新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「兄様、どういう事か説明してくれる。」
マネモブの嗅覚により裏切りが露見した長兄は最愛の妹に詰問されるが、答えは沈黙である。
彼は心の底では分かっているのだろう、どれだけ御託を並べ立てようと、妹がゴフェルと自身が掲げる理念を理解する事はないと。
「な、何が一体どうなって……」「チクタク!!大丈夫だからねミーシャ。」
本性を現したサンデーに困惑し、怯えて縮こまるドアボーイを守る為、小柄なクロックボーイは勇敢にも前に立った。最も、”開拓”の運命に影響されてない者は彼等に関知出来ないから余り意味などないかもしれないが。
「チッ、ややこしくなって来たな。」
『グルル…』
まさか羽頭が本当の裏切り者だったなんてここ”ドリーム・リーフ”に皆を引き込んだギャラガーも流石に想定外だ。彼は自身の所有する”神秘”の力は既に殆ど使ってしまっている。サンデーに対処する術はない。彼のペットである”ネムリ”も同じ、このモンスターの本質は夢の中で人を殺す”死”ではなく夢境の表裏を行き来させる存在でしかないという事は既に露見している。唸り声をあげて敵意を示す事しか出来ない。
「それが賢明でしょう”時計屋の犬”よ。」
ロビンから目を逸らしてギャラガーが”ハウンドの犬”ではなく別の飼い主に忠誠を誓っていた事に皮肉を述べながら牽制する。
「答える気はないのね!?」
対話は不可能だと判断したロビンは兄と同じく”調和”の術を使いマネモブと悪魔王子に課せられた拘束を解こうとする。
「無駄ですよロビン…」
しかし術式の解体にはかなり悪戦苦闘しているようで、芸能の才能は妹が上でも”調和”の能力は兄が勝っているようだ。
(フンッ、術の解体が出来ないのなら…)
マネモブはお得意の”陰の掌握”でサンデーに術を反射して相討ちに持って行こうとするが、
(どういうことや…)
◇驚愕の真実…サンデーの魂に一切の陰、殺意や敵意などは存在しない。それはつまり、己の陰を完全にモノにした神との合一、人間の精神を完全に超越した境地に他ならない。
サンデーの裏切りも一連の攻撃も全てが、善意や良心から行われているという事…マネモブはその事実に愕然とする。
「元より我々の”秩序”の理想が貴方達の同意を得られるなど思っていない、欲しくもありません。」
サンデーと夢の主が掲げるのはファミリーの”調和”ではなく”秩序”、裏切りがより明白となる。
その場から離脱しようとするサンデーの言葉は、まるで不貞腐れる子供の様だった。サンデーが背を向けてその場を離れようとした時、
「しゃあっ」「なにっ」
動くなと命令されていた筈のマネモブが動き、サンデーを止めようと殴り掛かった。サンデーは手から茨を出現させて周囲の建造物に括り付け、一気に巻き上げる事で距離を取ったが。
「ロビン、アナタが解いたのですか。」
「私の力じゃないわ…」
ビルの上に立ったサンデーは人々を見下ろす神のような佇まいで妹に尋ねる。
「拘束を解いたのは、俺自身の心の在り方や。」
マネモブが代わりに答えるが、サンデーは”調和”の術は信念や執念などで簡単に破れる物ではない筈だと言う。
「簡単や、お前を見習って”神と合一”する境地に至っただけの事…」
マネモブが使う魂を掌握する”陰陽互根の術”…サンデーが心の陰を一切持たずに無効化したように、マネモブもサンデーへの敵対心を一切捨てて”調和”の術を退けた。
「最早お前を敵だとは思わん。そこにあるのは尊敬だけや。」
かつて精神が”神の境地”に至った格闘家を二人見た事がある。先代”灘神影流”当主”宮沢静虎”、そして”灘・真・神影流”現当主”宮沢熹一”。彼等に憧れ弟子入りしたマネモブにとって、その二人と同じ”神性”の衣を纏っている彼は敬意の対象だった。
「お前を尊敬しているからこそ、人々を犠牲にしようという危ない儀式を目論んでいる、そんなお前を止める為に闘うんや。」
「敵意が無いのに闘う…?些か矛盾していませんか。」
相手を傷付ける意思がないのに闘うなんて心と行動が一致してないように思えるが、それは星核に生贄を捧げようとしているお前も同じ筈だとマネモブは答える。
正義心から振るわれる暴力もある…悪人に悪因悪果を突き付けるのを生業としている”ファントム・ジョー”のように。
「やはり対話は無駄なようですね…悪魔王子さん。」
「………。」ブンッ
「や、やめろ悪魔王子。」悪魔王子がマネモブに拳を振るう。
サンデーは足止めの為に未だ”調和”の幻魔が抜けきってない彼にマネモブと闘うよう命令した。
同士討ちさせるなんて惨い策略だが、マネモブは心に隙が出来ないよう必死になりながら悪魔王子を迎え撃つ。
「ここまでしても心の隙が出来ませんか…」
サンデーはマネモブの心を揺さぶって再び”調和”の術に落とし込もうとしたが、失敗した事で彼の心の強さに対して素直に感嘆した。
「サンデー!!お前がどないして道を踏み外したのかは知らんが、ワシが気持ちようぶちのめして救ったるわ。」
「………。」偉大なる長兄はその言葉に後ろ暗い顔をしながら去って行った。
「兄様…」
兄の裏切りにショックを受けながらも仲間に暴力を振るう悪魔王子に掛けられた術を解く為に懸命に手を伸ばすロビンだが、
「…せ。」頭がおかしくなりながらも言葉を絞り出す悪魔王子。
「殺せ…」生からの解放、それこそが救いだと悪魔王子は訴えかける。
天邪鬼な彼は決して口にすることはないが、マネモブとの短い旅路は確かに楽しかった。
だが敵に精神を支配され仲間と闘わされる苦痛から、”虚無”に精神が傾いてしまう。
「イヤです。」
マネモブは断固として拒否する。しかし、肉体性能や格闘戦では彼が勝っている。
”陰陽互根の術”を使えば彼の精神を支配する”調和”が自身にも影響を及ぼすかもしれない。ロビンが何とか抑え込もうとしているが、ボボパンでは勝ち目がない。
「やめろプリンス。」
残酷で凄惨な仲間割れを止める為、ギャラガーが悪魔王子の後ろからチョークを掛けて止めようとする。
「うおおおおおおおおおおお」
「ぐぅ、なんて馬鹿力だ。」
地球人類最強格の肉体を持つ彼を、神秘の力を殆ど使い果たしている彼が落とすのは難しいようだ。
「ギャラガーさん感謝しますッ」
だが、十分隙が出来たとマネモブは悪魔王子に近付いていく。何か秘策があるのか?
「ギャラガーさん、暫し呼吸を止めた方が良いぞ。」
「おおっ…うん。」マネモブの指示を聞いて数瞬大気を吸入しないように細心の注意を払う。だが、呼吸を止めながらチョークを掛けるのは身体的な負担が大きいが…
「喰らえっ我が乾坤一擲の催眠ガスをッ」
マネモブは即効性のある気体状の眠り毒が詰まった缶を取り出して悪魔王子の顔に噴射した。
「はうっ…」元からチョークを決められていた甲斐もあって、徹夜明けのリーマンが家に帰ってベットに速攻倒れる並の速度でストンと眠りに着く。
(えげつねぇな…)鼻と口を抑えたギャラガーと傍から見ていたロビンは危険物を所持しているマネモブに若干引いている。
「ま、マネモブさんはどうしてこんな物を…?」
「俺は米軍所属だからね。」
この催眠性ガスは本来米軍と鬼龍の多額の出資の元ゴア博士が開発した最強の”存護”兵器に搭載されている者だが、その兵器を博士から預かっているマネモブがガスのみを猿空間から取り出し使用したのだ。
「ロビンさん、悪魔王子の術は解けそうかい?」
「時間を掛ければ…」だが、裏切りが早くに判明した事で、サンデーは計画発動を早める筈、そんな悠長な事をしている暇はないとギャラガーは反対した。
「チッ、しょうがねぇなぁ…」
マネモブは悪魔王子の身体を拘束具で身動きを取れなくする。猿空間に保護する事も考えたが、その中にはかつて封印した”絶滅大君” ”幻朧”もまだ残っている事を思い出した。彼女に彼の肉体を乗っ取られたくはない。
「ギャラガーさん、コイツはここでリタイアや。」
サンデーと闘う程の能力はないギャラガーはここに残るのだろうと、それなら暫し彼を匿ってくれとマネモブは頼んだ。
「そいつは構わねぇ…が、どうしたもんかねぇ。」
本来だったらこの事実を招待状で招いたより多くの勢力に周知させる筈だったのだ。最低でも”時計屋”と同じ”ナナシビト”である”星穹列車”には彼の意思を継承して欲しかった。しかし、そんな時間は最早残されていない。
「星穹列車のナナシビト…」ギャラガーの言う”開拓”の意志の継承を聞いて、ミーシャは何か深く考え込んでいた。
「だったら、俺に考えがあるぞ。」
マネモブは悪魔王子の白コートのポケットを弄ってある物を取り出した。
「…グロテスクなマスクね。」
それは歯茎や皮下組織が露わになったように仮装できる気色の悪いデスマスクだ。アマゾンとかで数千円も払えば買える代物。
「ちょっと待ってね、今準備するから。」
猿空間から撮影機材を取り出すマネモブに何がしたいんだこの男はと皆が困惑した。
◇マネモブの考えとは一体ー?
次の回で”愚弄”以外の勢力が大活躍する予定なんだァ。