新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

19 / 71
宴の星「ピノコニー」
いやあ遂に来たのォ 夢の国


「こんな安っぽい映画でよく泣けるなァ。アホらしい…」

「貴様ーックロック・ボーイを愚弄する気かーッ」

「おいおい、また随分と熱心なファンにケンカを売ったもんだな…」

 

ピノコニーの片隅にある小さな映画館、夢の街”ドリーム・タウン”(直球を超えた直球ネーム)の辺境にあるこの施設は客足が少ない。却ってそれが逢引の邪魔をされないと、ピノコニーを訪れるカップル達に密かな人気がある。

 

「何あれ感じ悪い…行こう開拓者。」

「ああ、うん…あれ?」ピノコニーのマスコットキャラクター”クロック・ボーイ”の児童向け映画を見ていた”列車組”の”開拓者”。保安官から冤罪で追い回されていたという現地ガイド、名を”ホタル”と申した女の子に誘われてここに来ていた。上映が終わった時、この作品を愚弄した観客とクロック・ボーイオタクが言い争っているようだが、

 

「マネモブじゃん。」諍いを起こしているこの男には何度も相まみえている。仲裁も兼ねて一応挨拶しに行った。

「なんだ知り合いか?」急に割り込んで来て誰だよと名もなきクロック・ボーイ信者は困惑する。

 

「オーッ開拓者久シブリヤンケ。元気シテタヤンケ。」マネモブと共に戦う事をプログラムされたトダーが元気よく挨拶する。

「なんだあ開拓者、デートか?」お前も隅に置けないなあとマネモブはニヤニヤしている。内心さぞ”愚弄”している事だろう。

「で、デートじゃないから…」ホタルは気恥ずかしそうに否定した。

 

「隣の人は誰なの?」マネモブの横には額に傷のあるシラナイ男がいた。

「悪魔王子です。」人差し指を立てながら代わりに自己紹介するマネモブ。

「ハハッ変な名前…」開拓者は思わず吹き出すが、悪魔王子に強く睨まれた事で申し訳なさそうに咳ばらいをした。

確かに荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、この名は”悪魔を超えた悪魔”と呼ばれる父親を継ぐ息子なのだと言う自負を込めた彼のアイデンティティを象徴するもの。笑われるのは気分が悪い。

 

「あー、アンタ達も招待状を貰ったの?」悪魔王子が不機嫌になって淀んだ空気を変えようと新しい話題を振る開拓者。

「なんやその招待状って。ワシは知らんでッ。」開拓者が言うには、”星穹列車”はピノコニーを運営する”ファミリー”から招待を受け、無料でこの地に宿泊しているという。自費で遊びに来ている身からすると何とも羨ましい限りだ。

 

「そうなんだ。じゃあ"生命体は何故眠るのか”という問いの答えは分かる?」

「フン、そんな事俺達が知る訳ないだろう。」列車が受け取った招待状にはそのような命題が記されていたと言われているが、悪魔王子は俺達に聞くなと冷たく突き放した。名前を笑われたのを根に持っているのだろうか。

 

「あっ、俺達はもっと色んな場所を練り歩きたいから…これで失礼するでヤンス。」

「逃げるんかいッこの”銀河スラング”」世間話はこれくらいで十分だ、雰囲気も険悪になって来たとマネモブ達は怒るクロック・ボーイファンを置いて遁走した。

 

「マネモブ…」ホタルは去って行く”愚弄”の運命を歩む者に何か意図がありそうな眼差しを向け続けていた。

 

………

 

「どや、悪魔王子。ピノコニーは愉しいやろ?」

「…全く以て子供騙しな遊園地だな。さっきの映画がつまらなかったのは俺も同意見だよ。」

地獄のような環境で生きてきた彼には、子供向けのアトラクションやアニメを愉しむという情緒が育ってないのかもしれない。

 

「逃亡生活ヨリハマシヤンケ?」

「ハッ、人気者って困るよね。」ロシアとアメリカの大統領に命を狙われてるのなんて俺くらいだろうと皮肉を言う。

「しゃあけど、無駄にも思えるこういう時間を過ごすのが尊いんだ。幸福が深まるんだ。」

最初は楽しめなくてもいい、宇宙中を遊び回っていれば行く行くは心の”虚無”を払拭できるだろうと。

 

「別に…俺にも愉しいと思う事くらいある。」彼は戦いが好きだ。己を強くすることが好きだ。

だから幽幻の技を伝授してくれるマネモブと一緒にいるのは………

「やけにしおらしいやん。」黙れとキレる悪魔王子。

 

「さあて、次はどこ行こうか…」悪魔王子が愉しめそうな娯楽はないかと考え込むマネモブだったが…

「貴方がマネモブ様ですか?」白くピシッとキメられたスーツ、頭に着けた特徴的な光輪を身に付けた者達に声を掛けられる。

 

「ファミリーがなんの用やねん。」俺達はただの観光客やぞと投げやりに答える。

「また何かやらかしたのか?」悪魔王子が呆れたようにマネモブに言うが知らんわと一蹴する。

 

「我々”オーク家”の現当主が貴殿らと謁見する事をご所望してルと申します。」

「オーク家当主ヤンケ?」オーク家とはピノコニーを支配する”五大クラン”、有体に言えば五つの特権階級集団でありその内オーク家は”政治と管理”を担う五家の中心的な一族だと検索機能を駆使するトダーは語った。

 

「おいおい、また随分と大物に目を付けられたな…」

「ご心配は無用です。当主は貴殿達を歓迎していると…」呼び出しをする目論見は末端の彼等には分からないが、客人にご不快な思いをさせるなという事だけは念押しされたようだ。

 

「ドナイスル?」

「まあいいんじゃないか。」悪魔王子は観光よりそっちの方が面白そうだと言う。

「よしっ着いていってやるぜ。」承諾を得てほっとした様子のオーク家メンバーにマネモブ達は当主の住む巣窟へと案内される。

 

………

 

「ヒエーッ豪華ナ家ヤンケ。」流石五大貴族当主の住処といった所か。至る所にある煌びやかな宝飾、高そうな赤い絨毯など、”朝露の館”と呼ばれるその家の豪華絢爛さに三人は圧倒される。

「フッ、パパから学んだ投資術でアホ程稼いでるお前ならこれくらいの家も建てられるんじゃないか?」

悪魔王子の軽口にワシは倹約家なんやでとマネモブはスルーした。

 

「ここが当主のいる部屋か…?」材質はよく分からないが、水色に近い蒼を基調としたステンドグラスのような幾何学模様の美しいドアだ。

「よしっ、乗り込んでやるぜッ」礼儀などお構いなく勢いよく扉を開けて部屋に侵入するマネモブ。

 

「………ハハッ、話に聞いた通りですね。”愚弄”の派閥というのは。」

他のファミリー同様にスーツと光輪を身に付けているが、高貴の証なのか白い天使の翼という相違点がある。間違いなくこの男が当主だ。ノックもせずに入って来たマネモブ達から、噂に聞く”野蛮人”という性質を感じ取った。最初の間から、客人の無礼に対し思う所があるという事を感じられた。この当主は礼儀に厳しいのだろうか?

 

「………。」悪魔王子は部屋に入ってすぐ目前にいる男以外の奇妙な視線を感じ、ふと部屋の上部を見つめる。その先には、本棚の上に怪しい鴉が鎮座していた。

 

「態々御足労感謝します。私は不束ながらオーク家の当主を務めている…”サンデー”と申します。」日曜日を冠する名前を持つ男は低姿勢に名乗る。

 

「当主様ガ一体何ノ用ヤンケ?」

「観光客の俺達を態々呼び出したんだ。」何か目論見があるに決まっていると悪魔王子は疑いの目を向ける。

 

「ハハッ、マネモブさんのお仲間は聡明なようだ。」話が早くて助かると言うサンデー。

「では、単刀直入に言いましょう…」◇語られる衝撃の真実ー

 

「なにっ、あの銀河の歌姫”ロビン”が殺された!?」

「大事件ヤンケ。」「…で、なんでそんな話を俺達にしたんですか?」

有名人が殺された事は勿論仰天ビックリ大雨警戒注意報なのだが、マネモブが一番意外だったのは目の前の男がロビンの兄だという事だ。ミーハーな知識しかなかったので、彼女の家族関係や出自までを調べた事はない。

 

「部外者である貴方達に事件の詳細を伝える理由など決まっているでしょう。」

「ピノコニーの治安維持は”ハウンド家”の管轄じゃないのか?」

ようは俺達に殺人事件の捜査依頼をしているというのを悪魔王子は察したが、身内の事件くらい自分達で片付けるべきじゃないかと指摘する。

 

「そうしたいのは山々ですよ。」サンデーは拳を強く握りしめる。最愛の妹を奪われたのだから、自分で犯人に天誅を加えたいと思うのは当然だ。

「しかし、私にも立場というものがありますから…」何せ数百年に一度の”調和セレモニー”はもう目前、サンデー程身分の高い人間は運営でさぞ忙しいだろう。

 

「それにね、今回の事件を起こした者についてですが…」

どうやらある程度目星はついているらしく、彼が纏めた52人の容疑者が載ったリスト表をパサッと机の上に置いた。

 

「容疑者ハ全員ファミリーノ人間ヤンケ。」データをインプットしたトダーが即座に興味深い事実を発見する。

「ええ。」つまり外部の人間の方が内部の人間を捜査するには打って付けと言う事か。

 

「理屈は分かるが…」外部の人間から俺達を選んだ理由が解せないという悪魔王子。

「理由は二つあります。」一つは彼等がファミリーに招待されていない一般客だと言う事。ファミリー内部に裏切り者がいると考えられる以上、招待された者達を足に使うのは犯人を警戒させる理由が高いと彼は判断した。

 

「そしてもう一つは…あなたの”嘘を見抜く権能”ですよ。」

サンデーはスターピースカンパニーのニュースでマネモブの情報を仕入れたという。

「羅浮が30年間潜伏を見抜けなかった”絶滅大君” ”幻朧”の暗躍を看破したという…」

「成程、ソウイウ事ヤンケ。」そりゃ事件の捜査には打って付けだろうと納得する三人。

 

「”ジャングルキング”…”マサイ一族”の戦士は匂いで嘘を判別するんだぜ。」

自身の鼻を指さしながらその力を誇示するマネモブ。

 

「あんたの目的はよーく分かったよ…問題は、」観光に来た俺達に協力を仰ぐのだから、まさかタダで働かせる訳ではないだろうと悪魔王子が釘を刺す。

 

「勿論、」サンデーが提示した報酬とは…

「犯人を逮捕した暁には、オーク家が所有する非上場のピノコニー株、全体の一パーセントを貴方達に譲渡しましょう。」

 

「「「!」」」驚愕する三人、宇宙一有名な歓楽地の銘柄、しかも一般人では通常手が届かない非上場だという。ピノコニーの売上や観光客は年々増加傾向、絶対に価値が下がる事はない魅力的な報酬だ。

 

「どうです?条件としては悪くないと思われますが…」

「乗ったッ」即答するマネモブ。この男、金を貯めて預金残高の0を増やすのが結構好きなタイプなのだ。

 

「フフッ、お三方の真摯な返答に深く感謝を…」吉報を期待してますという言葉を聞いた三人は館を去った。




「しかしマネモブ、お前は金目当ての男なのかい?」
「おいおい、派閥を強くするには金はいくらあっても足りないでしょうが。」
「ワシ一体開発スルニモバカ高イ金ガ要ルヤンケ。」
帰り道で皮肉を言い合う三人。
「それにしてもマネモブ、俺達ずっと監視されてたけど気付いてたか?」
悪魔王子は部屋にいた怪しい鳥の事を思い出した。
「うーん、高貴な身分の者が外部の人間に頼るんだからそれくらいの保険は貼るんじゃないか。」
マネモブは然程気にしてない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。