新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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”入神の打撃” その名も”幻突”

――アメリカ西岸・忘れられた入り江にて

 

夕陽がゆっくりと海を焼いていき、赤とも金ともつかぬ光が波に散り、泡となって消える。

朝と夜の間にある帳に一人、黄金色に染まった白い砂浜に正座し陽光を見据える男がいた。

白い修道服を身に付けてる所から求道者である事は伺える。しかし一番目立つのは、男の顔を隠している天狗の仮面だろう。仮面を着けるのは”愉悦”の愚者の特徴だが、この男は一体…?

 

「ここが木場の逝った海か…」

天狗だけの世界だと思われていた海辺に新たな客人が訪れた。

「マネモブ、何でこんな場所に連れてきた?」マネモブと悪魔王子の二人だった。

悪魔王子は指名手配の身である為、逃亡した米国に態々戻って来たのは不本意だというのがその怪訝そうな態度から伺える。だが、100m走10秒のお前を捕まえられる奴なんていないから安心しろとマネモブは言った。

 

「何って…ただの観光やん。」

「観光…?」

「お前…今まで生きて来て楽しかった事なんて一度も無かったんだろ。」

悪魔王子の悲惨な生い立ちは自身も知る所ではある、今までの不幸を清算する為これからの人生は一生俺と遊び歩こうと、困惑する彼に諭すよう語った。

 

「………。」悪魔王子はマネモブの善意に何も言えず俯く。

「辛い事や苦しい事がありすぎて”虚無”の傾向もみえ始めてるからのォ」

これ以上彼を虚無の運命に進ませない為には、ハッピーハッピーになるのが一番だとマネモブは考えている。

 

「アンタが物見遊山なのはよーくわかったよ、じゃあここを観光地に選んだ理由は?」

どこをどう見ても普通の海にしか見えない。

「まあ、聖地巡礼みたいなもんですよ。」

マネモブは宇宙ステーションで”繁殖”の使令と闘い死に掛けた時の奇妙な経験を話す。死後の世界らしい美しき海で、伝説的プロレスラー”アイアン木場”に会ったと。

 

「ああ、さっき言ってたな。木場がどうとか…」だがマネモブと違い格闘技の興行に然程キョーミがないからか、彼は木場の事はシラナイという。

「お、お前アイアン木場をシラナイのか!?」四半世紀ほど前の人間ならシラナイ者などいない。日清ハムのCMにも出演したレベルの有名人だというのに、これがジェネレーションギャップという奴だろうか。

 

「しゃあけど、ここはお前と所縁の深い地でもあるんやで?」

木場を殺したのは悪魔王子と血を分けた兄である初代ガルシアだ。木場とガルシアは二度闘っているが、一度目は僅か50秒程で瞬殺…二度目はオトンの協力を経て”灘神影流”を覚えてリベンジした。

 

リベンジ・マッチでは人間兵器のガルシアに初めて闘いの”愉悦”を覚えさせ健闘するも、最終的には地力の差から負けてしまった。しかしガルシアに人間的感情を芽生えさせ、リスペクトの中で死んでいった彼に悔いはなかっただろう。

「ふうん、ああそう…」冷たくあしらう振りをするが、兄弟の話を聞いて思う所がありそうだ。

 

「彼が荼毘に付した場所に来れば、天国で感じた情緒にまた浸れると思ったんだ。」

運命の悪戯か、彼がいた天国も死んだ場所も同じく、綺麗な海の見える砂浜だった。

「臨死体験で死者と会うなんて…」いつもの皮肉で否定しようとするが、自身も死の淵で”黒い太陽”と”謎の女剣士”に邂逅したのを思い出したので口を閉じた。

 

「まあいいじゃん。お前の兄が最強のレスラーを倒したという立派な戦跡を刻んだ地でもあるんだからさ。」

心から兄を称賛するマネモブにフッと笑みが零れる王子だった。

 

「マネモブ…」二人から少し離れた所で天狗の面をつけた男が視界の隅に入る程度に彼等を見つめる。マネモブの事を知っているのだろうか?

「おい、さっきから俺達を見ている奴がいるぞ。しかも妙な恰好をしている…」

逃亡生活に慣れている悪魔王子は視線への感覚が鋭い。念の為いつでも戦えるようにと警戒した。

「ん、アンタは…」マネモブはこの男を知っている。

 

「”真魔流体術”総帥”竹神栖鳳”さんじゃないスか。」

日本海某所にあると言われる”鬼喰島”、通称”天狗島”に道場を構える灘と同じ祖を持つと言われる”真魔流体術”。呪術や妖術を扱う怪しい武術、島には天狗が住んでいる、地元漁師も近付きたがらない激しい海流の先にある島という悪評の割には結構門下生が多いで有名だ。

 

「いや、こう呼んだ方がいいスか?”幽幻真影流”当主”日下部覚吾”さん。」

「ああ、久しぶりだね。」重苦しく口を開いた覚吾。放浪癖のある彼は、本当だったら二人と関わらずに立ち去ろうとしていたのかもしれない。

 

「なんだ知り合いか?何故名前が二つも?」

「ああ、昔何度か顔合わせてるで…覚吾さんの継承者二人に世話になったんや。」

マネモブの言う後継者とは”真魔流体術”師範”安藤夢二”、そして彼の血縁上の息子である”灘・真・神影流”当主”宮沢熹一”だ。

彼等の特訓は余りにスパルタ、特に真魔の伝統的行事である”修羅場くだり”という修業は二度とやりたくないと話す。だが、覚吾が何故偽名を使っているのかはシラナイので答えられない。

 

「偶には夢二さんに会ってあげてくださいよ。寂しがってると思いますよ。」

夢二はヤクザであった父親を手にかけた哀しき過去…があり、そんなどん底にいた自分を救い育ててくれた彼を父親、あるいは神だと異常なまでに慕っている。

 

「…ああ、」今度会いに行こうと言うがあまり宛にはならない。

この覚吾という男、幽幻の弟子である”幽幻死天王”にも慕われ、熹一の母親である”宮沢熹恵”に思いを寄せられていたなど周囲に好かれる人望はある。だというのに、他人に向き合うより自分の道をひたすら進むストイックなタイプなので、人の好意を無碍にしがちだ。

今日ここにいた事自体が、彼の悪癖を如実に表している。

 

「さて…木場との思い出に浸るだけでなく偶然覚吾さんに会うなんて収穫もあったし、」

満足したマネモブは悪魔王子を連れて踵を返そうとするが…

 

『グルル…』

「チイッ…こんな所にレギオンが。」

美しい海には似合わない忌々しい連中が旅の余韻に浸っていた三人の前に現れた。反物質レギオンの雑魚共は地球にもちょっかいを掛けるようになったらしい。

 

「俺を誰だと思ってるんだ?」悪魔王子がいち早く動く。

「”悪魔”の”王子様”だぜッ!!」強烈なアッパーカットで一体の雑魚を破壊した。

「こんなのマネモブが出る幕もないよ。」俺一人で闘うからお前はそこで見てろと言わんばかりである。

 

「…離れなさい。」独断専行した王子へ静かに声を掛けたのは覚吾だった。

その妙な圧に悪魔王子は不思議と後ろに下がってしまう。

 

”幽幻真影流” ”象塊”

バァンッ 覚吾は自身の体重を増加させ強烈な踏み込みを行う。からの…

”幻突”

不可視のエネルギー波がレギオンの兵隊共を次々となぎ倒した。破壊された装甲の破片が海へと飛び散り、流されていく様はこの世の無情を想起させる。

 

「久しぶりに見たぜ…覚吾さんの幻突。この至高の技を継ぐ者がいないなんて余りにも勿体ない…」終始静観していたマネモブが”入神の一撃”と称される技に感服する。

(な、なんだ今の技は…)ギュンッギュンッと、ガルシア・ハートの鼓動を高めながら興奮する悪魔王子。この技、絶対自分のモノにしてみたいと考えている。

 

「それじゃあ、私はこれで失礼するよ。」脅威を排除したと判断した覚吾は、機会があったらまた会おうとマネモブ達に一礼して去って行った。

 

「ふーっありがとうございました。俺達もそろそろ次の観光地に行こうぜ。」

マネモブが次に行こうと考えているのは、宴の星”ピノコニー”だという。

「ああ、数百年に一度やるとかいうビッグイベント、”調和セレモニー”が近いんだろ。」

悪魔王子は世界情勢のチェックは欠かさないので、宇宙の三大勢力に数えられる”調和”の”ファミリー”が主催する祭典の事もしっかりと知っていた。

 

「そんな事よりマネモブ、」

「ああっ、なんだよそんな事よりって。」

自腹でピノコニーに行く予定なのだから旅費は高くなるというのに、これからの旅行より別の事に関心があるという悪魔王子に小言をぶつけるマネモブ。

 

「さっきの覚吾って奴が見せたあの技…」

「おっ お前も”幽幻”にキョーミあるんか?」ニタニタと嬉しそうに嗤うマネモブ。

「ああ、パブでお前と闘った時に見た”朦朧拳”や”象塊”とかも…」

悪魔王子は強くなる事には貪欲だ。

 

「けどね…本当は俺壊すより作る方が好きなタイプの人間なんだ。」

自身より肉体性能が遥かに高い悪魔王子が灘以外の武術を覚えたらどれだけ強くなるのだろう?想像するだけで高ぶってくる。快く教えてやるよと答えるマネモブだった。

 

「お前もあの”幻突”とかいう技を使えるのか?」

「あー、その事なんだが…」マネモブは幻突を使う事は出来ないと語った。あの術を使うには大前提として強い踏み込みが必要不可欠である。

幽幻の”日下部一族”の系譜が持つ特異体質”玄脚”のような人類最高峰レベルの膂力を秘めた脚がないと話にならない。

 

「なんだ…」じゃあ俺も習得は無理かと落胆する悪魔王子。彼の脚は父親である”鬼龍”から継いだ”龍脚”、100万人に一人しか持ち得ないとされる強靭な脚なので決して弱いわけではない。

それでも玄脚に比べるとかなり劣ってしまう。

 

「いや、お前が持つもう一つの”特異体質”と併用すれば出来るかもしれんぞ。」

悪魔王子の全身を活性化させる突然変異の心臓、”ガルシア・ハート”のバフと”龍脚”を掛け算すれば幻突に必要なパワーまで届くかもと。

 

「俺は幻突を撃てないけどね、幻突を修得する為の修行法はちゃんと知ってるの。」

「フッ…」やはりこの男に着いて来たのは正解だった、悪魔王子は傲岸不遜に嗤う。

「ピノコニーに着くまで、俺のプライベートジェットの中でしっかりしごいてやるよッ」

 

◇次回、遂に夢の地へー!!




米軍の資金提供を受けたゴア博士が開発し宇宙を飛び回るマネモブに与えた宇宙船にて…
「ヤンケー」トダーは目的地のピノコニーまで、宇宙を駆けるジェットの操縦を任されていた。

「これが幻突の修業に必要なもんや。」
「…?ただの鏡じゃないか。」悪魔王子は鏡を運んできたマネモブを訝しんだ。

「この鏡の前でひたすら正拳突きして、鏡に映る自分より速く拳を撃てるようになるんや。」
「何を言ってるこの馬鹿は?」そんなの無理に決まっているだろう。

「まあ無理な事は否定せんよ。」ここで重要なのは実際に出来るかではない、鏡の中にいるもう一人の己に勝つ…そんな不可能を成し遂げるようなレベルの拳を撃てないとこの技は修得できない。
仮に幻突を覚えられなかったとしても、基礎的なトレーニングを積み重ねる事で通常の拳打もより強くなるのだから、無駄になる事はない。

「ああそう。」マネモブの理論に一応の納得を見せた悪魔王子は羽織っていた白コートを脱ぎ捨て早速正拳突き修行を始めた。

パンッパンッ 鋭く空気が切れる音がする。
「………オマエ等船ヲ揺ラスナヤンケーッ!!」トダーはキレた。
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