新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
仙舟「羅浮」競鋒艦…数万人の観客を擁せる演武典礼の開催地であると同時に敵を駆逐する大砲などの兵器を搭載した巨大戦艦でもある。演武典礼の開催時間も間近に迫り、弟子達と最終調整をしにここに集っていたマネモブ達だったが…おかしな事に一般人の姿はなく、いるのは甲冑を身に付けた兵隊ばかりだ。
「呼雷の脱走…?」
景元将軍から狐族や雲騎軍に扮した歩離人共が潜伏して起こした大罪人の脱獄事件の連絡が入った。呼雷が長楽天にてその本性を表し、その場に居合わせた謎の殊俗の民と交戦した後に逃亡。
雲騎軍は彼の部下共や呼雷が逃亡の過程で歩離人へと変えた憐れな狐族の民への対応に追われているとの事。”知恵”の欠片もない彼等がこのような策を弄するなど珍しいが…
「狼たちは預言者を名乗る女に唆されたらしいやん…のォ?」
『………。』
幻朧と魂を同調させているマネモブには彼女の情報がしっかりと撃ち込まれている。心の陰を握られて自由が取れないのを良い事におちょくって愚弄するが、幻朧は器と会話したくないらしい。
「ねぇ先生…」
彦卿は羅浮に仇をなした絶滅大君と肉体を共有している師匠を心配している。マネモブはまあ安心してと言うが、
「いや、アンタの術を疑ってる訳じゃないんだけどさ…」
幻朧を猿空間に封印していた時は羅浮も文句はなかったが、彼女を解き放ち肉体の内で飼い殺す事にした今のマネモブを人々はよく思わないのではないかと雲璃は仙舟人として忠告する。
「文句があるんだったらいつでも喧嘩上等っスよ。」
マネモブは幻朧を庇いたいなどという気持ちは微塵もないのだが、彼女の炎を扱う力はとても魅力的だ…出来る事なら手放したくはない。
「その幻朧とやらの処遇なんて今はどうでもいいんだよ…問題は呼雷とかいう犬っコロにどう対処するかという事だ。」
マネモブの勧めで出場を決めていた悪魔王子が話を本筋に戻す。
「将軍達は前線で闘ってるみたいだけど…」
演武典礼を祝して偶々訪れていた”飛霄将軍”や”懐炎将軍”と一時的に共同戦線を張って雑魚歩離人共の駆除に精を出している景元将軍の願いはこうだ。
「私達に呼雷を倒せ…?」「む、無理無理!ウチ剣握ってまだ3週間だよ!?」
700年前悪逆の限りを尽くした豊穣の怪物を倒せという無茶振りに雲璃となのか女子二人は少し腰が引いている。
「だ、大丈夫でしょ多分…将軍達も雑兵を片付けたらすぐ駆け付けるって言ってるし…先生はお姉さんも倒したんだよね?」
彦卿は少し自信なさげではあるが、つい先日、マネモブが自身のもう一人の師匠である鏡流と死闘を繰り広げ、何とか制したという話は耳に入っている。
「ああ、鏡流は700年前に呼雷を倒してると言われてるんだぜ。」
つまりその鏡流を倒した俺は、呼雷より強いって事やん…とマネモブは自信に満ちている。
(何が倒しただ。妾の炎がなきゃ勝てなかった癖に…)
口には出さないがさも自分の戦跡かのように誇る主に不快感を抱く幻朧。今まで人の心を弄んで同士討ちによる”壊滅”を演じて来た悪には相応しい”愚弄”だ。
マネモブの話を聞いて彦卿の師匠が”雲上の五騎士”だったなんてそんな話聞いてないよッとまた話が脱線しそうになるが…
「フン、だから本筋に関係ない話はどうでもいいんだよ。俺が気になるのは…」
景元は確信したかのように、呼雷はここ”演武典礼”の地へ訪れると言っていた。しかし、本当にそうでしょうかと悪魔王子は疑っている。すぐに話が逸れる子供達に呆れを見せながら。
「景元将軍は”神策将軍”って言われてるんだよ。」
彼の慧眼は未来を占う”太卜”さえ超え得るとも言われていると雲璃は解説した。
「呼雷は脱走の為の船を求めている筈だって、」
演武典礼前だから人質にする為の観光客も沢山訪れるだろうと奴は考えている筈…
「ふうん、正にこの舟は一石二鳥ということか。」
確かに、呼雷が一番来る可能性が高いのはここだろうという理論に、悪魔王子は一応の納得を見せた。
「まあ打ち合わせはもうええやろ。」
”円月”と”幽幻”を授けた弟子達、そして彦卿と雲璃の頼みで3週間ばかり剣の修業に付き合ったなのか…その力を遺憾なく発揮してみせろとマネモブは激励した。
………
『ハアッ…ハアッ…』
呼雷は尊鷹に技を掛けられてからというもの、内不全による不調が収まらない。
競鋒艦に練り集まった者達を虐殺しつつ、飛霄という本命の獲物を釣り上げる目的が彼にはあるのだが、逆に己が”高潔なる鷹”という極上の餌に逆に釣られて計画を早めざるを得ないとは、何たる失態であろう。
飛霄が自身の挑発に乗っかり、ちゃんと間に合うかは些か不安ではあるが、ここまで来たら考えを巡らせてもしょうがない。決戦の地、”演武典礼”はもう目前に迫っている。
「…来たか。」
ドオォォォォォォン
接近する呼雷の邪気を”気眼"によりマネモブと悪魔王子はいち早く気付いていた。スタジアムへと降り立った”戦首”に対して、彦、三月、雲璃の三人は抜刀し応戦態勢を取る。
『家畜共よ!演武典礼はこれにて中止だ、今よりこの”競鋒艦”は俺の…』
猛々しく脅迫めいた第一声を発する呼雷だったが、式典開催前にしてはおかしい光景に違和感を覚える。人が少なすぎる。
『俺の相手になろうというのが子供2人と殊俗の民3人だけとはな…』
舐められたものだと呼雷は威厳を感じさせる物言いをする。
「いいや、寧ろ逆だよ。」
呼雷程の強者を前に通常の雲騎軍を突撃させたところで死体の山を積み重ねるだけである。彼等はさぞ不服だったろうが、マネモブが強引に後ろへと下がらせたのだ。
「フッ、なにが舐められたものよ。」
広場でアンタが見下している殊俗の民に無様な敗走を演じたのは知っていると雲璃が挑発する。
「師匠たちに学んだ教え…アンタに見せてやるんだから!」
”六相氷”による冷気を放ちながら威嚇するなのか。
『…いいだろう、』
鏖殺してくれるわっと大剣を抜き5人を叩き潰そうと剣を振るが…
ヒュンッ
剣は空を切り、軽い音が響くだけだ。この光景は見覚えがある…
『クッ…小賢しいッ』
尊鷹の使った消える瞬間移動と似たような技を使われて苛立つ呼雷。
”幽幻真影流” ”朦朧拳”
”円月流剣術” ”陽炎”
そして”幽幻死天王” ”犀の大観”が編み出した低温下でのみ使える”立体視野”の”錯視”
悪魔王子、彦卿、そしてなのかは三者三様にマネモブが教えた”まやかし”で呼雷の攻撃を回避する。
三月も最初は”朦朧拳”か”陽炎”を会得しようと努力していたが、その独特な身のこなしは彼女には難しかったようで、デブで動きが比較的鈍い”木村大観”でも扱える相対的に難易度の低い"幽玄"をマネモブは授けたのだ。
氷により低温環境を能動的に形成できる彼女には丁度いい技術であろう。
「ちょ、ちょっと!もう離していいから、」
唯一、マネモブと会ってまだ日が浅い雲璃だけは、これらの技を会得する時間がなかった為にマネモブが彼女を抱えて”霧霞”による回避を行い、空中に跳躍していた。
「はいはい、しっかり撃ち込めよ。」
マネモブは雲璃を手放すと…
「はーっ喰らえ呼雷、私の乾坤一擲の一撃をっ」
”大地をー雲をー斬る!!”
雲璃は大剣を顕現させて呼雷の頭を割ろうと振りかざす。
『フンッこの程度…』
だが呼雷も腐っても歩離人の頭を務めて来た強き者、腕を使い難なく防ぐが…
「今だよやっちゃえっ」
『なにっ』
雲璃の攻撃は胴体へのガードをガラ空きにする為の布石、景色と同化し姿を消していた三人の攻撃が一斉に襲い掛かる。
『うぐっ…』
三月と彦の剣に突き刺され、悪魔王子の掌底をモロに喰らう呼雷。
『小癪なッ』
腕を振るい、三人の胴体を引き千切ろうとするが、またも景色が揺らいで避けられてしまう。
『カハッ…こ、これは、』
再び血反吐を吐く呼雷。剣で突き刺される攻撃はすぐ再生したが、悪魔王子の掌底は…
「どうだマネモブ。」
”灘神影流” ”塊蒐拳” あの呼雷に吐血させたのだ、覚えたてにしてはいい精度だろうと悪魔王子は成績表を親に自慢する子供のようである。
「なんか…思ったより大したことなくない?」
良くて大怪我、下手したら死ぬかもと闘う前の三月は緊張していたが、どうにも呼雷の動きは鈍い。700年も拘束されていて体が訛っているのか?
「呼雷、ひょっとしてお前…」
マネモブは心眼で見抜いた。呼雷はここに来る前に体内の”気”を乱されている。
「お前に技を掛けたのは熹一さん…いや尊鷹さんか?」
塊蒐拳を使える者は少ない、マネモブは呼雷をおちょくりながら予測を立てる。悪魔王子はあの吐血は俺の攻撃だけで誘発させた訳ではないのかと少し落胆する。
『…ああ、奴は”宮沢尊鷹”と名乗っていた…』
「ふうん、ああそう。」
単体で彼をここまで弱らせるとは流石”高潔なる鷹”だと尊敬の念を抱くマネモブ。知りたい事はそれだけだったのでもうトドメを刺しに行くべきだと判断する。
「お前等、奴は既に相当弱っている。」
学んだ武術を遺憾なく発揮すればまだ未熟な彼等でも十分倒せる筈…だが決して油断はするなと、マネモブは皆の背中を押した。
◇次回、呼雷の運命はー?