転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか 作:野生の鹿
この世界におけるエルフは、少々、人によってはかなり面倒な種族となっている。
彼らは潔癖で誇り高い種族とされているが、言い方を悪くするなら頑迷で排他的ともいえる性分をしている。特に森に棲んでいるエルフは他の種族を見下す言動を隠そうともしないので、よく他の種族と揉め事が起きている。他の種族にも開放的なアルベイム王国やウィーシェの森を含めても、多くのエルフはそういう種族なのだ。どこの里の出身であろうと共通している。
そんなエルフの面倒なところの典型例は、ハイエルフに関するものだろう。
エルフにとって王族であるハイエルフは、神々以上に神聖視している。彼らの前では直接の主従関係ではないにもかかわらず、エルフの者たちは臣下のような振る舞いをしており、時に敬われるハイエルフでさえ辟易させるようなことをする。フロディのいるアルベイム王国でも、エルフの国民は当然の如くハイエルフを神聖視し、フロディが誕生したときは周りがドン引きするほど歓喜していた。
一週間ほど前にフロディが重傷を負ったことを耳にしたエルフたちの反応はというと、それはもう面倒くさいことになる。
今回の場合では、臣下のドワーフから襲撃を受けたということもあり、肝心の犯人に対する
それはアルベイム王国の国民だけでなく、オラリオにいるエルフでも同様だ。
「フロディ様が重傷を負ったと……!?」
「オラリオから運搬された荷物が関わっていると言われているが……、どういうことなんだ!?」
「納得できるだけの説明を求める!!」
フロディが重傷を負ったことを聞いたエルフたちは、諸外国との外交も担っているギルドに大勢詰め寄せている。
フロディが襲撃を受けた状況は、オラリオからの輸入品の中に大臣が潜伏して、そんな彼がフロディを傷つけたということをアルベイム王国の外交大使から報告されたギルドの反応は、まさに青天の霹靂といったものだ。そんな貨物など何一つ知らないのだから。
だが、エルフからしてみればどうでもよく、とにかく犯人の居場所を突き止めようと躍起になっている。中には、上級冒険者のエルフが、アルベイム王国に行って天誅を下すなどというのだから、対応するギルドの職員は出勤直後から忙殺されている。そんなギルドの人間の中でも一番胃を痛めているのは、ギルド長のロイマン・マルディールだろう。
「一体どういうことなんだ……!?オラリオからの輸出品など……、しかも大臣が関わっているだと……!?」
アルベイム王国とオラリオの外交関係は、現在微妙なものである。
外交大使が定期的に派遣されることもあるが、貿易に関しては縮小したものではある。武器としても薬としても優秀な素材になる『アルベイムの大聖樹』の枝は、少ない数は置いといて今も取引している。また、オラリオの取引している他の国々と比べて資金援助は継続的に行われているので、多大な感謝をしていた。いくら強欲で傲岸不遜な性格をしているロイマンでも、ハイエルフの統治しているアルベイム王国には義理を通すものだ。
そんな中で、アルベイム王国の王子が重傷を負ったのは驚いたが、オラリオからの貨物が原因とされているのは紛れもない濡れ衣であった。だが、ギルドの許可があることを証明するものがいくつかあったので、ロイマンとしても無視できないものであった。フロディ王子のことは度々耳にしており、王子自らが国のあちこちに飛び回ることを聞いたときは驚いたものだ。
いまいち状況を把握できていないロイマンは、今日も働く。穴が開きそうなほど胃を痛めながら……
一方、フロディの負傷を聞いて驚いているのは、【ロキ・ファミリア】でも同様であった。
「リヴェリア様!フロディ様が……!!」
「あぁ……、一体なぜそのようなことに……!」
「これだから、ドワーフは……!」
「早く犯人を罰しましょう!!アルベイム王国に向かわなければ……!!」
この派閥では、フロディを傍系とするならば、直系とされるハイエルフであるリヴェリア・リヨス・アールヴが副団長を務めている。そのため、彼女に忠誠を誓う者が多くいるので、血筋的に考えるととても遠いところに位置するとはいえ、リヴェリア同様の純血なハイエルフのフロディの知らせは、驚きと共に怒りが沸き上がることとなった。
「まさか、アルベイム王国に襲撃があったとは…………」
「せやなぁ。あの国は精霊が国全体に睨み利かせてるからなぁ。というよりも、臣下が犯人ってのも驚きやな」
「そうじゃな。しかもドワーフじゃ。しばらくの間、儂は居心地が悪くなるのぅ」
襲撃の件を受けて、リヴェリアは、同じハイエルフかつ年少者であるフロディが負傷したことに、犯人への怒りは他のエルフに引けを取らないが、あくまで冷静に状況を整理する。
それは同じ部屋にいる主神のロキと、リヴェリア同様派閥の最古参であるガレスも一緒に行っており、犯人と同じドワーフであるガレスはため息交じりにぼやく。王族に関わることになるとエルフは面倒なことになり、種族単位で貶めることも珍しくない。
「ギルドから聞いてきたよ、リヴェリア」
「フィンか……。ロイマンは何と言っていた?」
入室してきたのはロキ・ファミリアの団長であるフィン・ディムナであった。ロイマンから件の詳細を聞いてきたのだ。
「まず、犯人はアルベイム王国の鉱務大臣、ドゥウェイン・アルディで、彼からの襲撃で重傷を負ったらしい。そして彼は、【
「アルベイム王国にも【
リヴェリアは、まずそこに驚いた。【
「といっても、フロディ王子の言い分では、その時のドゥウェイン・アルディは、まるで死んでいるかのような顔色をしていて、片腕にはモンスターの爪があったらしい」
「つまり、そのアルディという大臣も、改造人間になったということか……」
「まったく、【
実はオラリオでも、アルディと同じような身体を改造させられたものが多く見受けられている。例えば、アルディのように四肢のいずれかをモンスターの爪や足に挿げ替えられたり、背中に翼を付けさえたりなど様々だ。中には頭部を改造されてミノタウロスの角を植え付けられた者もいる。
【
そんな彼らの標的にされかねないアルベイム王国に、リヴェリアは内心、祈りにも似た思いで無事でいるように願った。
* * *
オラリオでそんなことがあった一方で、アルベイム王国にいるフロディは、自室にて多くの金属の塊に向き合っていた。正確には、それぞれの金属は種類はもちろん産地も異なっており、それらに対して一つずつ叩いて確かめていった。一週間前の重症についてはいつの間にか治っていた。
「フロディ様、紅茶を置いておきます」
「ん。ありがとう、スキュールン」
「それで、いつになったら休むんですか?もう長いことやっていることでしょう」
「これでアルディの攻略ができそうなんだから、ね?あと少しで……」
そこまで言ったフロディは、スキュールンのどこか威圧的な雰囲気で黙った。仕方なくフロディは従うことにしたが、考え事に耽っていた。
彼がなぜこのようなことをしているのか、それはアルディの討伐の糸口を探すためだ。
まず、ドワーフの彼は力と耐久に優れているが、これは種族の特性故だ。その上、彼に攻撃をしたが、それは明らかに金属がぶつかり合う音をしており、鎧を着ているようには見えなかったことから何か絡繰りがあることをフロディは見抜いていた。
そして、彼の左腕であったモンスターの爪であるが、あれはおそらく挿げ替えられていると考えたフロディは、一つの考えを示した。彼に意志らしい意思を感じなかったことも併せて、アルディはすでに死んで操り人形のような状態になっているのだと。
それなら、鎧を着ていないにもかかわらず、彼から金属音が発生した理由も、彼の体内に金属が張り付けられていると考えれば合点がいく。そのため、フロディは、彼の金属を特定して、その特性を理解して攻略に役立とうと考えた。
「本当に役立つのか疑問ですけどね」
「それでも意味はあるさ。少なくとも、衝撃に弱いとか、薬品を使えば錆びさせることができるとかさ……」
こういった会話をしていると、ふとスキュールンが報告してきた。
「そういえば、母君が心配していましたよ。フロディ様は大丈夫か、と」
「母上が?」
フロディの母、つまりアルベイム王国の王妃は、フロディを産む前から病気がちではあった。出産のときに、ニヨルドが心配そうにしてあちこち歩きまわっていたのは、それが原因でもある。
フロディを産んでからも、病弱な身体はあまり改善されておらず、家族一緒に過ごすことができるのは、それこそ朝と夜ぐらいだ。
「先の襲撃の件で、ことあるごとにフロディ様は大丈夫かと尋ねております。一度顔を出してはいかがですか?」
「うん、わかった。教えてくれてありがとう」
それでは、と言って退室したスキュールンを見送ると、また鏡で自分の恰好を確認するんだろうな~、と思いながら、フロディはまた作業へと戻っていく。
この間でも、アルディへの倍返しを決意しながら、今でも捜索しているだろう兵士の報告を待っていた。
* * *
襲撃の件から約2か月以上が経過した。
これでもまだ、アルディの所在が掴むことができていない。目ぼしい所は一切の抜かりもなく探したが、どれもがもぬけの殻であるので、捜索隊は徒労を感じていた。
「一体どこにいるんだ?」
「これでもまだわからないということは、あちら側に筒抜けであることも考えられるかもしれません。先に言っていた内通者も、まだ潜んでいるのかもしれませんしね」
ネメシスにそう言われて、また考えに没頭しそうなフロディだが、事態は急変する。
「フロディ様~~!!」
「どうした!?」
ただならぬ雰囲気を醸し出した兵士が、焦りながらも報告をする。
「お、王妃様が向かわれた王都内の病院に、火の手が……!!」
「「!!」」
一緒に聞いていたネメシスもこれには驚き、フロディはすぐさま飛び出していく。
「衛兵!!市民の安全を確保しろ!!鎮火には別の部隊を向かわせる!!」
現場に到着したフロディは、すぐさま指示を出していく。
「これからこの部隊で病院に入っていく!母上を早急に発見するように!!」
「「「はっ!!!」」」
病院に入っていくフロディは、中をくまなく捜索していく。医師が診察していたであろう診察室や大広間などを通っていくが、それでもいない。
だが、最上階に到達したフロディは、そこにある一室の扉を見てすぐさま駆け込む。
王族専用に作られた広々とした病室だ。
「母上!!無事でしょ、うか……」
目に飛び込んできた光景を見て、フロディは言葉を失った。
目の前には、火元が近くにあることを示すように勢いのある炎を背景に、母が倒れこんでいた。しかも、斬られたような傷跡をして……
「随分と早いじゃないですか…………、フロディ様……………………」
そして、犯人であることを示すように血の付いた剣を持っているのは、自身の召使であるスキュールンであった。
「スキュールン…………、お前が内通者だったのか…………!?」
そう言われたスキュールンは、何一つ言葉を発さず、ただ何一つ情を感じさせない顔をしていた。