新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「…丈夫ですかお客様。不味いよクロックボーイ、この人全然目を覚まさないよ…」
「チクタク!!」
覚醒直後の混濁としたまどろみの中、聞き覚えのある声とない声が耳に入る。一つはつい半日程前に皆で鑑賞した映画で聞いた声だ…
ガバッ マネモブのあらゆる物を見通す心眼が強く見開く。そう、ワシ等はピノコニーに渦巻く陰謀に巻き込まれ、そして殺されたんや。
しかし、今のワシには夢境に浸かっている時特有の浮遊感や全能感がある…周囲を見渡すと”ピノコニー”にしてはネオンサインもなく煌びやかさに欠ける地味な景観しかないが。
”木場”に会った時の天国とは違う、つまりギャラガーは殺人事件を看破したワシ等を始末するのにしくじったということか?それは結構な事だが、偶発的に別の夢境に飛ばされたのか。取り合えず拳をグーパーしながら生を実感する。
「良かった!初めましてお客様、僕はミーシャと申します。」
目の前にいる水色の髪と青い装飾、金色の時計とチケットを身に付けたガキはドアボーイをやっている者だと名乗った。そしてその横には…
「チクタク!!僕はミーシャのトモダチのクロックボーイさ。ドリームタウンを守ってるのは何を隠そうこのボク…」
「うああああああああ、アニメキャラが夢境を練り歩いているッ」
幼児向けのつまらねーアニメキャラ(マネモブ達の感想書き文字)が目の前にいるッ
「何を一人で騒いでるんだ喧しい。」
マネモブの叫び声に反応したのか、周囲を少し散策していたらしい悪魔王子がせわしなく駆け付けて来た。
「生きとったんかわれぇ!!」
「ふん、気持ちよくおねんねしてたなマネモブ。」
マネモブは生存確認を素直に喜ぶが、悪魔王子は自分の方が先に目を覚ましたのが少し自慢らしい。”パブ”での戦いでマネモブより後に目を覚ましたのを気にしていたのか。
「トダーはどこや?」「ハグれた。アイツはあのクソ警官の魔の手から逃れたらしいが…」
格闘家は常在戦場とは言ったもので、不意打ちとは言え奴の飼っていた”死”のミームとやらにしてやられた事が些か悔しくはある。
「クソ警官…?殺され…?」
そのクソ野郎とはギャラガーの事かいと聞いてくるミーシャ、この薄暗い夢境を守る警官といえば彼なのでピンと来たのだそう。
「なんやお前、アイツの事知ってるんか。」
「彼がクソだなんてとんでもないですよ!ギャラガーが尽力してくれたお陰でここ”ドリーム・リーフ”は安定したんですから。それに…殺されたなんて言いますけど、夢境に”死”が存在する訳ないじゃないですか。」
「チクタク!!彼のカッコよさはさながら”ブラザー・ハヌ”を思い出すよ。」
ここは”ファミリー”の現体制に不満を持つ者、表向きの観光地としての夢境に居場所がいなくなった者などが最後に行き着くサンクチュアリらしい。遊園地のような愉しさはないが、何者も拒まないある意味最も優しい夢だという。
「お客様達は恐らく彼のペットの”ネム”に連れてこられたんですよ。偶にあるんですよね…」
あの多眼が気色の悪い紫色の腕は”ネム”というらしい。ネムは寂しがりやらしく、孤独を埋めようと偶に観光客の魂をドリーム・リーフに連れ去ってしまうのだと。
「ふうん、そういうことか。つまり殺人事件など…すべてはまやかしだということか。」
だったら”ロビン”も生きてここにいるのだろう、だが分からないのはギャラガーの目論見だ。
彼は明確に意思を持って俺達やサンデーをここに引き込んだ。
◇あの男の目的は一体ー?
「…さっきから思ってたんだが、何一人で会話してるんだ。」
幻魔でも撃たれたのか?と嗤う悪魔王子だが、彼には二人が見えないのか…?
「なんじゃあお前目が見えんのか。」
話が嚙み合わねぇと困惑するマネモブ。
「………お前、ミーシャとクロックボーイが見えるのか。」
その二人は本来”開拓”を歩む者しか見えない筈だと、マネモブが彼等を観測したという事実に驚愕しながら見覚えのある男が近付いてきた。
「常人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえるのかもしれませんね!」
見えているようで見えていないという事…見えないものを見えるようにするのが”幽幻”、見えるものを見えなくするのが”真魔”、マネモブは武術を修める過程で特殊な目を養っている。
「アイツ、俺達に話たい事があるんだってさ。」
親指でギャラガーを指差す悪魔王子は、マネモブがおねんねしてる間にある程度彼と話していたようだ。そしてその横には…
「初めまして、マネモブさん。」
宇宙随一の有名人だと言うのに、マネモブのような野蛮人相手にも懇切丁寧に挨拶をする、麗しき銀河の歌姫”ロビン”。一連の事件捜査に夢境中を駆け回ってくれてありがとうと感謝を述べる。彼女の隣には偉大なる長兄”サンデー”もいた。
「あ、あの…ワシロビンさんのファンなんスよ握手とサインして貰ってもいいスか。」
「…今はそんな事してる場合じゃないでしょう。」
「フンッ俺と同じ意見だな。スターピースチューブでバックグラウンド再生してるくらいだろ。」
ミーハーファンだと言うのに、猿空間からペンと色紙を取り出したマネモブの準備の良さに引くサンデーと悪魔王子だが、対してロビンは快くファンサに応えた。
「あざーすガシッ。猿先生から買った三万円の色紙と一緒に家宝にするっス。」
”愚弄”の”星神”のサインはそんなはした金で買えるものなのかと、周囲の者達は皆訝しんだ。
「さて…そろそろ本題に入っていいか?」
ギャラガーが話を戻そうと、今からする話にあたって改めて自己紹介をすルと申した。
「俺の正体が”虚構歴史学者”である事は既に看破されているが…俺にはもう一つの顔があるんだ。」
ギャラガー…彼は”時計屋”を継ぐ男だと名乗った。
「………。」「!!チクタク」時計屋という言葉に、傍らで話を聞いていたミーシャとクロックボーイが意味深な反応をした。
「時計屋ってまさか…ピノコニーに遺産を隠したとかいう都市伝説があるあの男か?」
監獄の星を宴の地に変える礎となった”開拓”の偉人、時計屋の正体は”ナナシビト”だった。ギャラガーはその意思を継承した彼の数いる子供達の一人だという。血の繋がりはないが、固い絆で結ばれている。オトンとキー坊のような関係との事。
「まあ、長い時間をかけて、彼の意思を継ぐ子供達は皆”ファミリー”に敗れたんだ。ある者は立ち去り、またある者は犬のように隷属した。」
時計屋を始めとした”ナナシビト”達は飛来した”星核”の制御を出汁に近付いてきた”ファミリー”と一時は協力関係にあった。しかし、ピノコニーの運営方針で対立したのか互いに争うようになり、結果”時計屋”陣営が敗北。かつて夢境で一番最初に構築されたこの街の中、世間から隠れた世捨て人のように無念の最期を迎えたという。
「つまりこの街は、ファミリーが汚い手を使って時計屋を夢の地から追い出した事を示す、ピノコニーの汚点そのものなのさ。」
ギャラガーがファミリー関係者である兄妹に目配せすると、妹の方は気まずそうに俯いてしまった。兄の方は落ち着いて”時計屋の犬”を見据えているが。
ファミリーはこの黒歴史を隠す為に、ドリームリーフを囲い込むように表向きの”12の夢境”を築いたという。そこではどんな手段を取ろうと"調和"のセーフティネットにより基本的にはこの裏側に来る事は出来ない
「…で、ファミリー共が築いた防波堤を突破する為に俺が作ったのがコレ。」
『ギュウ…』ギャラガーの傍らに紫色の腕が現れて愛おしそうに主人に撫でられている。マネモブ達が闘っていた時とは打って変わって嘘みたいに大人しい。
夢境の中で行き倒れていた羽の折れた小鳥に彼が持つ”神秘”の力をありったけ注いで産み出したモンスター、”死”の記憶域ミーム改め”夢境”に眠りを齎す者”ネムリ”である。夢の中で眠るなんて些か変な話だが。
「時計屋の正体見たりッ。遺産を遺したという偉大なる先人は只の敗北者だったのかあッ」
「ハッ、否定はしないが。」
マネモブは”愚弄”の持病を発動してしまうが、哀愁を漂わせながら失笑をこぼすギャラガーに対して、一番哀しそうな顔をしたのはミーシャとクロックボーイの二人であった。
「…で、俺達にそんな話をして何がしたいんだ?」
悪魔王子が話の核心を突く。ファミリーの暗部と言っても所詮は只の政権争い、そんなものはどこの星でもある。例えその事実が公表されたとして、ファミリーを揺らがせるとはとても思えない。
その程度の話をする為に俺達を巻き込んだのかとキツイ顔をする悪魔王子。
「まあ落ち着いてくれ。何の因果か、偶々観光に訪れていたお前達にオーク家の坊ちゃんが捜査を依頼して、”愚弄”がここまで事態に踏み込むのは想定外だった。何せ、お前等には”招待状”を送らなかったからな。」
「貴方だったの?ファミリー内部から色んな人に招待状を送ったのは。」
ロビンが意外そうな顔をしている。ファミリー内部も送り主を知らなかったのかと悪魔王子は呆れていた。
「そうだ。招待状に記載した”時計屋の遺産”を餌にした”クロック・ラッシュ”、まあ本当は金目の遺産なんてもんは存在しないんだがな。そこまでして数多の勢力を呼び寄せたのには理由がある…」
◇語られる衝撃の真実ー
宴の星ピノコニー…現状ファミリーは採掘される憶質と星核から抽出した莫大なエネルギーでその基盤を築いているらしいが…
「そんな都合のいい夢が、何の代償もなく成立すると思うか?」
夢境の維持にはそこに住む人々の精神的な死、星核への贄で成り立つらしい。ピノコニーの本質は”ファミリー”内部に潜む本当の裏切り者によって築かれた嘗ての監獄より質の悪い”夢の牢獄”だった。
「いや、ちょっと待てよ。」
ピノコニーが成立してはや10琥珀紀とは聞くが、そんな大々的に観光客や住人を犠牲にしていたのなら、今まで露見しなかったのはおかしくないかとマネモブは疑問に思った。
「正確には…最も恐れるべきことが、これから始まろうとしているんだ。」
これまでのピノコニーは星核が有する莫大な虚数エネルギーと今ある憶質だけでも夢境を維持する事も出来なくはなかった。しかし、この地に眠っている憶質もいつかは尽きてしまう。
「そんな中でファミリーに潜んでいたイカレ野郎は恐ろしい事を考えたのさ…」
それこそが先程彼が言っていた生贄の儀式だという。ピノコニーのある”アステナ星系”にいる全ての生命体の精神を呑み込む恐ろしい計画。
「成程、数百年に一度の”調和セレモニー”…一番人が集まる祭事は生贄の用意には打って付けって訳だ。」悪魔王子はIQ200を超える父親譲りの鋭い洞察力を見せる。
「だけど…私達ファミリーの中にいる裏切り者って誰なのかしら?」
ロビンは思い詰めるような顔をしながら考え込む。一番重要なのはそこだ。
「………私、黒幕の正体と儀式が行われようとしている場所に心当たりがあります。」
口を開いたのはサンデーだった。彼の予想したラスボスの正体は今のピノコニーを事実上支配している”夢の主”にして先代オーク家当主”ゴフェル”。星間難民であった彼等兄妹を拾った養父だという。
「儀式の爆心地は恐らくセレモニー開催時に最も人の訪れる”ピノコニー大劇場”…星核もそこに眠っているのでしょう。」
「大劇場は”黄金の刻”に初めて築かれた立派な建造物だとお義父様は言っていたのに…星核の在処だなんてそんな、」
残念だとロビンは心の底から哀しそうな声を漏らす。
「ええ、私達を此処まで育ててくれたゴフェルさんを疑うのは心苦しいですが…」
「………。」マネモブは人生の悲哀を醸し出す兄妹に何とも言えないような目を向ける。
「だったら話は早い、お前達がパパを説得してくれ。」
成功すれば無血開城、誰も犠牲になる事はない。ここまで連れて来た甲斐があるってもんだとギャラガーは語る。
「………分かりました、ゴフェルさんの説得は私達がやります。」
話が纏まった事でサンデーとロビンは共に去ろうとするが、
「ちょっと待てや。」
マネモブはキツイ顔をしながら二人を呼び止めた。
「…何でしょうか?」調和セレモニーまでそう時間もない、急がないと不味いでしょうとサンデーは語る。
「お前…俺の権能を忘れたんか。」
態々俺達を事件の捜査に抜擢した理由は何だとマネモブは告げる。
「………。」「兄様…?」
サンデーはマネモブに苦々しい顔を向ける。睨み合う二人に戸惑うロビン。
「マサイの戦士、騙されない。邪悪なウソは匂いで分かる。」
サンデーの話した黒幕考察に嘘は感じられなかった。唯一、最後の説得の下りを覗いて…
「フンッ、この夢は嘘吐きだらけだな。」
マネモブの言葉に悪魔王子は呼応しいつでも”霞突き”を撃ち込める姿勢を取る。
『………”3つの顔を持つ魂よ。その熱き鉄を彼の舌と掌に押し当て、嘘偽りの誓いを口に出来ないように縛りたまえ”』
「なにっ」サンデーは二人にの言葉には応えず、代わりに”調和”の術を発動する詠唱を返した。
「ロビンの死の真相を明かしてくれた恩人である貴方達にこのような無礼を働きたくはありませんでしたが…」
(う、動けん。)サンデーはマネモブ達が己に危害を加えられないように”調和”で相手を隷属させる術式を発動した。上下関係をハッキリさせる事で調和が保たれるなんて欺瞞に満ちている惨い技だ。
「兄様!!」「ロビン…」
温厚な歌姫が暴挙に出た兄を見た事で激情に駆られる。背徳者である兄は憂鬱そうに彼女を見つめるしかなかった。
◇裏切り、再びー
マネモブは”愚弄”の他に”開拓”の運命も掻い摘んでいるんだァ(恋愛地獄編参照)