新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「感謝するよギャラガー、預かってくれた悪魔王子をこれから完全復活させるんだ。」
「例には及ばないさ、お前達はしっかり"明日"を掴んで、ジイさんの意思を果たしてくれたんだからな。」
「なに、"明日を信じる心"が勝っただけの事…」
ピノコニーとの別れも近い、マネモブは最後にやり残した仕事を終わらせる為、"ドリームリーフ"へと再び舞い戻った。ギャラガーは彼の横にいる長身の女性にふと目をやる。
「…私が彼を解放する役割を任されたんだ。」
"アナイアレイトギャング"の"冥火大公"へ送った招待状を力づくで強奪した"虚無"の"使令級"という超危険人物にどんな反応をすればいいのか困ったらしい猟犬に変わって、自ら話す黄泉であった。
「いやっ聞いて欲しいんだ、ロビンさんはお兄様と一緒にいたいだろうと思ってね…」
最初は彼女に頼もうとも考えたが、美しき兄妹愛を邪魔したくないとマネモブは配慮したのだ。彼女の"虚無"なら"調和"すら切り裂けるだろうというのは"アベンチュリン"の入れ知恵である。
「そ、そうか…」
「悪魔王子を解放したら俺はすぐに帰るよ…」
俺達の後に"星穹列車"の"ナナシビト"がアンタのジイさんの墓参りに来る筈だという言葉を聞き、ギャラガーは微笑みを浮かべた。
「…では、」
情緒に浸かるのもここまでにして…黄泉が役目を果たさんとする。
"涙雨"
虚無の力を行使する黄泉の体から色が失われ、灰褐色となる。強烈な斬撃が拘束具に包まれ、未だ沈黙している悪魔王子を、あらゆるしがらみと共に断つ。
………
"死ぬことを望んで生まれた人間なんていない、本当は生きたいんだ"
"殺せっ 生からの解放、それこそが救いだ"
"よお兄弟、会いたかったぜ"
"俺達はペラロス島のディンゴじゃない"
"人間兵器として使い潰し、最後はゴミのように廃棄した人間達への復讐"
"俺は悪魔として生まれ変わる、悪魔として生きるんだ"
"俺達には絶望しか与えなかったくせに!"
"妬けちゃうくらい愛されてるんだね。もうめんどくさいから全員まとめてぶっ殺そうかなあ"
"俺達の痛みはこんなもんじゃない、苦しみはこんなもんじゃない"
"俺達は何の為に生まれてきたんだ…?どう生きたいんだ…?"
"三度目の死"…この世へ振り撒いた呪詛がフラッシュバックして頭を駆け巡る。"虚無"に飲まれつつある自分の望みは何だったのか、
"これでも家族愛が強くてね!親が殺されそうになっていたら子供が助けるのは当たり前だろ"
"一緒に逃げるんだボリス!!"
そうだ、俺は普遍的な人間達と同じように、"愛"が欲しかっただけだ。
だが、父親からは彼の思うような愛は返って来ず、ロシアの戦友は俺の前で…
"お前を捕まえたら、もう二度と闘えんやん"
"お前、今まで生きてきて楽しかった事なんて一度もなかったんだろ"
"これからは共に群星を遊び歩こう!"
復讐か愛情か、愛憎に心を支配され迷走に迷走を重ねた人生の最後に、唯一屈託のない愛情を与えてくれた男に辿り着いた…
"マネモブ…"
だが俺は迂闊にも敵に精神を支配され、アイツを殺そうとしたんだ。隣に立つ資格はもう…
・・
「そろそろ目を覚ませ、あの男はそんな事は気にしていない。」
頬に仄かな体温と手の感触を感じる。目を開けるとそこには、かつて見た事がある女剣士と黒き太陽があった。
・・
「あの男に頼まれたんだ。私の"虚無"で友を救ってくれと。」
マネモブが俺を助ける…?なんて甘さだ、だがその甘さに思わず顔が綻んでしまう。
「そう、それでいい…」
虚無に精神を傾けるな、お前がいるべき場所はここではないという黄泉。
「フッアンタに言われるまでもないよ。」
死を望んで生まれてきた訳じゃない、生きたいという根源的な欲求に俺は従う。
「………最後に、一ついいか?」
「なんだよ。」
こんな寒くて暗い、辛気臭い"虚無空間"なんて一刻も早く出たいのに。
黄泉に呼び止められた悪魔王子は、嫌そうな態度を取りつつも、一応恩人ではあるので質問くらい聞いてやろうとした。
「私達は…前にどこかで会ったか?」
「………さあね、知らないよ。」
悪魔王子は黄泉の質問をはぐらかした。彼がこれから歩む運命は"虚無"ではない…これから先、どんな苦難が待ち構えていようとも、彼女とここで再会する事は金輪際ないようにと、悪魔王子は心に誓った。
………
「プハッ」
「気持ちよくおねんねしてたな。」
"夢境"に入る為の"憶質"が並々と入っている浴槽、"ドリームプール"から起き上がり、悪魔王子は現実から帰還した。部屋の真ん中の席で、荷造りを既に終えたマネモブとトダーが哲学書を読んでいる。
「…ったく、"調和セレモニー"はサンデーのバカのせいで延期になったしよォ…」
サンデー討伐に参加した12人の強き者達への褒賞で、6億も使ってしまった。こんな大金受け取れないと断る者もいたが、筋を通す事に拘るマネモブは無理やり渡したのだが。
「マアイイヤンケ。コノ不祥事ヲキッカケニ"カンパニー"ガ"ピノコニー"ニ介入スレバ…」
アベンチュリンとマネモブの間には、サンデーが約束した以上の報酬をゲット出来る旨の契約がある。
「…次はどうするんだ?」
憶質風呂から上がって、これから先の目的地を自ら聞いてきた悪魔王子に驚くマネモブ。今までの彼は、マネモブに引っ張られて動く受動的な態度が目立ったというのに。
「ジャーン」
トダーがあるパンフレットを見せてくる。
「これは…」
"演舞典礼"仙舟「ROUGH」で定期的に開催される異種総合格闘技、MMAの大会である。銃、刃物、メカ、とにかく何でも持ち込める危険なスポーツだ。
「マネモブはこれに参加したいのか?」
悪魔王子の質問にマネモブは指をチッチッチッと振る。
「この大会の優勝候補がな、俺の"円月流"の弟子なんだ。」
マネモブは色々手広く活動してるんだなと心の中で感心した悪魔王子は、次に続く彼の言葉に呆れる事となる。
「悪魔王子、俺が"灘"と"幽玄"、"灘・真・神影流"の師としてお前のセコンドに付く。」
円月流と灘・真・神影流、どちらの弟子がより最高傑作に近いのか、骨肉相食む戦いの中で証明しろとマネモブは語った。
「全く…まるでパパみたいだな。」
悪魔王子は彼の父、"宮沢鬼龍"がかつて"龍星"や"リカルド"といった異母兄弟を潰し合わせ、自身の後継者に相応しい息子を決めようとしていたのを思い出した。
「ククク…否定はしない。」
だが、武術を磨く者ならそそられるだろうとマネモブは言った。
「フッ…」
お望み通り、より優れたマネモブの弟子はこの俺だと証明してやるよと、悪魔王子は拳を突き出した。
◇次回、演舞典礼編へー
ドリーム・リーフ
偉大なる開拓者"ラグウォーク・シャール・ミハイル"の墓にて…
「ジイさん、アンタの夢と意思は、しっかり今も受け継がれているよ。」
隠匿された夢境の中、今も老衰で荼毘に付した遺体が残る彼に子孫であるギャラガーが酒を仰ぎながら声を掛ける。
「ハッ、色々想定外の事はあったけどな。」
招待状を送らなかった招かれざる客"マネモブ"…しかし彼もまた、"愚弄"だけでなく"開拓"の衣を纏い、ピノコニーを開拓する中心人物となった。
「まだ見ぬ明日を信じる、日はまた昇るか…」
"愚弄"を名乗ってる癖に"開拓"を象徴するようないい歌じゃないかと、マネモブに教えて貰った歌を口遊む。
「"神秘"の道のりにおいて、生死とは虚構のサイクルにすぎない。別れと再会もまた然りだ。
この先、お前たちの旅が順調に進むことを願う」
「――完璧ではない明日に…乾杯。」
全てを見届けた彼は満足し、夢境の中に紡がれた等身大の虚構は霧霞のように消えていった。まだ見ぬ明日を信じながら…