新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
仙舟「ROUGH2」 月光を剣とする女
「全く、この店は丁度いい温度の茶も立てられんのか!!」
仙舟「羅浮」の”金人港”…老舗の飲食店が並ぶ由緒正しき観光スポットだ。昨今では過疎化と観光客減が重なり、カンパニーが買収を目論んでいたのだが、かの有名な”銀河打者”や仙舟では有名な配信者である”桂乃芬”、”素裳”、そして”フォフォ”と”シッポ”の”ゴースト・バスターズ”こと”怪異退治隊”の宣伝や経営指南も相まって順調に黒字経営になっている。そんな雅な雰囲気を喚き声で壊す不届き者が一人、
「うーわっ何あれ感じ悪い…」
「あれ…この前開拓者と揉めたスコート?」
「ごめん先生、折角茶屋に誘ったのに嫌な気分にさせちゃったよね…」
”カンパニーの犬”という二つ名があるとかないとかいうカンパニーには忠犬、他の者には狂犬のように噛み付くトラブルメーカーの”スコート”のクレーム現場に居合わせたのは、”雲璃” ”三月なのか” ”彦卿” そして”マネモブ”だった。
彼等が集まった目的は”演武典礼”で剣を振るう事になったなのかの師匠を務める為である。マネモブは三月への指導法に悩んだ彦卿に頼られて来たのだが、彼自身も”悪魔王子”のセコンドになるつもりだったので丁度いいと話に乗った。
彦卿は他の者の心配などしている場合かとマネモブには皮肉られたが、彼は師匠が悪魔王子のサポーターとして本選には出場しないと聞いた事を残念がるだけだった。
「へぇ、アイツ…おもろいやん。」
「先生…?」
いい暇つぶしになるかと4人で茶を仰ぎながら剣術指南の相談をしていたが、スコートとやらに絡んだ方が面白そうだとマネモブは勝手に席を立ってしまった。
「お客様、お茶が熱かったのなら冷めるのを待てばいいと思われますが…」
「客人である私に待てだと!?フン、客足も然程ない茶屋の店員には分からんだろうがな…」
カンパニーの社員は忙しいのだ、一分一秒が惜しいと豪語する。クレーム入れる暇はあるようだが…
「そないガイガイ言わんでも宜しいやん…」ヌーッ
「な、なんだお前はッ」
気を消しながら近付いたので突然大男が横に現れた事にギョッとするスコート。だが、お前には関係ないだろうどっかへ行けと威勢は弱まらない。弱い犬程よく吠えるというものだろうか。
「お茶が熱いんだってな?」ニヤニヤと下卑た笑いをするマネモブ。次の瞬間、
”アイス” ”ピキーン”
「なっ!?」マネモブの一言で、アツアツのお茶は世にも珍しい緑茶アイスへと早変わりした。
「貴様―ッカンパニーにケンカを売っているのかあ!?」
店もおかしければ客も碌なのがいないと喚く犬。
「せ、先生もうやめよう…?」
彦卿は諍いを止めようとするが、態とケンカ売ったんやと平然と宣ったマネモブに何も言えなくなった。
「アホらし…ねぇ三月、野郎共は置いて行って私達だけで別の甘物屋行こうよ。店員さん、あの馬鹿な大男に会計つけといてね!」
「全く、何で男の子ってケンカが好きなの?」女子二人は男達を置いて店を出てしまった。
「もう我慢ならん、おいお前!名を何という。」
「マネモブ…”愚弄”の神を信仰し”猿を継ぐ男”だ。」
「マネモブだな、覚えたぞ。この屈辱を果たす為、私と決闘しろ!」
クレームを入れられていた店側は、ヘイトの矛先がマネモブに向いた事にほっとしている。
「えっいいんですか。あざーすガシッしゃあっ」
決闘という言葉を聞いて即殴り掛かるマネモブだったが、
「うわあ待て待て早まるなーッ」
急に暴力を振う野蛮さにかなりビビった様子で後ずさりながら、闘うのは三週間後だとスコートは条件付けた。
「師匠…絶対罠を仕掛けてくるよ。」
そんなに準備期間を設けたら、相手がどんな手に出るか分からないと彦卿は忠告するが、
「おいコラ彦卿、お前俺があの程度の小物に負けるとでも思ってるのかあーっ?」
師匠の圧に出過ぎた真似をしましたと彦は頭を下げる。
「条件?そんなもん付けるのは弱者のやり方や。俺はなんでもいいですよ。」
「フンッ、大口を叩けるのは今だけだぞ。そうだな…」
お前が”猿を継ぐ男”なら、文字通り猿の鳴き声を真似して赤っ恥をかいてもらうぞと吐き捨てて、スコートは去って行った。
「………彦卿、悪いが今日はこの辺にしてくれんか?」
「えっ、はい…」
少々不本意ではあったが、師匠が帰りを切り出す前に不自然な間があった事で何か事情があると察した。二人は明日再び相まみえようと約束し、彦はなのかと雲璃を探しに向かった。
「………お客様」
4人、というより殆どが女子2人が甘物を頼みまくった結果の飲食代なのだが、合計3万信用ポイントのお代を求められた。彦は強くなる為に過酷な食事制限をしている為にお茶しか飲まず、マネモブも大会前なので悪魔王子と共にキツイ減量していた。
「チイッ、人の金だと思って!!」
………
仙舟「羅浮」の”廻星港”、舟の停泊やコンテナの設置など物流に使われている場所なのだが、”星核”の汚染が未だ爪痕を遺し封鎖されている場所もある。忌み物や暴走したからくり、裂界造物などもまだ散見されるこの地を、マネモブは一人無言で歩いていた。
『グルルルァ』
ブンッ 降り掛かって来る火の粉は不可視の打撃”霞突き”で振り払う。もうかれこれ10体ほどは倒しているが…
「………そろそろ出て来いよ。」
振り向いたマネモブは強烈な闘気を放ってある一点を見つめる。
「フッ、気付かれたか。」
マネモブの視線の先、突如として空間が揺らぎ、美しい水色の髪と新雪のように白い肌、顔を覆う黒いマスクが特徴的な中背の女が現れた。
「茶屋にいた時からずっと見てただろ。ハッ、女の子につけられるなんて俺は嬉しいぜ。男冥利につきるって奴?」
(”円月流” ”陽炎”…)
何故この女が”九条家”秘伝の技を…?困惑するマネモブだが、
「何故我が貴様の技を使えるのか解せぬと言った顔をしているな…それは小僧の技を見て覚えたからだ。」
小僧が世話になっているらしいなと女は軽い会釈をする。
彼女も彦卿の師匠なのかと認識すると同時に見ただけで技を覚えたと平然と宣う女に愕然し、強き者を目の前にして武者震いするマネモブだった。
「貴様もあのような小犬と闘うより、我と闘った方が面白かろう。」
だからこんな人気のない場所まで誘い込んだのだろうと女は問う。
「喰えない奴やのォ…」
自ら名乗り出なかったのは、俺が雑魚共と闘う様子からある程度力量を計る為だろう。そしてマスクを付けたままなのも気に食わない。
「我もお前と同じ月を…”月光”の名を冠する剣を使う。」
”月光”と”円月”…偶然にも似ている名前にシンパシーでも感じているのだろうか?
「闘りたいならマスクを取れよ。礼儀でしょうが。」
「すまない、マスクを付けていないと残酷になりすぎてしまう…」
"バトル・キング"かよと内心マネモブは皮肉った。彼女は彼の事を知らないだろうから口にはしなかったが。
曰く、女はかつて魔陰に堕ち同盟を去った罪人らしく、星核騒動の時にある目論見からトンボ帰りしたという。もうすぐ「虚陵」という別の仙舟に送られる予定なので、その前に弟子の話に聞くマネモブと闘ってみたかったと。
「ああそう…」
だったらそのマスク諸共身ぐるみ剝がしてやるよッと猿空間から超日本刀を取り出したマネモブは襲い掛かった。
ビュンッ 手始めに数発程氷の斬撃を飛ばす女、
「フンッ、”ダイヤモンド”すら斬り裂く超日本刀だよ。」
飛ばされた氷を細切れにするマネモブ、それを見て、今の小僧より遥かに殺傷力は上だと女は見定めた。
「円月流の手札は割れてるらしいからな…」
「!!」
突如として、肉眼で観測出来るマネモブがキューブのようにバラバラとなる錯覚に陥る。
-20℃を下まわる極度の低温下でのみ使える”幽幻真影流”の”立体視野”を使った隠遁術。女の放つ冷気はかえって、マネモブの技の手助けになってしまったらしい。
(恐らく次の手は…)
姿が見えなくなった彼が取る選択肢はただ一つ、小僧が使うそれより遥かに強烈な”円月流” ”土竜突き”、横凪と突きをほぼ同時に行う事で回避の選択肢を取れなくする”円月流”の秘伝…
(小僧との撃ち合いを重ねた我は既に、”土竜突き”の対策は済ませている。)
目を閉じて、どこからでも敵が襲ってきてもいいように”気”を、見えない敵が動く事で発する空気の揺らぎを感じ取る。
ビュンッ 「そこッ」
ピキィーン
「クソッ………」
マネモブの使う”アイス”とはレベルが違う広範囲高出力の氷塊…敵の攻撃のタイミングに合わせて自身の周囲全てを氷で覆うカウンター技。
余りの寒さに罪人たちの肌が割れ、その血で一帯が赤く染まると言われる仏門の”紅蓮地獄”のような環境を形成してしまった。
ここまで来ると、最早剣術など関係ない。マネモブの地力負けである。
「貰ったッ」
小僧の師匠、最優はこの我だと、氷漬けになったマネモブにトドメを刺しに行く。今叩き込まれれば、マネモブの身体は砕けて死にかねないが、魔陰で少々頭がやられている女は歯止めが効かない。
スカッ
「………。」
しかし、女の剣は空気を斬った。先程までマネモブがいた空間には何も存在しない。
(どういうことだ…?)
氷で動きは完全に封じた、まやかし剣法で見えなくするような技じゃない。まるで”最初から彼はここにいなかったか”のように不自然な消え方だ。
男が消えた理由は分からないが、不完全燃焼で終わった事に女は立ち尽くし、無性に苛立っていた。
………
「プハーッあぶねぇあぶねぇ…」
女に斬られる寸前、自身を拘束した氷諸共”猿空間送り”で避難してきたマネモブ。もし逃げなければ普通に殺されていただろう…
「ったく、アイツ何考えてんだよえーっ」
あの女は危なすぎる。取り合えず氷が解けるまでやり過ごし、その後はトンズラしようと考えるマネモブだったが…
『久しぶりだな、元気していたか?』
「お前は…」
話し掛けてきたのはマネモブが羅浮に訪れた際に猿空間に封印した”絶滅大君”の一角、”幻朧”の分身だった。
「猿空間送りで無様に負けた絶滅大君が何の用やねん。」
『なに、ここでは貴様の愛読書を読むくらいしかやる事がなくてな…』
タフシリーズ全116巻、外伝OTON、デビデビ、ユングの元型論、パスカルのパンセなど…相当読みふけたようだ。
『妾は炎を扱える…』
「ふうん、そういうことか。」
その一言だけでマネモブは理解した。ようは氷を溶かしてやるから肉体の主導権を寄越せと言うのだろう。
『猿空間からずっと見ていたぞ…一瞬逃げようなどと思った貴様も、本当は勝ちたいのだろう?』
このままではあの女には勝てぬと幻朧は得意の話術で唆す。歳陽は人間の感情の機微に聡い、マネモブの考えをしっかり読み取っている。
「………。」
◇マネモブの選択はーーーー
「スコートさん、頼まれていたマネモブさんの件なのですが…」
「なんだ…さっさと調査の成果を話せ。」
「はっはい…」
マネモブが”十の石心”と協力関係にあると聞いた”市場開拓部”の中間管理職である彼は、一体どんな”愚弄”し甲斐のある反応をしただろうか?想像してみろ、エグイなんてもんじゃない。
ちなみにマネモブが作った緑茶アイスに着想を得た店主が”仙人爽快茶”アイスとかいう新商品を開発して売れてるとかいないとか…”星芋ぷるっぷる”味は”ピンク色のチビ”も通い詰める程…そんな未来もあるのかもしれないね。