新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「迷宮のような部屋、あちこちに仕掛けられたトラップ…この屋敷の主ってのは随分と疑心暗鬼なんだな。」
オーク家当主サンデーの住処”朝露の館”に一人の客が招かれた。捉えどころのなく考えが読めない人を食ったような態度を取るその男、ドリームタウンの保安官”ギャラガー”だった。
「面白い冗談を言いますね保安官。そのユーモアが我が最愛の妹を殺害した卑劣漢の逮捕に役立てばいいのですが。」
対するは屋敷の主サンデー、ギャラガーに負けず劣らずの強烈な嫌味をぶつける。
「忌憚のない意見を述べただけだ。どうした?痛いところでも突かれたか?」
ハウンドの猟犬は依然として毅然とした態度を取る。
「ギャラガーさん…ワタシはあまり忍耐が強い方ではないんですよ。ハウンド家の消極的な仕事ぶりはーーーアナタが真犯人と繋がっているという疑念を深めるだけですよ。」
いや、真犯人そのものと言った方がいいでしょうかと、サンデーはギャラガーこそ黒だと確信しているようにも思える。
「フッ………悪党、ならず者、酔っ払い、ゴロツキ…この見かけだけは美しく見える夢の中でもそういうクソみたいな言葉は腐る程聞いてきたが、まさか自分が殺人犯呼ばわりされる日が来るとは夢にも思わなかったな。」
ギャラガーはそんなのは言い掛かりだとでも言わんばかりに御託を並べる。
「さっきの言葉を撤回しよう。お前の問題は疑心暗鬼が過ぎる事じゃない、お前は狂っているんだ。狂人だ、分かるか?」
「お前等”ファミリー”は、ピノコニーの礎を築いた”ナナシビト”を排除するだけじゃ飽き足らず、俺のような老犬の背骨を折り、牙を抜いて従順な飼い犬として隷属させた挙句、今度は犯罪者呼ばわりか?ふざけるのも大概にしろよ…ドリームタウンで野良犬におかしなことをするのは、スラーダをキメて頭が馬鹿になった奴だけで十分なんだよ。」
別のクランとはいえ、相手はオーク家のトップだというのに、彼は傲岸不遜な批判姿勢を崩さない。この二者には何か因縁があるのだろうか?
「一体何がお前をここまで狂わせたんだ?俺なんかより、先日起きたフィルムランドのゴリラ騒ぎの方が余程気にすべき事じゃないのか。俺が本当に犯人なら、どうしてこうコソコソする必要があるんだ?…ああそうか、そうだったな。お前にも面倒な主人がいるんだったな。アイツは愛する家族が死んで傷心中のお前にも、殺人事件なんか放っておいて”調和セレモニー”の用意に専念しろと平気でほざくような人の心がない奴だもんな…そうだろ?優しい”お兄様”。」
ギャラガーが部屋の片隅に留まっている蒼色の鴉を鋭く睨みながら話をはぐらかそうとする。
「フッ、まだシラを切りますか?私には貴方が猟犬の立場でありながら飼い主の手を噛んだ処分すべき裏切り者だという確信があるのですよ。」
サンデーの発言には偉く自信があるように見える。
「………まさか、」ギャラガーは先日接触した奇人達の事を思い出す。
「ばあっ、超危険生物”マネモブ”でぇーす。」「なにっ」
先程までは全く気配を感じなかったと言うのに、突如としてマネモブがフッと現れた。幽霊のように神出鬼没の気味の悪い奴だ。流石のギャラガーもその奇々怪々とした存在には多少気圧される。
「ワタシは貴方より余程従順で優秀な犬を雇ったんですよ。」
「俺達が犬だと…?」マネモブの隣にいた悪魔王子がその言葉に青筋を浮かべるが、サンデーは言葉の綾だと軽く謝罪しながら話を本筋に戻した。
「マネモブさんのニオイで嘘を見抜く権能、貴方から欺瞞の匂いを感じ取ったと報告がありまして…ワタシが本腰を入れてアナタを調べ尽くした所、面白い事実がみるみるうちに明らかになりましたよ。その変装はさぞ、ファミリーの事を知り尽くすのに役立ったでしょうねぇ。」
「ハッ、匂いで嘘を見抜くだァ?そんなフィクションみたいな話を真に受けるなんて、本格的に狂ってるようだな光輪野郎。俺がニセモノに見えるなんて、どんな目してやがんだ?その曇った目を見開いてよく見てみろよ。」
状況はかなり悪く見えるが、ギャラガーはまだ犯行を認めない。
「確かに、アナタの身体を構成する全ては本物ですよ。
「………。」サンデーの列挙していく言葉にギャラガーの顔が険しくなっていく。
「灰色のベスト、ネクタイ、ハウンド家の勲章、酒の入った水筒、カクテル作りの技術、保安官の肩書…全て本物でー全てがまやかしだ。」
「ヤンケ。」容疑者として挙げられた52人の忠実なファミリーのメンバー達…ギャラガーを構成している物の全てがそれに由来している。トダーは容疑者リストの記録とギャラガーとの照合にとても役に立ったというサンデー。
「ふうん、そういうことか。」成程、ギャラガーが52人のファミリーの集合体であるのなら、彼の犯行でこの容疑者名簿が完成したのも筋が通ると、悪魔王子は納得した。
「マサイの戦士騙されない。もうお前の全身からウソの匂いを感じ取っている。」
「ええ、それらが一つの場所に集まり、無数の小さな真実が等身大の嘘を紡いだ…アナタは全ての人から”記憶”を集め、それを基盤に、夢境の中で完全な”ギャラガー”を”虚構”した…違いますか?”神秘”の手先よ。」
”虚構歴史学者” 宇宙に存在する”記憶”を捏造し真実を攪乱させる事を生業としている勢力。それが彼の正体か。
「ふふ…ははははははは!すごいなあお前等、やるじゃないか!俺の正体をそこまで見抜いたなんて大したもんだ。どうやらお前達を見くびっていたらしい。」ギャラガーはサンデー達に近付いていく。
「虚構歴史学者…そうだ、それがどうした?それで、お前の妹を殺したのが俺だって証明出来るのか?」
「少なくとも、アナタとホテルに現れた記憶域ミーム”死”が同じ穴の狢である事は確定している。それで十分です。」
トダーが提出したモンスターとの戦闘記録もサンデーは把握している、偉大なる長兄は推定有罪ならもう極刑に処すしかないと考えている。
「いいですか、ワタシはアナタがどうやったのかなんて正直どうでもいいんですよ。ワタシが気にしているのは、1つの質問の答えだけ…」サンデーは重苦しく口を開き背徳者に問うた。
「貴様のような死にぞこないの負け犬風情が、何故…何故ロビンを殺した!?」
”サンデーは聖なる復讐者となる!!”
「フフッ、人は、目に入った砂を見れないものだ。」
「何言ってんだこいつ。」ライターに火を着けながら誤魔化すような事を言い出すギャラガーに辛辣に物言うマネモブ。
「答えを知りたいかお前等?教えてやるよ。全部クソみたいな運命の悪戯なのさ。」
グサッ「はうっ…」「ヤンケ!?」
サンデー、悪魔王子、そしてマネモブの三人のドテっ腹を紫色の爪が貫き風穴を開ける。
「やはり貴様が…」夢境の中憶質で構成された三人の肉体からは銀白色の血が流れ、地に伏せて金色の眩い光を発しながら消滅していく。
「悲劇ってのはな、時に残酷に、回避しようもなく襲い掛かって来るもんだ。」
煙草をふかしながら後ろ暗く答えるギャラガー。
「………マネモブ達ヲドコニヤッタヤンケ?」
AIにも感情のようなものが芽生える事はある、トダーは今、確かに怒りを感じている。
「ハッ、お前に”死”のミームが効かないのは実際予想外だったよ。」
機械生命体”オムニック”にも通常”魂”と呼べるものは存在するのだが、目の前にいるロボットはまだ生命体に昇華した存在ではないという事だろうか。
トダーが夢境にいるのは、単に主人であるマネモブの付属品という扱いなのだろうかとギャラガーは考え込んだ。
「ソンナン今ハドーデモイイヤンケ!!」
ビュンッ ノーモーションから繰り出される”霞突き”がギャラガーを襲う。
「おお、おお、怖いねぇ。」
ギャラガーは何とか紙一重で回避するが、トダーと闘うのは余り宜しくないなと考える。
「俺はこれからアイツ等と話をしなくちゃならない。だからこれで失礼させて貰う。」
”死”のミームを傍らに侍らせたギャラガーは煙のように離散していく。
「待ツヤンケ!ドウイウ意味ヤンケ!逃ゲルンカイッコノ人殺シッ」
トダーのマイクから発せられる機械音の怒号も虚しく、ギャラガーはその場から逃走した。
◇新たに殺された三人の運命はー?
トダーに魂はないから生命体に昇格してない扱いだなんて…悲劇的でサルティックだろ。
でも彼にも人の心と言うべきものは芽生えてるんだ。絆が深まって尊いんだ。