新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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鏡流と彦卿
喰らえお姉さん これが”円月流” ”土竜突き”


ここは仙舟「羅浮」雲騎軍の訓練場サンクチュアリ。少し前に彦卿とマネモブが試合した場所でもある。彦はもっと強き者になる為に今日もここで鍛錬を積んでいるが、

 

「ハアッ…ハアッ…」

 

「もうへばったか小僧。」水色の長髪、バトルキングのように黒いアイマスクで顔を隠している中背の女。今の彼はこの正体不明の剣士を師として仰いでいる。

星核騒動の最中、将軍に引き合わせろと羅浮へ訪れた彼女に道案内をした時に神業のような剣の腕前を目の当たりにした彦卿は、自らその剣技をモノにしたいと志願し、そこから師弟関係が始まった。

 

彼女は未だに名前も名乗らない。彼女が会いたがっていた将軍なら何や知っているかもとそれとなく聞いてみたが、後ろ暗い顔をしてはぐらかすだけなので、それ以上の詮索はしなかった。

まあ彼女が何者かなど彦にとってはどうでもいい事だった。彼は彼女の技を修得したい…それだけだ。

 

「どんな方法でもいい、創意工夫して我に一撃当ててみろ。」この女は簡単に言うが、両者には隔絶した実力差がある。針の穴に糸を通すような話だ。

 

「お、お姉さんが強すぎるんだよ…」少し弱気な事を言う彦である。

 

「フン…最近は我の元に来ない日も増えたからな。」弛んでるんじゃないのかとでも言いたげである。だがその口振りからは少々物寂しさも感じられた。理由は分からないが、彼女は将軍に外出を禁じられている。相手をするのはそれこそ剣術を指南する彦卿くらいだから、暇つぶしの相手が欲しいのかもしれない。

 

「僕がサボってるって言いたいの?」それは違うよと弁明する。

 

「実は、お姉さん以外にも剣術を学んでる師匠がいるんだよね。」名はマネモブ、彦卿が人生初の敗北を喫した相手だ。彼が使った”円月流剣術”、その殺傷力とまやかしのような動きを覚える為に度々しごかれている。滅茶苦茶スパルタなのでしんどいが。

 

「ほう、我以外にも師がいるのか。」「えっ…」

 

女の纏う”気”の冷たさが増した。別の師匠の下へと訪れている事に何か思う所でもあったのだろう。まさか嫉妬って訳じゃないでしょ?

 

「だったらその者から学んだ技で、我に一矢報いて見せろ!」冷気で構成した剣を激しく打ち付けて来る。

 

「ううっ」女は華奢な部類の体系だがそれのどこにこの怪力が宿っているのだろうと彦は鍔迫り合いながら思う。

 

(お兄さんから学んだ円月流の技…まだ完璧にラーニングした訳じゃない。)それはそうである。マネモブとの修行を始めてからまだ日は浅いのだ。それでも、彼の天賦の才に裏打ちされた上達の早さにマネモブは舌を打つほどである。

 

「どうした?」何故その円月流とやらを使わないのかと問う女。ここで彦は気付く。

 

彼は何が何でも、心の底から本気で彼女に剣を当ててやろうという気概が無かったのだ。彼女と打ち合っていれば、その内彼女の剣筋を学べるだろうと、甘えた考えで彼女と闘っていた。

 

(お姉さんとマネモブのお兄さん、この二人を超える為には…)まだ未熟だからなど言い訳してはいけない。不完全な技だろうとどんどん実践に投入し磨き上げる。彼女が提示した一撃でも当ててみろという勝利条件、それすら満たせぬようでは最強の幻想など…

 

「フッ、やっとやる気になったか。」バク転で距離を置き自身を改めて見据える少年の目付きから心境の変化が感じられる。

 

「飛剣よ。」彦は彼が独学で身に付けた十八番である、鷹のように自由自在に空を舞う剣を展開した。

 

「その技は散々見ているが。」向かってくる剣を軽々と落とす。

 

「ハアッ」飛剣のオールレンジ攻撃は単なる布石だったようで、彼女が剣を打ち落としてる隙に近付いて手に持った剣で攻撃するのが狙いだったようだ。

 

「貴様が別の師から学んだというのはこの程度のものなのか?」あの程度の攻撃で隙など作れないと少し落胆した様子を見せながらカウンターで仕留めようとする。そもそもこのレベルの駆け引きは元々小僧が有していた実力の粋を出ない、

 

”円月流” ”陽炎” 「!」

 

女が斬った少年はその名が関する真夏日に起こる空気の揺らぎ、”陽炎”のように消えた。実体のない虚像である。

 

「ハッ」女は今までになく嗤う。一介の武人として、小僧のもう一人の師とやらが教えている技に興味を惹かれる。

 

飛剣も布石、第二撃もフェイント、まやかし剣法で姿の見えなくなった小僧は次こそ本命の攻撃を繰り出す事だろう。どこからの攻撃にも対応出来るように身構える。

 

「喰らえお姉さんッこれが円月流最強の技、」

 

”円月流” ”土竜突き”

 

この技は横から敵を斬り付けるフェイントと相手を確実に絶命させる為の突き攻撃をほぼ同時に繰り出す回避の非常に難しい技である。唯一の攻略法は真正面から受け止める事くらいだろう。

 

(僕はまだお兄さん程時間を置かずに横切りと突きを撃てるレベルまで達してない。フェイントと突きの間にどうしてもタイムラグが発生してしまう。)ならばどうするか?己でその弱さを埋める方法を考えるしかない。

 

『学我者生、似我者死(われに学ぶ者は生き、われに似せる者は死す)』

 

彦はマネモブの言葉を思い出す。何かを学ぶという事において、表面上の模倣しかしない者は生き残らない、学びを発展させていった者だけが強くなれると。

 

(突きの弱さは、僕にしか出来ない方法で埋める!)彦は己の剣に冷気を集中させ始めていた。

 

「この技は…」景色と同化した彦卿を完全に捕捉した女は瞬時に理解した。何を隠そう、彼が使おうとしている技はかつて自分が披露したものだ。剣の動きに合わせて、斬撃と纏わせた冷気を一気に放出する。彼は二つの師から仰いだ技術をいいとこ取りし、新たな技に発展させようというのだ。

 

「しゃあっ!!」雄たけびを上げ強烈な刺突と氷を撃ち込む。しかし、

 

「今までで一番良かったぞ小僧。」目の前の女もまた氷使い、自身の目の前に氷塊を形成し攻撃を防いでいた。

 

「そ、そんなんアリ?」「別に剣しか使わんとは言っていないが?」

こんな防御技使われたら当てようがないだろうと毒付く彦であるが、フェイントと突き攻撃に間が空きすぎてるから防がれたのだと師匠は言った。だが、己の技を真似しようという姿勢にどこか満足感を覚える。

 

「いけっ」「ムッ、」油断、今の攻撃で目の前の小僧は全て出し切ったと思っていた。一瞬気が緩んだ隙に、一番最初に地面へ撃ち落とした飛剣を操られて二回攻撃を喰らってしまった。

 

「やった!!」師匠が提示した無理難題を初めてクリアした、しかも二度も当てたと浮かれる彦である。大本命の攻撃すら捨て石に使った強引さは見事としか言いようがない。

 

「ハッ…」弟子の確かな成長を実感し噛み締める。

 

「だが…今見せた一連の攻撃、二度目は通用せんぞ?」

 

「うっ」女師匠は痛い所を突いてくる。今回課題をクリア出来たのは単に円月流という未知の技を繰り出した事による初見殺しだ。これが実戦だったら、飛剣を二度当てたくらいではトドメには全く足りない。今頃返り討ちに首を斬り落とされている事だろう。

 

「まあ、貴様が成長してる事は認める。その円月流の師とやらにも、多少興味が湧いた。」機会があれば、いずれ死合いをしてみたいものだ。

 

「さて小僧、今度はまぐれではなく、実力で当てれるようになってみせろ。」

 

「は、はい!!」未だ最強の剣士への道中、まだまだ先は長い。




「黄身を抜いた目玉焼き、鶏のささ身、ブロッコリーに……鳥と野菜屑で出汁を取ったスープか。まさか、これを六食も?」
「確かに美味しくはないですけど……強くなるために食べているんです、将軍。」
「精進の志は尊いが、過ぎれば身を損なう。鍛錬とは、己を削ることではないぞ。」
——マネモブの影響で極端な食生活を送る弟子を前に、景元将軍はただ静かにため息をつくのだった。
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