転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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異界転生

 倉本清剛がこの世界に転生してから、6年が過ぎようとしていた。

 今世の名前は、フロディ・リヨス・アールヴという名前となっており、耳長族もとい王族妖精(ハイエルフ)の王子として生を受けていた。

 前世で重ねた年齢を加味すると23歳となるが、フロディとしての年齢はまだ6歳児であるので羞恥心があるが、子供としてふるまっている。

 しかし、それでも、それなりのいざこざもある。

 

「フロディ様、どうかお身体をお休めください」

「大丈夫だよ、これでもまだまだ元気さ」

「いや、しかし……」

「夜更かしは体に悪いってことを言いたいのは分かったからさ」

 

 自分の専属召使であるスキュールンに休むことを勧められたが、フロディとしてはまだ調べておきたいことがあるのだ。自分が転生してきたことはまだ誰にも言えてない。言ったところで信じる人がまずいないし、余計に混乱することが目に見えるからだ。だが、フロディの場合、現世について調べていくことや、前世で自分が死んだ要因であるトリウィアについて、何か手掛かりになるものを調べているのだが、ここでちょっとしたずれが生じる。

 前世におけるフロディ(清剛)は孤児であり、成長してからは施設の手伝いを毎日していたのだ。そしてそれが体に染みついており、ある程度働いておかないと落ち着くことができない程に成長した。彼が転生してからしばらくの間は、そのもどかしさもあり、よく部屋から抜け出していた。酷いときは女中や召使が行うべき仕事を無意識に手伝っており、ちょっとした騒ぎになったのだ。

 その結果、「何か仕事をしたいフロディ(ワーカーホリック)VSそれを止めたい臣下たち(労働基準監督署)」という逆なのでは?と思ってしまう対立ができてしまったのだ。

 

 この日もフロディとスキュールンの駆け引きが起きたのだ。そして、スキュールンはフロディに向かって内心こう叫んでいた。

 

(自分のためにも臣下の私のためにも休んでくれ!!)

 

 ……と。

 

 結局フロディが折れて、大人しく自室のベッドで眠ることとなるが、フロディは寝る気にもなれなかった。

 

「あの日からもう、6年か……」

 

 どこか気力のない声を漏らし、前世について思い返す。

 「『アジサイ』の子供たちは大丈夫かな?」とか、「あの後、巧斗たちは無事にいられたのだろうか?」とか、「そもそもあいつらは何なんだ?」とか、疑問に思うことはある。

 だが、これでもトリウィア(サイコパス)の手中に納まることがないということが、不幸中の幸いともいえるのかもしれない。そして、彼女の手に掛かった者は、里香や職員さんの他にも多くいることは察することができた。こうして記憶を保持することができたのも、トリウィア(クレイジー女)に仕返ししろという神の思し召しなのかもしれない。……実際に神と出会うまでは本気でそう思っていたが、とにかくそういう風に思うようにしている。

 

 ここでフロディ(清剛)がここ6年で調べてきた自分の周辺に関する情報をまとめていこう。

 

 まず、自身が転生したこの世界は、ライトノベル作品『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の世界であることを理解した。オラリオだのダンジョンだの、ダンまちに登場する単語を多く聞いてきたので、確信をもって言える。

 しかし、清剛は作品について、施設で愛読していた弟分から聞きかじった程度のもので、どんな展開なのか、どんな人物が活躍するのかといったことは知らない。その上、今現在の時系列は原作開始より前の話であると思われる。オラリオには、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】がご健在だからだ。まあ、原作の展開を一切知らない清剛からしてみれば、自分の転生した世界で生きていく上であまり関係ないかもしれない。たとえ知っていたとしても、だ。

 

 次に、フロディが第一王子に位置しているここ、アルベイム王国についてだ。王族と同種族である妖精(エルフ)はもちろん、只人(ヒューマン)やドワーフ、獣人や小人族(パルゥム)といった多くの種族が共存している、多種族共存国家だ。このような国自体は珍しくもないが、エルフが統治している国もしくは里という意味では特異な国である。この世界におけるエルフの特徴としては、魔法に秀でた耳長の種族であるが、その内面としては少々問題がある。エルフは、潔癖で誇り高い種族とされているが、裏を返せば、傲慢で排他的ともいえるのかもしれない。とにかくエルフというのは、他の種族と比べて選民思想が強くあるので、国全体で他の種族との共存は珍しい。

 

 なぜ、このような国となったのかは、国の成り立ちそのものに遡る。

 まず、古代のエルフは霊峰アルヴ山脈に暮らしていたが、そこに地上を跋扈していたモンスターに襲撃され、立ち向かった黒妖精(ダークエルフ)とは違い、白妖精(ホワイトエルフ)は逃げ出した。もちろん、その中にはハイエルフも含まれており、多くのエルフは森に引きこもり、魔法種族(マジックユーザー)としての能力を結界を張るのに費やした。

 

 だが、モンスターからの逃走劇で一つ問題(アクシデント)が起きた。それは、一人のハイエルフがモンスターの攻撃により離脱してしまったのだ。名はフーレン・リヨス・アールヴ、後のアルベイム王国の初代国王だ。そのフーレンが離脱してしまった後、命からがらたどり着いたのはある森であった。『アルベイムの森』と呼ばれる多くの精霊が住んでいる森だ。当時、モンスターが地上を跋扈していた、地獄ともいえる時代において、フーレン以外にも種族や身分が異なる多くの者が住み着いていた。その理由は、森の中心地にある『アルベイムの大聖樹』にある。多くの精霊が住み着いているだけあって相当な魔力を有しており、これを一部伐採して作成した武器は木製ながらも上質な性能を誇っていた。当然、モンスターからも魔力を感じ取ってやってくることも頻繁にあった。だが、モンスターからの襲撃から身を守るために互いに協力し合って生きていくことを選んだフーレン達は、それぞれの種族の特性を生かして、モンスターと戦い続けた。精霊も例外ではなく、フーレンには元から住んでいた精霊と契約して強力な魔法と武器を駆使して戦った。

 

 やがて、力を持たない者たちのためにも聖樹を守るためにも、国を興すことにして聖樹の名前から『アルベイム王国』と名付けた。ちなみに、フーレンが国王となった理由は、王族としての薫陶を十全に受けたものはフーレンしかいなかったためだ。あえて悪い言い方をすると、消去法で選ばれたということだ。

 

 こうして、アルベイム王国が産声を上げて、『アルベイムの大聖樹』による恩恵を受けながら発展していき、他種族と共に歩んできた。

 精霊と共に歩み、多くの種族と手を取り合いながら発展していったので、他の国々に引けを取らない強国となった今日のアルベイム王国は、精霊から直々にハイエルフと認められているフーレンの子孫たち、つまりフロディと彼の両親により統治されている。古代に実在したハイエルフの血統を色濃く受け継いでいることから、エルフからは、『アルヴの王森』の者たちとはまた違う、『もう一つの王族妖精(ハイエルフ)』として崇められているのだ。

 

 フロディ(清剛)がおかれている状況は、ざっとこんな感じである。

 

 このように精霊と密接に関わっているが、前世で精霊を自称するトリウィアに襲撃されたフロディからしてみれば、あまり良い印象を受けない。彼らを下界に送りこんだ神にしてもそうだ。

 

 実は王族としての公務の一環として、両親と共にオラリオへと行ったことがあるが、そこで起きた出来事は、なかなか忘れることはないだろう。

 

『待て!待つんじゃ!!近づかないでくれ!!!』

『酷い、酷い……。どうして他の女を見るの?どうして……?もっと私を見なさいよ!!私はここにいるよ!!私以外の女を目に入れないでよ!!!』

 

 台詞だけを見ると浮気した男とそれを咎める女の口喧嘩だと思われるが、実際には、老神(ゼウス)女帝(ヘラ)の壮絶な追走劇である。ヘラに関しては何か刃物を持っていた。

 

 この時のオラリオでは、ゼウスとヘラが引き起こす騒動に他の者が巻き込まれることがよくあったのだ。神々に関しても、大抵は対岸の火事として処理していた。中には、嬉々として面白がるろくでなしも多くいるらしい。下界に降臨する神々の多くは、娯楽のために来ているからだ。

 

 配下に守られながらその光景を見た清剛は、ろくでもねえ連中だなとしか思えなかった。

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

 前世で出くわしたトリウィアが、なぜ自分をつけ狙っていたのか、どうして違う世界に行き来できるのか、そもそもこの世界と関わりがあるのか、といったことが疑問として頭に残っている。

 

 手がかりが一向に見つからないので、どうしようもできないのが現状であるが、そもそも自分がこの世界に転生したのには必ず理由があると考えてるフロディは、決して諦めないことを誓うのだった。

 

 

*    *    *

 

 

「ふん!はぁ!」

 

 翌日、王宮の中に設置されている訓練場にて素振りをしていたフロディは、滝のような汗を流しながらも手を止めていない。

 

 アルベイム王国第一王子のやるべきことは多くある。諸外国との外交や国民との交流、そして武術の鍛錬などだ。いつもなら訓練兵に混じって一緒に鍛錬するのだが、この日は兵士たちの休日ということもあり、一人でこうして鍛錬している。

魔法種族(マジックユーザー)なんだから魔法の鍛錬はしなくいいのか?」と思うのかもしれないが、魔法は好き勝手に使えるものではなく、資質や経験によって発現する者である。神時代における魔法は、神々の齎す恩恵によって使うことができる。エルフの場合、高い確率で発現するが、恩恵無しで魔法を発現させるには、長い修行や特殊な儀式が必要だ。アルベイム王国に在籍する神はいないので、聖樹に住み着いている精霊との契約によって魔法を発現させるのが確実であるが、今の精霊は国王としか契約していない。これは、初代国王から連綿と続く国の規則(ルール)だ。精霊に認められて契約することは、国王として統治することを認めることにもなるので、王位の継承の条件に精霊との契約があるのだ。他にも、多くの精霊は国を―――さらに詳しく言うなら『アルベイムの森』を守るために全体に加護を付与しているので、一個人との契約を割いてる場合じゃないというのが実情である。

 

 こうして、魔法の発現は当分先になるので一人剣術の鍛錬をしている。

 

 だが、鍛練の最中、事態が急変する。

 

「王子ぃ!!フロディ王子ぃ!!!」

 

 兵士の一人が焦った表情をしながらやってくる。その様子から只ならぬ雰囲気を感じ取ったフロディは、素振りの手を止めて汗を拭う。

 

「何があったの?」

「はぁ、はぁ……。たった今、伝令から受け取った情報です……。【ゼウス・ファミリア】並びに【ヘラ・ファミリア】による合同遠征ですが、討伐対象である『黒竜』により壊滅したしました!!」

「なにぃ!?」

 

 『黒竜』とは、『竜の谷』に封印されている、下界の悲願ともいえる三大冒険者依頼の一角とされている討伐対象(モンスター)のことだ。最強派閥とされているゼウスとヘラが三大冒険者依頼の別のモンスターである『陸の王者(ベヒーモス)』と『海の覇王(リヴァイアサン)』を討伐したことで、なら黒竜も行けるとして討伐しに行ったのだ。

 

 

 だが、そんな彼らが返り討ちに遭って壊滅状態になってしまった。

 これが意味することは……

 

「すぐに大臣を集めて!!緊急会議を開く!!」

「陛下にも報告しに参ります!!」

 

 最強の入れ替わりだ。これ自体は別に問題じゃない。問題なのは、その最強がゼウスとヘラの後釜になれるかどうかだ。

 

 最強とされているゼウスとヘラが幅を利かせているオラリオは、彼ら自身が引き起こす騒動を除けば治安は保たれていると言っていい。理由は、彼らがあまりに強すぎるため、何か問題を起こせば彼らに潰されるのが目に見えるのだ。

 そうした無法者(アウトロー)にとって、目の上のたんこぶともいえるゼウスとヘラが壊滅したとなると、治安は一気に悪くなる。

 

 オラリオとは友好的な関係を築いているアルベイム王国は、オラリオ駐在の外交大使を大勢派遣している。彼らの安全を保障するためにも、オラリオとの関係についても考え直す必要が出てくる。

 

 時代が移り変わる。そんなことを感じ取ったフロディは、前世のことを今一度忘れることにした。

 

 

*    *    *

 

 

「殿下、オラリオに派遣された外交大使の者は皆、アルベイム王国に無事到着されました」

「お疲れ様、それで、オラリオの状況は?」

「予想通り……というか、それ以上に悪化した状況というか……」

 

 ゼウスとヘラの失脚から早3か月―――

 

 いくつかの資料をもってやって来たスキュールンは、ため息をつきながら報告をする。その表情からは疲労感が色濃く刻まれていた。

 

 大臣を筆頭とした国内の有力者たちとの会議の結果、オラリオとの関係は見直し、外交大使たちは国に帰還させることに決めた。また、『アルベイムの大聖樹』や希少金属などの貿易は数を減らしていくことにした。その素材が悪用されるリスクもあるし、今まで通り継続しても得られる見返りが少なくなるのだ。

 ここで、アルベイム王国とオラリオの貿易について深堀りすると、両国は金の貸し借りだけでなく、アルベイム王国からは大聖樹や希少金属を、オラリオからは魔石製品を輸出しあって互いに利益を得ている。問題はこの魔石製品だ。

 魔石とは、モンスターの持っている命の源のことで、これを加工してあらゆる用途に利用される魔石製品が作られる。問題は、この魔石を手に入れるためにはモンスターの討伐が必須であり、モンスターが生み出されているダンジョンを持つオラリオは安定して得られるが、それは少し前までの話。

 オラリオ最強のゼウスとヘラが失脚し、彼らを目の上のたんこぶと見なしていたアウトローたち――【闇派閥(イヴィルス)】が台頭してきて、好き放題暴れている。オラリオを統治するギルドとしては、治安維持に力を入れなければならなくなった。これを担うのが、利益のために魔石を集める冒険者たちで、ギルドからは魔石集めと治安の改善という無茶な要求を受ける羽目になり、どっちつかずの中途半端な状態となっている。これではアルベイム王国としても、どうしても慎重にならざるを得ないので、治安が良くならない限り取引は縮小したままと言っている。これが向こうからどう見られているのかは、確かめようもないが。

 

「それにしても、最強が変わるだけでこんなにも変わってしまうのか……」

「これを見てみると、『オラリオの戦力は、ゼウスとヘラかそれ以外』という評価が如実に表れてしまっておりますね……」

 

 オラリオ最強であったゼウスとヘラが、ファミリア壊滅もあって追放されることとなり、勢力図(パワーバランス)が大きく変わることとなるが、これは秩序を守る側の話。【闇派閥(イヴィルス)】のような秩序とは反対に位置する混沌をもたらす側からしてみれば、ゼウスとヘラのような理不尽さもないので、被害を受けることはあっても、まったく太刀打ちできないというわけでないのだ。これは秩序を守る側の者たちは、抑止力としての存在感はないということを表しており、現在のオラリオでは、【闇派閥(イヴィルス)】の邪神の意志による破壊活動が頻繁に行われていて、死傷者数が増加していっているらしい。

 

「オラリオには申し訳ないけど、しばらくの間は関係を見直すしかないな……」

「最善の判断と思われますよ。今まで通りにすると、得られる利益も少なくなる上に派遣している外交官まで被害を受けますから」

「うん。問題は、減っちゃった利益をどうするか、だね……」

 

 散々、議論してきたこの問題は、オラリオ以外の国との取引を増やすか、自国から新たな産業を生み出すか、などといった提案が出たが、結局は関係各所でそれぞれ模索する、ということになった。安全のために決断したことが、別の問題が生じる現状に思わず天を仰ぐ。

 

「とりあえず、ここ数日お疲れ様、スキュールン。しばらくは休んでいても大丈夫だよ」

「これとは別に、報告がありますが……その……」

 

 スキュールンに労いの言葉をかけて下がらせようとしたフロディだが、当のスキュールンはどこか言いずらそうにして報告を続けようとしていた。

 

「何があったのか?」

「こちらの資料をご覧ください」

 

 そうして渡された羊皮紙には、アルベイム王国の取引履歴について記されていた。

 

「これは……オラリオにある商会との取引か……。名前は……スレイン商会、か」

「えぇ。取引自体は問題なく行われており、親密な取引先として認識しております。商会に関しては、小さい規模ながら堅実な運営をしている、という認識です」

「主に取引しているのは、鉱務大臣のアルディ卿だね」

 

 アルベイム王国では、財政や治安維持などを担当して統括する大臣が存在しており、ドゥウェイン・アルディ卿は、希少金属の採掘やそれらの輸出を担当する鉱務省の長、鉱務大臣を務めている。貴族出身が多くいる大臣の中では珍しい、平民出身のドワーフだ。その類い稀な手腕でのし上がった彼のことを、フロディは人知れず尊敬している。

 

 フロディはスキュールンに渡された資料を見ていき、親密な取引をしているんだなと理解したが、とある箇所に思わず釘付けになった。

 

「スキュールン……、これは一体……」

「アルディ卿にも確認しましたが、これは健全な取引だ、何一つ問題はない、と……」

 

 無論、それで納得するものではない。

 フロディとスキュールンの二人が見ている取引内容は、簡潔にまとめると次のようなものだ。

 

 ――アルベイム王国からは複数の金属を1tずつと10億ヴァリス、スレイン商会からは5億ヴァリスを互いに提供しあって取引成立とする。――

 

 それは、今までの取引とは桁が違いすぎてる金額となっていた。

 なぜリターンが少ないのにこんな取引をするのか?

 どうしてオラリオではなく、わざわざスレイン商会に少なくない量の希少金属を提供するのか?

 

 この文面だけでも怪しく思えてしまうが、アルベイム王国には5億もの金を受け取った記録がないのだ。それは、『問題なし』とアルディ卿がサインしたものがあるが、果たして、本当に何も問題がないのか……

 

 この時のフロディは、この怪しい取引を皮切りに、国を巻き込んだ騒動が起きることになろうとは、微塵も思いもしなかった…………

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