新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「な、なんや…光に体が吸い込まれていく。」激闘の末に倒れたマネモブは眩い空間にいた。ここがあの世というものだろうか?どこか心地のいい暖かさに導かれ光を追い掛ける。
ザアッ…ザアッ…光を抜けた先に広がっていたのは、美しい海だった。白い砂浜に思わず尻をつく。
「はーっなんか気持ちええなあ…」バースト・ハート完治の為に博士達に必死こいて協力して来たマネモブだったが、今はそんな事忘れていた。
「ここは天国だからね。」
「誰や!?」ふと声をした方を見ると、大柄で筋骨隆々、左目の潰れた男が体育座りをしていた。どう見ても格闘技経験者だ。
「あ、アンタは…」マネモブはその隻眼に見覚えがあった。自分の故郷において、一昔前の世代の格闘技マニアならはシラナイ者はいないと言っても過言ではない伝説的なプロレスラー”アイアン木場”だ。しかし彼は人間兵器ガルシアとの激闘の末に亡くなった筈…
「ハハッ、君のような若い格闘家も私の事を知っているのか。」生前はヒール染みたマイクパフォーマンスも目立つレスラーだったが、今の彼は悟りを開いた菩薩のように穏やかだ。
「………。」木場がここにいると言う事は、本当に俺は死んだのか?とショックを受けるマネモブ。心臓完治の為に宇宙中を練り歩いたが、今までの苦労は何だったのだろう。
「格闘家が死ぬ時に、そんな顔をするものじゃあないな。」労うように、諭すようにアイアン木場は語る。
”人間はね、泣きながら産まれて泣きながら死んでいくものなんだよ。でも私は笑って死んでいきたい。肉体を研磨し、心を鍛え闘っていくのは、潔く死ぬ為。全てはこの日の為に…”
「戦いの中で華々しく散ったアンタに、志半ばで死んだワシの気持ちは分からんのじゃあ!!」
木場の言う通り、誰だって満足して逝きたいだろう。しかしそのような死に方が出来る人間が、この世にどれだけいるだろうか?
「落ち着きなさい、まだ若い灘の後継よ。」現実のマネモブは峠を彷徨っているが、ステーションの腕の良い医師が診ているので恐らく大丈夫だろうと。
「えっそうなんですか。ふーそれは良かった…」安堵するマネモブ。
「灘神影流か…君も門下生の一人なのだろう?」今の灘はどうなっているのかと聞いてくる木場。そういえば木場の晩年、ガルシアとの死闘においては”灘神影流14代目当主”の”宮沢静虎”がリザーバーを務めたという話も聞いている。
「今の灘は”灘・真・神影流”に改名されてるんやで。起源を同じくするもう一つのしん影流、”幽幻真影流”と合一したんや。」
山奥に道場を構えてるから来るのは狸か狐くらいで、門下生は殆どいないんやけどなブヘヘと自嘲するマネモブ。現当主は道場を手放してしまった為、今はマネモブが買い取って偶に掃除している。
「そうか…」灘神影流も大きく変わったと感慨深そうな反応をする木場、世界情勢が絶え間なく変わっていくように。
「まあワシは灘以外の武術もかなり齧ってるで?この広い宇宙で生きていくのに、強くなるのは必要不可欠や。」
「宇宙か…私が生きていた頃は、異星との交流もそこまで盛んではなかった。」君のように宇宙中を飛び回っている者を見るとある種感動すら覚えると言う。
「これでもワシの旅は過酷なんやで。ちっとはリスペクトしてくれや。」マネモブの旅は、故郷発展の為の任務という側面が強い。米軍に雇われているゴア博士や立川博士から手厚いサポートを受ける反面、宇宙中から技術革新に繋がる物を集めて提供するのが彼の仕事だ。勿論まだ見ぬ強者との闘いなど実益も兼ねているが。
「今回はワシの”バースト・ハート”を治す為のお使いやけどな…」バースト・ハートは彼の故郷で10万人に一人が罹患し遺伝率も高いという病だ。もし根治出来たら、ノーベル化学賞ゲットも夢ではない。
「君はその力を、他人の為に振るっているのだな。」にこやかにマネモブを見据える木場。
「まあ…」「これからも、そのように生きてくれよ。」そして最期は笑って死ねるように精進しろと。
「………おうっ、木場のオッサンみたいに満足死してみせるわッ」この言葉を最期に、光が遠ざかっていく。
………
「ハッ」マネモブは目を覚ました。その目に映るのはシラナイ天井である。スキャラカバズの戦いでぶっ倒れた後、集中治療室にぶち込まれたようだ。骨折や内臓の損傷こそないが、爆発の火傷跡や蟲に食い破られ露わになった筋繊維を保護する為に全身を包帯でグルグル巻きにされている。
「良かった!目が覚めたのね。」マネモブが意識を取り戻したのを察知したのか、ゾロゾロと医療従事者達が病室に入って来た。その中に一人、桃髪の気品がある少女がいた。マネモブも一度会った事がある。
「久しぶりですね、アスター所長。」目の前の彼女はこれでもステーションの最高責任者であり大金持ちの令嬢だ。マネモブとはレギオンを追い払った時に、幾らかの謝礼を貰った仲である。
「全く、封鎖部分から血だらけの貴方をDR.レイシオが背負って医務課に駆け込んで来たって聞いた時は本当に心配したのよ。レギオンの生き残りにでも襲われたの?レイシオさんは詳しい事は何も言わずにさっさと帰っちゃって…」この前襲ってきたレギオンの生き残りが未だに潜伏しているという。実際ステーションは広大な為、ここのスタッフだけで全てを網羅するのは不可能だろう。
「ああ………まあそんな所や。」マネモブは真実を隠す事にした。ルアンの実験を公にしてステーションに大騒ぎを起こすのも愚弄のしがいがあって面白そうだが、それでは彼女の脅迫材料として使えない。開拓者に毒物を盛ったのを見るに彼女がこの不祥事を隠蔽したいのは間違いない、そこを突くべきだ。
「ハア…取り合えず治療費は私が出しておくから。」この前レギオンにボコボコにされていたというのに懲りない男だと呆れながら所長は去って行った。
「さて…」マネモブは目当てのブツを獲りに行こうと立ち上がった。
「怪我人は安静に…」看護スタッフがマネモブを止めようとするが、
「バアッ、こんなもの怪我の内に入らない。」舌を出したマネモブは看護師を無理矢理押しのけて行ってしまった。
………
病室を出てから気付いたが、彼にはルアンと会う為のコネクションがなかった。自分が寝込んでいる間に天才達の会議もとっくに終わって帰っている頃だろう。開拓者を中継して連絡してみようか?ルアンは開拓者を偉く気に入っていた筈、連絡先も持っているかもしれない。
「あっ、いたいたマネモブ。」間の良い事に、開拓者の方から会いに来てくれた。口振りからして彼を探していたようだ。
「丁度良かった。開拓者ァ、お前に頼みたい事があんねん。」
「頼み事は後でいい?はいこれ。」開拓者が手に持った紙の束の様な物を渡して来た。
「これは、」ペラペラとページを捲り流し見てみると、そこには彼がずっと欲していた長命種の肉体情報が記載されていた。ルアンの方から口止め料として寄越して来たのだろうか。
「これはあの女の差し金かい。」「あの女…?なんの事?あれっ、」開拓者は急に挙動不審になる。私はここに何をしに来たのだろうと口走っている。
「………。」恐らくまたクスリを盛られたのだろうとそんな様子を冷ややかに見つめるマネモブであった。
「まあいい、ハーッ遂に手に入れたぞッ。」紙切れにここまで一喜一憂するのは灘の禁術が書かれた秘伝書を手に入れた時くらいだ。
(ルアンの奴、開拓者にはしっかり記憶処理を施したようだが。)彼女が人付き合いを好まないという話は本当なようで、俺とレイシオも彼女の実験を把握しているというのに放置されている。
(ククク…弱みはつけこみというじゃないか。)いつかこのネタで彼女をゆすってやろうと悪い顔をするマネモブであった。
アイアン木場の名ポエムが載ってるのは鉄拳伝29巻じゃいッ
絶対買ってくれよな