新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「存外…」
小僧が尊敬しているというもう一人の師匠、”円月流剣術”使いの”マネモブ”…強き者を求める武人の持病から彼に喧嘩を売ったが、彼は空間転移のような術を使っておめおめと逃亡したようだ。
期待外れだったと落胆しながら、黙って抜け出した自分を探しているであろう景元の為に帰ろうと背を向けた女だったが…
ボウッ「!?」
女はすぐ振り向く事となる。
『ククク、この器…中々、』
眼前にいたのは、ついさっきまで死闘を繰り広げていたマネモブだった。
見てくれは変わらない。しかし禍々しい邪気とうぐいす色の炎の衣を纏い、声も女性のものに変わっている。
じゅうという鈍い音を立てながら、先程女が構築した氷が蒸気を上げながら消えていく。
「貴様…」
今のマネモブから感じるのは”壊滅”この際彼の中にいる邪崇の正体はどうでもいい、此奴は今ここで斬らねば危険だと瞬時に判断した女は口と同時に剣を動かす…が、
ビュンッ またも不発、これはついさっきマネモブがやったのと同じ…
『ハハハハハハハハハ!!妾を封印した忌々しいこの力が…』
邪崇は空間転移を繰り返し神出鬼没にあらゆる場所から消えたり現れたりを繰り返して女を翻弄する。まるで新しいおもちゃを買い与えられた幼子のように能力を使うのを愉しんでいる。
『このマネモブとやら…美しさには欠けるが、』
歪んだ美学を持つ幻朧は彼のモブ顔と傷だらけで鍛え上げられた肉体は気に食わない様だが、彼女がお気に召したのは彼が有する莫大な”虚数エネルギー”であった。
この宇宙が司る”愚弄”の概念、その”運命”に深く浸かり、”サルワターリ”の漫画を深く愛していた彼は、相当量のエネルギーを所持していた。
「………月光を剣とす」
女はマスクを外して鮮血のように紅い目を露わにし、残酷になる覚悟を決めたようだ。辺りを絶対零度が支配し、氷の剣を形成する。
『フム…”雲上の五騎士”の一角、大罪人の”鏡流”だったか。』
物珍しい玩具を手に入れた幻朧は、目の前にいる女に然程興味はなかった。彼女が羅浮に星核を持ち込むのを依頼した”羅刹”の同行者という程度の認識だ。その態度が鏡流を余計苛つかせたのだが。
『新生祝いに貴様の首を羅浮の将軍に届ける…それもまた一興か。』
自ら手を下すのは彼女の美学に反するが、マネモブの身体を使う慣らし運転には丁度いいと、
ボウッ 幻朧はマネモブの虚数エネルギーを炎へと変換する。鏡流の冷気と衝突し、氷雪と炎熱が混ざり合う悪夢のようなフィールドが形成されている。急激な温度変化により、星核騒動から放置されたコンテナは何もせずとも自壊していく。
「ハアッ」
鏡流は本気を超えた本気、純度100%の殺意で剣を振るった。
『これは…』
幻朧の脚を氷で拘束する。この程度の拘束、炎で焼き切れると彼女は侮るが、
「遅い。」
戦場において、強者は隙など与えない。幻朧が氷の枷を解くよりも早く
「この月華で…」
月下美人という言葉は鏡流の為にある、美しいムーンソルトで跳躍し、
「すべてを照らさん!!」
今の己が出せる最大限の氷の斬撃を幻朧に放つ。初撃で敵の移動能力を殺し、二撃目で確実に殺す。かつて”歩離人”の戦首”呼雷”を仕留めた時に使った彼女の切札である。
『フッ、回避が間に合わぬのなら正面から迎え撃つまで…』
向かってくる氷の斬撃と上空にいる鏡流に対して、幻朧は超日本刀に炎の衣を纏わせる。
『確かマネモブの漫画ではこう言ったな…”覚悟してください” ”炎を撃ち込みますッ”と』
封印という屈辱を与えて来たマネモブの体、愛読書の言葉を引用して人を殺す。意趣返しにはピッタリの”愚弄”だ。
”灘”でも”幽幻”でも”円月”でもない、幻朧がこの短時間で独自に考案したオリジナル、
”我流” ”飛炎地獄”
『学我者生、似我者死(われに学ぶ者は生き、われに似せる者は死す)だったか!?』
マネモブの恩人”静かなる虎”の秘技からインスピレーションを得て、”愚弄”の神から学んだ教えを悪用し、”愚弄”する。どこまでも外道な女だ。
「うっ…」
じゅわああああああ
鏡流と幻朧の技はなんとか相殺された…しかし彼女は獲物を構成していた氷すら失い、剣を振りかざす為に前へと出していた利き手に多少の火傷を負ってしまった。
『まだまだ…粗削りだな。』
マネモブから主導権を奪ってそう時間も経ってない。鏡流を骨の髄まで焼き尽くすつもりが、普通に耐えられた事で改善が必要だと幻朧は考え込む。
鏡流がマネモブとの闘いで既にそれなりの氷を消耗していたのは考慮すべきではあるが、発展途上の技でここまでの火力を出せるものかと、腐っても”絶滅大君”に数えられる一人だと慄くばかりである。
『まあ丁度いい…』
綺麗に残った彼女の首を斬り落とし、それを将軍に突き付ける。彼女は逃亡中の罪人だ、正体を隠し正当防衛を訴えれば罪にはならない筈…30年も自身の潜伏に気付かなかった目の曇った集団だから気付かれぬ可能性もありそうだが、万が一”太卜”に疑われるのなら力づくで逃亡すればいい。羅浮とマネモブの関係に亀裂が入るのもそれはそれで酔狂だ。
その後はマネモブの故郷である地球へと向かい、正体を隠しながら内紛による”壊滅”を狙う。
マネモブの故郷には”あの男”や”強引な男”と言った一癖も二癖もある政治家が多い、分裂による”壊滅”など容易いだろう。
『自ら手を下さずを美学とする妾の手で死ねる事、光栄に思うがいい。』
超日本刀が鏡流の首を落とそうと肉薄したその時、
「はいはい、もうええやろ。ったく、血気盛んな女共やで。」
『なにっ!?』マネモブが肉体の主導権を取り戻し、幻朧の腕を止めてしまった。
『貴様何故…』
「鏡流?とか言ったか、私はあの女に勝ちたかったから一時的に肉体を貸しただけ。お前に主導権などある筈がない…」
”陰陽互根の術”で幻朧の陰を掴み、魂をマネモブの平静な精神状態と同調させて沈黙させる。
「フンッ、この術を破りたいんだったら、心の陰を一切捨てた”神や仏と合一”した境地を目指すんやな。」
最も、それは邪心を捨てると同義なので、”壊滅”を至上命題にした彼女には無理な話であるが。
それでもいつかは、外道を超えた外道が改心し解脱に至る、そんな奇跡が起こるのだろうか?
「ふーっありがとうござい…」
ビュンッ 鏡流が最後の力を振り絞って剣を振るってきたので”朦朧拳”で避けるマネモブ。
「鏡流、お前は負けて戦いは終わったんだよ。」
最も、マネモブ単体では勝ち目はなかっただろう。それは心から尊敬すると労うマネモブだったが、ここまで来たら勝ち負けの問題ではない。
彼女からしたらマネモブが未来永劫幻朧を抑え込めるかは分からない。故郷である羅浮に仇を成した絶滅大君がマネモブという新しい魂の座を得た事自体が危険なのだ。ここで何としても殺さなくては…
「鏡流…もうええやろ…」
マネモブはボロボロになっても戦いをやめようとしない姿勢に悲哀を感じながら彼女の腕を掴んだ。
「離s…」力なく振りほどこうとする彼女の額に、マネモブは指を突き付ける。
「闘ってる時からな、心眼で気付いてたんや。」
彼女の体内、特に頭部を駆け巡る”気”は酷く乱れていた。それが爆発的な暴力を産んでいる側面はあるが、心・技・体全てを蝕んでいるのは事実だった。マネモブは指先から”気”を送り込み、彼女の”魔陰”の症状を抑えようと試みる。
「ワシの弟子に”白露”って子供がおるんやけどな、」
マネモブは治療を施しながら蘊蓄を語り始める。
彼女に”灘・真・神影流”の”気”の”活法術”を授けながら研究を重ねているうちに分かった事なのだが、仙舟の”長命種”が抱える”魔陰堕ち”とは”気”の乱れが起因となっているのではないかと。
勿論それだけが原因ではない複合的な物だろうが、つい先日、”気”を整える活法を使ったら”魔陰の身”に堕ちかけていた患者を社会復帰するまで回復させられたと喜ぶ”龍女”の報告を受けた。
「白露…」
その名を聞いた鏡流は、その紅い目で遠くを見ながら情緒にふけるような顔をした。まるで遠い過去の”記憶”を振り返るように。マネモブの”活法”で常に苛まれていた頭痛が消え、懐かしい思い出が溢れる話を聞いた事で数百年振りに心の安寧を得た彼女は、激戦の疲れから意識を失った。
「おいっ、たくもう…」
自分からケンカを吹っ掛けて来たというのに、最後まで迷惑な奴だ。スース―と静かな寝息を立てて眠っているから、どうせ聞こえないだろうと文句を零すマネモブだったが、
「ムフッ立川博士から貰った”ネオ・タチカワスペシャル”塗り薬バージョンね。」
”豊穣”のサンプルを研究をした”立川博士”が開発した自己治癒力を飛躍的に向上させる薬のサンプル品。仮にも絶滅大君に体を預けるという危ない橋を渡った事で、彼女の体に傷を付けてしまった負い目がある。せめてもの償いにその薬品を鏡流の右手にある火傷跡に塗ると…
「立川博士…すげえ…」
赤茶色に爛れた彼女の肌が美しい白に戻っていく。
「よしっ応急処置はこの辺でええやろ。しかし…」
周囲を見渡すマネモブ。逃亡中の罪人とガチンコで勝負し氷と炎の衝突で形成された地獄絵図…
景元将軍に何と説明すればいいだろうか。今はまだ放置された区域とはいえ、損害賠償しなきゃいけないだろうか?マネモブは頭を抱えた。
◇決着ー
ああ、スコートとの決闘か。めんどくさいからもう書かない。
要約するとチームリーダーが着れるカンパニーのメカスーツにマネモブが思わぬ苦戦を強いられた後、調子に乗ったスコートにゴア博士から貰ったウイルスの速度で人を殺す最強兵器
犬が犬に嚙まれるなんて滑稽で笑えるよね。