転生したハイエルフが奮闘するのは間違っているだろうか   作:野生の鹿

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妖精覚醒

 スキュールンの造反とアルベイム王国王妃の死去から約1週間が経過した。

 

 ニヨルドは、少しずつだが立ち直ることができ、今ではスキュールンの行方を捜すために第一線にいる。精霊と密接な連携をしていくその様は執念深い。彼の願いを叶えるためか、臣下の者は皆、目を血走らせながら動いている。

 

 一方のフロディは、自分のステイタスをフルに生かすためにスキュールン及びアルディへの対抗策を練っていた。氷属性の付与魔法を新たに発現したことで【妖精王詠(フェアリー・カントゥス)】が生かすことができることを確信した。【冥霊祝福(スピリット・ブレッシング)】にも、今まで自分が早く成長できたことや、ハイリスクだがハイリターンともいえる効果も存在することに感謝していた。ついでにあの重症を僅か1週間で回復できたことにも納得できた。

 もっとも、スキルの名前から察するに、自らが転生するきっかけになったあのヘカテーの精霊(トリウィア)から祝福をもらってることを考えると、複雑な気分になっていた。

 

 こうして、対策を進めていく中で、【ディア・ゲルズ】の詠唱も行ったが、やはり魔法の訓練をしてこなかったこともあり、その場に立って詠唱することしかできなかった。魔法の詠唱には、移動したり、何かしらの行動をしながら詠唱する『並行詠唱』というものがあるが、それは離れ業であり、会得するのは難しいものである。そのため、並の魔導士は魔法の詠唱に時間をかけることが必然となり、他の人に守ってもらうか、自分が傷つくことを覚悟して詠唱し続けるかの二択になる。これを察したフロディは、自分が傷つくことを前提に戦うのを想定している。

 

 魔法の詠唱の訓練と組み手の相手を担ったのはネメシスだ。彼女の立ち位置としては、アルベイム王国の客人であり、フロディの主神でもあるが、今回の件に首を突っ込む気満々で、木刀でフロディをフルボッコにしている。そんな彼女にフロディも負けじと立ち上がり続け、結果、戦い方というか駆け引きを少しずつ身に着けていくことができた。

 生傷が絶えず出来上がり続けるフロディだが、形振り構っていられない状況であることや本人が望んでやってることなので誰にも止めることはできない。

 

 そうして、フロディの戦いは、刻一刻と近づいてきた。

 

 

*     *     *

 

 

「さて、王都のこの辺りに行くとするか…………」

 

 少々気怠いため息を吐きながら弓を携えるのは、【闇派閥(イヴィルス)】の構成員であるスキュールンであった。彼はここ1週間で表立った行動をすることができてなかった。理由は、ここ1週間で自分たちを見つける動きが尋常ではなかったこともあるが、アルディの最終調整のためでもあったのだ。

 

 今回の襲撃で、アルベイム王国の王家を一気に片付けることにするために、【闇派閥(イヴィルス)】は万全を期して臨むことにしたのだ。制作担当のペイルがわざわざ出向いたこともあり、アルディはさらに強くなった。

 

 今回の作戦は、【闇派閥(イヴィルス)】にとって割と重要なものともいえる。

 

 この作戦の最終的な目的は、他の国々への示威目的だ。

 アルベイム王国は、オラリオの友好国ということもあり、多くの国から重要な強国と認識されている。これは何も友好的な意味ではなく、アルベイム王国に対して、複雑な感情を抱いている国も少なからず存在するという意味でもあるのだ。畏怖に似た感情を抱く国、目の上のたん瘤として認識してる国、国の地理の都合上で致し方なく取引してる国などさまざまだ。

 これらの国に共通してるのは、アルベイム王国に依存してるということだ。

 

 そんなアルベイム王国を制圧、もしくは亡国に追い込むことで、他の国々をこちら側に引き込もうとするのが最終目標だ。

 

 鉱務大臣であるドゥウェイン・アルディも、そんな【闇派閥(イヴィルス)】の協力者だが、欲深いことが彼にとってあだになった。

 そもそも、【闇派閥】と彼の間にあった10億と希少金属に関する取引は、アルディが見返りを求めるようになってきてから最大の価格であった。以前にも行われてきた、スレイン商会を隠れ蓑にした取引についても、金に執着するアルディの我儘でもあるので、【闇派閥】は鬱陶しい思いに駆られていたのだ。

 

 そこで、彼らはアルディに消えてもらうことにしたのだ。

 

 保険として忍ばせていたスキュールンに動いてもらい、アルディを消すための口実を作るようにしたのだ。取引があったことをフロディに明かし、それをアルディに知らせることで彼を焦らせることに成功した。慎重な部分がある彼は、すぐさまフロディを暗殺しようと動いたことも予測できた。アルディの計画が成功しても失敗しても、【闇派閥】にとっては都合がいい。もっとも、それを知るのは、【闇派閥】の中でも上の方の連中だけだが。

 

 スキュールンの言った通り、フロディたちからしてみれば考えるだけ無駄な理由で雑に殺したアルディが、今では傀儡としてアルベイム王国の脅威となっているが、別に誰でもよかったというのがペイルの本音だ。彼に対して情を求めるだけ無駄であることをスキュールンは理解していた。

 

「これで…………ようやく長い任務が終わる…………」

 

 スキュールンは感慨深げに呟き、忠誠を誓っている【闇派閥】のためにも、個人的な思惑のためにも成功させるために戦地に赴く。

 

 

*     *     *

 

 

「報告いたします!スキュールンの所在ですが、郊外に目撃情報が相次いでいます」

 

 入ってきた男――まだ若い従騎士が入室してきて報告してくる。1年前にも、似たようなことがあったなと振り返ったフロディは、彼からの報告を受け取り、覚悟を決めた面持ちで準備を進める。

 

 王宮内を通っていく中で、そろそろ外に出る辺りで、フロディは父ニヨルドと顔を合わせた。

 

「もう行くのか、フロディ?」

「はい。準備ももう済ませてあります、父上」

 

 王妃が亡くなったことにより、互いに唯一の肉親となったこの親子には、どこか余計な会話をしないような静けさがあった。

 

「フロディ…………、父の我儘を聞いてくれるか…………?」

「…………何でしょうか?」

「無様な形であろうと、必ず生きて帰るように…………!」

 

 長年連れ添った妻だけでなく、愛息子も失われてしまうことに恐怖を感じたニヨルドは、フロディに戦わなくてもいいと思っていた。

 だが、当のフロディは、裏切ったとはいえ自分の従者の責任を果たすこと、自らの手でケジメをつけることを決めていたことから、これ以上の説得は意味をなさないことも理解していた。フロディの頑固な部分を父として理解しているニヨルドにできることは、ただ、無事を願うこと、死なないことを天に祈ることしかできなかい。

 

「えぇ………、国のためにも、家族のためにも…………、俺はここで死ぬことはないよ………、父上…………」

 

 父親の愛を感じ取ったフロディは、そう返すと同時に歩み始める。

 

 決着をつけるために出陣する彼の背中を、ニヨルドはただ見つめていた。

 

 

*     *     *

 

 

「ネメシス、どうしてここにいるの?」

「最初に出会ったときのことを忘れてはいないのでしょう?」

 

 目撃情報が多発した現場近くに着くと、主神であるネメシスが待ち構えていた。彼女の腰には剣が携えられており、自分も戦うと言わんばかりの戦闘衣(バトル・クロス)も着用していた。

 

「最初って、俺を保護するどうこうってやつ?」

「えぇ。スキュールンとアルディには、あなたがケジメを付けさせることには……渋々ながらも納得しましたが、敵は彼ら二人とは限らない。あの二人以外の敵には、主神の私が対応します」

「そう聞くと、敵がかわいそうになってしまうよ………」

 

 彼女の武闘派な一面を身をもって分からせられているフロディは、いるかどうか分からない敵に同情した。

 

「さて、怪しいところはこの辺りか…………」

 

 そう言って地図を凝視してるフロディは、ある地点に注目する。

 今となってはあまり使われることのない砦だ。外観は廃墟と言われても不自然ではない程荒れ果てており、王国軍もあまり整備することがなくなってきたので、敵にとっては隠れ家に適したものだ。

 

「それじゃあ、とっとと片付けていこうか…………」

「えぇ、倍返しといきましょう」

 

 そう言って剣を構えていくフロディとネメシスは、廃墟と化した砦に向かう。決着をつけるために―――

 

 

*     *     *

 

 

 外に潜んでいるであろう敵はネメシスに任せることにして、中へ突入したフロディは、他と比べて開けた場所へ出ていく。

 

「スキュールン!隠れても無駄だ、アルディと一緒にいるんだろう!」

 

 静けさもあってか、フロディの発する声が全体に響き渡る。やがて、フロディのいる位置から斜め上の方角、砦の2階部分から顔を覗かせてきたのは、弓を携えているスキュールンであった。

 

「待っていましたよ、フロディ。あなたなら、自分でけじめをつけると言って一人でやってくることは予測できましたよ」

 

 従者として接していた時とは打って変わって殺意を露にしたその姿に、改めて裏切られたことを思い知ったフロディは、自分と同じ1階部分にもう一人いることに気付いた。

 

「…………アルディか…………。」

 

「フロディ…………、必ズ………、殺ス…………。イヴィルスノ………タメニ…………」

 

 生前に出会ったころとは違って、カタコトな発言しかせず、身体を異質なものに改造されたアルディが現れた。もはや意思疎通もできなそうな変貌ぶりに、フロディは色々言いたかった。

 

「素晴らしい手駒へと変わって驚きでしょう?【闇派閥(イヴィルス)】には、そういうことができる鬼才がいるのですよ、フロディ」

「だからと言って、こんな尊厳破壊ともいえる所業は…………!」

「そういったところで、あの人に情なんて持ち合わせていませんよ。はっきり断言できます。」

 

 冷めた声で言うスキュールンに、フロディは怒りで頭が沸きそうになった。

 だが、努めて冷静な声で、スキュールンに質問した。

 

「始める前に確認だ…………。何があっても、罪を償うこと……、これ以上罪を重ねないこと……、こういったことは、ないんだな……?」

「えぇ、私にも、譲れない願いというものがあるんですよ………。たとえ長年仕えたあなたであっても、それは変わりません」

 

 決別を感じさせるような声音で言ったスキュールンは、フロディに弓を構えた。

 

「始めましょうか。大人しく死んでください、フロディ!!」

「だったら………、覚悟しろ!スキュールン!!」

 

 剣先をスキュールンに向けて構えたフロディに対して、スキュールンは生成した炎の矢を浴びせていく。

 

 それに対して、剣を振って防いでいくフロディだが、1週間前と違うことがある。

 

「ヌゥゥン………!」

 

 アルディの存在だ。

 

「あっぶな…………!!」

 

 鈍器(ハンマー)を大振りながらに繰り出すアルディに、上から狙撃していくスキュールン。この二人の連携にフロディは少しずつ追い詰められていく。

 

「無駄な抵抗はよしてくださいよ、フロディ………。この国は【闇派閥】によって崩壊することは目に見えていますから」

 

 上からそう言ってくるスキュールンに、フロディの闘志が燃え上がっていく。

 

「悪いが、ここまで来て大人しくするってのは、性に合わないね………」

 

 アルディから距離を大きく離したフロディは、一度深呼吸をし、心を落ち着かせる。

 

(さて、やるか…………)

 

「【静かなる冬の息吹よ、白き大地を覆う精錬の輝きよ。】」

 

 魔力があふれ出していることを察知したスキュールンは、驚きで目を見開く。

 

「魔法の詠唱か………!?」

「【我が胸に宿りし想いを汲み取り、荘厳なる霜の羽衣となりて舞い降りよ。】」

 

 詠唱を続けるフロディに、スキュールンは躊躇うことなく炎の矢を繰り出していく。

 

ドシュッ!!

 

 フロディの右肩に刺さり、その炎の熱さと痛みに顔をしかめながらも、詠唱は止まらない。

 

「…………っ。【この思いは恐怖の炎ではなく、希望の銀雪となって澄み渡る】…………っ。」

 

 フロディに近づいていくアルディは、ハンマーを振り回して彼を突き飛ばす。

 

ドゴォォォン!!

 

 壁に思いっきり激突したフロディは、打撲による負傷と共に血を吐いていく。

 

「ハァ、ハァ…………。【迫りくる影が……、愛する者を奪うとするなら……、二度と…奪われぬよう、立ち向かおう】…………。」

 

 所々で途切れそうになるが、それでも詠唱を止めることはない。

 

「まだ詠唱しているだと………!?」

 

 スキュールンは一刻も早く止めさせるべきだと、さらに矢を生成して繰り出す。

 

ザシュッ!! ドシュッ!!

 

 今度はフロディの脇腹や脚に刺さり、そこからも血があふれ出る。

 

「【我が身を氷壁と化し…………、吹き荒れる闇さえ、凍てつかせよう…………。】」

 

 今度はアルディが近づき、モンスターのものと化した左腕――鋭く尖った爪で攻撃してくる。

 

ザシュッ!!!

 

 身体が引き裂かれるような感覚をフロディは感じ取り、そこから鮮血がほとばしる。

 

 だが、それでもフロディは、詠唱を止めない。

 

「ハァ…………ハァ…………、【親の愛を、無駄にはせず、この身で愛を繋げよう。】…………っ」

 

 よろめきそうな程に足を震わせながらも、立ち上がるフロディに、スキュールンは苛立ちを露にする。

 

「何で倒れないんだよ………!!」

 

 しっかりと目を見据えるフロディは、詠唱を続ける。

 

「【応えよ雪の精よ。我が祈りを顕現せよ。】…………つ。」

 

 そして、魔法は完成していく。

 

「【反逆の誓いと共に……、輝け。我が名はアールヴ】!」

 

 剣を構えたフロディは、その魔法の名を言った。

 

「【ディア・ゲルズ】!!」

 

 その魔法を発動したと同時に、フロディの四肢と剣に、氷を彷彿とさせる白色の物体が纏わりついた。

 

「はっ……、あんなに長い詠唱文で、付与魔法かよ………」

 

 警戒したことが馬鹿らしいと言わんばかりに吐き捨てるスキュールンだが、その認識は間違いであることを後で理解する。

 

「アルディ。もう彼は虫の息だから、さっさと殺しなさい」

 

 スキュールンの指示を受けたアルディは、攻撃していくが、その瞬間―――

 

ガキィィンッッ!!!

 

 アルディは凍らされて身動きが取れずにいた。

 

「っ!!」

 

 スキュールンは、何が起きたのか理解せずにいると、フロディはアルディ突き飛ばす。

 

「うぉりゃぁっ!!」

 

 さっきまでのお返しと言わんばかりに攻撃したフロディは、すぐさま2階部分に向かおうとする。

 

「【吹雪よ(ブリザード)】!!」

 

 詠唱式と共にフロディは、足の裏から冷気を発生させていく。

 

 冷気を逆噴射させることで上昇したフロディは、二階部分に降りると、今度は左手を地面にたたきつける。

 

「【吹雪よ(ブリザード)】!!」

 

 すると、叩きつけた左手からフロア全体に氷結されていき、やがてスキュールンに届こうとした。

 

「ちぃ……!!」

 

 自分を凍り付かせると思いこんだスキュールンはすぐさま回避しようとしたが、その判断が遅れていた。

 

「はあぁぁぁ!!!」

 

 目の前には、全身を血みどろにしながらも、闘志を燃やして戦うフロディの姿がいた。さっきのフロア全体の氷結は、スキュールンへの牽制であり、スケートのように早く移動するために適した地形(フィールド)の生成でもあったのだ。

 

 そして、スキュールンに近づいたフロディは、氷の纏った剣を突き出していく。

 

「ぐわあぁっ!!」

 

 胴体にもろに受けたスキュールンは、血を吐いて飛ばされる。

 

 魔法を発動したことで、フロディはスキュールンとアルディのコンビに並び立つ強さを持っていた。

 

「さあ、第2ラウンドといこうか…………!!!」

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