転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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呉越同舟

 目の前に立つ男が、ヘルメスが齎した情報の中で重要になってくる男神、ケツァルコアトルであることにネメシスは警戒心を露にし、傍らに立っているロキは疑問を示すかのように顔を顰めていた。

 

 異世界転移能力ともいえる権能を持ち合わせているケツァルコアトルだが、目の前にいるはずの男神からはそう言った神威を感じられない。完全に隠し通すことはできなくはないのだが、目の前の男は見た目はヒューマンであるが、どこか異質ともいえる雰囲気を感じ取れたのだ。

 

「いろいろ疑問に思うところはあると思うけど、とりあえず腹を割って話そうじゃないか」

「その前に、あなたはケツァルコアトルなんでしょうか?あなたからは、まるで人形と話しているような雰囲気を感じ取れるのですが……」

 

 ネメシスの言葉に、ケツァルコアトルは口を開く。

 

「そう思っても仕方がない。俺はケツァルコアトルであり、ケツァルコアトルとは言い難いからな」

「それはどういう……」

「今話しとるやつは、ケツァルコアトルの分身、ってことで合っとるか?」

 

 傍らに立っていたロキが、ネメシスの疑問を解消するかのように考えを口にする。

 

「分身?精霊と似たようなものですか?」

「悪くない推察だ。そちらにいる倉本清剛くん――いや、今はフロディ・リヨス・アールヴくんだったか?彼の元いた世界に伝わるアステカ神話については聞いたか?」

 

 ケツァルコアトルの質問に、フロディと一番近しい存在であるネメシスは、首を横に振って否定する。そもそも神話について、フロディ自身も詳しく知らないからだ。

 

「これでも俺は、憎きテスカトリポカを始めとした多くの神々と戦ってきた創造神だ。人類という、都合の良いものを作り出すことも容易い。今こうして話しているのは、天界にいる本体と繋がっている人形のようなものだ」

 

 生命に対する冒涜ともいえる所業を行っているケツァルコアトルに対して、ネメシスはどこか嫌悪感にも似た怒りを表情に滲ませる。

 

 冥府の神であるヘカテーを友人にもつネメシスとしては、真面目に職務を行っている彼女を詳しく知っていることもあって、ケツァルコアトルを敵視していた。

 

「噂に違わぬ潔癖さを持っているな、ネメシス。エルフの王子様と相性が良いだけある」

「あなたからの称賛は要りません。それで、彼らをけしかけたのは……」

 

 先ほど、ネメシスに襲い掛かってきた者たちを一瞥しながら、ケツァルコアトルは答えた。

 

「あぁ、魂に関してはトリウィアが強奪してきたもので、その入れ物として俺が作った人間たちだ。さっきも言っただろ?ちょっとした挨拶だって………」

「随分と野蛮なことやなぁ、ケツァルコアトルぅ……!」

 

 自分とは関わりがないとはいえ、下界の人間(こども)たちがいいように使われていることに、ロキは顔を顰めて吐き捨てた。

 ネメシスも同様だ。今にも殴りかかりそうな勢いで構えている。

 

「子供らをなんやと思っとるんや……!」

「魂を道具として扱っている、あなたの行いを許す道理はこちらにはありません……!」

 

 神威を解放して威嚇しているロキとネメシスに対して、ケツァルコアトルは息を吐く。

 

「まぁまぁ、そんな小さいことはさておき、さっさと本題に入ろうか」

 

 先ほど言っていた話し合いについて、ネメシスとロキは思わず身構えるが、当のケツァルコアトルはどこか呑気ともいえる雰囲気を出していた。

 

 

 

「俺と一緒に、ペイルを殺そうじゃないか」

 

 

 

 男神から齎された提案に思いもしなかったのか、ネメシスは思考が定まらなかった。

 

 挨拶代わりと言わんばかりに襲い掛かってくるわ、尊厳を踏みにじるかのように人間を作るわで、ネメシスにとっては不快でしかないことをするケツァルコアトルからの協力の申し出に「一体何を言ってるんだ」と怒鳴りたくなった。

 

 だが、それと同時に、どうしてペイルを殺したいのか疑問にも思っていた。困惑した面持ちでケツァルコアトルに目を向ける。

 

「まあ、そんな顔をするのも分かる。けど冷静になって考えてくれ―――」

「おう、こっちは冷静やでぇ、ケツァルコアトル」

 

 喧嘩腰でそう吐き捨てるのはロキだ。

 普段、糸目である彼女の目は、瞳がはっきりと見えるほどに開かれていた。

 

「今更協力なんて、何ふざけた言うとんねんっ!そもそも、お前の目的は何や!?」

「『救界(マキア)』だよ、ロキ」

 

当たり前と言わんばかりの表情で言い放ったケツァルコアトルに、ネメシスは目を見開いた。

 

「何ですって……!?」

「そう驚くのも無理はない。俺は今まで、お前たちに敵とみなされてもおかしくはない行動をとってきた。」

 

 そう言って息を吐くと、ケツァルコアトルは眼光を鋭くさせて言い放った。

 

「だが、俺の取ってきた行動は何もかも、世界の救済のためなんだ。」

 

 そう語るケツァルコアトルの表情からは、真剣と言っても過言ではなかった。

 

 ネメシスはもちろん、天界にいた頃から切れ者として知られているロキでさえも、目の前にいる男神から使命感と言ってもいい気迫は感じ取れた。

 

「とりあえず、当事者のフロディくんを待とうか」

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 一方、ダンジョンの中層にて、ペイルたちと戦っていた【ネメシス・ファミリア】であるが、そこに双方にとって、思わぬ事態が起きた。

 

「雑魚は引っ込んでろ……!」

 

 フロディたちに向けて吐き捨てられた言葉と共に、ペイルの生み出した『破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)』は、次々に倒されていく。

 やられた者たちは皆、猫人(キャットピープル)の繰り出すソニックブームにより、見るも無残な形へと変わっていく。

 

「なぜ彼らに協力するのかなぁ?『女神の戦車(ヴァナ・フレイア)』……?」

 

 ペイルがそんなことをぼやいている相手は、【フレイヤ・ファミリア】のLv.2、『女神の戦車(ヴァナ・フレイア)』ことアレン・フローメルだ。

 協調性はあまりないことで知られている【フレイヤ・ファミリア】の中で、若輩でありながら過激派であることが知られているアレンだが、こうしてフロディたちを守るかのような行動をとってることに、敵味方問わず困惑していた。

 

 先ほどストレートに罵っていたが、できる限りフロディたちを傷つけないようにしていたのは、アレンの倒した相手から推測できる。

 

「女神の意思だ……。とっとと片付けるぞ……!」

 苛立ちを隠そうともしないアレンの発言から、フロディたちの手助けするかのような行動は、主神のフレイヤの命令であることは分かったが、アレン本人からしてみれば不本意でしかないことも理解した。

 

「目的は分からんが、ひとまずは彼の力を借りようか……!」

 

 ギルスの提案により、アレンを味方に勘定して信じることにしたフロディは、長文詠唱を少しずつ行っていく。

 

 大盾を構えているギルスと矢を次々に射出していくブランズの補助により、付与魔法(エンチャント)の詠唱を完成させる。

 

「【ディア・ゲルズ】!」

 

 完成と共に発現させた氷を四肢と剣に纏わせると、フロディは【破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)】を次々と攻撃していく。

 

「うぉりゃあっ!!」

 

 わざと攻撃を受けて傷つかせたこともあり、【冥霊祝福(スキル)】も発動させて苛烈な猛攻を仕掛けていくフロディを見て、遠くから観察していたペイルは興味深そうにつぶやく。

 

「へぇ、付与魔法(エンチャント)にしては、下手な長文詠唱の魔法よりも威力があるねぇ」

 

 フロディの持つスキルを考慮しても、前々から見てきたものよりも強い事実に、ペイルは心躍らせた。

 一方、船の中から支援しているブランズは、俯瞰的に戦場を見ていることもあってか、参謀の如くフロディに提案していく。

 

「フロディ殿、右側に対して氷の壁を高く生成してください!敵が遠くから打ってきます!」

「…!【吹雪よ(ブリザード)】!!」

 

 追加の詠唱式と共に高くそびえたつ氷壁を生成したが、そこにペイルが作ったと思われる魔道具の光弾が当たった。

 少しでも遅れていれば、何人かの奴隷が犠牲になってもおかしくはなかっただろう。

 

「もっと指示を出してくれない?」

「では、合図を出しますので、その氷の壁の根元を斬ってください。ギルス殿、それまではできる限り、敵を足止めしてください」

「「了解!」」

 

 ブランズの指示を聞いたフロディとギルスは、それぞれ自分のやるべきことをしていく。

 ギルスは補正された『耐久』に物を言わせて敵を足止めどころか逆に押し返していく。

 

 自身の生成した氷壁の近くに立ったフロディに、多くの【破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)】が押し寄せようと来ているが、それに構わずブランズが指示を出す。

 

「今です!!」

 

 合図を聞き取ったフロディは、力いっぱい斬撃を繰り出す。

 

 それにより、高くそびえたっていた氷壁は、ブランズの望んだ通りに敵に向かって倒れていき、多くの【破滅の炎を持つ者(エム・シュニル)】を圧殺していく。

 

「【吹雪よ(ブリザード)】!!」

 

 追い打ちと言わんばかりに、フロディが冷気を浴びせていき、辛うじて動こうとしていた敵は氷漬けにされる。

 

「ちょっとブランズ!?俺まで巻き込まれそうになったんだけど!?」

「あなたの耐久なら大丈夫でしょう、ギルス殿?」

 

 ギルスの文句にブランズが淡々と返し、それにアレンが舌打ちする。

 

「ふざけてるんだったら、とっとと消えろよ…!」

 

 今にも、フロディたちの身体をハチの巣にしかねない剣幕にブランズもギルスも姿勢を正す。

「フロディ殿、捕まっていた者たちは全員乗り込みました」

「撤退するか、フロディ?」

 

 そんなことを聞いてくるが、それを許さない男がいた。

 

「大人しく帰すと思ってる?」

 

 そんな言葉と共に、ペイルが魔道具を携えながら襲い掛かってくる。

 彼の繰り出してきたキックに反応できたのは、フロディとアレンであった。

 

「チィっ……!」

「ぐっ……!!」

 

 Lv.2のアレンとフロディでは、Lv.3のペイルの蹴りは相当痛かったようだ。その上、先ほどの蹴りを行った足にも装備が施されており、威力を増強させたのは察することができた。

 

 二人の力では、魔道具で強化されたペイルの蹴りに押し負けてしまい、体勢を崩すが、すぐに態勢を整える。

 

「ギルス!ブランズ!」

「分かった!」

 ギルスの了承に同意するかのように、ブランズも船を動かしていく。

 

「『女神の戦車(ヴァナ・フレイア)』!俺と一緒にペイルを足止めするぞ!」

「あぁ!?何言ってんだ、クソガキ……!」

 一応は王族であるフロディにそんな言葉を投げるアレンだが、そんなアレンを気にすることなくフロディは続ける。

 

「さっきのでお前もわかっただろ?一人だけじゃ勝つのは難しいって……」

「なんでてめぇに言われなきゃならねえんだよ……!お前の手助けなんざ不要だ……!!」

 

 アレンの発言が終わったのと同時に、ペイルに向かって駆け出していく。

 

 フロディはそんな姿を見て、呆れたかのように息を吐いた。

「そんなことを言ってる場合じゃないでしょ……!」

 

 そんな言葉を口にしたフロディも、ペイルに立ち向かっていく。

 

 一方のギルスは、捕まっていた奴隷たちを全員乗せると、ブランズに確認した。

 

「ブランズ、ポーションはあるか?」

「もちろんです」

 

 そういって奴隷たちを載せた方舟は、地上へと向かうためにダンジョンをかけることとなった。

 

「頼んだぞ……!ギルス、ブランズ………!!」

 フロディのつぶやきを僅かながらに聞いたアレンは、眉をひそめたが、すぐに目の前にいる敵に集中する。

 

「足、引っ張るんじゃねぇぞ……!」

「そっちこそ……!」

 

 ペイルに向き合った二人は、相手の動きを注視したが、それに構わずペイルは、懐から『遠話鏡』を取り出す。

 

「船を追ってくれ」

 

 そんな指示と共に、遠くの方から『ブオオォォォンッ!!』という音と共に、複数のバイクがギルスたちに向かっていった。

 

「マジかよ……!?」

 

 前世と割と文明の差があることを理解していたフロディは、オラリオに科学文明の産物を生み出したペイルの技術力に舌を巻いた。

 

「第2ラウンドといこうじゃないか、フロディ……」

 

 そう言ったペイルは、フロディとアレンに対して、銃型の魔道具(マジックアイテム)を向けて連射していく。

 

「【吹雪よ(ブリザード)】!!」

 

 足から生成した冷気によって、小規模な氷壁を展開したフロディは、それを盾にして防ぐと攻撃が途切れるのを見計らって破壊した。

 

「ん?」

 

 自ら防御を捨てるような所業に、ペイルは怪訝な表情をするが、すぐにフロディが氷壁を破壊したことでできた氷塊を飛ばしていく。

 

「なるほど、そういうことか……」

 

 遠距離攻撃の手段が限られているフロディが、やけくそ気味にそうしてきたことを理解したペイルは、飛んできた氷塊を難なく撃ち落としていく。

 

 だが、ペイルの意識外から、攻撃が繰り出された。

 

 グサッ!!

 

 そんな音と共に繰り出された槍の突きは、ペイルの身体を貫き、咄嗟に振りほどきながら距離を取らせた。

 

「さすが『女神の戦車(ヴァナ・フレイア)』。見事な突きだ」

「……フンっ」

 

 フロディの称賛に興味もないのか鼻で笑いながらもペイルから目を離さないアレンは、Lv.2でありながらも、格上のペイルに食らいつけていた。

 

 先ほどのフロディの行動はあくまでも陽動(ブラフ)で、本命はアレンの攻撃だ。

 

 急ごしらえのコンビネーションを見せつけたフロディとアレンの二人に、ペイルは不機嫌ともいえる表情をする。

 

「はぁ~あ、嫉妬しちゃうじゃないか。そんな連携を見せられたらさぁ」

 

 弾薬を装填して連射していったペイルに対して、フロディは氷壁を生成し、アレンは自慢の機動力を駆使して当たらないようにする。

 

「まだまだ終わらないようだね、ペイル……!」

 

 

*     *     *

 

 

 フロディたちがペイルと戦っているのと時を同じくして、ダンジョンの13階層にて、とある男女が戦っていた。

 

「ふんっ!」

「ぐうっ!!」

 

 槍を携えた男の攻撃に、鎌を手に取る女は吹き飛ばされるが、それでも男は攻撃の手を緩めることはない。

 

 鎌を手にもつ女―――冥府の精霊であるトリウィアは、劣勢ともいえる現状に舌打ちをしながら苛立った雰囲気を醸し出す。

 

「そんなに隠居先を荒らされたことが気に食わないのかしら……!?」

「何とでも言え。お前がやったことは、俺をこうして元いた世界に戻るほどに怒らせたことを、思い知れ」

 

 怒りを滲みだした声色は、一般人が聞けばそれだけで委縮する。その上、彼が精霊であることを知れば、多くの―――少なくとも、森に住んでいるエルフは、すぐさま頭を垂れることは想像に難しくない。

 

 鎌で防御するトリウィアに対して、男は槍を駆使して防御を崩し、トリウィアの顔面に拳を叩きこむ。

 

「チィっ!!」

「うぉりゃあっ!!」

 

 そんな掛け声を上げて渾身の蹴りを繰り出した男は、トリウィアを吹き飛ばさせると、彼女の持っていた鎌―――魂を取り出せる天授物(アーティファクト)を奪う。

 

「大人しく寝てろ」

 

 一言だけそう言い残した男は、その場を立ち去るが、遠くの方で戦いの音が耳に入ってきた。

 

「随分と大きい……。『怪物の宴(モンスター・パーティ)』か……?」

 

 少しずつ近づいてきたことが分かるように、音が大きくなると、目の前に広がっていたのは、多くの人間を乗せた船を操縦して追っ手を振り払おうとするエルフ(ブランズ)と、追っ手からの攻撃から船に乗る者たちを身を挺して守る金髪のヒューマン(ギルス)の逃走劇だった。

 

「フロディは耐えてくれるよな!?」

「『女神の戦車(ヴァナ・フレイア)』がいるんです!下手をすれば、ペイルを倒しても驚きませんよ!!」

「確かに!」

 

 そんな会話を耳にした男は、すぐさま行動を開始する。

 

「フロディ、今すぐに出会うことは無理でも、少しは手助けを……」

 

 そう言った精霊の男は、横たわっている猪人(ボアズ)の少年を目に納めた。

 

 自然の摂理に反することを、男は行おうとするが、その心の内は背に腹は代えられないことを苦々しく思っていた。

 

「もう一度だけだ、猪人(ボアズ)の少年。好きなだけ俺を恨むといい……」

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