新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
エリア52への里帰り
天の川銀河、太陽系第三惑星”地球”にある日出る国日本。その首都である東京都内某所、郊外に出て閑散とした山奥に大量の瓦礫が捨て置かれている。一見すると周囲を黒鳥がけたたましい鳴き声を上げながら旋回しているだけ気色の悪い場所だが、実はここの地下には、米軍が日本政府の許可なく秘密裏に作った実験施設、通称”エリア52”がある。
星間交流の盛んになった現代において、地球内での国同士の諍いなどをしている場合ではなく、他の星に後れを取らない事が急務だ。ここには米国が世界中から集めた選りすぐりのサイエンティスト達が日夜研究に励んでいた。ゴア博士や立川博士はその内の代表的な天才達である。
「ウィース。」そんな地球の科学分野の最先端の地に、宇宙での特殊任務を生業としているエージェント”マネモブ”が土産を持って帰還した。
「おかえりぃマネモブ。」「四大幻獣、出迎えの為に揃い踏みか。」
四大幻獣とはゴア博士と共に働いている改造人間の四人組である。かつて爆発事件に巻きこまれ(全部鬼龍とスペンサー長官って蛆虫おじさんコンビのせいって覚えておけばいいぞ!)肉体の大半を失った所をゴア博士のとんでもサイボーグ化技術により超人として蘇った。その強さは灘神影流現当主からも動きが予測不可能な為武術による対処が困難であるとお墨付きを頂いている。
「アァッアァッ…」メンバーの一人”魔導鬼” ”ジョニー”は声帯を爆破でやられている為会話がままならない。だがその口振りからして、マネモブを気にかけているという事は確かだ。
「いやしかし…また傷が増えたな。」面々の中で一番巨体な”ミノタウロス”の”バッキー”がマネモブの顔に残った火傷跡を見て少し気に病んだような顔をする。
「ああ、旅の途中でちょっとしくじってな。」マネモブは特になんとも思って無さそうだが。
「私は寧ろ男前になったと思うけどね?」
「やめろシャノン、マネモブに男色趣味はないんだから。」
元長官直属の特殊工作員であった”蛇神”の”シャノン”と小男の電撃使い”サラマンダー”の”チコ”が軽口を叩き合っている。シャノンの方は一見すると偉い美人な女だが俗にいうトランスジェンダーであり、心と見た目は女だが実際は…男ですねパァン。
「アンタが帰って来たという事は、」
「ああ、しっかり目当てのブツを回収してきたぜ。」マネモブはルアンから貰った長命種の研究資料をビラビラと見せつける。現物の長命種の肉体サンプルこそ回収できなかったが、DNA情報さえ分かれば立川博士の科学力で再現可能だろう。
「アアッ!」「これで俺達も…」”豊穣”の研究が進めば肉体の一部を失った彼等も元の肉体を取り戻せるかもしれない。
「アンタは地球人類史でも類を見ない偉業を成し遂げたよ。」シャノンに賞賛されマネモブは少し照れくさそうだ。
「しかしよくこの情報を手に入れてきたな。」仙舟同盟をはじめとして長命種の集団は基本的に豊穣を外に持ち出すのを禁じている。もし無理矢理にでも手に入れようとするならば宇宙の三大勢力の一角を敵に回す覚悟をしなくてはならない。大変な任務だったろうとチコに聞かれる。
「ウム…実際仙舟での回収任務は紆余曲折あって失敗したんだなァ。」だが嘆く事ばかりではない、暗躍する絶滅大君を早期に討伐した事で仙舟に借りを作り友好的な関係を結べた。
「そのニュースはスターピースラジオで聞いたぞ。」マネモブの英雄的行動は既に全宇宙に放送されているという。
「ハハッ、参ったなァ…」俺ってそんなに有名人?と楽しそうに談笑するマネモブである。立川博士のいるラボに向かう。
………
「いやあ、よくやってくれたねマネモブ君!!」いつにも増して下卑た顔の酷い立川博士はマネモブの背中をバンバンと叩く。
「なに、善意からこの任務を受けた訳じゃない…」俺は自分のバースト・ハートを治したかっただけだとマネモブはいう。ここまで苦労して手に入れてきたのだ、さっさと薬を完成させろとも暗に示している。
「ムフフ、勿論さ。”NEOタチカワスペシャル”が完成した暁には、真っ先君に渡そう。」これで次のノーベル化学賞は私がゲットだぜ、特許も取ればウハウハだと浮かれる博士である。
この立川という男は名誉欲や金銭欲がかなり強いのが玉に瑕だ。だがその才能は確かなので、マネモブは何も言うまい。
「実際、本当によくやってくれたよ君は。」
マネモブの任務成功の話を聞きつけたのか立川博士のラボにづかづかと入って来る者がいた。
「スペンサー長官。」彼はアメリカ政府高官(国防総省長官または国務長官)など数多の肩書きを持ち、”笑って人を殺す”悪魔のように冷血な男 ”スマイル・ジョー”の異名で恐れられている。
現在のエリア52は彼の管轄であり、事実上ここにいる研究員やエージェントのトップである。
「こ、これはこれはスペンサー長官…」立川博士は彼の登場におっかなびっくりだ。長官はただ数瞬彼に鋭い視線を向けた。彼もまた、研究を急げと釘を刺しにきたのであろう。
「今回の特殊任務、私や鬼龍も多額の出資をしているからな。」
打って変わってマネモブには笑顔を向ける長官。何分この宇宙には危険が多い、レギオンやスウォーム、歩離人など…危険な勢力を上げて行ったらキリがない。なので星間を駆け巡る仕事は基本的に貧乏くじであり、嫌がる者が殆どだ。マネモブのように自ら志願する命知らずは珍しいので、上に立つ者としてはありがたい。
「まあアンタや鬼龍のオッサンには色々世話になった部分もあるのは認めるが…」
金銭的支援もそうだが米国の”軍事SOG”(特殊作戦部隊)の技術、現当主が教えてくれなかった灘の禁術、株やFXの運用などを伝授して貰った恩はある。だがガルシアへの仕打ちや前大統領暗殺計画など、内心マネモブは彼らの事を”病的なほど自己中心的でまわりにいる者に災厄と不幸をもたらす最低なクズ”だと軽蔑していた。
「全ては愛するステファニーの為…」
「フン、冷血なアンタ達も、子供達は可愛いもんな?」スペンサー長官には”ステファニー”という愛娘がいる。爆破テロに巻き込まれてから現在に至るまで植物状態、死んだまま生きているのが現状だ。鬼龍に関しては優希や姫次といった子供達が、マネモブと同じくバースト・ハートを患っている。人間のクズ共にも子への情はあるらしい。
「娘のドナーにと考えていた悪魔王子が突如として行方をくらましたからな。唐突にこのような危険任務を立案してすまないと思っている。」
長官は当初、”ガルシア・ハート”という奇跡の心臓を持つ鬼龍のクローンであるガルシアシリーズの11体目、通称”悪魔王子”をドナーにして娘を助けようと画策していた。しかし、病院で拘束されていた悪魔王子が逃亡した事で、急遽”豊穣”を手に入れる計画に変更したというのが実態である。
「ガルシア…」マネモブに批判的な視線を向けられこの話題は不味かったと俯く長官。
「まあいいや、これ以上アンタと話すと虫唾が走る。」こんな大変な職務を乗り切ったのだ、当分は長い休暇を取らせて貰う、どこか観光地にでも行こうと踵を返すマネモブであった。
………
「ブヘヘ、どうも久しぶりですマネモブ。ゴアです。」マネモブはゴア博士にトダーの修理を頼みに来ていた。
「ウム、頭部は完全に生きているな…ボディパーツと接続するだけだから、一日も掛からずに修理出来るだろう。」早速作業に取り掛かる博士。
「なあ博士、一つだけ聞きたい事があるんです。」マネモブは語る、今回の任務でかなり広く宇宙を練り歩いた彼であったが、度々出くわす壊滅を目的とする機械集団の”反物質レギオン”…この勢力を相手取るのに彼は相当苦労していた。
「フム、確か”愚弄”の運命に深く浸かり過ぎた弊害で、君は機械が概念的な弱点になっているのだろう?」博士はサイボーグ化の権威であるが、この宇宙に広がる運命の仕組みもしっかり理解している。
「だから君にはトダーを渡しているじゃないか。人間相手には無類の強さを発揮する君と弱点を補い合うように。」
「しゃあけど…俺自身が機械に勝てるようになりたいわッ」マネモブはそれだと満足できないという。
「全く、我儘な若人じゃな…」しばし考え込む博士だったが一つだけいい方法があると言った。
「かつてこの宇宙では”ルパート”という機械皇帝が有機生命体を殺戮したという歴史もあるが…」
マネモブの概念上の弱点を置いておいても、基本的に大多数の人間は機械と闘っても勝てないのが常識だと博士は語る。
「だったら、目には目を…機械には機械をというのが定石じゃないか!」
博士は”灘神影流”の”高潔なる鷹” ”宮沢尊鷹”、スペンサー長官直属の特殊部隊”バスターズ”の一員である”スリーフェイス” ”ヘンリー・ジーキル”などの格闘家を当然君なら知っているだろうとマネモブに話を振る。
「ああ、アンタが作った義足、”メカフット”を付けてる爺さんたちか。」
肉体と神経接続されたメカフットは通常の何倍もの生体電気信号の伝達を可能にし、肉体性能を飛躍的に向上させると聞いている。
「彼らの蹴りは、あのトダーも一撃で切断する威力なんだ。」マネモブはなんとなく博士が提案している事を察した。
「あ、アンタまさか…」機械に勝ちたいのなら、彼らのようにお前も足を斬り落として見せろとでも言いたいのか。
「しかし、君自身が機械に勝ちたいのなら、それしか方法はない。」マネモブはそんなの受け入れられるかと却下した。
「ふん、なら仕方ないな。」足を斬るのが嫌ならそのまま機械に勝てない運命を甘んじて受け入れろという博士だった。
「まあ、ワシも鬼ではない。」機械に苦労するマネモブが不憫だとトダーとは別に新しい米軍のおもちゃを後でプレゼントするよという。
「えっいいんですか。」あざーすと感謝するマネモブ。どんな兵器なんですか?と子供のように目を輝かせながら聞くが、この先のお楽しみだとはぐらかされた。
ピロリン♪
「あっ…」マネモブのスマホに着信音が鳴る。誰からかメッセージが入ったようだ。
「誰からじゃ?」「…カンパニーだ。」
マネモブに連絡をしてきたのは銀河一の大企業、”スターピースカンパニー”だった。ビジネスの誘いを受けたという。
「カンパニーか…君は結構仲良しこよしのようだが、」
ゴア博士は連中は信用ならないからあまり踏み込み過ぎるなと忠告してくる。彼らが発行している星間の通貨”信用ポイント”…その経済体形に組み込む為には過激な手段も厭わない者もいるらしい。
「まあ安心して、カンパニーはそう簡単に俺達に手を出せませんから。」
実の所、地球がカンパニーに発見され、星間交流が盛んになったのは近代史の出来事である。本来ならカンパニーに隷属してもおかしくないが、彼等にはカンパニーと対等に接する事が可能なカードがあった。
「我らの創造神…”愚弄”の”サルワターリ”。」
そう、この星には宇宙でも随一の”愚弄”を極め、”星神”にまで昇格した伝説的な漫画家がいた。
「いかにカンパニーが巨大企業でも、星神を敵に回せるほどじゃないさ。」
彼等の信仰する”存護”の”クリフォト”がサルワターリを敵として見たら話は別だが…かの神は”愚弄”派閥には無関心だ。
「とにかく、俺達がこの宇宙で生き残る為には、”愚弄”の派閥を強くするしかない。」その為なら、利用できるものは何でも使うと意気込むマネモブ。
「まあ、程々にな。」ゴア博士はマネモブの安寧を祈った。