蛇を彷彿とさせる顔をしたヒューマンの男がいた。

 

「この者たちをけしかけたのは、お前か……?」

 

 得体のしれない者を前に、魔力を漏れ出しながら前に立つリヴェリアは、警戒心を露にする。

 

 だが、目の前の男は、Lv.5という第一級冒険者を前にしても、何一つ恐れることなくリヴェリアを落ち着かせようとする。

 

「まあ、落ち着いてくれたまえ、お嬢さん。今日はそこにいるネメシスに、ほんのちょっとの挨拶に来ただけだよ」

 

 ネメシスに目を向けながらそう答えた男に、ネメシスとロキは目を合わせる。

 

「ここは神々同士で話し合おうじゃないか。お嬢さんはしばらく席を外してくれ」

「さっきまでのことをしでかしておいて、この場を去るとでも?」

 

 今にも魔法の詠唱を始めかねない雰囲気を出すリヴェリアに、ネメシスは落ち着かせる。

 

「リヴェリア殿、彼の言う通りに離れてくれ」

「神ネメシス!?」

「ここは私に任せてください。あなたはフロディの保護をお願いします。今、ダンジョンの中層にいます」

 

 先ほどの襲撃者がフロディのもとへとやってきていてもおかしくはないことに気付いたリヴェリアは、顔を顰めながらその場を去ってダンジョンへと向かっていく。

 

「さて、ようやく話し合いをしようじゃないか」

「まず、お前は何者(なにもん)なんや?リヴェリアを相手にしても、全く気にせんかったやつに話し合いなんてできるわけないやろ……!」

 

 自慢の眷属(子供)を相手にしても、子供を相手にするかのような振る舞いをした相手の男に、不快感を示しながら言ったロキに、男はにこやかに笑いながらいう。

 

「あぁ、まだ名乗っていなかったようだね。トリウィアが何度も関わっているから、そっちにも名前が行き届いていると思っていたよ」

 

 聞き捨てならない言葉を聞いたネメシスとロキを他所に、男は名乗る。

 

「俺の名前は、ケツァルコアトル。トリウィアの契約者、異世界を繋げる神でもある」

 

 そう言った人間―――否、男神の名乗りに、ネメシスは驚きのあまり体を硬直させた。

 

 だが、ケツァルコアトルはというと、どこか愉快犯にも似た笑みを浮かべながら、ネメシスとロキの反応を楽しんでいた。




ペイルのステイタス(本話時点)

ペイル(板東巧斗)
Lv.3

力 :E405
耐久:E400
器用:B780
敏捷:C620
魔力:D550
神秘:H
調合:I
《魔法》
【ムスペルス・ラグナロク】
 ・範囲攻撃魔法
 ・炎属性
 ・魔法発動時、詠唱者の憎しみを始めとした負の感情によって効果増大
 ・魔法が命中時、命中した地点を中心に煉獄のフィールドを生成する。範囲はレベルに依存。

《スキル》
疑心職人(パラノイド・クラフター)
 ・『神秘』の発展アビリティの発現および高補正
 ・自身および自身と同じ神血(イコル)を持つ者が、スキル所有者の開発した魔道具(マジックアイテム)を使うと効果増大
 ・自身と同じ神血(イコル)を持っていない者は、スキル所有者の開発した魔道具(マジックアイテム)使用不可

徹底警戒(マッド・コントロール)
 ・自身の血をなじませることでスキルが発動
 ・スキルの発現者の意思で、血を馴染ませた物体、人間に対して、爆発や電撃、その他の効果が発動。発動内容は、馴染ませた血の濃度で変化する。
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