新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
呼雷に全身の骨と言う骨をバキッバキッに折られた筈の老人は、完全に別人へと成り果てていた。
精巧な顔付きに伸びた白髪をヘアゴムで纏め、背丈は190近くまで伸びている。その場にいる三人は瞬時に理解した、此奴は只者ではないと。
「ヒィーッ何なんだお前は―ッ」
ここまで劇的な変身をする殊俗の民など見た事がない。仙舟人の魔陰堕ちの方がまだ理解出来る。末度の怯え方はまるで、お化け屋敷を怖がる幼子のようだ。
「甥の試合観戦を見に来た…それ以上は話せない…」
変貌して尚、彼の目的は一貫して変わらないらしい。
「ハハハハハハハハハ!!椒丘、そして末度よ。貴様等思わぬ収穫を持って来たではないか!!」
この尊鷹と名乗る男が相当な強き者であると、場数を踏んだ経験から見抜いた呼雷は、700年振りに戦闘の”愉悦”を思い出す。
「ふ、呼雷様いけませぬ。ここで元の姿に戻ってしまっては…」
正体を隠して羅浮から脱出する計画がパーになってしまう。
「………ッ、えいッ…死なば諸共…」
主人がやらかす前に何とかしなくてはと考えた末度は勇気を振り絞って狐の姿のまま尊鷹に立ち向かった。醜態を晒しても、忠誠心自体は本物だったようで、そこだけは好感が持てるが、
ビュンッ 残像…?
彼の右ストレートが殴ったのは本体ではなかった。そして瞬間移動のような速さで呼雷に近付き…
「うぐっ…」両の手で放つ強烈な掌底を呼雷に喰らわせる。
「ハハハ!!”豊穣”を持ち得ない”殊俗の民”など吹けば飛ぶ塵のような弱者しかいないと思っていたが…認識を改めよう。」
尊鷹が披露した武術に益々そそられた呼雷は彼に呼応して肉体が変貌し始める。
「ああ…」
逃亡計画はもうおしまいだと膝をつく末度。
『グルルルルルルルルルルル…』
周囲の建造物を押しのけて破壊しながら巨体な本性を表す、そして
ドォン
デカい図体の割には素早い動きで尊鷹を暴走トラックが人を轢き殺すようにグッチャグチャにしようと考えるが…
『!?』
尊鷹の姿はどこにも見えない。
「キャアアアアアアアアアアアア」
破壊音を聞きつけ群衆が集まり、路地裏から広場に出た呼雷を目撃した人々は悲鳴を上げる。しかし戦首は、そないな事は最早気にも留めていない。
『どこにいる!?尊鷹ォォォォ!!』
”高潔なる鷹”を探して雄たけびを上げる。
「私はここに居ますよ。」
空から聞こえる声を頼りに顔を上げると、彼は6mはある茶屋の屋上に立っていた。
(殊俗の民の…しかも老人があの数瞬で!?)
尊鷹が正体を現してから蚊帳の外、何とか戦闘の余波を回避していた椒丘は彼の跳躍力の異常性に驚愕していた。まるで蒼穹を自由自在に滑空する”鷹”そのものではないか。
「物見遊山の観光気分で訪れたこの地で、偶然にも貴方のような強者と闘えることに感謝します。」
『それは俺も同じよ!いいぞッもっと魅s…』
呼雷が飛び上がる前に、先に降りて仕掛けたのは尊鷹だった。
”灘神影流” ”鷹鎌脚”
ビュンッ 人間の頭であったらスイカのように輪切りにしてしまうという切れ味の蹴りが人間大の巨大な頭に直撃した。顎の付け根辺りが切断され、ダランとだらしなく垂れさがる。
『大した奴だ、しかもその脚…』
攻撃を喰らった時の感触で分かった。尊鷹の脚は機械化された義足である。天才”ゴア博士”が作った機械の電気回路と人間の神経を接続する技術により、この通称”メカフット”を付けた者は常人の何十倍にも加速される神経伝達を可能とし、肉体性能を飛躍的に向上させる。
『だがな…』
呼雷もまた特異体質。元々生命力の高い”豊穣の民”の中でも一際再生力の高い彼は、この程度の傷ならすぐに回復してしまう。彼を殺せる方法はそれこそ、恒星に投下するくらいしかないだろうと仙舟では考えられている。
『技の引き出しはこれで終わりか?』
今度はこちらの番だと言わんばかりに人間の肉体など一撃で引き千切る爪を振るうが、
ビュンッ
『また残像を残す瞬間移動か!!』
末度の初撃に対して披露した特殊な身のこなし、仕組みは全く分からないが、だからこそ攻略しがいがある。
(今度はどこへ行った?)
辺りを見回すが、彼の姿はどこにもない。逃亡したのだろうか?
「私はさっきからあなたの頭の上に居ますよ。」
『なにっ!?』
あり得ない、190近い筋骨隆々の男だ。老齢とはいえ低く見積もっても重量は100㎏を超えているだろう、上に乗っかられていたら絶対に気付く筈だ。それこそ体重を"蝶のように軽くする事も象のように重くする事も出来る"術でもない限り…
”灘神影流” ”
『ぐわっ…』自身の戦闘スピードに全く着いてこれない害獣に脳を破壊する浸透系の打撃で容赦なく殺しに行く。かつて戦国時代に兜越しの相手すら殺したという逸話から付けられたその技は相手の脳味噌をグッチャグチャに崩壊させ、耳から脳髄が飛び出るといわれる残酷な技だ。それでも何とか頭へ手を振りかぶり反撃を試みるが、尊鷹は鷹のように舞い難なく回避する。
『ククク…流石の俺も脳を破壊する攻撃はかなり効くが、』
それでも殺すには全く足りないとほくそ笑む呼雷。
「…もう既に技はかけてありますよ。」
『はあ、一体何を言って…』
グハッ尊鷹への返答を言い終わる前に、呼雷の口の中は鉄の味に染まった。
(吐血!?)
先程の脳破壊が原因か!?いや、あの怪我はもう再生した筈…馬鹿な、あり得ない。
「ほう、死相が見えていますね…!!」
今まで冷静に闘っていた尊鷹が死神のような笑みを浮かべる。その姿に、勇猛果敢な戦首に一筋の恐怖が芽生える。
(いつ喰らった!?奴から喰らった技は…)
呼雷が尊鷹から喰らった技は3つ、兜浸掌、鷹鎌脚、そして…
『まさか最初の…』その通り、
”灘神影流” ”塊蒐拳” 別名”鬼の五年殺し”
相手の体内を巡る生体エネルギー”気”を乱し内不全を起こして内側から殺す技だ。
「貴方達”長命種”とやらは我々と違い老いや病気とは無縁の様ですが…」
それでも、この世に存在する万物に”気”は流れているのだ。その”調和”が一度乱されれば恐ろしい事に…
「西洋医学はその存在を否定していますがね。」
"気"を観測し、扱える者はほんの僅かだ。それでもそのオカルトは確かに存在し、知らぬ者には恐ろしい凶器となる。
『こ、この俺があと5年で死ぬだと…!?』
舐めた真似を、唸り声を上げて威嚇するが…
「正確に言えば、更なる気の乱れを起こせばより早く絶命しますし…」
戦いに身を投じているような者は五年より速く死ぬ事となる。塊蒐拳を禁断の二度撃ちすれば余計に…
「この技は本気を出した相手にしか使わないんですよ。」
全力を出さずに相手の力量を計ってから段々と本気を出すスロースターターの私に最初から”鬼”を解放させた貴方は寧ろ誇っていいと尊鷹は賞賛するが、呼雷からしたら侮辱でしかない。
『ウグッ…』
しかし、呼雷は尊鷹につい夢中になって忘れていた本来の目論見を思い出した。民草の通報を受けた雲騎軍も招集されつつある。
ブンッ この戦い、呼雷はどこかへと逃亡し、尊鷹の勝利に終わった。
「あ、あの…」
傍らで戦闘の一部始終を見ていた椒丘が恐る恐る尊鷹に声を掛けに行く。巻き込んだ事への謝罪か、それとも呼雷と立派に戦い抜いた事への感謝か、言葉に迷ったが…
「ありがとう、貴方が作った縁のお陰で、久しぶりに本気で闘えましたよ。」
かえって礼を言われる始末であった。まるで掴み処のない男である。
「は、はあ…」椒丘はただ戸惑うしかなかった。
◇次回、呼雷の運命は…?
タカ兄ィの口調安定しなすぎィ 語録再確認してる時に困惑するしかなかったのが俺なんだよね。
あとコメントと評価を貰えると投稿者モブが喜ぶからもっとくれよ。
勿論マネモブ達のお陰で赤バー達成できたのは滅茶苦茶感謝している。