転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか 作:野生の鹿
「さて、今までで調べてきたことをまとめていこうか」
アルディ卿によるオラリオのスレイン商会との取引発覚から1か月経った。
その間、アルディ卿の管轄である鉱務省はもちろん、財政関係を取り仕切る財務省、外交関係を担当する外務省に対して聞き取り調査を行い、この取引の裏側について調べてきた。
フロディとスキュールンの手により、いろいろな事実が発覚したが、動機については全くつかめなかった。
「まず、この取引が行われたのが今から4か月前のことだよな?」
「はい。ちょうど、ゼウスとヘラがオラリオから追放された直後のことです。このときは、上から下まで混乱しておりましたから、このようなことには気にも留めていませんでしたから」
ゼウスとヘラが追放されてしばらくの間は、オラリオとの関係について見直していく方針となっており、日夜怒号が飛び交うこともある会議が行われていた。6歳ということもあり、フロディは参加することができなかったが、会議に参加した父の表情を見て、相当紛糾していたことが察することができた。
そんな中で行われたこの取引は、見るからに怪しい。
まず、金額が釣り合っていないこともそうだが、希少なものも含まれた複数の金属を輸出していることもそうだ。これらが一体どのような用途に使われるのか全く説明されていない。その上、この取引について知っているのはアルディ卿ただ一人で、財務省も外務省もそんなことがあったなんて知らなかったのだ。すべて、アルディ卿の個人的なものであるらしい。
「しかもこのスレイン商会……、オラリオのことは大体網羅している外務省が知らなかったことも怪しく思えるな……」
「小規模で目立つことはあまりないとはいえ、記録上は数年前から存在するとされていますからね……」
取引相手であるスレイン商会について、オラリオに駐在していた外交大使に問い合わせたが、そのような商会は聞き覚えがないと言っていた。取引が成立していた時は、ギリギリの時期ではあるがオラリオにいたので、そのような取引があることは知っていて当然であるが、商会はもちろん肝心の取引自体知らなかった。むしろ自分たちが資料を見せながら説明して初めて知ったような驚きぶりであった。
「怪しく思えきますね、フロディ王子……」
スキュールンは、あごに手を添えながらそう言ってくる。
「一度、ニヨルド様にご報告しますか?」
「父上に、か……」
フロディの父、つまりアルベイム王国国王のニヨルド・リヨス・アールヴは、この国の安寧のために日々尽力している。アルディ卿に厚い信頼を寄せている彼に報告するのは、いくらフロディでも憚られる。
「父上には時機を見て俺から報告する。とりあえず、事実関係を探ろう……」
「承知いたしました」
そう言ってすっかり夜となった王宮内を歩いていく。
だが、そんな二人の背後を、黒い影がひっそりと見つめていた。
* * *
フロディが自室に戻ろうとしたとき、いきなり呼び止められた。
「失礼する」
どこか凛とした声を聞き、その方向へ向き合うと、フードを目深に被った人がいた。体格からして女性であることが分かり、腰に腱を携えていた。
「あの……、どちら様でしょうか……?その前に、どうして王宮内に……?」
「
さらっととんでもないことが言われた気がした。
この国にいる精霊は、どこか内向的な部分が見え隠れしており、怪しいものを招き入れるということはないに等しい。
そんな中で目の前の女性は、精霊でさえ許可せざるを得ない人物であることを理解した。
「それで、こんな夜更けまで何をしていらしたのですか?フロディ王子?」
「あなたには関係のないことでしょう……。というか、あなたは一体……?」
「自己紹介が遅れましたね……。今からでも、と言いたいのですが……」
そこで言葉を切って、腰にある剣を抜いて切りかかってきた。
「え?」
その攻撃は自分のところにやってくる。そう理解したフロディは咄嗟に横へ跳んで避けようとする。そして、自分のところに攻撃したであろう女性に目を向けると――
「ぐはぁっ!!」
いつのまにか、潜入していたであろう黒ずくめの男が女性の足元で倒れていた。体には、彼女が斬った傷が大きく残っているが、息はしている。
「いつのまに!?一体誰なんだ……?」
「考えている時間はないようですね……」
そういった彼女は、剣を構えなおした。その言葉を聞いて周囲を注意深く見ると、先ほど切られた男と同じような黒ずくめの男が複数人確認できた。
「おそらく、あなたの命を狙う暗殺者のようですね」
「というか、どうしてこれまでの人間が潜入できたんだ!?」
フロディは状況を理解したが、まだ疑問がある。
それは、これまでの侵入者がいることだ。いつか説明したが、この国全体には精霊の加護が及ぼされており、外敵を寄せ付けないようになっているのだ。目の前の女性の場合、精霊の許可を取っているため滞在が許されてるが、今のような状況は、本来ならありえないことなのだ。
「内通者がいるのでしょう。そうでないと、彼らが気づかないなんてことはあり得ない」
そう断言した女性に困惑するが、一人だけ心当たりがあった。
だが、今はそんなことを言ってる場合ではない。
「私があなたを守りますので、下がってください」
「お断りだよ。これでも俺は王族だ。危険な人がいるのに逃げるなんてことはできないよ」
そう言い切ったフロディは、苦しげな声を零している倒れ伏した暗殺者の武器を拾う。短剣だ。大人が使うには軽いものだが、子供のフロディが持つには少し重めとなっている。
「敵はおよそ6人ほど……」
「じゃあ3人ずつ倒していこう」
「あなたにできるのですか?」
「ん?やってみなきゃわかんない!」
明るめに答えたフロディに、女性はどこか呆れたような苛ついたような目をして見下ろしてくるが、すぐに敵に向き合った。
「死ぬことは許しませんよ!」
「それはこっちのセリフだよ、お姉さん!」
そう言って、彼らは暗殺者の迎え撃つ。その中でフロディは、先ほどの会話に出た内通者について、もう目星をついていた。
* * *
アルベイム王国 王宮内
フロディたちに暗殺者が差し向けられてからしばらくした後のこと――
「あの者は……、一体何者なんだ……!!」
すでにフロディは暗殺されたものだと思いあがっていたドワーフが焦りの表情を浮かばせる。
ドワーフの名前は、ドゥウェイン・アルディ。アルベイム王国の鉱務大臣を務めている。フロディの推測通りの内通者である。財務省や外務省に忍ばせていた自身の部下が、例の取引についてフロディ王子と召使のスキュールンが探っていることを知ったアルディは、すぐさまスレイン商会へと連絡し、彼らの指示通り動いていた。
内容としては、複数の人間を招き入れるという簡単なものであった。だが、それが暗殺者であると知ったのは直前のことで、フロディを殺すことになるとは思いもしなかったが、それはそれで良いとすら思っていた。
大臣たちは、今の立場に満足することなく上を目指し続けてきた結果上り詰めた者が多く、次の立場として国王の座を狙ってる者も、一部ではあるが存在している。
アルベイム王国の国王の座は、初代からずっとハイエルフが居座り続けてきたが、伝統なんてものに関心のない彼らかすれば、クーデターを引き起こしてでも欲しいものだ。王になって何をしたいかというものはあまりない。あるのはただ、地位と名誉に対する貪欲さと抗いようのない権力欲だ。
アルディ卿はその中でも欲が強い方だ。これは彼が平民出身であることが大きいが、フロディに死んでもらった方が好都合であるのは間違いない。『アルベイムの麒麟児』と評されているフロディのことは、前から気に食わなかったこともあるのでなおさらだ。
だが、今自分の目に映っているのは、死ぬはずのフロディが果敢に戦い、もう一人の見ず知らずの者が彼を守っているというものだ。その上、後で聞き出そうとしているのか、死なせないようにどこか加減しているのだ。
差し向けた暗殺者たちが、自分のことを話さないという保証はない。そう感じたアルディは、すぐさま馬車を手配して逃げようとする。
この先自分が死に、その上死んでもなお利用されることを思いもせずに―――
* * *
向かってくる敵に対して、スライディングを決め込み足を切りつける。その痛さにバランスを崩した暗殺者は、すぐさま距離を取ろうとしたが、動かせようとした片腕を踵落としで封じていく。子供の出せる威力なんてたかが知れているが、それでも動きを止めるには十分だ。うつ伏せで這いつくばる暗殺者の後頭部に両足で乗っかる。そしてその上で、どこか勢いづかせて何度も両足蹴りを繰り出し、およそ20秒が経ってようやくやめる。
「よし、あと一人は……」
「もうすでにやりました」
そう言って、近くにやってきた女性が呆れるような目を向けてきた。
「本当に3人相手とるのでしたら、どうして遊ぶのですか?」
「いや、これはですね……」
「大体、10歳にも満たない体で大人に立ち向かうことが非常識であると思ってください!」
なんかいきなり説教が始まった。
そう思ったフロディは、どこかめんどくさそうな雰囲気を出して、早く終わってくれないかな~、なんて思い始めたが、そんな思いはすぐに実現した。
「何の騒ぎだ!!!」
得物である槍を持ち出して、焦った表情をしながらやってくるハイエルフ――ニヨルド・リヨス・アールヴは、大勢の配下を引き連れきた。フロディの姿を見て安堵すると同時に、床に転がっている暗殺者を見てすぐに顔を心配で歪ませる。周囲の警戒を部下に命じてフロディの前にしゃがみ込む。
「何があったのだ、フロディ?怪我はないか?泣いていないか?寂しくはなかったか?まさか、この蛮族と戦っていたのか?あぁ!私のかわいいフロディが……どうしてこんな連中に狙われなければならないのだ……!?今すぐにでも治療せねば……!!衛生兵!衛生兵ー!!」
そんな様子を見て呆気にとられる傍らの女性はフロディに目を向けると、彼は恥ずかしいような気まずそうな、何とも言えない表情をしていた。
ニヨルド・リヨス・アールヴは、遅くに生まれたということもあってか、息子であるフロディに対してどこか過保護というか心配性な性格となっている。ニヨルドは、フロディに勉学を教えているときは厳しいものであるが、一度終わると、褒美として何かおいしいものを食べようと言って豪勢な食事を大量に用意したり、一緒に風呂に入らないか?と提案を毎日してくる。
フロディはそんな父に対して辟易じみた感情を抱いているが、
……そんなことを言ってしまえば、さらにめんどくさいことになるのは火を見るより明らかなので黙っているが。
その後、ニヨルドの言葉通り、衛生兵に連れられて診てくれるが、特に異常がないためすんなりと終わり、玉座の間へと向かっていく。
今回の襲撃は、誰にとっても予想だにしなかったので、それに対する対策を話し合うつもりだ。
玉座の間に着いて扉を開けたフロディであったが……
「して、いかがなさいますか?ニヨルド国王?」
「死刑だ、死刑!!死刑に決まっているのではないでしょうが!!大事な大事な
(ま~たやってるよ、この父親……。)
開けた瞬間にそんな会話を聞いたフロディは、もう何も突っ込むことはしなかった。
そして、ニヨルドと話している相手を見ると、長い金髪をした美女がいた。どこか雰囲気も神秘的だ。
「あぁ、来ましたか、フロディ王子」
そう言ってフロディに近づいてくる彼女は、自身の胸に手を当てていった。
「改めまして、私の名はネメシス。義憤を司る女神、ということになりますかね」
女神ネメシスは微笑みながら、自己紹介した。
* * *
会議の結果を簡潔にまとめていこう。
まず、今回の襲撃は、鉱務大臣ドゥウェイン・アルディ卿が首謀者であることを推測した。これは、フロディとスキュールンが調べていた取引が、アルディ卿にとっては不都合なものであると分かり、ことが露見するまでに消そうとしたというのが筋の通ったものであるとした。
また、今回の襲撃と同時に、アルディ卿が馬車で急いで国を出たことが目撃されており、さらにその推測を補強されることとなったのだ。
暗殺者に関しては、依頼により暗殺を請け負う【セクメト・ファミリア】の末端であることが背中に刻まれている恩恵を見て判断できた。肝心の依頼主について拷問を施しながら聞いた結果、スレイン商会であることが分かった。
「どうして、小規模の商会が大臣にも暗殺者にも顔が利くのかな?」
「スレイン商会というのは、おそらく【
会議が終わり、自室へと向かっていく途中で思っていた疑問を呟くと隣で聞いていたネメシスがおもむろにそう推測した。
なんでも、【
前々から『世界の中心』とされているオラリオに対して、悪感情を抱いている者は多くいるらしく、そんな人間たちを諭して味方側に引き込むなんてことはよくあるらしい。
いずれにせよ、『類は友を呼ぶ』ということわざが適用されるような状態となっている。
「それで、いつまでついてくるの?」
部屋についてくると思われるネメシスに対してそういった。
「というか、まだあなたがここにやってきた理由について話していませんよね?」
「えぇ。それはここで言っても大丈夫でしょうか?」
「人に言えないことなの?周りには誰もいないから、大丈夫だと思うけど……」
一応周辺を確認してから許可を出す。
「それでは、フロディ王子……、ではなく、
急に前世の名前を呼ばれて、思わずネメシスに顔を向ける。目を見開いて、息をするのも憚れるような静かさがその場を支配した。
「私の目的は、あなたの保護です。倉本清剛さん、異世界から転生してきたあなたに、私の眷属になってほしいのです。私の手で守るために……」
決意にみなぎったその瞳を、
彼女のその瞳は、並々ならぬ信念に満ち溢れており、何より美しいものであった。
* * *
場所は変わって、オラリオの地下空間――
「それで?あのドワーフは、情けなく国を飛び出してきたってことかよ?」
「はい。報告ではそう聞いています」
その空間には、いかにも荒くれ者っぽい風貌をした者たちがいた。
彼らは【
「まったく、無能な暗殺者どもめ!フロディ・リヨス・アールヴは恩恵を持っていないから末端の構成員でも大丈夫だと言っておいて、このザマかよ!」
「それについてですが、スレイン商会の拠点を引き払ってきました。我々の素性がバレてしまいかねないため……」
「いや、とっくにバレてるよ」
隊長格と思しき者と報告している者の間に、突如として割って入ったのは、眼鏡をかけた知的な雰囲気を漂わせる
「ペイル様!お疲れ様です!!」
報告を受けていた男がすぐさま敬語を使うことから、その
「向こうもそこまで馬鹿じゃない。確たる証拠を掴めずとも、スレイン商会と【
そう言って椅子に座って、部下に向き合っていく。
「確か、アルベイムの大臣……、さっさと逃げてきたんだっけ?」
「えぇ。アルベイムを出たのがついさっきのことですので、オラリオに着くのはもう少し先かと」
「分かった……」
ヒューマンの男は、懐から鏡を取り出し、話しかける。
「今、アルベイム王国の近くにいる者に命じる。ドゥウェイン・アルディを見つけ次第殺しなさい。そしてその死体を僕の元に運んでくること。いいね?」
そう言って鏡をしまい込む。その鏡は、『神秘』の発展アビリティをもつ彼の作った
元いた場所に戻ろうと椅子から立ち上がった彼は、ずれていた眼鏡を右手で直し、そのまま小指で眉毛をかく。
そんな彼の顔は、どこか嗜虐的な笑みを浮かんでいた。
「さぁて、役立たずのドワーフをどうやって改造しようか……。腕が鳴るなぁ……」
ニヨルド・リヨス・アールヴのCVは、子安武人さんだと個人的にしっくりきます。