転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか 作:野生の鹿
まず、羊皮紙に記載されたステータスを見たフロディの感想としては、「何なんだこれは!?」というものであった。
魔法が発現していないことはまだ納得できる。魔法とは、その詠唱する人の想いなどを形にしたものでもあるので、まだそのような想いを抱いていなければ経験も積み上げていないフロディに魔法が発現していないのは理解できる。
問題はスキルの方だ。一応フロディは魔法種族であるので、魔法が強化されるようなスキルが発現すること自体はまだいいのだが、その効果の内訳ともう一つのスキルを総括すると、いかにも近接で戦ってくださいと言わんばかりの構成となっている。
まず、【
問題は【
「この効果になった理由は、恐らくあなたの性質も関わっているのかもしれません」
「思想?さっきのやつとは違うの?」
「えぇ。あなたの性格上、遠くから魔法を放つよりも、前に出て戦う方が性に合っているのかもしれません。このスキルは、そういった前衛向きの性分と、エルフとしての特性がかけ合わさった結果なのかもしれません」
そう言われたフロディは、自分の性分が前衛で剣で戦うことを何よりも証明されたことに理解を示したが、正直なところ、魔法が発現されることなく付与魔法が強化されるスキルが発現したことに首を傾げるしかなかった。ポジティブな方向に考えれば、これから付与魔法が発現するからそれまで近接戦闘の技術を磨けばいいという思考になるが……。
とにかく、女神ネメシスに恩恵を刻まれたことで彼女の眷属となったフロディはさっそく父ニヨルドに報告していく。自分の知らない所で恩恵を刻まれたことに最初は渋い表情をしたニヨルドだが、息子のフロディの意思を優先した。本当に良い父親だと思ったフロディは感謝した。
そんなこんなで、ネメシスがやってきて1週間ほどの日が経った頃に、ニヨルドと契約している精霊であり、事実上のアルベイム王国の精霊の長と言っても過言ではない大精霊が会談を要求してきた。この話し合いにより、ネメシスの滞在が公的に認められ、国民にも広く女神ネメシスとその眷属のフロディの関係が知れ渡ったが、意外にも反発はなくすんなりと受け入れられた。
話し合いが終わり、そろそろ昼食を食べれもいい時間になった頃、フロディは自身の召使であるスキュールンと雑談していた。
「それにしても、まさかフロディ様が神の眷属になるとは思いもしませんでしたよ」
「そんなに意外だったか?」
「えぇ。そもそもこの国に神が降臨なさること自体が初めてのことですもの」
スキュールンは、常に持っている手鏡で自分の髪型や顔を確認している。前に一度、どうして持ち歩いているのかを問うと、「王族の傍に仕えているのに身だしなみに気を遣わないのは従者として不適格です!」と言われた。
「そういえばスキュールン。あの日以来休みは取ったか?」
「いいえ。すぐに暗殺者による襲撃があったじゃないですか。主人がそんな危険な状態であるのに休みを取るなんてことはできませんよ」
あの日というのは、ドゥウェイン・アルディが【
「内通者はアルデイ卿ということになりましたが、いまいち動機が分かりませんね」
「そうなんだよな~。アルディ卿の身辺調査をしたけど、オラリオとのあの取引以外何かしらの関係があるとしか思えないけど、彼が国外に出た記録はほとんどないから他にもいそうなんだよな~」
「他にも?と言いますと?」
「アルディ卿が国外から出ていないということは記録からも分かる。それは偽造されたのかもしれないけど、例の取引があったここ数か月の間国外に出たという知らせはないんだ。それで仮に記録が本当だとしたら、アルディ卿以外にも使者の役割をしてそうな人がいそうなんだよな~」
フロディの見解として、内通者は複数人であることは推測できたが、肝心のその内通者が誰なのかまでは分からなかった。大臣と王族としての見解として、アルディ卿だけが内通者とされているが、他にもいることを考えているフロディは、その人物の尻尾をつかむことを決意していた。
「私にもできることがありましたらご相談ください」
「うん、分かった」
それではこれで、と言ってスキュールンは下がる。
それとしばらくして、ネメシスがやってきた。用事は分かっている。フロディとネメシスの訓練だ。
女神ネメシスは、義憤を司るだけあって、天界にいた頃からも正義感の強い女神であることが話の節々から推察できた。その中には実力行使に出ることも結構あったようで、何か悪いことをした神はもちろん、他の神――話によると大体がヘラであるが――が周りを巻き込むことが起きた時も率先して食い止めようとしていた。それらは
ちなみに、前述のヘラのことだが、
さて、訓練をしているフロディとネメシスであるが、
その結果――
「うぅ…………」
「まだまだですね、フロディ。これではいつ私に勝てるか分かったものではありません」
徹頭徹尾、赤子同然の扱いを受けたフロディが倒れ伏し、そんな彼を膝枕をして休ませるネメシスという構図が出来上がった。
「今日はここまでにしましょう。」
そう言ってネメシスにおんぶされて自室へと戻り安静にした。
これからは、ネメシスを師と見なして戦闘訓練を積み重ねていくことだろう。フロディは、これから続くネメシスの課す修行に有意義であることを理解しながらも、ぼこぼこにやられることになることに憂鬱な気分になった。
* * *
そうしてあっという間に10か月もの時が過ぎた。
フロディもその中で7歳となり、身長もわずかながら伸びている。ここ10か月の間でも、ネメシスとの修行は継続しており、王国軍との組手も行われたこともあり、ステータスの数値は上昇していった。毎回ステータスの更新をする度に、ネメシスがどこか驚くような表情を浮かべるが、その理由は分かっていない。
この日は修行ではなく、国境沿いにある港に視察に行っていたフロディは、次々に運ばれてくる積み荷を見て、どういったものが運ばれてくるのか、どこからやってきたのかを港に常在している者に聞いていく。
この港では、基本的に輸出する予定のものや輸入してきたものが最初に集まってくる、いわばアルベイム王国における貿易の出入り口だ。取引をしている国々からありとあらゆるものが集まってくる。
「あの大きいものは……?」
「あちらは、オラリオから送られてきたものです」
「オラリオから……?」
オラリオとは取引が縮小されたこともあり、こちらからはあまり期待されてるものは輸出していない。だというのに、オラリオから送られてくることに何の意図があるのかと訝しむ。
「一応中身を確認しておこう」
「承知いたしました。では、こちらの施設へ――」
職員の案内についていこうとしたその瞬間――
ドゴォォォン!!!
何かが壊されたような轟音が鳴り響き、その方向へと目を向けると、一人のドワーフがいた。
その顔を見たフロディは、すぐに驚愕の表情を浮かべる。
「えっ……。アルディ卿……なのか……?」
そのドワーフは、半年前から行方不明になっていたドゥウェイン・アルディであるが、その様子は明らかに異常であった。
まず、その顔であるが、まるで死人のように顔色が真っ白で、その目は虚ろであった。その右手にはハンマーを携えているが、一方の左手は、モンスターのものと思われる鋭利な爪があった。何よりも彼と対峙しているとき、背中に刻まれている恩恵が強い反応を示しているのだ。背中の位置から察するに【反逆闘魂】。つまり目の前のアルディ卿はLv.2以上の実力を兼ね備えていることを示している。
「職員はすぐに退却!警備兵はすぐに民間人を連れて避難!一部の兵士は王都に伝令を!急いで!!」
「フロディ様は……!?」
「こいつを食い止める……!!」
そう言ったフロディは剣を構える。相手も自分に向けられる敵意に気付いたのか、ハンマーを構える。
先に攻撃を仕掛けたのはフロディだ。相手よりも体格の小さいが故に足を狙っていく。だが、そんなことは相手にも予測されることが明確であるので、相手がハンマーで足を防御していく。それを見越したフロディは、足を防御するために振り下ろされたハンマーを軸にして回転し、後ろから胴体に向かって剣を振るう。近づくときの速度の勢いそのままに、剣の一閃を繰り出すが――
ガキンッ!!
「えっ……!?硬っ!!」
アルデイ卿の身体は傷を負わせるどころか、こちらの剣にヒビが入るような硬さを持っていた。ドワーフという種族の特性とは関係ない、明らかに人が生まれながらに持つ人体の硬さではないことを確信した。
「ヌゥゥン……」
フロディが動揺している間に、ハンマーが迫ろうとしてきたのを、背中を反らして回避したフロディは、一度後ろに下がって態勢を立て直す。強固な身体を持っているアルディに太刀打ちできないフロディは、せめて時間稼ぎをすることにした。
だが、フロディのその考えは、甘いものであったことを理解する。
「うぉりゃあ!!」
アルディに攻撃を仕掛けて、自身に意識を集中させようとするフロディであるが、その体の強固さをもってこれといった動作もなく防いでいく。そんなことを繰り返していくと、フロディの持つ剣は真っ二つに割れてしまった。
それを見逃さなかったアルディは、ハンマーを大きく振るってフロディを攻撃する。それを見たフロディは回避するがその回避した先には、アルディの左手の爪があった。
フロディは危険を察知したがそれは遅かった。
「ぐぉっ……!!」
爪に引き裂かれて、フロディの身体から血が流れ出す。Lv.1の身体に少なくともLv.2に相当する力で傷つけられたことは重症になる。事実、フロディは胴体部分を引き裂かれたことで苦悶の表情をして倒れ伏す。
「王都ニ………向カウ………、アルベイム王国ニ…、死ヲ…………」
薄れていく意識の中、そんなことを言うアルディに目を向けるも、体が思うように動くことができない。
「待て…………アルディ、卿…………」
辛うじて手を伸ばすことしかできないフロディは、そのまま意識を手放した。
* * *
フロディが目を覚ましたのは、その日の夜であった。場所は王宮にある医務室だ。
「そうだっ!アルディ卿が……!!……っ!!」
目覚めてすぐに痛みに苦し気になるが、それをネメシスが落ち着かせた。
「まだ安静にしてください、傷は癒えていませんよ」
フロディを抑えたネメシスは、近くの椅子に座った。
「フロディ、あの時に何があったのですか?」
ネメシスに説明を促されて、港で起きた出来事をありのまま答えた。それを聞いたネメシスは、眉間にしわを寄せて考え込んでいた。
「まずはアルディ卿についてですが、今は王都に現れたという情報はありません。次に港の状況ですが、今は復旧され続けています。」
彼女の言葉を聞いて、少しは安堵したフロディであったが、その表情は苦しげであった。
アルディ卿は、今となっては人間といえるのかどうかわからないものであったが、どちらにせよ、彼に赤子同然の扱いを受けて、今では王都の中に潜伏して中々眠れない日々を過ごさせることになるとは、アルベイム王国第一王子が情けなく感じてしまう。
依然として、フロディのこの記憶は、苦い敗北の記憶として刻まれることとなった。