転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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ようやくステータス登場


恩恵刻印

「まずは、あなたのことを知る経緯について説明させください、フロディ王子」

 

 部屋に案内して来客用に出している紅茶をカップに注ぐと、ネメシスはそれを飲んで一息つく。

 

 フロディは、自分が前世の記憶持ちであることを知られるのは初めてのことだから、ネメシスに対して戸惑いと警戒の感情を露にする。まず、自分が目的といわれると、どうしてもトリウィアを想起させる。その上で、彼女は自分の眷属にさせて守ろうとするのだから、ますます意味が分からなくなる。

 

「それでは、あなたの死んだ要因であるトリウィアについてですが……」

「あいつについて知っているんですか!?」

「えぇ。彼女は女神ヘカテーの遣わした精霊です。ヘカテーについては、何か知っていますか?」

 

 ヘカテーとは、ギリシア神話に登場する冥界に住む女神であることはフロディ(清剛)も分かっていた。そこまで詳しいわけではないが、神話に登場する神々は大体知っているのでそこはいいとして、どうして彼女の精霊があんなイかれた性格なのか分からなかった。

 

「一応聞きますけど、ヘカテー様ってどういう方なんですか?」

「彼女は私と知り合いなのでよく理解してます。彼女は生真面目というか、自分の司る事物に忠実なことで知られています。冥界の秩序を厳格に守っています」

 

 なんか聞く限り、悪い神ではなさそうだと思ったフロディは、次に彼女の精霊であるトリウィアについて質問するが、ネメシスはどこか歯切れの悪そうな顔になった。

 

「トリウィアは、その……、ヘカテーの一部分を最大まで肥大化させたというか……生真面目だったのが爆発させたものというか……」

「ヘカテー様の一部分……?」

「はい……。ヘカテーは美しい魂を見ると、他の魂に影響されないように自分の手に入れるような悪癖があります。ある種の庇護欲、といいますか……。その庇護欲を最大限まで増幅させてしまったのが、あなたと出会ったトリウィアという精霊なのです。精霊は彼らを生み出した神の一面を表出することもあり、ヘカテーの心の中にある魂への執着を擬人化させたのが、トリウィアということになります」

 

 聞いてて頭が痛くなってきたフロディは、心を落ち着かせるために紅茶を飲む。

 要約すると、猟奇的なヤンデレ思考のもと自分を狙ってきたことを理解したが、なぜ他の人間を巻き込むことにしたのかを聞いた。

 

「それは彼女の趣味でしょう。彼女は興味のある魂を刈り取って自分の者にしようとするのですが、あなたの言う他の人間の魂もあなたと同様興味のあるから刈り取ったと思われます。」

「な、なるほど……。そんでこれが一番の疑問だけど、トリウィアはこの世界の神が生んだ精霊だよね?」

「はい。その通りです」

「だったら、あいつはどうやって俺たちがいた世界(現代日本)にやってこれたの?明らかにヘ精霊の権能ではできない芸当だよね?」

「それは私も同感です。そもそも、彼女の蛮行についてヘカテーから相談されてようやく天界の神々が知ったことですから、おそらく空間を司る神による手引きでそうなったと思われます。そしてあなたが死んだ後、なぜか元いた世界ではなくこの世界に転生してきた理由についてもわかりません」

 

 ネメシスの口からも、分からないことだらけであることを知らされ、また訳の分からない思考のループに陥りかける。

 

 まとめると、女神ヘカテーの庇護欲が猟奇的な形になったのがトリウィアで、彼女は美しかったり興味のあったりする魂を自分のものにしたがっている。フロディたちが狙われたのもそのせいだが、肝心の異世界の移動方法やこの世界に飛ばされた理由については分からずじまい……ということになる。

 

 敵のことを詳しく聞くことができただけでも十分な収穫であるが、まだ解き明かしたいものがあると思うフロディは、次はネメシスについて訊いていく。

 

「それで、さっきヘカテー様から相談、って聞いたけど、そもそも、なんで俺が前世持ちだって断定できたの?」

「それは天界にいたとき、妙な魂を見つけ出したためです。その魂は、これから妊娠しようとした胎児に憑りついて生を受けたのですが……」

「その胎児が、俺だと……?」

「はい。私は『義憤』を司る女神。広義的に見れば、『義憤』は『正義』の一つの側面でもあります。あなたのその魂は、本来この世界の者ではないのですが、この世界にあるとするならば、誰かが規則を破っているに違いないとして、その者を断罪するため下界に降りてきました」

 

 そこで一息つき、部屋に入る前の言葉を思い出す。

 

「あの、それがどうして自分の眷属にするって話になったの?」

「それはあなたを保護するためです。あなたは記憶を持ったままこの世界にやってきました。ならば今この時も、あなたをこの世界に送った者による干渉が起きるため、あなたに力を与えること、あなたと繋がりを得ることで私があなたを守りやすくなります。これもまた、女神としての私のケジメであると思います。そして、あなたをこのような状況に陥らせた者に必ず”落とし前”をつけさせます」

(ヤクザかよ……)

 

 女神の実直さとその過激さに面食らいながらも、どこか温かい気持ちになる。嬉しさもあるがそれ以上に心強い味方ができたこともあるかもしれない。

 

「それで、俺に恩恵を授けるということですが……、謹んでお受けします」

「分かりました……」

 

 そう言って互いに向き合うと、ネメシスは宣言した。

 

「これより、汝フロディ・リヨス・アールヴは、我、女神ネメシスの最初の眷属とする……」

「はい……」

 

 こうして、フロディ・リヨス・アールヴは、義憤の女神ネメシスの眷属(ファミリア)となった……

 

 

*    *    *

 

 

 翌日、ネメシスとフロディは、中庭にいた。

 

「これから、あなたの実力を見ます」

「腕試しってことですか?」

 

 動きやすい服装に着替えたフロディは、腕のストレッチをしながら質問する。

 

「えぇ。私の実力が下界でも通用するのかの確認でもあります。私は素手でやりますので、あなたは木刀で戦ってください」

「えっ?神様って、下界ではあんまり強くないのでは?」

「それは神の力が封じられているからです。それを抜きにして、自分の力のみで培った技術は下界でも使えるのです。私の場合は武術ですが……」

 

 そう言って彼女は構える。

 

「いつでもかかってきても大丈夫です。遠慮は要りません。天地がひっくり返ってもあなたが勝つことはないですが……」

「それはさすがに侮りすぎですよ、主神様」

 

 そう言ってフロディは木刀を構える。

 外見は6歳のエルフでも、それなりに腕に自信のあるフロディは、相手が無手ということもあって油断していた。

 

「さて、ネメシス様。さっさと終わらせていきまs――」

 

 

「調子乗ってすみませんでした……」

 

 

 そう言って正座しているフロディの顔は、割とぼこぼこになっていた。

 さすが神ということもあってか、剣術だけでなく格闘術もすごかった。まるで未来視しているかのように全部見切っていた。赤子扱いされて意気消沈している彼に声を変えるネメシスは、どこか呆れたような雰囲気だった。

 

「言ったでしょう。数億年も鍛え続けた女神(わたし)に勝てないと……」

 

 訓練が終わって治療が終わると、ネメシスと共に自室に戻ってベッドに寝転がっていた。

 

 うつ伏せで寝ているフロディは上半身裸で、ネメシスは傍で座っていた。

 

「それでは、あなたに恩恵を刻みます」

「スキルとか魔法とか生まれるんですよね?」

「それらは色々な要因によって現れますが、そう簡単に出るようなものではないのであまり期待はしない方が良いかと……」

 

 そう言ってネメシスはフロディに恩恵を刻んでいく。フロディの背中には、ネメシスの眷属を示す『剣と翼』の紋章が浮かび上がっていた。

 

「終わりましたよ……」

 

 そう言って恩恵を刻み終えたネメシスは、ステイタスが記された羊皮紙を見せる。

 

 

フロディ・リヨス・アールヴ

Lv.1

 

力 :I 0

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

 

《魔法》

【】

 

【】

 

【】

 

《スキル》

反逆闘魂(リベンジ・ソウル)

 ・逆境時、全てのアビリティに低補正

 ・Lvが上の敵と交戦時、『力』、『敏捷』、『耐久』のアビリティに高補正

 

妖精王詠(フェアリー・カントゥス)

 ・魔法効果増幅

 ・魔法使用後、しばらくの間『魔力』アビリティの高補正

 ・付与魔法使用時、持続時間の延長および威力の増大

 

 

「フロディ……、これは中々に珍しいものをお持ちですね……」

 

 ステイタスを見せたネメシスは、苦笑いするしかなかった。

 

 

*    *    *

 

 

 場所は変わって、オラリオの地下空間

 

「さぁて……ここをこうしてっと……」

 

 そんな軽い口調で独り言を零すペイルではあるが、その光景は猟奇的であった。

 

 彼の前には、ドゥウェイン・アルディが横たわっていたが、その姿はもはや人間とは言えない凄惨なものだ。腕はひしゃげて、胴体は臓器類が抜き並み摘出されており、代わりに何かの魔道具が仕込まれていた。

 

 ドゥウェイン・アルディの身体を文字通り改造していくペイルは、どこか少年のような微笑みを浮かべていた。

 

「よお、ペイル。何をやっているんだぁ?」

 

 そんなペイルに話しかけるのは、ショートカットの髪形で、毛皮付きのオーバーコートを羽織ったヒューマンの女性だった。

 

「ヴァレッタかい?いまちょうどいい所なんだ。用事は後にしてくれないかい……」

「なぁに面白そうなことしてんだよ?今度はどこにちょっかいかけるんだ?」

 

 どこか親し気に話しかけるのは、【闇派閥(イヴィルス)】の幹部であるヴァレッタ・グレーデ。魔道具製作者(アイテムメーカー)であるペイルの上司でもあるが、ペイルからしてみれば鬱陶しく思っていた。

 

「君には関係ないでしょ?それに『遠話鏡』の今月の納入はすでに終わってるはずでしょ?」

「まったく、軽い雑談でもしようとは思わないのかよ」

 

 いくつもの魔道具を開発したペイルの屈指の傑作ともいえる『遠話鏡』は、遠距離の通信を可能とするもので、【闇派閥(イヴィルス)】の活動範囲を広げていくのに一役買っていた。だが欠点として、『遠話鏡』1枚につき最大3分までしか機能できず、3分過ぎると粉々に割れてしまう代物であった。そのため、数多くの代替品を用意しなきゃならないので、毎月の納入はペイルにとって苦痛でしかないのだ。

 

「仕方ない、お暇するか~。ペイル様の機嫌を悪くしねぇためにな~」

 

 そう言ってヴァレッタは部屋を出た。

 

 彼女が頻繁に話しかけるのは、ペイルにとって割とうるさいものなので、ため息をつきながら右手で眼鏡をかけ直し、そのまま小指で眉毛をかく。

 

「次に腕をこのようにすれば……、きっとアルベイム王国の連中は驚くだろうねぇ……」

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