新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「ここがルアンがステーションで使ってたラボか…」開拓者、トダー、そしてマネモブの三人はルアンがクスリを盛ってまで開拓者に始末させたかった実験の詳細を探っていた。トダーのカメラは証拠は一切合切データとして残すと怪しく光っている。
『ムゥ』「うわっ!なにこの…猫…?」脚元から急に泣き声が聞こえてきた事で驚いた開拓者。下を見ると、お菓子のような、猫のような不可思議な見た目をした生物がいた。ほのかに甘い匂いがする。
「お菓子に命を吹き込んだとかいう実験の創造物らしい…お、お前変なクスリでもやっているのか。」研究資料を漁っていたマネモブが答える。
『ムゥ…ルアン・メェイは変なクスリなんてやってないッ』
「喋れるんだ…」開拓者は相変わらず困惑した様子だ。
「しゃあけど…この程度の実験なら開拓者に始末させる必要はないと思われるが…」Mの代行計画を立案した米国の方が余程非人道的な事をしていたというマネモブ。
「マネモブ―、コレヲ見ルヤンケ。」トダーがルアンが実験の様子を撮影したデータを発見した。
「どれどれ、」三人で覗き込む先にあった映像とはー?
………
「私はある「生命のあり方」を思い付きました。それは私でも「不可思議」だと認めざるを得ない存在…私はまだ、「使令」とは何なのか理解出来ていません。」ラボでタブレットを弄りながら一人語るルアン。
「学者はそれを星神の代行者と見做しています。では、それはいつから、どの点において、他の生命体よりも「星神」に近くなったのでしょうか?」一人疑問に思うルアン。
「最初、私は天才を育てようと思いました。しかしこれは失敗した。この問題は未だ未解決で、探索には長い道のりが待ち受けています…ですが、この宇宙において、”運命”は”知恵”だけではありません。理性を捨て、他の道を歩めば、より原始的で、より純粋な”使令”になるのではないでしょうか?」彼女は仮説を提唱する。
「それは、当然のように存在しました。"タイズルス"…模擬宇宙を通じて、私は"宇宙の蝗害"の一部始終を垣間見ました。そして蟲の王とその子孫のデータを手に入れ、コピーし、培養しました。それによって、新たな研究分野を切り拓いたのです。」彼女の仮説は正しかったが…よりにもよって星も喰らうと言われている繁殖の使令のクローンを作るなんて頭がおかしいとしか言いようがない。
「合理的に判断すれば、私はきっと成功するでしょう…私が復元した「それ」は、これまでになかった生命体を生み出す筈です。」
「ヘルタとスクリューガムはこの研究を気にいるでしょうか?いいえ、あり得ません。ですから彼等が気付く前に…急がなければ、相応しい”助手”を見付けなければなりません。」彼女はこの不祥事を隠蔽する為の人材を欲している…
………
「つまり彼女は、知的好奇心から繁殖の使令を培養したということか…?」愚弄の運命を歩む者すら引かせる実験である。
「スウォームッテ沢山星ヲ滅ボシテ来タヤバイ奴等ヤンケ。頭オカシイヤンケ。」
「いや、無理無理無理無理!蟲なんて気持ち悪いし!」開拓者は蟲に拒絶反応を起こしている。
「ウム…ぶっちゃけここで逃げても許されるんだなァ。」マネモブは弱き者は去れ!と開拓者に勧める。
「アンタ代わりに何とかしてくれる?レギオンの雑魚にはボロ雑巾にされてたけど、絶滅大君倒した実績があるでしょ?」開拓者はもう丸投げしたいで方針が決まっているらしい。
「なんでもいいですよ。ワシ等はルアンを脅すネタさえ手に入れればいい…それを交渉材料にして長命種の肉体データを手に入れれば…バースト・ハートも完治だぜ。」マネモブは開拓者を置いて進むのも厭わない。
「撮影ハワシに任セルヤンケ。」ラボ内にあった研究データを全てインプットしたトダーもマネモブに続いていく。
「………。」開拓者は一人取り残された。
「食堂でラーメンでも食べてから帰ろう…」
………
「動画ニヨレバ、使令ガイルノハコノ先ノエレベーター降リテッタ先ヤンケ。ソレニシテモマネモブ、本当ニ使令ト闘ウ気ヤンケ?」トダーはマネモブを心配する。彼も決して弱い訳ではないが…幻朧を倒せたのは偶然早期に発見した事、幽幻真影流に相手の魂を掌握する術があったお陰である。マネモブの武術は基本的に人間相手を想定したもの、通常の使令相手の正面戦闘は厳しそうだが。
「強い奴を見るとやりたくなるのが格闘家の性なんだよね。」まあ勝てそうになかったら逃げればええやろ、もしそうなっても全責任はルアンにあるんだからどうということはないとマネモブは言う。だが、”繁殖”の”使令”は必ずトダーのカメラに収めさせる。
「見よ、この天才的な一手を!」「ん?」エレベーターもすぐそこだというとこまで歩いてきた二人の目前に、石膏の仮面とギリシャ風の服を身に纏った長身の男かがいた。一人でチェス盤に向かいブツブツと独り言を呟いている。
「どうやって破るべきか…それを聞くのはアホだけだ。ここに打ちさえすれば………」男の言葉が途中で詰まる、マネモブ達がにやにやしながら見つめているのに気付いたようだ。
「あはは、一人でチェスとか…」「コレハ痛イヤンケ」愚弄のしがいがある連中はマネモブ達の大好物である。
「………。」自尊心に傷が付いたレイシオだが、ここは大人の対応でスルーした。
「君達はルアン・メェイが作った反吐が出る程悍ましい実験体を処分しに来たのだろう。しかし、」彼女は開拓者に一任したと聞いていたのにと男は疑問に思った。
「開拓者はこんな事やってられるかと帰ったよ…後の事は俺達に引き継いである。」確かに、繁殖の使令と相対するなど正気の沙汰ではない。放棄するのも致し方あるまい。
「ソンナ事ヨリ、オマエ誰ヤンケ?ココハ私有地ヤンケ、シバクヤンケ。」これはトダーなりの挨拶である。
「時間は有限だ、君達にとって僕の正体など、今は大した問題ではないだろう…ステーションに来る際のアポは取っている。だが一つだけ言っておく、もし君達が”あれ”の処分に失敗した時は、僕も事態に介入すると。」ぶしつけにも名乗らなかった彼だが味方と考えて良さそうだ。
「まあ、安心して。駄目そうだったら逃げますから。」
「………。」無責任な答えに、こんな男に任せていいのかと心配になる。
「…やはり僕も同行する、協力する以上は名乗る必要があるだろう…僕の名はベリタス・レイシオ、博識学会の学者だ。カンパニーの技術顧問などもしているが…………」紹介の途中で、既にマネモブはエレベーターに乗り込んで降下しようとしていると気付く。
「人の話は最後まで聞け!」マイナスだと怒りながら急いで乗り込むレイシオ。
………
マネモブ達は遂に来てしまった。星をも滅ぼす蟲が練り歩いている地獄に…使令が培養されていたであろう実験管の残骸、ヌメヌメとした気持ち悪い液体が辺りに散乱している。使令の体液だろうか?散らばったガラスの破片を見るに、敵は相当巨大だと予測出来る。
「うげええええ…気色悪い場所やのォ…」蟲の体液を見て吐き気を催すマネモブ。
「奴はずっと放置されていた。恐らく相当腹を空かせていると思われる…」食料と見たらすぐに襲ってくるだろうとレイシオは懸念する。
「使令ハドコヤンケ?」トダーが辺りを見回した時、
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
夏場の寝床で聞こえる蚊が飛び回る時と似たような不愉快な音が辺りに響く。
「後ろか!」三人は慌てて振り向く。淡い蒼色に輝く巨大な蟲が餌を見据えていた。
『ブァアアア』けたたましい鳴き声を上げた蟲の身体からボコボコと小さい蟲が産まれる、いや分裂と言った方が正確だろうか?
「チィッ…繁殖の使令”スキャラカバズ”…これが分裂の権能か。」レイシオは余りの悍ましさに舌打ちする。真っ先に狙われたのはトダーだった。
「ヤンケ―!!」分裂した蟲達に胴体を喰らいつかれる。この蟲達は無機物も見境なく食べるらしい。
「トダー!」マネモブはトダーのデータを守る為、全てが喰われる前に蟲達を潰す。
ボンッ!「ううっ」蟲は潰される瞬間爆発を起こし体液をまき散らす。死ぬ瞬間まで不快感を覚えさせてくる。
「お、おい大丈夫か?そのオムニックは?」レイシオは思わず彼らの安否を気に掛ける。
「ワシはごっつうタフやけん、この程度では倒れん。トダーも頭さえ生きていれば、ゴア博士が復元してくれるで。」大事なデータが詰まっている頭部を安全な猿空間に送るマネモブ。
こうしている間にも分裂は絶え間なく行われており、レイシオはチョーク投げ、マネモブは徒手空拳で雑魚蟲達を潰している。本体を倒さない限り、このままジリジリと追い詰められるだろう。
「おいお前。」「何や。」レイシオは奴を倒す考えがあるとマネモブに声を掛ける。
「数秒で良い、スキャラカバズ本体の動きを止められないか?」時間さえ稼げれば、彼の必殺技がスキャラカバズを圧し潰すという。
「………しょうがねぇなあ。」ほんの一瞬でもいいなら、マネモブにはスキャラカバズを止める技があった。
「しゃあっ!!」ダアッと走り出すマネモブ。当然、知能のない蟲達は前に出てきた餌に食い付く。
「ぐうっ…」自身の肉を貪られながら、マネモブはスキャラガバズの目の前に立つ。
『ホギャアアアアアア』自ら食われに来たかと害虫はマネモブを喰らおうとする、その刹那。
”アイス” マネモブが叫ぶ。
”ピキィーン” 瞬間、スキャラガバズの全身が凍り付いた。
「いまだやれえええええええレイシオおおおおおおおおおお。」この巨大蟲をいつまで止めてられるか分からない。おいっ早く倒してくれとマネモブは叫ぶ。
「フン…今のお前は…100点だ!」レイシオは腕を垂直に伸ばし三角測量の姿勢を取る。
”知識こそは万物の尺となり、真理を探り尽くし、誤謬を根絶する”
彼の詠唱に応じてピサの斜塔のような巨大な建造物が現れ凍結状態のスキャラガバズに倒れていく。
「どああああああああ、あかんやろあかんやろ」俺も巻き込まれると急いで離れるマネモブ。
グチャッ!『ぎゃああああああああ』肉塊が潰れる気色の悪い音が響く。
『グギギ…』肉体の大部分を潰されたと言うのに、まだ醜くも動こうとする蒼き蟲だが…
ボンッ!!◇爆発ー!?
「しゃあっ!!俺達が勝ったんじゃあ!!俺達は使令よりも強いんじゃあ!!トダーの仇も取ったでェ!!」マネモブは俺達の勝ちだと浮かれるが…
(今の爆発…本当に僕達がトドメを刺したのか?)何か作為的なものを感じ取るレイシオだった。まるで最初から今死ぬ事が決まっていたようにも思える。
「ハハハハハ!!ハアッハアッ…」バタン…勝利の余韻で気が抜けたのか。穴の開いた風船のように倒れ込むマネモブ。トダーから蟲を振り払った時に喰らった爆発のダメージ、食い破られた肉、いくら彼がタフとはいえ明らかに重症だ。
「!!おい、しっかりしろ!!」意識を失ったマネモブを服が汚れる事も厭わず介抱するレイシオ。ステーションの医務室へ急ぐ。
「全く、ステーションへの来客がこれ程の大怪我を負うとなっては…」これは大事になりそうだと気を揉むレイシオであった。
◇次回、マネモブの動向はー?
宇宙ステーションの食堂にて
「ここのラーメンウマッ」ズルズル
マネモブが死に掛けた裏で平和を享受しながら、ウマそうにラーメンを啜る開拓者であった。