新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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恋愛地獄
”恋愛地獄編” 静虎さんは愛子さんと結ばれるべきだと考えている


東京都吉祥寺…TOUGH外伝にして事実上の三部作目の”龍を継ぐ男”において灘神影流の一門”宮沢一族”の生活拠点である。

そんなタフの名所吉祥寺には灘一族御用達の聖地がある。”雨の木なコーヒー”、吉祥寺駅から徒歩10分程の比較的アクセスのよい場所に店を構え、恰幅の良い快活なおばさん店長が人生の味がする苦いコーヒーを提供してくれるらしい。コーヒーの味に煩い健康オタクもその効能を認めているほどだ。

 

チリーン…そんな素敵な店に今日も人生の苦さを味わいに来た客が一人、入口のドアに括り付けられた鈴が軽快に鳴る。

「おばさーん、人生の味がする苦いコーヒー頂戴。」フットワークが軽い為、どこにでも出没するマネモブだった。

 

「いらっしゃいマネモブ。最近顔を出してなかったけど…」仕事が忙しかったのかと聞くマスター。

「ああ、ごっつう大変な仕事やったで。」しゃあけど米軍から長期休暇取ってやったわと愉快そうに自慢する。

 

「…あまり無茶はしない方がいいわよね。」以前マネモブと顔を合わせた時は存在しなかった傷を見て心配する。

「フン、この程度どうということはない。」気遣いを他所に今の生き方をやめるつもりはないという。

 

「よお久しぶりマネモブちゃん。」振り向いた先に見慣れた常連がいた。静虎の友人である風俗マニアのおっさんだった。

「ああ、オッサンもいたんか…ん?」マニアの後方の席、入店してから店長と話し込んでいたので気付かなかったが、黒いスーツをビシっとキメた大柄な男が机に突っ伏していた。

マネモブは彼を知っている。あの男は灘神影流先代当主”宮沢静虎”だ。息子である現当主に師事していた時は彼にも相当世話になった。挨拶しようと席を立つ。

 

「静虎さん、久しぶりやん。」元気しとん?と声を掛ける。

「………。」帰って来たのは”虚無”。今の静虎からは生気を感じない。何か様子がおかしい、

「お、おい無視は酷いやん。アンタの大事な息子さんの数少ない門下生やで?」灘の道場に人がいない事を茶化しながら軽快に話を試みる。

 

「マネモブちゃん…」代わりに返答したのは風俗マニアだった。今の彼は御傷心らしく、そっとしておいてあげて欲しいとの事。さっきまでは大滝のような涙を流しており、マニアのおっさんが親友として相手をしていたという。

 

「な、何かあったのん?…」カウンター席に戻りながらマネモブはおっさんと店主に詳細を尋ねる。

「…マネモブなら他の人には言わないわよね。」

「まあ同じ灘の人間だし、いずれは知る事になるから今教えても…」静虎とも縁があるしセンシティブな話題を広める程終わってる人間でもないだろうと、二人は各々の口から静かなる虎に訪れた悲劇を伝え始めた。

 

「せ、静虎さんの再婚相手が!?」”恋愛地獄”…彼に降り掛かった災難を表す言葉はそれに尽きる。

長年前妻であった”熹恵”さんに貞操を誓ったのか、男手一人で愛息を育ててきた彼に再び訪れた”フィアルタの春”…それだけなら心の底から”祝福”したいのだが…

 

「その結婚相手がよ…結構問題抱えててな。」マスターが一瞬マニアを睨んだ事で、オッサンは口を選んで語り始めた。

「ふうん、再婚相手の前夫が…」

 

妻や息子に暴力を振い限界に達した息子に刺される、自身が妻に作った借金を被せて逃亡…正に静虎とは対極に位置し、鬼龍のような悪の美学も感じられない正真正銘の人間の屑。

別れた妻が再び幸せになる事を妬み、ここ”雨の木なコーヒー”で静虎と待ち合わせていた彼女を店舗の前で殺害した。

そういえば店に入る前道端に献花が添えてあった。交通事故でもあったのかとあまり気にしてはいなかったが…彼は今でも彼女に渡すつもりだった50万円の指輪を握りしめているという。

 

「………。」マネモブは鬼のような形相で強く拳を握りしめる。爪が肉に食い込み血も出てるが、痛みじゃ気が収まらない。

「そういう訳だからさ…」きっと時間が経てばまた元気になる、俺は幾らでも彼の涙を受け止めるつもりだとマニアのオッサンは静虎さんの席に戻って行った。

 

「ごめんねマネモブ…」長期任務の帰りだと言うのに、こんな重苦しい話を聞かせてしまったと店主に謝られる。コーヒーの味も不味くなるだろうと。

「いや、聞かせてくれてありがとうございます。ごちそうさまです。」彼は代金の小銭を置くとお釣りもレシートも受け取らずに勢いよく飛び出して行ってしまった。

 

………

 

「静虎さん…」彼は俺に技を…武術を扱う者としての心構えを教えてくれた。その恩人が今哀しみに暮れている。

「静虎さんから感じたあの邪気…」マネモブが感じ取ったのは”虚無”の虚数エネルギーだろう。臨死体験や喪失を経験し深く絶望した者が偶に踏み込んでしまう質の悪い”運命”だ。

 

「俺の”愚弄”の権能…」星核ハンターの協力もあり時空改変”田代さん時空”を多少は使えるようになった彼。この術を覚えたのは今日この日の為だったのではないのか!?

 

「ゴア博士!!」彼が向かっていたのはエリア52だった。困った時は大抵この博士に頼めば何とかなる。

「うわっ!!」心臓に悪いから急に声を掛けるなと怒る博士。

 

「君は大統領から莫大な報酬と無期限休暇を貰ったばかりだろう。」つい先日しばらくはブラブラ各地を遊び歩くと言っていたのにとんぼ返りしてきたのは何故だと聞く。まあ彼が私に会いに来る理由は頼りにする時くらいだというのは分かっているが。

 

「静虎さんの再婚相手を助けたい。」マネモブは順に説明し始める。

「フム…つまり田代さん時空を使って、その愛子さんとやらが死んだという事実をなかった事にしたいと?」マネモブは頷いた。

 

「いやしかし、君の権能はあり得た可能性しか手繰り寄せられないのだろう?」問題はそこである、愛子さんが刺されなかった世界線をどうやって手繰り寄せるのか。

「それにはアンタの力が必要や。」マネモブは己の考えを共有し始める。

 

「愛子さんが刺される時、俺が乱入して彼女を助けるというシチュエーションを作ります。」

「おいおい、その事件が起きた時、君は遥か遠く宇宙にいただろう。」距離が離れすぎている。その事象の再現は物理的に不可能だ。

 

「その無茶を何とかするのがアンタの役目だろう!」アンタは天才科学者だ、空間転移を可能とする装置くらい作れないのかと肩を揺らすマネモブ。

「ううっ…」いつになく鬼気迫る彼の表情に、これは無茶振りを叶えてあげるしかないと思った。

 

「空間転移か、」心当たりがない訳ではないという博士。

「”界域アンカー”…」それは”開拓”の御業、星と星とを繋ぐ航路の礎である。

 

「えっそんな便利なものがあるんですか?」

だったら地球もそのアンカーとやらの開発に尽力すべきだったのではないかと疑問に思う。

「話は最後まで聞きなさい。」

この装置は”開拓”の運命のエネルギーを利用した道具だ。つまり扱えるのは”星穹列車”をはじめとした”ナナシビト”などの”開拓”の行人だけである。

 

「なんだよ。俺達”愚弄”派閥には使えないのかよ。」

無駄に希望を持たせて何がしたいんだと不機嫌になるマネモブ。

「いや…もしかしたら君なら、」「…?」

エージェント”マネモブ”。米軍に従事する彼は宇宙を渡っていくために数多くの武術と特殊訓練で心・技・体を鍛え上げ、この星海であらゆる特殊任務をこなし地球に貢献してきた。そして異常なまでに”猿漫画”を愛した事で、”愚弄”の星神の権能も部分的に引き出せるまでに至っている。

 

「君が今まで歩んできた人生は、ある意味”開拓”の道とも言えるかもしれない。」

複数の運命を歩む、そのような者は珍しいがいない事はないらしい。

「つまり、外部からは分からないが俺の内部は”開拓”の影響も受けているかもしれないという事か?」ゴア博士は無言で頷いた。

 

「………お願いします。俺の恩人の為にどうか、」

傲岸不遜に周囲を愚弄する彼が誠心誠意頭を下げるのは珍しい。

「なに、ずっと仲良しこよしやってきたじゃないか。今更首を垂れる必要なんてない。軍からも多額の研究費を貰ってるしなっ」ただ、一つだけ気になる事があるという。

 

「今からアンカーを完成させたとして意味はあるのか?」恋愛地獄編当時、地球上に転移装置は存在していない。本当に時空改変が出来るのかと博士は疑問を投げかけて来る。

「そこは賭けだがな…」マネモブは考察を述べた。今の技術力と財源でアンカーを完成させられるのならば、過去にゴア博士がアンカーを作り上げた世界線が存在する可能性も僅かながらあるのではないかと。

 

「俺は証明してほしいんだ。天才のアンタなら距離の問題も解決出来るという事を。」

「ムゥ…私は君がつるんでいる”星核ハンター”のように可能性の予見は出来ないからな。」ここからはブラックボックス、二人には未知の領域。だが、やれるだけの事はやっておきたい。

 

「私も散々君には助けられている、すぐにて着手しよう。」

「………ありがとう。」マネモブは今までにない屈託のない笑顔を博士に向けた。

 

………

 

「もう、朝のニュースは晴れって言ってたのに…」

息を弾ませながら雨の中を駆ける眼鏡をかけた中年の綺麗な女性。この予報にない空の薄暗さと雨水の冷たさは誰であろうと嫌な思いを想起させる。

 

「静虎さん…」

しかし、彼女の心は天とは対照的に温もりで満ちていた。今日は結婚を約束した尊い男性と逢引する約束がある。

人に話したらドン引きされるような汚い人生を歩んできたと自己嫌悪していた私をそれすら含めて愛しますと言ってくれた…

 

待ち合わせ場所は雨の木なコーヒー。二人は親しい関係になる前から、そこの常連だった。この結婚を後押ししてくれたマスターには感謝してもしきれない。今後一生二人で通い続ける事になるだろうと幸せな未来を想起する。約束の場所まであと少しだ。

 

「………。」そんな幸せの絶頂にいる女性に、どす黒い視線を向ける醜悪な男がいた。彼女に近付いていく。

 

「久しぶりだな…」「あ、あなた…」

今一番会いたくない相手、あの人は受け入れてくれると言ったけど捨て去りたかった過去が目の前にいる。チラリと下を見ると、その手にはナイフが握られて…

 

「アイツに刺された腹が未だに痛むんだよ…金がねぇんだよ…」

「や、やめてっ」女の願いも虚しく忌まわしき過去は近付いてくる。

「なんでお前だけ幸せになるんだよ。」

かつては夫婦だったと言うのに、何の情もなく刃物を彼女に突き立てようとする。彼女の腹部を斬り裂こうとしたその時、

 

「この手が悪い事するんだね?」血が出る事も構わずナイフを素手で掴む謎の男。

「だ、誰だよお前は!!」お前には関係ないだろう、正義気取りかと小悪党は喚き散らす。

自身よりも一回り程大きい鍛え抜かれた肉体に恐れを抱いている。素人から見てもこの男はヤバいと理解させられる風格があった。

 

「お前の薄汚い血でこの手を汚したくない…」掴んだナイフを放り投げた彼は自身の血で濡れた拳をそのまま男に叩き込む。

「ヒィーッ」音速を超える拳は凄まじい風圧を放つが男の拳は寸止めだった。

 

「うあああああああ(PC書き文字)」

不思議な事に、肉体の損傷はない男が顔を手で覆い酷くのたうち回っている。

「お前のクサレ脳ミソに、潜在的な痛みと恐怖を植え付けた。一生抜ける事はない。」

暴れまわっていた男はその内痛みを誤魔化す為に体を動かすのが限界になったのか、パタッと気絶した。

 

「博士の奴、ちゃんと完成させたじゃん。」

「………」一部始終を見ていた女は恐怖から足がおぼつかくなり地面に腰を落としてしまった。突然現れた正体不明の男、彼は私の過去をなぎ倒したが…

 

その男の視線が彼女に向けられる。修羅のような男だ、だが彼のまなざしはまるで、仏のような慈愛に満ちているような気がした。

「あっ、ありっ…」お礼を言うべきだと思ったが、動転して言葉がつっかえる。

 

「………静虎さんと幸せになってくださいね。」

男はただそう言って、フッと霧のように消えてしまった。彼は幻だったのだろうか?

しかし、目の前には私の過去が大の字に伸びている。彼は確実にここにいた。

 

「……見てください皆さん!」目の前の店内からどよめきが聞こえる。倹約家の静虎が奮発して高い結婚指輪を買ったと自慢している。彼の友人達や店主の賞賛の声が店の外まで響いている。

「………静虎さん!!」今あった事は忘れよう、そう思い直した女は、ただ祝福の場所へ向かって走る事にした。

 

………

 

「………。」”灘神影流”の”静かなる虎” ”宮沢静虎”。心も体も強靭な彼も、哀しみに打ちひしがれる事はある。

「静虎さんどうしたんだい。」そんな彼の様子を不審に思い店主や友人のオッサンが声をかける。

だが今の彼には、言葉を返す余力がない。

 

「全く…今日は愛子さんとデートするんだって意気込んでいたじゃないか。」

「もしかして振られたから今日は来ないタイプ?」茶化すような事を言う風俗マニアを店主がコラと一喝する。

「………えっ?」何を言っているのだこの人達はと、今までずっと黙っていた静虎は顔を上げた。愛子さんはこの前…

 

チリン…

「いらっしゃい!!」鈴の音に呼応して店主が元気よく挨拶する。

「あ、あい…」信じられぬ者を見た。彼の目の前にいたのは…

「静虎さん、今日はどこへ連れて行ってくれるんですか?」でも、待ち合わせ場所はいつも”ここ”ですよねと天使のように笑う彼女。

 

「………。」ボロボロと、身も心もタフな男から大粒の涙があふれだす。

「ど、どうしたんですか?」愛子は心配になって夫に駆け寄った。

涙をぬぐい、大丈夫ですと笑顔で答えた静虎は拳を開く。その手の中には、彼女に渡したいとずっと握りしめていた結婚指輪があった。

 

「愛子さん!今日は貴方にプレゼントがあるんですよ!」

「えっ嬉しい!!」心の底から幸福を噛み締める夫婦、仲睦まじい二人を微笑ましく見つめるマスターと友人達。

雨の木なコーヒーは今日も幸せに満ちている。もう店の前に花が置かれる事はない。




スタレクロスなのに終始タフのキャラしか登場しないなんてそんなんアリ?クロスオーバー執筆してる自覚がないんとちゃう。
まあ恋愛地獄編のオトンをどうしても救済したかったからええやろ。
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