新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「うあああああああああああ(PC書き文字)」
ピノコニーのドリームタウン郊外にある薄暗い路地裏にて、黒スーツを身に纏った夢の国の治安維持組織、”ハウンド家”のメンバーの一人が筋骨隆々の大男に頭を掴まれて、大きな悲鳴を上げていた。町の喧騒に搔き消されて殆どの者は気付いていない。チラリと横目で見つめる観光客はいたが、触らぬ神に祟りなし、くわばらくわばらと去って行く。
「素直に吐け。銀河の歌姫”ロビン”の殺人事件について知ってる事を洗いざらいな。」
ハウンド家を拷問していたのはマネモブだった。どうやら相手はサンデーが用意した容疑者リストに名前が載っていたようで、不幸にも灘の技を掛けられる被害者となった。
列車組も彼等同様捜査依頼を受注していたが、俺達のやり方とは反りが合わないだろうと別行動している。実際彼等がこの場にいたら、こんなやり方は許さないかもしれない。
”灘神影流” ”天勘刺突”
「脳味噌のツボを特殊な方法で刺激するんだ。この技を喰らった奴は下手な自白剤を盛られるよりベラベラと喋り出す…」
「エゲツナイヤンケ。」マネモブの説明に忌憚のない意見を述べるトダー。
「き、貴様―ッいきなり何をするだーッ」
観光客が運営者に危害を加えると言う暴挙、これは重罪だと駆け付けたファミリーが激怒する。
マネモブに技を掛けられていた保安官は、拷問されながらも何らかの手段でSOSを仲間に発信したようだ。
「俺達はオーク家当主直々に捜査権を委託されてるんだよ…」
容疑者名簿とサンデーの署名をピラピラさせながら煽る悪魔王子。龍の血を継ぐ者らしい悪魔的なニヒルな笑い方をする。
「ううっ…シラナイ…事件の事なんて何もシラナイから俺から言える事は何もない…」
「ううん、嘘を付いている匂いはしないな。」
ハズレだったかと落胆しながらマネモブは手を離した。地面に座り込んだ相手はゼイゼイと肩で息をしている。
「オーク家に捜査を任された!?」「にしても限度ってものがあるだろ!!」
余りにも乱暴な取り調べにキレるハウンド家。そもそも、自分達の管轄に他のクランが秘密裏に介入していたという事実が気に食わないようだ。ピノコニーを支配している五家は必ずしも仲良しこよしという訳ではないのか、縄張り意識というものだろうか?
「ぎゃ、ギャラガーさん。何とかしてくださいよ…」
平保安官だけではこの事態の収拾は不可能だと判断したのか、ハウンド家の一人が地位の高そうなメンバーを一人連れてきた。
「おうおうどうしたお前等。」
ハウンド家の猟犬を超えた猟犬、下っ端と異なり多少制服に煌びやかさを施す事を許されているのは立場の違いを証明している。
悪魔王子と同じくらいの背丈にガッシリとした肉付きの”ギャラガー”を名乗るその男は、ここら一帯のドリームタウンを警備している保安官達の上司だという。
「ったく、”愉悦”を信仰する馬鹿共が広場で起こした爆発事件の対処に追われてるって時に…」
飄々とした態度には部下たちと違い余裕が見られる。俗に言う”ハード・ボイルド”という言葉は彼の為にあるかもしれない。
「俺達は正当な権利を行使しているだけだ。」「ソウヤンケ。」
悪魔王子は真っ向から反発する。ファミリーの威信にかけてハウンド家も意地になって事件を捜査したのは彼等も周知しているが、犯人は恐ろしい程に証拠を残していない。多少手荒で強引な手を使わなければ、”調和”の裏をかいた卑劣な裏切り者を見つける事は出来ないんじゃないかと悪魔王子は主張した。
「そもそも、お前等がぬるい捜査しかしないで未だに星を上げれないから、俺達に鉢が回って来たんじゃないのかい?」悪魔王子の痛烈な批判にぐぬぬと悔しさを噛み潰した声を漏らす猟犬達。全く仰る通りなので、反論のしようがない。
「俺達を批判する暇があるんならさ、事件解決の為に”犬”は働けよ。」
”星穹列車”にも無様に手伝ってくれと尻尾を振るワンコのように泣きついた事だって知っているぞと彼の煽りは加速していく。かつて父親に投げかけられた皮肉を引用する程に。
「ハハッ、まあ落ち着けよ。」
悪魔のように攻撃的なプリンスをいなしながらベルトに取り付けたドリンクを仰ぐギャラガー。僅かにアルコールの匂いがするが、職務中に飲酒は不味くないだろうか。それとも彼ほどの立場になればそれも許されるのか、何にせよ羨ましい限りではある。
「権利とは言っても、公共の福祉ってもんがあるだろ?」
権利が許されるのは他者の自由を侵害しない範囲までというのが普遍的な道徳上の理念だ。部下たちのメンツもあるから、もうちっと穏便に調べてくれやとギャラガーは諫める。
「シャアケド、」
「分かりました…捜査は貴方達の言うように穏便に進めます。」
トダーの言葉を遮ったマネモブは深々と頭を下げた。”愚弄”の運命を歩む者にしてはかなり不自然である。
「おいマネモブ、」荒っぽい方法を取れないとなると犯人捜しが難しくなるのではないかと悪魔王子達は懸念している。だが、まあ見とけとマネモブは彼を抑えた。何か考えがあるのだろうか?
「わ、分かればいいんだよ…」
先程まで自白を強要するような危険過ぎる技を使っていたというのに、急に素直な態度を取ったこの男は酷く不気味だが、これ以上”愚弄”派閥と関わって事を荒げたくないと下っ端の犬達は逃げるように去って行った。
「フッ、そっちが拳を収めてくれて良くて助かったよ。」
殴り合いに発展しなくて良かったと嗤うギャラガー。その言い草には、ボボパンの応酬に発展しても多少の自信があるように見受けられる。
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「まあ安心して、捜査の必要はもうないですから。」
含みのある言い方と意地の悪い笑みを残して、マネモブはギャラガーから離れた。
「………。」その場に一人残された”犬”は、別れ際の言葉に嫌な予感を覚える。
………
「穏便に調べろって…」
他人と闘う技術ばかり鍛えてきた俺達にそんな要求するなんて馬鹿げてるよねと嗤う悪魔王子。
「マネモブ、サッキノ言葉ハドウイウ意味ヤンケ?」
トダーはギャラガーと別れる際のマネモブの言葉を気にしていた。
「ギャラガー…ギャラガー…」
マネモブは二人の言葉を無視して容疑者名簿と照らし合わせている。
「どういうことだマネモブ。」
まさか彼を疑っているのかと悪魔王子は問う。
「容疑者名簿ニ”ギャラガー”ノ名前ハ無カッタヤンケ。」
トダーは52人分の名前、性別、所属、人格プロファイリングまで完璧に記憶している。
「俺のマサイの嗅覚を忘れていませんか?」
悪魔王子達が殺人事件の捜査についてギャラガー含めたハウンド家と口論していた時、僅かだが彼からウソの匂いがしたというマネモブ。
「つまり容疑者には含まれてないが、彼は事件について何か隠している可能性が高いという事か?」
ギャラガーは何らかの形で事件に関与している、そう考えれば色々説明が付く。捜査官という立場は証拠を隠すのにさぞ役に立っただろう。
「若シクハ、ギャラガー自身ガ…」
彼こそロビンを殺した真犯人という可能性も考えられる。
「まだ証拠は弱いが…」
この情報を当主に伝えたら面白い事が起きそうな予感がするとマネモブはニタアッと笑った。
部族の神”ジョーイ”もそんなお告げを授けているような気がした。
「”朝露の館”マデ直行シテ捜査資料ヲ提出シヨウヤンケ。」
数刻前に”夢境ホテル”に現れた人の魂を狩るバケモノとの戦闘データも一緒に渡せば、サンデーはさぞお喜びになるだろう。
「おっしゃああああッ善は急げっ」
途中ソフトクリームとスラーダを買い食いしながら、三人は羽頭の元へ向かう。
◇次回、ピノコニー編も遂に佳境へー
前回は話が全く進展しなかったからね。一気に進めてやりましたよククク…